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最初の弟の記憶、世界を滅ぼした記憶
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霊感なんて胡散臭い名前では呼びたくない。でもユーリが――あそこに怖い人がいると夜中にいきなり泣きじゃくった次の日には親戚で不幸があった。学校に行きたくないと泣いて、何か学校でトラブルがあったのかも知れないと親が取りあえず休ませたその日には、集団登下校のグループに車が突っ込んだ。
逆に喜んでいたりはしゃいでいた時には、降水確率にかかわらず天気が晴れたり、出先でたまたま有名人と会ってサインを貰えたり……そう言う不思議な事が沢山あったのだ。
流石に宝くじは当たらなかったが、ユーリは大吉しかおみくじを引いた事が無かった。
そうだ。ユーリは勘が鋭い……鋭すぎるヤツだった。
俺は小さな頃アイツが壁に向かってよくお喋りしていた事を今更になって思い出した。
『ユーリ、1人で何やってんだ?』
『ほんをもらったの!おおきくなったらよめるほん!』
俺はその時もユーリが夢を見ているか寝ぼけているんだって、まともに相手をしなかったけれど――。
そういや、俺はあれほどユーリから熱心に布教されていたのにも関わらず、「小説」のタイトルを一度も聞いていない。挿絵もあれだけ見せつけられたはずなのに。待てよ、あれは本当に「絵」だったか?いやにリアルだと思っていたけれど――。
『……カイン、確認したい』
『何をだ、ジン?』
『オマエが本当にこの世界と神々を滅ぼしたんだよな?』
『逆に聞くが、俺以外の誰がそんな真似をするんだ?』
『いや、魔剣ドゥームブリンガーの力ってあくまでも「捕食したモノを何であれ支配できる」だろ?だとしたら、カインを殺して捕食した後――支配に関する命令を下す持ち主がいなくなったんじゃないかって。その状態で、どうやって世界を捕食して滅ぼしたんだ?誰がその命令を出したんだ?』
『そ、それは!――だが、だとしたらどうやって現状を説明するんだ!?』
カインが殺したはずの人達が全員生きている、現状をどうやって説明したら……都合が付くのか。
『カイン。これから俺が話す事はあくまでも俺の組み立てた仮説だ。あちこち辻褄も合わないし、何なら証拠も論拠も一つも無い。これからの状況でいくらでも変わるだろうし、そもそも真っ赤な嘘八百かも知れない』
『……構わん。話してくれ、ジン』
『分かった』
俺は深呼吸をゆっくりと――時間をかけて何度か繰り返してから、言葉にした。
『最初の世界を滅ぼしたのは、聖剣ネメシスセイバーを手にしたディーン・コンスタンティンだ』
カインはしばらく黙っていたが、
『そう思った理由は何だ』
『まず、この世界と神々を滅ぼす程の力って、聖剣と魔剣にしか無いんじゃないかって』
『次は』
『カインの性格。オマエ、大勢の人間を苦しめて殺して、その光景を最後まで見届けて嗤っていただろ?そのカインがどうして最後の最後で世界を滅ぼした光景を覚えていないんだ?オマエにしては妙に詰めが甘くないか』
『……。まだ他に……理由はあるのか?』
『このカイン・コンスタンティンの体に、異世界の人間である俺が入っている。一方で本当のカインは魔剣の中にいた。そしてディーン・コンスタンティンの体にも――異世界の人間が入っていただろう?』
『本当のディーンは……聖剣ネメシスセイバーの中にいる……!』
『聖剣ネメシスセイバーは「斬ったものを全て浄化する」って力を持っていたはずだ。
――あの全員がオールバッドエンドを迎えた世界を、ディーンが神々ごと斬って浄化してしまったとしたら?』
『だが、だとすれば!ヤツの動機は一体何だ?世界と神々を滅ぼしてしまう程の理由は何だ!?』
『どう考えたってオマエだろうよ、カイン』
『俺か!?』
