78 / 128
どうして貴方が
しおりを挟む
オリンピア嬢とバルトロマイオスを館まで送り届けた後、そのまま俺は執務室にいるデルフィア侯爵に会いに行った。運良くこの数日はオクタバ州の州都でなくて、帝都にいると聞いていたから。
それに、オリンピア嬢は精神的に疲弊しているし、バルトロマイオスは頭に血が上りすぎた所為で完全な興奮状態で、まともな話が出来る有様じゃなかったのだ。
「デルフィア侯爵、失礼します」
俺は簡単に今日あった事と、今日までオリンピア嬢がワガママクソ女から受けていた犯罪やデルフィア侯爵家への真っ赤な濡れ衣について話した。
「……」
デルフィア侯爵は顔色一つ変えないで、頷いた。
「例えそうであろうと、デルフィア侯爵家は貴族派に属している。貴族派を守らねばならないのだ」
やっぱり、そうか。
俺はデルフィア侯爵と俺の周辺だけに結界を展開してから、言った。
「これで盗聴は出来なくなりました」
盗撮の可能性も考えて、デルフィア侯爵の胸ぐらを掴んで顔を寄せる。
オリンピア嬢の件で激怒した俺が、父親であるデルフィア侯爵に罵声を浴びせて恫喝している。
とても周りに聞かれては困るような汚い言葉を使っている。
これで、そう見えるだろう。
「理由を聞いてくれるのか」
「貴方は貴族派として今もなお暗躍なさっている。なのにあの香水瓶を皇后派に渡すにあたって、黙認されましたね。俺達の計画にあえて巻き込んだバルトロマイオスから聞いて知っていたでしょうに。
生粋の貴族派でありながら肝心な所で矛盾する貴方の行動の理由が、僕にはどうも理解できない。どちらにも良い顔をしたいと言う動機でも無さそうです」
観念したようにデルフィア侯爵は口を開いた。
「長い話になるが、どうか……最後まで聞いてくれ」
「私とイアソン……いや、エヴィアーナ公爵と言えば君もすぐに分かるか。年齢が近しかった事もあり、幼い頃から貴族派の『投票権』を持つ名門の子弟として、私達はリュケイオン学園でもとりわけ親しく付き合っていた。
――その頃、貴族派はまともだった。かつては大帝派と呼ばれていた今の皇太后派、そして今の皇帝派である皇太子派とは立ち位置や考え方こそ違えども、この帝国の未来を真剣に議論し案じる同志だった。現状のように上から下まで腐敗し、悪魔の薬を平民に蔓延らせるほど衰退しきってはいなかったのだ」
「何があったのですか」
「最初に……貴族派の首長であったイアソンの父親がいきなり……『狂った』のだよ。急病に倒れた直後に」
「狂った?」
それなら、跡取りのイアソンがおかしくなった父親から当主の座を奪い、座敷牢に入れたりしなかったのか?
高位の貴族の責任者なら、一族の恥さらしを恐れてそうする事がほとんどだろう。
「まるで別の人間が体を奪ったようだった。理由は未だに不明だ。『ここはニホンじゃないのか』『異世界じゃないか』……他にも色々と訳の分からない言葉を言い、エヴィアーナ公爵として断じてあり得ない奇矯な振る舞いをもした」
……俺みたいに誰かの体の中に転生したヤツが他にもいたって事か。
「当然、イアソンは父親を幽閉した。泣く泣くだが彼は貴族の責務を果たした。……それでこの件は片付いたと私達も安堵したよ」
デルフィア侯爵は静かに目を伏せた。
「だが、次はイアソンだった」
それに、オリンピア嬢は精神的に疲弊しているし、バルトロマイオスは頭に血が上りすぎた所為で完全な興奮状態で、まともな話が出来る有様じゃなかったのだ。
「デルフィア侯爵、失礼します」
俺は簡単に今日あった事と、今日までオリンピア嬢がワガママクソ女から受けていた犯罪やデルフィア侯爵家への真っ赤な濡れ衣について話した。
「……」
デルフィア侯爵は顔色一つ変えないで、頷いた。
「例えそうであろうと、デルフィア侯爵家は貴族派に属している。貴族派を守らねばならないのだ」
やっぱり、そうか。
俺はデルフィア侯爵と俺の周辺だけに結界を展開してから、言った。
「これで盗聴は出来なくなりました」
盗撮の可能性も考えて、デルフィア侯爵の胸ぐらを掴んで顔を寄せる。
オリンピア嬢の件で激怒した俺が、父親であるデルフィア侯爵に罵声を浴びせて恫喝している。
とても周りに聞かれては困るような汚い言葉を使っている。
これで、そう見えるだろう。
「理由を聞いてくれるのか」
「貴方は貴族派として今もなお暗躍なさっている。なのにあの香水瓶を皇后派に渡すにあたって、黙認されましたね。俺達の計画にあえて巻き込んだバルトロマイオスから聞いて知っていたでしょうに。
生粋の貴族派でありながら肝心な所で矛盾する貴方の行動の理由が、僕にはどうも理解できない。どちらにも良い顔をしたいと言う動機でも無さそうです」
観念したようにデルフィア侯爵は口を開いた。
「長い話になるが、どうか……最後まで聞いてくれ」
「私とイアソン……いや、エヴィアーナ公爵と言えば君もすぐに分かるか。年齢が近しかった事もあり、幼い頃から貴族派の『投票権』を持つ名門の子弟として、私達はリュケイオン学園でもとりわけ親しく付き合っていた。
――その頃、貴族派はまともだった。かつては大帝派と呼ばれていた今の皇太后派、そして今の皇帝派である皇太子派とは立ち位置や考え方こそ違えども、この帝国の未来を真剣に議論し案じる同志だった。現状のように上から下まで腐敗し、悪魔の薬を平民に蔓延らせるほど衰退しきってはいなかったのだ」
「何があったのですか」
「最初に……貴族派の首長であったイアソンの父親がいきなり……『狂った』のだよ。急病に倒れた直後に」
「狂った?」
それなら、跡取りのイアソンがおかしくなった父親から当主の座を奪い、座敷牢に入れたりしなかったのか?
