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第8章 パパとボク
危険な覚悟
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「レンタロー、あんた死ぬ前にしたい事ないの?」
「え?したい事?」
「そう、出来るかは分からないけど、私があんたのしたい事手伝ってあげるよ。」
私は今、してはいけない事をしようとしている。
職務放棄と掟破りだ。
今まで色んな人の未練を断ち切ってきたが、それは階段を登ってもらうためだった。
だから、誰も私に何も言わなかった。
しかし今回は違う。
階段を登らせるためでもなく、未練を断ち切るためでもない。
私の言葉が勝手に口から零れたのだ。
そして、体の変化が何なのかを知りたいという疑問を明らかにしたかった。
私のする事がどれ程の罪の重さになるかは分からない。
ただ、それでもレンタローの事をすんなりと天使に渡す事が出来ない自分がいる。
天使の仕事を妨害している時点で、罪なのだけれど。
それならもうどうにでもなってしまえと思った。
「それで?未練とかないの?」
「んー…、何でもいいの?」
「うん。」
「それならパパに会いたい!」
「は!?」
先程の家族の話はなんだったのだろう。
あんなに弱々しく話していたのに。
「あんたをいじめるお父さんに会いたいの?」
私の疑問にレンタローは笑いながら首を横に振る。
「違うよ、今のパパじゃなくて昔のパパ!まぁ、僕にとってはたった1人のパパだけど…。」
「そっか、今と昔でお父さんが違うのか。で、どこにいるか分かるの?」
レンタローはゆっくりと人差し指を空に向かって指した。
「お空!!!」
「はぁ!?」
レンタローの言葉1つ1つに驚く私。
しかし彼は曇りのない笑顔で私を見る。
「お空って…事は、天国…?」
「うん!悪い事はしてないから天国に居るはずだよ!」
こんな事は初めてだ。
生きた人間と死者の未練は断ち切ってきたが、死者同士の未練をどうにかした事は無い。
私が腕を組んで考えていると、レンタローが心配そうに私の顔を覗く。
「やっぱり無理だよね…。」
「……。」
「ママね、パパがお空に行ってから変わっちゃったの。悲しそうでいつも怒ってて…。でも新しいパパと結婚した時凄く嬉しそうで、昔のママが戻ってきたと思った。」
「でも違った…?」
「うん、ママ僕の話は何も聞いてくれなくて、今のパパの言う事ばかり…。僕がいじめられてても見てないフリ。」
「大変なんだね、人間って。1つの事から目を背けたくて、やっと掴んだ幸せがあるとそれを手放さないように必死になる。」
私は皮肉交じりに言葉を吐く。
しばらく沈黙が続いた。
というよりかは、どうにか死者同士を会わせる事が出来ないか考えていた。
長く感じたその時間は、きっと短い時間しか経っていないのだろう。
私は少し頭をスッキリさせたくて、川へと近づき、水で顔を洗った。
水面には私の顔が浮かんでいる。
まるで人形のように無機質な目をしている。
自分のお粗末な顔を見ながら、鼻で笑っていたら、自分の背中に担いでいるドアが目に入った。
「そうだ…!」
私は死者同士が会える可能性がある方法を思いつき、レンタローの方を勢いよく振り向く。
レンタローは驚いた顔をしている。
「思いついたんだ、お父さんに会える方法。」
「本当に!?」
レンタローの顔は先程の困り果てた悲しい顔ではなく、キラキラした顔へと変わった。
「この死者の魂をあの世に送るドアを使う。」
「このドアを?」
「そう。だけど上手くいくかは分からない。このドアがどこに辿り着くのかも知らないし、死神がドアの向こうに行ったって話も聞いたことがない。」
「危ないのかな。」
「そうかもしれない、でももし会えるとするなら、もうこのドアに賭けるしかない。レンタローはどうする?」
私は彼に覚悟を聞いた。
もう年月が分からなくなる程、私はこのドアを担いで仕事をしてきた。
だが、ドアの事自体は何も知らない。
危険が伴うかもしれない。
だからこそ、レンタロー自身の言葉を聞いて、覚悟を確認する必要がある。
私がレンタローの目を真っ直ぐ見ると、さっきまでオドオドしていた彼は私と同じ顔つきに変わった。
「行く…、僕パパに会いたい!!」
彼の声は今までとは違う、大きくハッキリとした覚悟の声だった。
「よし、じゃー行こう。お父さんの所へ。」
私は担いでいるドアを地面に置き、扉を開けた。