『オマエがディーンの愛する人も慕った人も庇った人も何もかも誰も彼も――悉く苦しめて痛めつけて嘲いながら殺したじゃないか』
『……』
『挙げ句――憎むべきオマエさえも最後に自殺してしまった。
俺もそうだったから分かるんだけど……ただ純粋な復讐をした後って「何も残らない」んだよ。さぞや爽快な気分を味わえるだろうと思っていたら、何も無い空虚の中にポトンと落とされる。何でも良い、この世界に存在する事を許容してくれて、俺が破滅へと突き進もうとするのを瀬戸際で止めてくれるしがらみが何処にも無いんだ。復讐を「目的」にしちゃって、「過程」にしなかったから当然なんだけれどな。
もし復讐を「過程」に出来ていたら俺はこの世界には来なかっただろうさ。本当にちっぽけな……「復讐が終わったら特上の焼き肉食って生ビール飲んで家に帰る」みたいな、マジでささやかな「目的」でもあれば良かったんだがな。
で、だ。
己が完全な空っぽになったら、人間はどうなると思う?』
『……分からない』
『その空っぽを無自覚に埋めようとするんだ。空っぽが巨大であればあるほど、深ければ深いほど、必死に何かで埋めようとしてしまうんだ。俺の場合は自殺だったけど……オマエだってディーンを虐げるために世界中を滅茶苦茶にしたのは、それだけ空っぽになってしまったデボラの存在が大きかったからだろ?』
『それで、それでアイツが、世界と神々を――?』
『恐らく……奴隷化目的でエルフの隠れ里が襲われるまでは、世界も無事で済んだ。だが……聖剣ネメシスセイバーがエルフの手から奪われて、ディーンも解き放たれてしまった。世界を滅ぼすつもりのディーンが、エヴィアーナ公爵の手に渡った。……道理で、魔幸薬なんて代物がまた出てくる訳だよ』
『……一つだけ、聞きたい』
『何だ?』
『元エヴィアーナ公爵の中にいる……イアソンもジン達と同じ転生者なんだろう?ヤツはどうしてこの世界に来たんだ?』
『……』
『どうして黙る、ジン?』
『そこまでは分からないさ。まだ情報が少なすぎて、答えようが無いからな。先にヤヌシア州を片付けたらだ。ディーンに詳しい話を聞きに行くのは……まだ、後で良い』
『ジン。これだけは先に言っておく。早まるなよ』
『そりゃオマエの方だよ、カイン』
逆に喜んでいたりはしゃいでいた時には、降水確率にかかわらず天気が晴れたり、出先でたまたま有名人と会ってサインを貰えたり……そう言う不思議な事が沢山あったのだ。
流石に宝くじは当たらなかったが、ユーリは大吉しかおみくじを引いた事が無かった。
そうだ。ユーリは勘が鋭い……鋭すぎるヤツだった。
俺は小さな頃アイツが壁に向かってよくお喋りしていた事を今更になって思い出した。
『ユーリ、1人で何やってんだ?』
『ほんをもらったの!おおきくなったらよめるほん!』
俺はその時もユーリが夢を見ているか寝ぼけているんだって、まともに相手をしなかったけれど――。
そういや、俺はあれほどユーリから熱心に布教されていたのにも関わらず、「小説」のタイトルを一度も聞いていない。挿絵もあれだけ見せつけられたはずなのに。待てよ、あれは本当に「絵」だったか?いやにリアルだと思っていたけれど――。
『……カイン、確認したい』
『何をだ、ジン?』
『オマエが本当にこの世界と神々を滅ぼしたんだよな?』
『逆に聞くが、俺以外の誰がそんな真似をするんだ?』
『いや、魔剣ドゥームブリンガーの力ってあくまでも「捕食したモノを何であれ支配できる」だろ?だとしたら、カインを殺して捕食した後――支配に関する命令を下す持ち主がいなくなったんじゃないかって。その状態で、どうやって世界を捕食して滅ぼしたんだ?誰がその命令を出したんだ?』
『そ、それは!――だが、だとしたらどうやって現状を説明するんだ!?』
カインが殺したはずの人達が全員生きている、現状をどうやって説明したら……都合が付くのか。
