上 下
3 / 5

3.その次の日の放課後

しおりを挟む
 日高は、また竹岡の隣の席に座り込んでいた。
 放課後に白魔術の本を読んでいた彼に話しかける。

「俺はお前を、幼稚園の頃からの親友だと思っていた。そして今もそう思っている。お前はどうなんだ?」

 竹岡も本を閉じて応じた。

「んー、僕はキミを親友だと思ったことはないかなあ。今も思ってない」
「思っていなかったのか……」
「うん。キミは、僕のヒーローだから」
「なんだそれ」
「覚えてるでしょ? 僕は地黒な上に日焼けしやすくていつも他の人より黒いからさ、小学校低学年くらいまではいじめられたりからかわれたりして、そのたびにキミが味方になってくれてたじゃない」
「覚えている」
「だからずっと、キミは僕のヒーロー。今だってヒーロー。勉強も運動もできて、誰にでも優しい。顔もさわやかで、あとはちょっと雰囲気が他の人より大人っぽいね。背がちょっとだけ僕のほうが高くなっても、キミに守ってもらう必要がなくなってから長い時間が経ってても、やっぱりキミは僕にとってヒーロー」

 きれいな褐色の肌と白い歯で作った笑顔とともに、妙にさわやかなトーンで言う竹岡。
 日高は嘆息したくなるのをこらえた。

「じゃあ別にそれでもいい。ヒーロー扱いしてくれるなら、それに危害を加えようとするのはどうなんだ? おかしいだろ」
「え、わからないの? キミがヒーローだからいいんだってば」

 竹岡は筆入れからコンパスを出した。
 さらに、意図を図りかねている日高の右手首を、左手でつかむ。

 そして日高の手のひらを机の上に押し付け固定したまま、右手でコンパスを高く掲げた。
 キラリと光る、針。

「っ!?」

 なんの躊躇ちゅうちょもなく、それが振り落とされた。
 細い針先なのに、大きな音がした。

 日高はそれを目で確認するまで理解が追いつかなかった。
 針が、刺さっている。
 日高の指と指の、間に。

「……!」

 言葉が出ない。
 日高の顔に、怯えの色が浮かんだ。

「あっ、いい顔。たまらないなあ。でも、まだこれ以上は我慢しとくよ。いま本当に刺しちゃったら治せないからね」

 じゃあ今日も剣道部の練習頑張って――。
 そう言って、竹岡はかばんを手に取り立ち上がった。

 彼が教室を出て行っても、日高はそのまま固まっていた。
 その顎から、やがて雫が一滴、垂れた。
 集まった冷や汗だった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

黄色い水仙を君に贈る

えんがわ
BL
────────── 「ねぇ、別れよっか……俺たち……。」 「ああ、そうだな」 「っ……ばいばい……」 俺は……ただっ…… 「うわああああああああ!」 君に愛して欲しかっただけなのに……

獣人の子供が現代社会人の俺の部屋に迷い込んできました。

えっしゃー(エミリオ猫)
BL
突然、ひとり暮らしの俺(会社員)の部屋に、獣人の子供が現れた! どっから来た?!異世界転移?!仕方ないので面倒を見る、連休中の俺。 そしたら、なぜか俺の事をママだとっ?! いやいや女じゃないから!え?女って何って、お前、男しか居ない世界の子供なの?! 会社員男性と、異世界獣人のお話。 ※6話で完結します。さくっと読めます。

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

鈍感モブは俺様主人公に溺愛される?

桃栗
BL
地味なモブがカーストトップに溺愛される、ただそれだけの話。 前作がなかなか進まないので、とりあえずリハビリ的に書きました。 ほんの少しの間お付き合い下さい。

【BL】国民的アイドルグループ内でBLなんて勘弁してください。

白猫
BL
国民的アイドルグループ【kasis】のメンバーである、片桐悠真(18)は悩んでいた。 最近どうも自分がおかしい。まさに悪い夢のようだ。ノーマルだったはずのこの自分が。 (同じグループにいる王子様系アイドルに恋をしてしまったかもしれないなんて……!) (勘違いだよな? そうに決まってる!) 気のせいであることを確認しようとすればするほどドツボにハマっていき……。

死に戻り騎士は、今こそ駆け落ち王子を護ります!

時雨
BL
「駆け落ちの供をしてほしい」 すべては真面目な王子エリアスの、この一言から始まった。 王子に”国を捨てても一緒になりたい人がいる”と打ち明けられた、護衛騎士ランベルト。 発表されたばかりの公爵家令嬢との婚約はなんだったのか!?混乱する騎士の気持ちなど関係ない。 国境へ向かう二人を追う影……騎士ランベルトは追手の剣に倒れた。 後悔と共に途切れた騎士の意識は、死亡した時から三年も前の騎士団の寮で目覚める。 ――二人に追手を放った犯人は、一体誰だったのか? 容疑者が浮かんでは消える。そもそも犯人が三年先まで何もしてこない保証はない。 怪しいのは、王位を争う第一王子?裏切られた公爵令嬢?…正体不明の駆け落ち相手? 今度こそ王子エリアスを護るため、過去の記憶よりも積極的に王子に関わるランベルト。 急に距離を縮める騎士を、はじめは警戒するエリアス。ランベルトの昔と変わらぬ態度に、徐々にその警戒も解けていって…? 過去にない行動で変わっていく事象。動き出す影。 ランベルトは今度こそエリアスを護りきれるのか!? 負けず嫌いで頑固で堅実、第二王子(年下) × 面倒見の良い、気の長い一途騎士(年上)のお話です。 ------------------------------------------------------------------- 主人公は頑な、王子も頑固なので、ゆるい気持ちで見守っていただけると幸いです。

この噛み痕は、無効。

ことわ子
BL
執着強めのαで高校一年生の茜トキ×αアレルギーのβで高校三年生の品野千秋 α、β、Ωの三つの性が存在する現代で、品野千秋(しなのちあき)は一番人口が多いとされる平凡なβで、これまた平凡な高校三年生として暮らしていた。 いや、正しくは"平凡に暮らしたい"高校生として、自らを『αアレルギー』と自称するほど日々αを憎みながら生活していた。 千秋がαアレルギーになったのは幼少期のトラウマが原因だった。その時から千秋はαに対し強い拒否反応を示すようになり、わざわざαのいない高校へ進学するなど、徹底してαを避け続けた。 そんなある日、千秋は体育の授業中に熱中症で倒れてしまう。保健室で目を覚ますと、そこには親友の向田翔(むこうだかける)ともう一人、初めて見る下級生の男がいた。 その男と、トラウマの原因となった人物の顔が重なり千秋は混乱するが、男は千秋の混乱をよそに急に距離を詰めてくる。 「やっと見つけた」 男は誰もが見惚れる顔でそう言った。

前世が俺の友人で、いまだに俺のことが好きだって本当ですか

Bee
BL
半年前に別れた元恋人だった男の結婚式で、ユウジはそこではじめて二股をかけられていたことを知る。8年も一緒にいた相手に裏切られていたことを知り、ショックを受けたユウジは式場を飛び出してしまう。 無我夢中で車を走らせて、気がつくとユウジは見知らぬ場所にいることに気がつく。そこはまるで天国のようで、そばには7年前に死んだ友人の黒木が。黒木はユウジのことが好きだったと言い出して―― 最初は主人公が別れた男の結婚式に参加しているところから始まります。 死んだ友人との再会と、その友人の生まれ変わりと思われる青年との出会いへと話が続きます。 生まれ変わり(?)21歳大学生×きれいめな48歳おっさんの話です。 ※軽い性的表現あり 短編から長編に変更しています

処理中です...