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君にしか頼めない
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卒業パーティのおよそ1週間後。
「レーフ公爵カイン・コンスタンティンをヤヌシア州執政官に任ずる」
根回しの甲斐あって、俺はヤヌシア州の執政官になった。
早速、現地に赴く支度を仕上げて、出立の日を迎える。
俺はディーン達と一時の別れの挨拶をする。
「兄上、どうか……どうかご無事で」
ディーンはげっそりとやつれていた。おい、俺じゃなくてディーンが憔悴してどうするんだ。
「ああ。みんなと母上を頼む」
「はい……」
ディーンは俺に何か伝えたいようで、少し考えているようだったが、
「兄上、その……僕は不思議な夢を見た事があるんです」
「どんな不思議な夢?」
「ここじゃない世界で僕が生きていた夢です」
「もしかして、ニホンか?」
ディーンが驚いて、それから確信を手にしたかのように頷いた。
「やっぱり。兄上が『刀』を持ってきた時に、薄々……そうじゃないかと思っていました!」
「この世界の事、あの『小説』で読んでいた?」
「『小説』……?いえ、ごめんなさい。知りませんでした。僕がニホンで生きていた記憶を取り戻したのは、ここ数年の事だったのもあって、最初はただの生々しくて感覚まで残る夢だと思っていたんです。だって……この世界で僕はあまりにも恵まれていて、本当に幸せだったから」
「ディーンもニホンじゃ酷い目に遭ったの?」
「……とても幸せでは。僕の自業自得でしたが」
「そうか。でもディーンは今、僕の大事な弟だからね。それは夢なんかじゃない、事実だよ」
ディーンが抱きついてきた。
「兄上!兄上――っ!!!」
子供みたいに泣くなってば。何とか落ち着かせてから、俺はオリンピア嬢の方を向いた。
「オリンピア嬢、お願いがあります」
オリンピア嬢はデルフィア侯爵をまた突き飛ばす勢いで俺に迫った。
「どうして……私を連れて行って下さらないのですか!」
「オクタバ州に帰る貴女達にしか頼めないし、出来ない事があるからです」
「それは何ですか?私には教えて頂けないのですか!」
「この手紙に全て書いてあります。オクタバ州に着いたら、どうか読んで下さい」
俺は彼女に封をした手紙を渡した。彼女は泣き出しそうな顔でそれを受け取る。
「それと、これは僕の真心の証です」
彼女の髪の毛に俺は幅広の黒いリボンを結んだ。そっとそのリボンに手をやって、そのまま彼女は泣き崩れた。
「これを僕だと思って、持っていて下さい」
俺は泣いている彼女に、凄く不細工であちこち出来の悪い、手作りの人形を渡した。女性の腕の中に丁度収まる程の大きさだ。
「カイン様、こ、これは……?」
「僕が作りました。どうかリボンと一緒に……大切に持っていて下さい」
「どうして、どうしてっ!」
「貴女を信じているからです。これに込められた僕の真実の気持ちを、貴女ならばきっと理解してくれると」
それから俺はデルフィア侯爵に向かって、
「どうかお願いします」
と頼んだ。デルフィア侯爵は黙って頷いて、涙が止まらないオリンピア嬢を支えてくれた。
それから、レクスやヴァロ、ヴァリアンナ嬢、テオドラ嬢、バルトロマイオスにデボラ、ポンポニア、コンモドゥス、スティリコさん、見送りに来てくれたみんなに一時の別れの挨拶を告げて――。
俺は馬に乗り、一路、護衛の騎士達を連れてヤヌシア州に出発したのだった。
『デボラの母上を泣かせる事は出来ない』
『おう。生きて戻るぞ』
「レーフ公爵カイン・コンスタンティンをヤヌシア州執政官に任ずる」
根回しの甲斐あって、俺はヤヌシア州の執政官になった。
早速、現地に赴く支度を仕上げて、出立の日を迎える。
俺はディーン達と一時の別れの挨拶をする。
「兄上、どうか……どうかご無事で」
ディーンはげっそりとやつれていた。おい、俺じゃなくてディーンが憔悴してどうするんだ。
「ああ。みんなと母上を頼む」
「はい……」
ディーンは俺に何か伝えたいようで、少し考えているようだったが、
「兄上、その……僕は不思議な夢を見た事があるんです」
「どんな不思議な夢?」
「ここじゃない世界で僕が生きていた夢です」
「もしかして、ニホンか?」
ディーンが驚いて、それから確信を手にしたかのように頷いた。
「やっぱり。兄上が『刀』を持ってきた時に、薄々……そうじゃないかと思っていました!」
「この世界の事、あの『小説』で読んでいた?」
「『小説』……?いえ、ごめんなさい。知りませんでした。僕がニホンで生きていた記憶を取り戻したのは、ここ数年の事だったのもあって、最初はただの生々しくて感覚まで残る夢だと思っていたんです。だって……この世界で僕はあまりにも恵まれていて、本当に幸せだったから」
「ディーンもニホンじゃ酷い目に遭ったの?」
「……とても幸せでは。僕の自業自得でしたが」
「そうか。でもディーンは今、僕の大事な弟だからね。それは夢なんかじゃない、事実だよ」
ディーンが抱きついてきた。
「兄上!兄上――っ!!!」
子供みたいに泣くなってば。何とか落ち着かせてから、俺はオリンピア嬢の方を向いた。
「オリンピア嬢、お願いがあります」
オリンピア嬢はデルフィア侯爵をまた突き飛ばす勢いで俺に迫った。
「どうして……私を連れて行って下さらないのですか!」
「オクタバ州に帰る貴女達にしか頼めないし、出来ない事があるからです」
「それは何ですか?私には教えて頂けないのですか!」
「この手紙に全て書いてあります。オクタバ州に着いたら、どうか読んで下さい」
俺は彼女に封をした手紙を渡した。彼女は泣き出しそうな顔でそれを受け取る。
「それと、これは僕の真心の証です」
彼女の髪の毛に俺は幅広の黒いリボンを結んだ。そっとそのリボンに手をやって、そのまま彼女は泣き崩れた。
「これを僕だと思って、持っていて下さい」
俺は泣いている彼女に、凄く不細工であちこち出来の悪い、手作りの人形を渡した。女性の腕の中に丁度収まる程の大きさだ。
「カイン様、こ、これは……?」
「僕が作りました。どうかリボンと一緒に……大切に持っていて下さい」
「どうして、どうしてっ!」
「貴女を信じているからです。これに込められた僕の真実の気持ちを、貴女ならばきっと理解してくれると」
それから俺はデルフィア侯爵に向かって、
「どうかお願いします」
と頼んだ。デルフィア侯爵は黙って頷いて、涙が止まらないオリンピア嬢を支えてくれた。
それから、レクスやヴァロ、ヴァリアンナ嬢、テオドラ嬢、バルトロマイオスにデボラ、ポンポニア、コンモドゥス、スティリコさん、見送りに来てくれたみんなに一時の別れの挨拶を告げて――。
俺は馬に乗り、一路、護衛の騎士達を連れてヤヌシア州に出発したのだった。
『デボラの母上を泣かせる事は出来ない』
『おう。生きて戻るぞ』
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