『カイン。これから俺が話す事はあくまでも俺の組み立てた仮説だ。あちこち辻褄も合わないし、何なら証拠も論拠も一つも無い。これからの状況でいくらでも変わるだろうし、そもそも真っ赤な嘘八百かも知れない』
『……構わん。話してくれ、ジン』
『分かった』
俺は深呼吸をゆっくりと――時間をかけて何度か繰り返してから、言葉にした。
『最初の世界を滅ぼしたのは、聖剣ネメシスセイバーを手にしたディーン・コンスタンティンだ』
カインはしばらく黙っていたが、
『そう思った理由は何だ』
『まず、この世界と神々を滅ぼす程の力って、聖剣と魔剣にしか無いんじゃないかって』
『次は』
『カインの性格。オマエ、大勢の人間を苦しめて殺して、その光景を最後まで見届けて嗤っていただろ?そのカインがどうして最後の最後で世界を滅ぼした光景を覚えていないんだ?オマエにしては妙に詰めが甘くないか』
『……。まだ他に……理由はあるのか?』
『このカイン・コンスタンティンの体に、異世界の人間である俺が入っている。一方で本当のカインは魔剣の中にいた。そしてディーン・コンスタンティンの体にも――異世界の人間が入っていただろう?』
『本当のディーンは……聖剣ネメシスセイバーの中にいる……!』
『聖剣ネメシスセイバーは「斬ったものを全て浄化する」って力を持っていたはずだ。
――あの全員がオールバッドエンドを迎えた世界を、ディーンが神々ごと斬って浄化してしまったとしたら?』
『だが、だとすれば!ヤツの動機は一体何だ?世界と神々を滅ぼしてしまう程の理由は何だ!?』
『どう考えたってオマエだろうよ、カイン』
『俺か!?』
『オマエがディーンの愛する人も慕った人も庇った人も何もかも誰も彼も――悉く苦しめて痛めつけて嘲いながら殺したじゃないか』
『……』
『挙げ句――憎むべきオマエさえも最後に自殺してしまった。
俺もそうだったから分かるんだけど……ただ純粋な復讐をした後って「何も残らない」んだよ。さぞや爽快な気分を味わえるだろうと思っていたら、何も無い空虚の中にポトンと落とされる。何でも良い、この世界に存在する事を許容してくれて、俺が破滅へと突き進もうとするのを瀬戸際で止めてくれるしがらみが何処にも無いんだ。復讐を「目的」にしちゃって、「過程」にしなかったから当然なんだけれどな。
もし復讐を「過程」に出来ていたら俺はこの世界には来なかっただろうさ。本当にちっぽけな……「復讐が終わったら特上の焼き肉食って生ビール飲んで家に帰る」みたいな、マジでささやかな「目的」でもあれば良かったんだがな。
で、だ。
己が完全な空っぽになったら、人間はどうなると思う?』
『……分からない』
『その空っぽを無自覚に埋めようとするんだ。空っぽが巨大であればあるほど、深ければ深いほど、必死に何かで埋めようとしてしまうんだ。俺の場合は自殺だったけど……オマエだってディーンを虐げるために世界中を滅茶苦茶にしたのは、それだけ空っぽになってしまったデボラの存在が大きかったからだろ?』
『それで、それでアイツが、世界と神々を――?』
『恐らく……奴隷化目的でエルフの隠れ里が襲われるまでは、世界も無事で済んだ。だが……聖剣ネメシスセイバーがエルフの手から奪われて、ディーンも解き放たれてしまった。世界を滅ぼすつもりのディーンが、エヴィアーナ公爵の手に渡った。……道理で、魔幸薬なんて代物がまた出てくる訳だよ』
『……一つだけ、聞きたい』
『何だ?』
『元エヴィアーナ公爵の中にいる……イアソンもジン達と同じ転生者なんだろう?ヤツはどうしてこの世界に来たんだ?』
『……』
『どうして黙る、ジン?』
『そこまでは分からないさ。まだ情報が少なすぎて、答えようが無いからな。先にヤヌシア州を片付けたらだ。ディーンに詳しい話を聞きに行くのは……まだ、後で良い』
『ジン。これだけは先に言っておく。早まるなよ』
『そりゃオマエの方だよ、カイン』
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