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第8章 パパとボク

小さい体の少年

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私は今日も、死者の魂を送っていた。
「よし、次の場所に行くか。」
私は宙に浮かび上がり、空を飛んだ。
新しい死者の魂を送るために…。



その子どもは呆然と立っていた。
きっと小さい頭の中で、信じられない出来事を整理しているのだろう。
「こんにちは。」
私は言葉をかける。
子どもはゆっくりと私の方を振り向き、その幼い顔を溢れる涙で濡らしていた。
「フグッ…、ヒッグ…。うわあああああァァァァん!!!!」
私の顔を見て泣き出した子どもの声は、耳を塞ぐ程大きな声だった。
「う、うるさい!何!?」
私はその子に向かって怒鳴った。
この前からおかしい。
感情が無いはずなのに、怒りを感じてしまう。
私は自分を落ち着かせようと深呼吸をして、その子に話しかける。
「えっと…、あんた名前は?」
「ヒッグ…、僕レンタロー…。」
「レンタローね、あんた自分が死んだ原因分かってる?」
「ヒッグ…、ヒッグ、うん。」
嗚咽を抑えて何とか話そうとする子ども。
その子どもの泣き顔を見ながら話す私。
私達の隣に転がっている子どもの死体は、性別が分からないほど中性的な顔立ちである。
私は知っている。
この子がどんな最期を遂げたのかを。
私達は、出会った死者の最期を知ることが出来る力を持っている。
仕事上その力を使って判断する事も多いため、最期を知ることは私達の仕事に必要な事なのだ。
この子は目の前にあるアパートの3階のベランダから落ちて死んでしまった。
「事故?」
私は子どもに聞いた。
私自身、事故かどうかは知っている。
ただ、本人の口から聞きたかった。
本当に、私はおかしくなってしまっている。
「僕は…。」
「事故でしょ?」
子どもの言葉を遮って、その子の死因を確認した。
「ほら、このドアの向こうにある階段を登って。そしたらあの世に行ける。」
私は担いでいたドアを地面にドスンと下ろす。
「お姉ちゃんは誰?」
男の子は扉を開けようとしている私に言葉をかけてきた。
「私は…、分からない。でもあんたみたいな死者の魂をあの世に送る仕事をしてる。」
「死神さん?」
『死神さん』
子どもの口から出たその言葉が、何故か懐かしかった。
そんな風に言われたのは初めてでは無かったはずなのに。
私は少しモヤモヤしていたが、すぐにいつもの自分を取り戻す。
「……。いや、違う。何でもいいでしょ、早く登って。」
私が中途半端に開けた扉を、最後まで開けようとしたその時。
「何してるのかな?」
頭の上から聞き覚えのある冷たい声が降ってきた。
声のする方へ顔を向けると、そこには天使が宙に浮かびながら、私達を見下ろしている。
「これはキミの仕事じゃないでしょ?何で扉を開けているの?」
「うるさい、この子どもは事故だって言ってる。」
「本当に事故なのかな?」
天使の表情は変わらない。
私達を冷たい声と目で攻撃してくる。
「レンタロー、あんた事故死なんだよね?」
「え…?」
「たまたまベランダに居て、3階から落ちたんだよね?」
子どもは目をキョロキョロさせていた。
まるで言葉を探しているかのように。
「違うよね。」
天使が私達の会話に入ってきた。
「ボク達の仕事を取らないで貰えるかな?キミがしてる事、ボクがバラしたらどうなるか分かってないの?」
天使は私を言葉で攻撃し続ける。
どうなるか…、そんな事は私が1番分かっている。
私はこの一瞬で自分に降り注ぐ不幸を考え、扉を閉めてドアを担ぎ直した。
しかしその瞬間、理解出来ない事が起きた。
というよりかは、私がその理解出来ない事をしていた。
私は子どもの手を握り走っていたのだ。
天使はそんな私達を驚くように見ていたが、ハッと我に返り、宙を飛びながら追いかける。
天使の声が後ろから聞こえてくる。
でも今は、レンタローと一緒に逃げ切らなければいけない気がした。
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