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敵が気付く前に撤退!

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 フェブーラ州にある湖畔の街テルピンテにあるヴェネット商会の支店にヴァロとテオドラ嬢は滞在していた。
俺達が超寒い真夜中に窓を叩いたので、2人とも驚いたけれどすぐに2重の窓を開けてくれた。
「は、は、鼻毛まで凍りそうだった……ブェックショイ!」
『ジン!そこでどうしてまた知力が1になるんだ!』
俺はくしゃみをしたら、じいさん達に呆れられた。
「全く、坊ちゃんは変な所で情けないわい!」
「うむ……どうしてだろうな?」
「その詮索は後にしましょう。で、このニンゲン共が例の?」
ペトロニウスが嫌そうな顔をして見つめると、テオドラ嬢は優雅に一礼した。
「まずは簡単な自己紹介からなのですの。私がテオドラ・フェコ・ヴェネッティなのですの。こちらは私の婚約者でそちらのカイン様のお友達でもあるヴァロ・セウェルス……ユィアン侯爵令息でもありますのなの」
「ニンゲンの貴族の位など私達に何の意味もない!」
苛ついたペトロニウスに、俺は促した。
「それよりもハイ・ポーションの実演をしよう」
俺は袖をまくって腕を見せると、ストラトスがナイフでざっくりと深く切りつけた。
「あ、痛い!」
ヴァロが突っ込んだ。
「言わなくても見れば分かる重傷である」
「うん、でも――」
ペトロニウスがハイ・ポーションを一滴垂らすと、疼痛と一緒に傷口が見る間に盛り上がって――綺麗さっぱり消えてしまったのだ。
「まあ!」とテオドラ嬢は目を見張ったが、すぐさま俺に訊ねてきた。「お話にあった通りに、本当に彼らにしか生産出来ない代物なのですの?」
「しかも、ヤヌシア州限定だよ。他の土地じゃ薬草がここまでには育たない」
「その薬草の上手な育て方とポーションの製法は彼らが独占しているのですの?」
「これから市民権を授与される彼らがね」
「その情報は……何処から聞きましたのなの?」
「張本人から」
『何の、とは言わなくても充分なようだな』
フラヴィウス皇太子殿下の事だとすぐにテオドラ嬢には分かったらしい。
「なるほど、なるほど、それなら充分なのですの。将来性もありそうですし、取引については了承なのですの。約束通りにいたしますのなの。ただ、ここからパウサニアン峡谷を通るとなると色々な問題が……」
「テオドラ嬢、どうやって俺達がここにポーションの箱を運んできたと思う?」
「!」先に気付いたのはヴァロだった。窓に駈け寄って、「そうか――湖であるか!」
「うん、湖畔まで運んで欲しい。後は……2人とも、上手くやるんだよ」
きっと内通者がヴァロ達にも何らかの圧力を加えてくるだろう。
ここに来てくれただけで、どれほど助かったか。
「吾輩より君こそであるぞ!神々の御加護があらん事を……!」
俺とヴァロは拳を軽く打ち付けあった。

 湖畔に運んで貰った荷物を、急ごしらえで作ったスケートの足が付いた台に乗せてしっかりと固定すると、ストラトスがグイグイと湖畔の木に回してあったロープを勢いよく引っ張った。するとぐるりと湖面の上に張り巡らされたロープが引かれて、シューッとあっという間に――凍り付いた湖の上を、荷物を乗せて滑っていく。同時に、向こうからももう一台のスケートの足が付いた台がロープに結ばれて滑ってきた。それに俺達はせっせと荷物を乗せる。このスケートの足が付いた台は念のために6つ用意してきたので、3つのロープが引っ切りなしに回っている状態だった。擦り切れても良いように代わりのロープも持ってきてある。
全ての荷物が運べた後は、俺達が最後にそれぞれの台に乗り――ギュン!とロープに引かれるままに一気に氷の上を滑ってヤヌシア州に戻ったのだった。

「では、戦略的撤退!」

 ……沢山の荷物を背負ってガイア村に帰ったら、朝日が昇る頃になっていた。
オーガ族って凄い。平然とあんな重量級の荷物を汗もかかずにここまで運んでしまった。筋肉は嘘をつかないのだ。俺とじいさんとペトロニウスだけがヘトヘトになっている。
眠たいなあ、なんて思いながらハイ・ポーションと引き換えに持ち帰った荷物を開けて、中身を検めていると――。
「これ……小麦!?これだけあれば、大きなパンが焼ける!」
ネフェリィが子供のようにはしゃぎ出した。
うーん、エルフ族ってその外見年齢に合わせれば良いのか、精神年齢を尊重すべきなのか時々分からなくなる。
「冷静に。まずは落ち着いて冬を越せるかどうか判断しよう……これから人数が増える事も加味して計算を……」
ペトロニウスは外見も精神的にも落ち着いているけど、ちょっと嬉しそうなのは隠せていない。
「そ、そうだな!」
あ、エルフって嬉しいと長い耳の先がピクピクと動くんだね。
荷物に集まるエルフの全員が、ピクピクとさせている。
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