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三・五章『あなたは生き残りのドラゴンの息子に嘘をついた』
第42話 復讐なんて……とは言えません
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――私は町が炎上するのを見て、慌てて町に戻りました。
そこで見たものは、言葉にできないほどの惨状でした。
あの光景を忘れたことなどありません。建物は崩れ、死体がそこら中に転がっていました。本当にこの世の景色なのかと疑ったほどです。
私は焦げた臭いと血の臭いがたちこめるなか、家族、友人、お世話になっていた町の人たちを探しました。ですが誰も生きてはいませんでした。いずれも体に穴をあけられていたり、体が噛みちぎられていたり、直視に耐えられないほどのひどい状態でした。
まだ子供だった私は、自分の周りのすべてを、あのときに失いました。
許せませんでした。
私は隣町の兵士たちに発見され、その町の町長の家にあずかられることになりましたが、いつか必ずドラゴンを討伐すると心に誓い、剣と魔法の研鑽につとめました。
しばらくして、魔王軍が勇者一行によって壊滅させられ、ドラゴンも滅ぼされたということを聞きました。
命を奪われた町の人々の恨み、それが少しは晴らされたに違いないと思いました。ですが私は自分でそれを成し遂げられなかったことが残念でたまらず、しばらく虚ろな日を過ごしました。
しかしその後、ペザルで一匹だけドラゴンが生き残っていたという話が入ってきました。そしてペザルの町はそのドラゴンを討伐するどころか和解し、山神として崇めるようになっている、とも。
信じられないほどの愚かな行為だと思いましたが、私にとってそれは朗報でもあったのです。なぜなら、自分で仇を取る機会を神が与えてくれたのですから。
私は人生の目標を、そのドラゴンを処刑することに定めました。
目標を達成するためにさらなる力を求めた私は、勇者に同行していたという魔法使いの場所を突き止めて師匠となってもらい、修行を積みました。
幸いにも私には魔法の才能があったようで、一人で倒せないモンスターはいない域に達することはできました。
これでドラゴンを討伐できるのか? 私は師匠にそう詰めました。ですが師匠はドラゴンについての情報提供を頑なに拒みました。
私はあきらめきれませんでした。師匠のもとを離れ、ドラゴンの能力について詳しい人を求め、情報収集の旅に出たのです。
その旅の途中、イストポートの町に寄っていたときのことでした。
一人の少年がドラゴンに変身し、海竜と戦っているという知らせを聞きました。
そうです。シドウくん、あなたのことです。
あなたがハーフドラゴンであることはすぐにわかりました。ペザルにいるドラゴンは一人の人間と暮らしていると聞いていましたから。
ドラゴンの能力を知る大変な好機がやってきたと思った私は、すぐにあなたがたに接近し、しばらく同行することにしました。
短い間でしたが、あなたのおかげでドラゴンのことがよくわかりました。同時に、すでに一人でドラゴンを討伐できる状態であるという確信を得ました。
ドラゴンとは、噂に聞いていたような難攻不落の怪物などではありませんでした。その体は大きさこそ違えど、トカゲやワニのようなありふれた動物と変わりませんでした。爪は鋭く、鱗は鎧のように硬いですが、腹部は背中に比べ弱く、体内はおそらく口腔から肛門に至るまで無防備な粘膜。何匹いようが私の火魔法で倒せる――そう思いました。
そして今、やっと復讐を果たせるときが来たのです。
これまでの経緯を説明してゆくアランの口調は、けっして激しくはなかった。
だがその静かな灼熱感は、ドラゴン態のシドウに届くには十分すぎた。
イストポートを出てから彼が自分たちについてきたこと。そのような目的があったとは気付かなかった。考えもしなかったことだ。
シドウは恐怖を覚えた。
足元にティアがいなければ本当に後ろに下がってしまっていたかもしれない。
「……」
言葉が出てこない。
アランの説明の途中も、シドウは一切口を挟まなかった。
否、言葉が見つからなかったのだ。今も彼になんと言えばよいのかわからない。
『復讐なんて無意味です。そんなことをしても失われた命は戻ってきません』
とてもそんなことを言えるものではない。
復讐というものが前向きでない、後ろ向きな感情であることは、まだ若いシドウにもわかる。
そしてそれに囚われることが、目の前の赤髪の青年にとってあまりにもったいないことであることも、わかる。
だが、重い。
重すぎる。
彼のここまでの人生、それが重すぎた。
そして、自分は加害者であるドラゴン族の子――。
そこで見たものは、言葉にできないほどの惨状でした。
あの光景を忘れたことなどありません。建物は崩れ、死体がそこら中に転がっていました。本当にこの世の景色なのかと疑ったほどです。
私は焦げた臭いと血の臭いがたちこめるなか、家族、友人、お世話になっていた町の人たちを探しました。ですが誰も生きてはいませんでした。いずれも体に穴をあけられていたり、体が噛みちぎられていたり、直視に耐えられないほどのひどい状態でした。
まだ子供だった私は、自分の周りのすべてを、あのときに失いました。
許せませんでした。
私は隣町の兵士たちに発見され、その町の町長の家にあずかられることになりましたが、いつか必ずドラゴンを討伐すると心に誓い、剣と魔法の研鑽につとめました。
しばらくして、魔王軍が勇者一行によって壊滅させられ、ドラゴンも滅ぼされたということを聞きました。
命を奪われた町の人々の恨み、それが少しは晴らされたに違いないと思いました。ですが私は自分でそれを成し遂げられなかったことが残念でたまらず、しばらく虚ろな日を過ごしました。
しかしその後、ペザルで一匹だけドラゴンが生き残っていたという話が入ってきました。そしてペザルの町はそのドラゴンを討伐するどころか和解し、山神として崇めるようになっている、とも。
信じられないほどの愚かな行為だと思いましたが、私にとってそれは朗報でもあったのです。なぜなら、自分で仇を取る機会を神が与えてくれたのですから。
私は人生の目標を、そのドラゴンを処刑することに定めました。
目標を達成するためにさらなる力を求めた私は、勇者に同行していたという魔法使いの場所を突き止めて師匠となってもらい、修行を積みました。
幸いにも私には魔法の才能があったようで、一人で倒せないモンスターはいない域に達することはできました。
これでドラゴンを討伐できるのか? 私は師匠にそう詰めました。ですが師匠はドラゴンについての情報提供を頑なに拒みました。
私はあきらめきれませんでした。師匠のもとを離れ、ドラゴンの能力について詳しい人を求め、情報収集の旅に出たのです。
その旅の途中、イストポートの町に寄っていたときのことでした。
一人の少年がドラゴンに変身し、海竜と戦っているという知らせを聞きました。
そうです。シドウくん、あなたのことです。
あなたがハーフドラゴンであることはすぐにわかりました。ペザルにいるドラゴンは一人の人間と暮らしていると聞いていましたから。
ドラゴンの能力を知る大変な好機がやってきたと思った私は、すぐにあなたがたに接近し、しばらく同行することにしました。
短い間でしたが、あなたのおかげでドラゴンのことがよくわかりました。同時に、すでに一人でドラゴンを討伐できる状態であるという確信を得ました。
ドラゴンとは、噂に聞いていたような難攻不落の怪物などではありませんでした。その体は大きさこそ違えど、トカゲやワニのようなありふれた動物と変わりませんでした。爪は鋭く、鱗は鎧のように硬いですが、腹部は背中に比べ弱く、体内はおそらく口腔から肛門に至るまで無防備な粘膜。何匹いようが私の火魔法で倒せる――そう思いました。
そして今、やっと復讐を果たせるときが来たのです。
これまでの経緯を説明してゆくアランの口調は、けっして激しくはなかった。
だがその静かな灼熱感は、ドラゴン態のシドウに届くには十分すぎた。
イストポートを出てから彼が自分たちについてきたこと。そのような目的があったとは気付かなかった。考えもしなかったことだ。
シドウは恐怖を覚えた。
足元にティアがいなければ本当に後ろに下がってしまっていたかもしれない。
「……」
言葉が出てこない。
アランの説明の途中も、シドウは一切口を挟まなかった。
否、言葉が見つからなかったのだ。今も彼になんと言えばよいのかわからない。
『復讐なんて無意味です。そんなことをしても失われた命は戻ってきません』
とてもそんなことを言えるものではない。
復讐というものが前向きでない、後ろ向きな感情であることは、まだ若いシドウにもわかる。
そしてそれに囚われることが、目の前の赤髪の青年にとってあまりにもったいないことであることも、わかる。
だが、重い。
重すぎる。
彼のここまでの人生、それが重すぎた。
そして、自分は加害者であるドラゴン族の子――。
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