高位の貴族の責任者なら、一族の恥さらしを恐れてそうする事がほとんどだろう。
「まるで別の人間が体を奪ったようだった。理由は未だに不明だ。『ここはニホンじゃないのか』『異世界じゃないか』……他にも色々と訳の分からない言葉を言い、エヴィアーナ公爵として断じてあり得ない奇矯な振る舞いをもした」
……俺みたいに誰かの体の中に転生したヤツが他にもいたって事か。
「当然、イアソンは父親を幽閉した。泣く泣くだが彼は貴族の責務を果たした。……それでこの件は片付いたと私達も安堵したよ」
デルフィア侯爵は静かに目を伏せた。
「だが、次はイアソンだった」
0
お気に入りに追加
58
あなたにおすすめの小説
『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる
農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」
そんな言葉から始まった異世界召喚。
呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!?
そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう!
このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。
勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定
私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。
ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。
他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。
なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。
30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。
ひさまま
ファンタジー
前世で搾取されまくりだった私。
魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。
とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。
これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。
取り敢えず、明日は退職届けを出そう。
目指せ、快適異世界生活。
ぽちぽち更新します。
作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。
脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。
【完結】ガラクタゴミしか召喚出来ないへっぽこ聖女、ゴミを糧にする大精霊達とのんびりスローライフを送る〜追放した王族なんて知らんぷりです!〜
櫛田こころ
ファンタジー
お前なんか、ガラクタ当然だ。
はじめの頃は……依頼者の望み通りのものを召喚出来た、召喚魔法を得意とする聖女・ミラジェーンは……ついに王族から追放を命じられた。
役立たずの聖女の代わりなど、いくらでもいると。
ミラジェーンの召喚魔法では、いつからか依頼の品どころか本当にガラクタもだが『ゴミ』しか召喚出来なくなってしまった。
なので、大人しく城から立ち去る時に……一匹の精霊と出会った。餌を与えようにも、相変わらずゴミしか召喚出来ずに泣いてしまうと……その精霊は、なんとゴミを『食べて』しまった。
美味しい美味しいと絶賛してくれた精霊は……ただの精霊ではなく、精霊王に次ぐ強力な大精霊だとわかり。ミラジェーンを精霊の里に来て欲しいと頼んできたのだ。
追放された聖女の召喚魔法は、実は精霊達には美味しい美味しいご飯だとわかり、のんびり楽しく過ごしていくスローライフストーリーを目指します!!
婚約破棄してたった今処刑した悪役令嬢が前世の幼馴染兼恋人だと気づいてしまった。
風和ふわ
恋愛
タイトル通り。連載の気分転換に執筆しました。
※なろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ、pixivに投稿しています。
そんなに妹が好きなら死んであげます。
克全
恋愛
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」に同時投稿しています。
『思い詰めて毒を飲んだら周りが動き出しました』
フィアル公爵家の長女オードリーは、父や母、弟や妹に苛め抜かれていた。
それどころか婚約者であるはずのジェイムズ第一王子や国王王妃にも邪魔者扱いにされていた。
そもそもオードリーはフィアル公爵家の娘ではない。
イルフランド王国を救った大恩人、大賢者ルーパスの娘だ。
異世界に逃げた大魔王を追って勇者と共にこの世界を去った大賢者ルーパス。
何の音沙汰もない勇者達が死んだと思った王達は……
家族で突然異世界転移!?パパは家族を守るのに必死です。
3匹の子猫
ファンタジー
社智也とその家族はある日気がつけば家ごと見知らぬ場所に転移されていた。
そこは俺の持ちうる知識からおそらく異世界だ!確かに若い頃は異世界転移や転生を願ったことはあったけど、それは守るべき家族を持った今ではない!!
こんな世界でまだ幼い子供たちを守りながら生き残るのは酷だろ…だが、俺は家族を必ず守り抜いてみせる!!
感想やご意見楽しみにしております!
尚、作中の登場人物、国名はあくまでもフィクションです。実在する国とは一切関係ありません。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
転生したら死んだことにされました〜女神の使徒なんて聞いてないよ!〜
家具屋ふふみに
ファンタジー
大学生として普通の生活を送っていた望水 静香はある日、信号無視したトラックに轢かれてそうになっていた女性を助けたことで死んでしまった。が、なんか助けた人は神だったらしく、異世界転生することに。
そして、転生したら...「女には荷が重い」という父親の一言で死んだことにされました。なので、自由に生きさせてください...なのに職業が女神の使徒?!そんなの聞いてないよ?!
しっかりしているように見えてたまにミスをする女神から面倒なことを度々押し付けられ、それを与えられた力でなんとか解決していくけど、次から次に問題が起きたり、なにか不穏な動きがあったり...?
ローブ男たちの目的とは?そして、その黒幕とは一体...?
不定期なので、楽しみにお待ち頂ければ嬉しいです。
拙い文章なので、誤字脱字がありましたらすいません。報告して頂ければその都度訂正させていただきます。
小説家になろう様でも公開しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる