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第6章 Sin and punishment for falling in love
分からない事ばかりだ
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悪い事だとは分かっている。
頭では分かっているのだが…。
「来てしまった…。」
私は柚希の家の前に来ていた。
あの子の寂しそうな顔が頭から離れず、いけない事だと分かっていても、体がこの家へと向かっていた。
そして今に至る。
私は昨日と同じように、家へと勝手に入り、2階の部屋を目指した。
そしてゆっくりと覗くように扉を開けた。
「来てくれたんだね、死神さん。」
私の存在を確認するかのように、柚希は窓の外を見ながら私に話しかけてきた。
私は扉を全て開け、柚希の部屋へと入る。
「本当はダメなんだよ!!本当は私の仕事じゃないから、こんな事しちゃいけないんだぞ!!」
私はなぜか焦りながら大きな声で柚希にその言葉をぶつける。
柚希は窓を見ていた顔をゆっくりと私に向けてきた。
その顔は昨日の帰り際に見せた寂しそうな顔ではなく、嬉しそうな可愛らしい笑顔だった。
私はそんな彼の顔を見たら、なぜだかは分からないが、温かい気持ちになった。
「本当はダメな事なんだ…、ダメなんだよ…。」
私の声は小さくなる。
先程の大きな声はどこにいってしまったのだろうか。
そして、
「ダメな事だから、他の死神とか来ても内緒にしてよね。」
小さくゴニョゴニョと言う私の声は彼に届いているのだろうか。
そんな事も分からず柚希の顔を見ると、柚希は優しい顔つきで、首を縦に振った。
それから柚希と沢山話をした。
産まれつき持病を持っている事、両親は仕事で昼は家に居ない事、学校へまともに行けず友達がいない事、ずっと一人ぼっちで退屈をしている事。
話をする柚希は表情がころころと変わり、見ていて飽きないが、不思議でならない事があった。
なぜこんなにも辛いことを笑顔で楽しそうに話しているのか。
「ねぇ、辛くないの?寂しくないの?何でそんなに楽しそうに話すの?」
私は彼に聞いた。
すると彼は「分からない。」とだけ言って、また笑う。
しばらく彼の話を聞いていると、次は私の事を話して欲しいと言われた。
戸惑ったが、彼といる時間は楽しいものだったから、もう少し一緒にいたくて話すことにした。
「私はどこから産まれたか分からないんだ、名前も年齢も何も分からない。でも自分の仕事が何なのかってことだけは分かるんだ。」
「それって辛くないの?家族が居ないんでしょ?」
「家族を知らないから、辛い気持ちも分からないんだ。知らなくて持っていないものは、どんなに知ろうとしても結局分からないんだ。この手にある時だけ、ある物だけを知ることが出来るんだ。」
私は自分の手のひらを見つめながら答える。
するといきなり柚希は、その手のひらに自分の手を重ねてきた。
「じゃー僕が友達になってあげる。」
「え…?」
「ほら、僕は君の手の中にしっかりといるよ?」
まただ。
また、温かい気持ちになった。
柚希は重ねてきた手で私の手を握る。
「死神って怖い存在だと思ってたけど違うんだね。」
「え!?」
手を握られた事も驚いているが、そんな風に言われたことにも驚いている。
「君は凄く温かい、いい死神さんだ。」
「……!」
「だから友達になりたいと思った。この世にいない存在でも、僕は君と友達になりたい。」
優しくも真剣な眼差しで私を見る。
きっと私は今顔が赤いのだろう。
自分の体が程よく熱い気がする。
この気持ちが何なのか、死神の私には分からない。
この子に会ってから分からないことばかりだ。
でも、この子とだけは最後まで一緒にいたいと思った。
仕事の掟を破る事になったとしても…。
頭では分かっているのだが…。
「来てしまった…。」
私は柚希の家の前に来ていた。
あの子の寂しそうな顔が頭から離れず、いけない事だと分かっていても、体がこの家へと向かっていた。
そして今に至る。
私は昨日と同じように、家へと勝手に入り、2階の部屋を目指した。
そしてゆっくりと覗くように扉を開けた。
「来てくれたんだね、死神さん。」
私の存在を確認するかのように、柚希は窓の外を見ながら私に話しかけてきた。
私は扉を全て開け、柚希の部屋へと入る。
「本当はダメなんだよ!!本当は私の仕事じゃないから、こんな事しちゃいけないんだぞ!!」
私はなぜか焦りながら大きな声で柚希にその言葉をぶつける。
柚希は窓を見ていた顔をゆっくりと私に向けてきた。
その顔は昨日の帰り際に見せた寂しそうな顔ではなく、嬉しそうな可愛らしい笑顔だった。
私はそんな彼の顔を見たら、なぜだかは分からないが、温かい気持ちになった。
「本当はダメな事なんだ…、ダメなんだよ…。」
私の声は小さくなる。
先程の大きな声はどこにいってしまったのだろうか。
そして、
「ダメな事だから、他の死神とか来ても内緒にしてよね。」
小さくゴニョゴニョと言う私の声は彼に届いているのだろうか。
そんな事も分からず柚希の顔を見ると、柚希は優しい顔つきで、首を縦に振った。
それから柚希と沢山話をした。
産まれつき持病を持っている事、両親は仕事で昼は家に居ない事、学校へまともに行けず友達がいない事、ずっと一人ぼっちで退屈をしている事。
話をする柚希は表情がころころと変わり、見ていて飽きないが、不思議でならない事があった。
なぜこんなにも辛いことを笑顔で楽しそうに話しているのか。
「ねぇ、辛くないの?寂しくないの?何でそんなに楽しそうに話すの?」
私は彼に聞いた。
すると彼は「分からない。」とだけ言って、また笑う。
しばらく彼の話を聞いていると、次は私の事を話して欲しいと言われた。
戸惑ったが、彼といる時間は楽しいものだったから、もう少し一緒にいたくて話すことにした。
「私はどこから産まれたか分からないんだ、名前も年齢も何も分からない。でも自分の仕事が何なのかってことだけは分かるんだ。」
「それって辛くないの?家族が居ないんでしょ?」
「家族を知らないから、辛い気持ちも分からないんだ。知らなくて持っていないものは、どんなに知ろうとしても結局分からないんだ。この手にある時だけ、ある物だけを知ることが出来るんだ。」
私は自分の手のひらを見つめながら答える。
するといきなり柚希は、その手のひらに自分の手を重ねてきた。
「じゃー僕が友達になってあげる。」
「え…?」
「ほら、僕は君の手の中にしっかりといるよ?」
まただ。
また、温かい気持ちになった。
柚希は重ねてきた手で私の手を握る。
「死神って怖い存在だと思ってたけど違うんだね。」
「え!?」
手を握られた事も驚いているが、そんな風に言われたことにも驚いている。
「君は凄く温かい、いい死神さんだ。」
「……!」
「だから友達になりたいと思った。この世にいない存在でも、僕は君と友達になりたい。」
優しくも真剣な眼差しで私を見る。
きっと私は今顔が赤いのだろう。
自分の体が程よく熱い気がする。
この気持ちが何なのか、死神の私には分からない。
この子に会ってから分からないことばかりだ。
でも、この子とだけは最後まで一緒にいたいと思った。
仕事の掟を破る事になったとしても…。
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