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第1章 あなたには綺麗な花束を
婆さんの伝わらぬ気持ち
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「真由、おばあちゃんの部屋片付けるから、部屋の押し入れのものとか出しといて。」
「・・・・・・。」
「・・・・・・、携帯が終わってからでもいいから頼んだわよ。」
「うん・・・。」
あの世へ続く扉を開いたあの日から、何となく婆さんの家が気になって来てみたが、相変わらずしょうもない会話しかしていない。
婆さんはこんな家になんの価値があって、あそこまで必死だったのか、私にはまるで分からない。
真由とかいうやつも、相変わらず携帯に依存している様子。
自分の婆さんよりも、携帯の向こう側にいる友達の方が大切なのかね。
私には何も分からない。
「・・・・・・、よし。」
夕方、真由は小声でそう呟くと立ち上がり、婆さんの部屋へと向かった。
婆さんの部屋に入った真由は、母親に言われた通り、押し入れのものを全部出していた。
「これで全部かな。あ、棚の中の物も出さなきゃ。」
真由が棚に目を移し、引き出しを開け、次々と中のものを出していく。
私はその光景を眺めていたが、それよりも棚の上にあるクマのぬいぐるみが気になった。
このバカ孫は、クマのぬいぐるみの事を覚えているのだろうか。
ふと、そんな疑問が頭に浮かんだ。
もし覚えているのなら、こいつは何を思うだろう。
私はその疑問を解決するため、ある行動に出る事にした。
あくまでもただの偶然。
バカ孫が偶然1番下の引き出しを開けたから、その振動で偶然クマのぬいぐるみが棚から落ちてきた。
うん、本当に偶然だから。
だから、私がバカ孫の頭にクマのぬいぐるみを落としたのもただの偶然。
「痛・・・、もう何?」
真由は自分の頭に落ちてきた物を確認し、そこにはクマのぬいぐるみが転がっていることに気がつく。
しばらく真由はクマのぬいぐるみを見つめていたが、動きはしなかった。
それどころか、ポロポロと静かに涙を流している様子。
「・・・・・・、おばあちゃん・・・。」
真由がそう呟くと、今まで自分の隠していた気持ちが爆発したのか、大声で泣き出した。
「うわぁぁぁぁぁん!、おばあちゃん、ごめんなさい!あんな酷いこと言って!ごめんなさい!」
真由がクマのぬいぐるみを抱きしめ、声を上げて泣いている。
まるで、小さな子どもにでも戻ったかのように。
涙や鼻水で顔はぐっちゃぐちゃ。
「おばあちゃんごめんなさい・・・、本当は早く謝りたかったけど、おばあちゃん倒れて・・・、私のせいで倒れちゃったのかもって思うと・・・ヒック・・・。」
「・・・・・・。」
「謝ったら私のせいだって認めるみたいで、怖かったの・・・。それを認めたくなかったの!」
「・・・・・・。」
「でも今更謝っても、もう届かない!本当にごめんなさい!!!」
私は一人で泣きながら、届かぬ思いを打ち明けているバカ孫を見て、ため息をついた。
「だってよ、婆さん。」
私はずっと私の後ろに隠れていた婆さんに声をかけた。
そして、その婆さんも泣いていた。
「真由ちゃん・・・。」
「これがあんたへの本心だったって訳ね。」
「ねぇ、私は何のために産まれて、何のために生きたのか分からないって言ったけど・・・、きっとこの最期のために生きていたのね。」
婆さんは泣きながら、精一杯の優しい笑顔を孫に向けていた。
そして、真由の隣にいき抱きしめる様な動きをした。
本当はしっかりと抱きしめたいのだろうが、死んでいるのだからそれは不可能だ。
だからせめて、抱きしめているフリをしているのだろう。
二度と伝わらないお互いの体温。
二度と伝わらない婆さんから孫への気持ち。
でもしっかり伝わったのは、孫から婆さんへ向けられた素直な気持ち。
2人は、まるで同じこの世に生きる者のように、しっかりと寄り添いあっていた。
「ありがとう。」
婆さんは礼を言っていたが、私は背中に担いでいるドアを床に置き、再び扉を開いていた。
「礼はいい。」
「ううん、あなたがあの時、階段を登る私を止めてくれたから、孫と仲直りできたのよ。」
「そっか。」
「何で止めてくれたの?」
婆さんの突然の問いに戸惑った。
実際にあの日、私はあの世に繋がる扉を開け、婆さんが階段を登っていくのを見ていた。
しかし、自分でも分からないけど、婆さんの事を止めていた。
理由は本当に分からない。
「あなたが本当にこれでいいの?って言ってくれなきゃ、こんないい結果にはならなかったわ。」
本当にこれでいいの?
確かに言ったかもしれない。
でもなぜ言った?