そしてレンタローと一緒に1段1段踏みしめながら、私自身も覚悟を決めていく。
「え?したい事?」
「そう、出来るかは分からないけど、私があんたのしたい事手伝ってあげるよ。」
私は今、してはいけない事をしようとしている。
職務放棄と掟破りだ。
今まで色んな人の未練を断ち切ってきたが、それは階段を登ってもらうためだった。
だから、誰も私に何も言わなかった。
しかし今回は違う。
階段を登らせるためでもなく、未練を断ち切るためでもない。
私の言葉が勝手に口から零れたのだ。
そして、体の変化が何なのかを知りたいという疑問を明らかにしたかった。
私のする事がどれ程の罪の重さになるかは分からない。
ただ、それでもレンタローの事をすんなりと天使に渡す事が出来ない自分がいる。
天使の仕事を妨害している時点で、罪なのだけれど。
それならもうどうにでもなってしまえと思った。
「それで?未練とかないの?」
「んー…、何でもいいの?」
「うん。」
「それならパパに会いたい!」
「は!?」
先程の家族の話はなんだったのだろう。
あんなに弱々しく話していたのに。
「あんたをいじめるお父さんに会いたいの?」
私の疑問にレンタローは笑いながら首を横に振る。
「違うよ、今のパパじゃなくて昔のパパ!まぁ、僕にとってはたった1人のパパだけど…。」
「そっか、今と昔でお父さんが違うのか。で、どこにいるか分かるの?」
レンタローはゆっくりと人差し指を空に向かって指した。
「お空!!!」
「はぁ!?」
レンタローの言葉1つ1つに驚く私。
しかし彼は曇りのない笑顔で私を見る。
「お空って…事は、天国…?」
「うん!悪い事はしてないから天国に居るはずだよ!」
こんな事は初めてだ。
生きた人間と死者の未練は断ち切ってきたが、死者同士の未練をどうにかした事は無い。
私が腕を組んで考えていると、レンタローが心配そうに私の顔を覗く。
「やっぱり無理だよね…。」
「……。」
「ママね、パパがお空に行ってから変わっちゃったの。悲しそうでいつも怒ってて…。でも新しいパパと結婚した時凄く嬉しそうで、昔のママが戻ってきたと思った。」
「でも違った…?」
「うん、ママ僕の話は何も聞いてくれなくて、今のパパの言う事ばかり…。僕がいじめられてても見てないフリ。」
「大変なんだね、人間って。1つの事から目を背けたくて、やっと掴んだ幸せがあるとそれを手放さないように必死になる。」
私は皮肉交じりに言葉を吐く。
しばらく沈黙が続いた。
というよりかは、どうにか死者同士を会わせる事が出来ないか考えていた。
長く感じたその時間は、きっと短い時間しか経っていないのだろう。
私は少し頭をスッキリさせたくて、川へと近づき、水で顔を洗った。
水面には私の顔が浮かんでいる。
まるで人形のように無機質な目をしている。
自分のお粗末な顔を見ながら、鼻で笑っていたら、自分の背中に担いでいるドアが目に入った。
「そうだ…!」
私は死者同士が会える可能性がある方法を思いつき、レンタローの方を勢いよく振り向く。
レンタローは驚いた顔をしている。
「思いついたんだ、お父さんに会える方法。」
「本当に!?」
レンタローの顔は先程の困り果てた悲しい顔ではなく、キラキラした顔へと変わった。
「この死者の魂をあの世に送るドアを使う。」
「このドアを?」
「そう。だけど上手くいくかは分からない。このドアがどこに辿り着くのかも知らないし、死神がドアの向こうに行ったって話も聞いたことがない。」
「危ないのかな。」
「そうかもしれない、でももし会えるとするなら、もうこのドアに賭けるしかない。レンタローはどうする?」
私は彼に覚悟を聞いた。
もう年月が分からなくなる程、私はこのドアを担いで仕事をしてきた。
だが、ドアの事自体は何も知らない。
危険が伴うかもしれない。
だからこそ、レンタロー自身の言葉を聞いて、覚悟を確認する必要がある。
私がレンタローの目を真っ直ぐ見ると、さっきまでオドオドしていた彼は私と同じ顔つきに変わった。
「行く…、僕パパに会いたい!!」
彼の声は今までとは違う、大きくハッキリとした覚悟の声だった。
「よし、じゃー行こう。お父さんの所へ。」
私は担いでいるドアを地面に置き、扉を開けた。
そしてレンタローと一緒に1段1段踏みしめながら、私自身も覚悟を決めていく。
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