異世界系(?)短編集

2626

文字の大きさ
上 下
4 / 5

【百合は満たされると】

しおりを挟む
 西の聖女様がお亡くなりになった後、あり得ないことが起きた。大陸の東西南北にお一人ずつしかいないはずの聖女様となるべき聖少女が、何と二人も現れたのだという。
 となればどちらかが本物、もう片方は偽物の魔女であろう、邪悪な魔女は焼き殺さねばならないと聖女協会の誰もが色めき立った。そして聖女の証たる聖印を調べたところ、片方の聖少女の聖印が不完全な形をしていると判明した。聖印は咲き誇る百合の花の形をしているはずが、蕾のままだという。
 これぞ魔女の証だと聖女協会の枢機卿達はすぐさま彼女を処刑しようとしたが、真の聖少女がそれを止めた。
 いくら邪悪な魔女とて殺すのは酷い、せめて命だけは助けてやって欲しい。
 枢機卿から見習い神父の一人に至るまで、これぞ真の聖女となるべき聖少女、慈悲のお心をお持ちだと褒め称えた。そして魔女に鞭打ってから魔人共が棲まう【最果ての黒島】へ追放したのだった。

 「……それで、その、私、魔女みたいなんです」
「何の……冗談?」
「冗談なんかじゃありません!魔女なんです、私!鞭で叩かれて……!」
「待って待って、ごめんね、説明が足りなかったわ。私こそが【月の魔女】なのよ」
「え?」
「ほら、大陸って広いでしょ?【太陽の魔女】一人だけじゃ守護が追いつかなかったのよ。それであの子、己の力を東西南北の聖女達に分散させて、自分は天界に戻っちゃった。……えーと、貴女たちの言葉だと【女神ソルマリア】があの子の本当の名前」
「……ソルマリア女神様が、魔女だったのですか?」
「そうよ、あたしの実の妹だもの。もしあたしが女神として名乗るなら【女神ルナレア】と言うところかしらね」
「じゃ、じゃあどうして……」
「ほら、人間って寿命が短い上に色々と記録を改ざんするから。正義感を振りかざした自己正当化も得意だし」
「……それは、心当たりがあります」
「取りあえず貴女の背中の傷を治したら、魔王のおちびちゃんに会いに行きましょ。貴女のこれからの生活について相談しに」
「は、はい!」

 「おちびちゃんは止めろと何度言えば!ルナレア様、俺はもう一人前の魔人なのだぞ!」
「でもあたしにとってはずっと可愛くて甘えん坊のおちびちゃんよ?」
「ウガァー!俺は恐怖と混沌の魔王ダイランなのに!」
「それよりこの子、西の聖女になるはずだったのに謀られてここに追放されたのよ。可哀想だからせめて生活の保障だけでもしてくれない?」
「ルナレア様、勿論ですとも。聖女殿、貴女のお名前を伺ってもよろしいか」
「はい、ニナと申します!」
「ではニナ殿、この魔宮でご自由に暮らしなさい。だが一つだけ開けてはならない扉がある」
「あっ、どうしても開けたくなって我慢できずに開けてしまって追放されるヤツだ!」
「いや、俺の弟のリドガーは重度の引きこもりで……扉を開けようとすると中から攻撃魔法を乱射してくるのだ」
「絶対に開けたくない理由だった!」
「そういう訳だ、後は自由に出入りしてくれて構わない」
「はい、ダイラン陛下」

 「ルナレア様、おはようございます!」
「あらおはよう、ニナちゃん。朝ご飯食べていかない?」
「それがリドガー君と一緒に食べる約束でして!」
「ええっ!?あの子がまさか扉を開けたの!?500年引きこもっていたのに!?」
「何でも聖女の加護らしいです」
「そうだったわ!【幸せにしたいと思った者全てに祝福をもたらす】……それこそが聖女の本当の力なのよね」
「ところで、その……」
「ええ、最近この黒島の海岸に……よく人の死体が打ち上がることでしょう?」
「どうしてなのでしょうか。私は孤児院にいたからよく分からないんですが、それでも大陸でこんな酷い事なんて無かったはずです」
「まあ、西の聖女を追い出したから、大陸全土で何か異変が起きているのでしょうね」
「そんな……」
「本当なら聖女が一人かけた所で、こんなにすぐに異変なんて起きなかったはず。きっとどの聖女達も……【誰かを幸せにしたい】なんて思わなくなっていたのでしょうね」
「…………私、ここに来てみんなから凄くやさしくして貰えて、本当に幸せだなあって思ったんです。この幸せがみんなにも届くと良いなあ、って思っただけなんです」
「それが全てよ、ニナちゃん。【百合は満たされると花開く】ものなのよ」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

アイドルグループの裏の顔 新人アイドルの洗礼

甲乙夫
恋愛
清純な新人アイドルが、先輩アイドルから、強引に性的な責めを受ける話です。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

離婚した彼女は死ぬことにした

まとば 蒼
恋愛
2日に1回更新(希望)です。 ----------------- 事故で命を落とす瞬間、政略結婚で結ばれた夫のアルバートを愛していたことに気づいたエレノア。 もう一度彼との結婚生活をやり直したいと願うと、四年前に巻き戻っていた。 今度こそ彼に相応しい妻になりたいと、これまでの臆病な自分を脱ぎ捨て奮闘するエレノア。しかし、 「前にも言ったけど、君は妻としての役目を果たさなくていいんだよ」 返ってくるのは拒絶を含んだ鉄壁の笑みと、表面的で義務的な優しさ。 それでも夫に想いを捧げ続けていたある日のこと、アルバートの大事にしている弟妹が原因不明の体調不良に襲われた。 神官から、二人の体調不良はエレノアの体内に宿る瘴気が原因だと告げられる。 大切な人を守るために離婚して彼らから離れることをエレノアは決意するが──。 ----------------- とあるコンテストに応募するためにひっそり書いていた作品ですが、最近ダレてきたので公開してみることにしました。 まだまだ荒くて調整が必要な話ですが、どんなに些細な内容でも反応を頂けると大変励みになります。 書きながら色々修正していくので、読み返したら若干展開が変わってたりするかもしれません。 作風が好みじゃない場合は回れ右をして自衛をお願いいたします。

シチュボ(女性向け)

身喰らう白蛇
恋愛
自発さえしなければ好きに使用してください。 アドリブ、改変、なんでもOKです。 他人を害することだけはお止め下さい。 使用報告は無しで商用でも練習でもなんでもOKです。 Twitterやコメント欄等にリアクションあるとむせながら喜びます✌︎︎(´ °∀︎°`)✌︎︎ゲホゴホ

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

処理中です...