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これは拷問案件です
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『魔幸薬』が絡んでいる可能性があったので、この件は先にデボラから直々に皇太后に上奏してあった。
皇太后ご自慢でお気に入りのアカデメイア学園を、悪魔の薬でしっちゃかめっちゃかにされた恨みがそれはそれは積もっていたのだろう。
証拠の香水瓶を手に入れた数時間後には皇太后派の近衛騎士が大勢、後は皇族派に所属する近衛騎士数名がリュケイオン学園に険しい顔をして詰め寄せてきた。
「このわたくしにこんな真似をして!全員クビにするようにパパに言いつけてやるんだから!」
女性の近衛騎士に連行されていくガラテア嬢。
生憎だったな、今頃はヤヌシア州にいるオマエのパパにも捕縛部隊が向かっているぜ。
今度と言う今度こそ、首魁のエヴィアーナ公爵も捕まって処分されるだろう。
その後で近衛騎士が連れてきた医師達によって、俺達の健康診断があった。
香水として級友を汚染していた『魔幸薬』には改良済みの中和剤を使ったし、あのワガママクソ女が来てから1週間も経っていない。そして、誰も直に使用した訳じゃないから依存性は低いだろうけれど、モノがモノなので、完全な安心は出来ないからな。
そうこうしている内に放課後の時間になった。
俺はオリンピア嬢とバルトロマイオスを送って、デルフィア侯爵家に向かう。
「……あの、ありがとうございました」
オリンピア嬢は目を真っ赤に腫らして、言った。
「いえ、僕こそ助けに入るのが遅くなって済みませんでした」
ワガママクソ女がべったりとオリンピア嬢に張り付いていた所為で、慰めの言葉をかける事さえ出来なかったのが悔しい。
「でもカイン様はいつだって私を助けようとして力でレクス様に抑えられていたでしょう」
それは違うんだ、俺が非力なんじゃなくてレクスが怪力なんだ!
……ヴァロが中和剤を更に改良してまき散らすまでは、俺が『いくら庇った所で俺の不在時に彼女の扱いが劇的に悪くなる事はあっても、何一つ改善なんてしませんのですの』とテオドラ嬢にも叱られたし、ディーンやヴァリアンナ嬢には『ここが兄上の踏ん張り時だ』とか『本当に辛いのはカインのお兄様では無いのよ』と何度も激励もされた。
カインにさえ、『落ち着け、知力1の単細胞が』と罵られたし。
ただ、それが無かったら俺はキレてしまって、あのワガママクソ女に何をしていたか分からない。
俺がもしも短絡的な行動をしていたら、誰も幸せにはならなかっただろう。
「どうしてそれを僕に教えてくれなかったんですか!」
バルトロマイオスが怒る。当然だ。大事な姉が酷い目に遭っていたのだから。
「バルトロマイオス、カイン様達はずっと私達を助けようとしていたのよ」
「でも!」
「私も、ただ我慢していれば良いなんて考えていたのがおかしかったの。せめてお父様に訴えるべきだったのよ。エヴィアーナ公爵令嬢が昔からずっと私に紛れもない悪意を向けているって……」
「ずっと!?昔から!?どう言う意味ですか、姉様!」
「ええ……彼女と出会ってからずっとよ。
ねえバルトロマイオス、私は小さな頃、白い小鳥を飼っていたでしょう。ハーピアと名づけて……」
「……うっかり逃がしてしまったのでは、無かったのですね」
「あの子は逃がされただけ、まだ良かったのよ。次に私が可愛がった子猫のミミアンは……私がちょっと席を外した時に、池に落とされて……」
「……!!!!」
バルトロマイオスが鬼みたいな形相になっている。
『それは貴様もだぞ、ジン』
「今までは……誰にも打ち明ける事が出来なかったけれど、私がアルギリス様の牢獄へ1人で向かったのは彼女から手紙を渡されたからよ」
……は?アルギリスってオリンピア嬢の元婚約者だろ?
皇族でヤヌシア州の総督だったけどエヴィアーナ公爵と癒着して腐敗した事をやっていたから、投獄された……。
まさかソイツに貴族牢まで彼女が会いに行ったのは、未練や思慕があったりしたからじゃないのか!?
それに、手紙で呼び出されたなんて一度も聞いていないