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本編

最終話 二人、飛び立つ

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「えーっと。もう話は終わりかな? お二人さん」

 その勇者の声で、ソラトとデュラは、二人だけの世界から現実に引き戻された。

「きみ、ソラトくんという名前なんだ?」
「……はい」
「俺、最初にもう少しきみにきちんと話を聞くべきだったかもしれないな。そんな事情があったとはなあ」

 勇者がそう言うと、女戦士、僧侶、魔法使いが次々と口を開いた。

「お前っていつもそうだよな。そそっかしいというか」
「でも、僕たちもこの世界を色々見てきたつもりではありましたが。こんなのは初めてでしたね」
「フォッフォッフォ。そうじゃな」

 みんな、穏やかな顔をしていた。

「え、じゃあ……」

「ああ。そのドラゴン、デュラって言ったね? きみのおかげなのかな……もう眼が魔物じゃないよ。こんなのを討伐するのは、少なくとも勇者の仕事じゃないと思う。一度受けた依頼であっても、俺はお断りだ」

「勇者さん……」

「今まで、俺らが解決してきた事件も、もしかしたら背景を十分知らないまま解決してしまったものが沢山あったのかも知れないな。
 勉強になったよ」
「お前、あまり話を聞かないからな」

 女戦士の突っ込みに、勇者は苦笑いした。

「ほっとけ。だいたい、もう大魔王はいないのに、俺らっていつまでこんな仕事をしないといけないんだろうな? 町の奴らで何とかしろよって感じだよ」
「お前、それはまずいだろ。『行方不明ということにして一~二年お忍びで旅をし、様子を見て大丈夫そうなら解散』って決めたのは王様だ。何かあったら進んで対応するのが筋だぞ」

「そうかもしれないけどさ。笑っちゃうよなあ。お触れ書きに『頂級冒険者もしくは同等の猛者募集』って書いてあったのにさ。俺らが名乗り出たら、集まってた他の奴らはみんな帰っちまうんだから」
「あはは、確かにそうでしたが。勇者様、町の人には口が裂けてもそんなことを言ってはダメですよ」

 言いたい放題の勇者を、女戦士や僧侶がたしなめた。

「フォッフォッフォ。しかし勇者殿、今回は町になんと報告するので?」
「もう安全だって言ってしまおう」

「大丈夫なのですか?」
「ああ。ここのソラトくんの努力次第だけどな。この山は、魔物を辞めたドラゴンと、それをしっかり管理するソラトくんのものになりました――そう言っておけばいいだろ」
「ではそれでいきますか」

 話が急速にまとめられていく。




「じゃあ、ソラトくん」
「はい、勇者さん」
「俺らはもうこれ以上タッチしないから。あとはしっかり頼むよ」

 これで、もうデュラは処分の対象にはならない……。
 ソラトは、デュラと顔を見合わせた。

「やったよデュラ! このまま一緒にいられるね」

 ソラトはデュラに抱き付いた。
 目からは、また涙が大量に吹きこぼれてきた。

「ソラトくん、そのエンブレム付けてるということは頂級冒険者だよな? こんなにビービ―泣いてばかりの頂級冒険者は初めて見たよ」

 勇者が呆れたように言う。

「だって、嬉しいから……。デュラだってそうでしょ?」
「そうだな。同胞や大魔王様にもう会えないのは残念だが……。私はここでソラトと生きていても、よいのだな」

「うん。ずっとここで暮らそう! もうデュラの同胞はいないから、子孫を残すことはできないけど――あ!」
「?」

「そうだデュラ! 僕の子供を産めばいいんだ。ドラゴンの血は半分になっちゃうかもしれないけど、完全に途絶えるよりマシだよ!」
「なんだと!? そんなことができるのか?」

「結婚すれば、きっとできるよ!」
「ケッコンとはなんだ?」
「ええと、ずっと一緒にいて、交尾したりする関係?」
「ドラゴンと人間は交尾できないだろう」

「魔法で人型の魔族になれたじゃないか。あの状態でやればできるんじゃないの?」
「そんなことで、できるようになるのか?」
「さあ? でもやってみないとわからないよ!」
「変身できる時間も短いが――」
「僕の場合は短くても大丈夫!」

「あっはっは、きみ面白いなあ」

 見ると、勇者が笑っていた。
 他の三人も、笑っていた。



 ***



 勇者一行は、町に帰っていった。
 町に報告をして、また行方不明になる予定らしい。

 ソラトとデュラは、横穴の近くの見晴らしの良い場所にいた。

 ソラトは腰を下ろし、デュラはそのすぐ後ろで、半円状で包み込むように腰を落としていた。

「ソラト、我々はフウフとやらになるのか」
「うん。人間では、夫婦は嘘や隠し事をしないことになってるんだ。だから、僕はもう二度とデュラに嘘をつかないよ」

「……では私も嘘をつかないよう気をつけよう」
「そうだね。多分デュラはついさっき、嘘ついたから」
「……?」

「さっき、最初に会ったときに僕が正直に言っていたら、僕を殺していたって言ってたよね。あれ、やっぱり嘘なんじゃないかなあ」
「そうなのか?」
「うん。きっと出来てなかったと思うよ。だってデュラ……優しいから」

 デュラは、首を回し、ソラトの体に顎をこすりつけた。

「イタタ。デュラ、ちょっと痛いかも」
「ああ、すまない」

 慌てたように頭を離れさせるデュラを見て、ソラトは笑った。

「あ、そういえばさ。買った船はもう要らないよね。とっておいても仕方ないし、売っちゃおうか」

 ソラトはそう言ったが、デュラは少し考えたのちに、違う意見を出した。

「いや、ソラト。私はまだ船というものに乗ったことがない。一度、一緒に乗ってもらえないか」
「お、いいね。よし、じゃあさっそく今から行ってこようよ。もう勇者さんから町への報告は済んでるだろうし。
 ……船をつないであるところまで、乗せていってもらってもいい?」

「ああ」

 ソラトはひょいとデュラの背中に乗った。
 今度は後ろめたい気持ちなしに乗れることが、嬉しかった。

 デュラは大きく羽ばたき、二人は空へと舞いあがった。






―――――――――――――――

『僕は生き残りのドラゴンに嘘をついた』-完- 
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