「正直、何で婆さんをあの時止めたか分からない。でも、あんたが気持ちよくあの世に行けるならそれでいいんじゃない?」
私のこの言葉がそんなに嬉しかったのか、婆さんはまた泣きながら微笑んだ。
「あなたは親切な死神さんね。」
「だから私は死神じゃないって言ってるでしょ?」
「もういいじゃない!そういうことにしておきなさい!」
「うわ~、また婆さんの強引な発言。いいから早く階段を登ってよ。」
婆さんは泣いたかと思えば、次は大笑い。
本当に感情があるって忙しいことだ。
「なら老いぼれはもう行くわ、本当にありがとう!」
婆さんは階段を一段、二段と登っていく。
だから私は、いつも死者に向けて言うお決まりの言葉を後ろから言った。
「行ってらっしゃい。」
「・・・・・・。」
「・・・・・・、携帯が終わってからでもいいから頼んだわよ。」
「うん・・・。」
あの世へ続く扉を開いたあの日から、何となく婆さんの家が気になって来てみたが、相変わらずしょうもない会話しかしていない。
婆さんはこんな家になんの価値があって、あそこまで必死だったのか、私にはまるで分からない。
真由とかいうやつも、相変わらず携帯に依存している様子。
自分の婆さんよりも、携帯の向こう側にいる友達の方が大切なのかね。
私には何も分からない。
「・・・・・・、よし。」
夕方、真由は小声でそう呟くと立ち上がり、婆さんの部屋へと向かった。
婆さんの部屋に入った真由は、母親に言われた通り、押し入れのものを全部出していた。
「これで全部かな。あ、棚の中の物も出さなきゃ。」
真由が棚に目を移し、引き出しを開け、次々と中のものを出していく。
私はその光景を眺めていたが、それよりも棚の上にあるクマのぬいぐるみが気になった。
このバカ孫は、クマのぬいぐるみの事を覚えているのだろうか。
ふと、そんな疑問が頭に浮かんだ。
もし覚えているのなら、こいつは何を思うだろう。
私はその疑問を解決するため、ある行動に出る事にした。
あくまでもただの偶然。
バカ孫が偶然1番下の引き出しを開けたから、その振動で偶然クマのぬいぐるみが棚から落ちてきた。
うん、本当に偶然だから。
だから、私がバカ孫の頭にクマのぬいぐるみを落としたのもただの偶然。
「痛・・・、もう何?」
真由は自分の頭に落ちてきた物を確認し、そこにはクマのぬいぐるみが転がっていることに気がつく。
しばらく真由はクマのぬいぐるみを見つめていたが、動きはしなかった。
それどころか、ポロポロと静かに涙を流している様子。
「・・・・・・、おばあちゃん・・・。」
真由がそう呟くと、今まで自分の隠していた気持ちが爆発したのか、大声で泣き出した。
「うわぁぁぁぁぁん!、おばあちゃん、ごめんなさい!あんな酷いこと言って!ごめんなさい!」
真由がクマのぬいぐるみを抱きしめ、声を上げて泣いている。
まるで、小さな子どもにでも戻ったかのように。
涙や鼻水で顔はぐっちゃぐちゃ。
「おばあちゃんごめんなさい・・・、本当は早く謝りたかったけど、おばあちゃん倒れて・・・、私のせいで倒れちゃったのかもって思うと・・・ヒック・・・。」
「・・・・・・。」
「謝ったら私のせいだって認めるみたいで、怖かったの・・・。それを認めたくなかったの!」
「・・・・・・。」
「でも今更謝っても、もう届かない!本当にごめんなさい!!!」
私は一人で泣きながら、届かぬ思いを打ち明けているバカ孫を見て、ため息をついた。
「だってよ、婆さん。」
私はずっと私の後ろに隠れていた婆さんに声をかけた。
そして、その婆さんも泣いていた。
「真由ちゃん・・・。」
「これがあんたへの本心だったって訳ね。」
「ねぇ、私は何のために産まれて、何のために生きたのか分からないって言ったけど・・・、きっとこの最期のために生きていたのね。」
婆さんは泣きながら、精一杯の優しい笑顔を孫に向けていた。
そして、真由の隣にいき抱きしめる様な動きをした。
本当はしっかりと抱きしめたいのだろうが、死んでいるのだからそれは不可能だ。
だからせめて、抱きしめているフリをしているのだろう。
二度と伝わらないお互いの体温。
二度と伝わらない婆さんから孫への気持ち。
でもしっかり伝わったのは、孫から婆さんへ向けられた素直な気持ち。
2人は、まるで同じこの世に生きる者のように、しっかりと寄り添いあっていた。
「ありがとう。」
婆さんは礼を言っていたが、私は背中に担いでいるドアを床に置き、再び扉を開いていた。
「礼はいい。」
「ううん、あなたがあの時、階段を登る私を止めてくれたから、孫と仲直りできたのよ。」
「そっか。」
「何で止めてくれたの?」
婆さんの突然の問いに戸惑った。
実際にあの日、私はあの世に繋がる扉を開け、婆さんが階段を登っていくのを見ていた。
しかし、自分でも分からないけど、婆さんの事を止めていた。
理由は本当に分からない。
「あなたが本当にこれでいいの?って言ってくれなきゃ、こんないい結果にはならなかったわ。」
本当にこれでいいの?
確かに言ったかもしれない。
でもなぜ言った?
「正直、何で婆さんをあの時止めたか分からない。でも、あんたが気持ちよくあの世に行けるならそれでいいんじゃない?」
私のこの言葉がそんなに嬉しかったのか、婆さんはまた泣きながら微笑んだ。
「あなたは親切な死神さんね。」
「だから私は死神じゃないって言ってるでしょ?」
「もういいじゃない!そういうことにしておきなさい!」
「うわ~、また婆さんの強引な発言。いいから早く階段を登ってよ。」
婆さんは泣いたかと思えば、次は大笑い。
本当に感情があるって忙しいことだ。
「なら老いぼれはもう行くわ、本当にありがとう!」
婆さんは階段を一段、二段と登っていく。
だから私は、いつも死者に向けて言うお決まりの言葉を後ろから言った。
「行ってらっしゃい。」
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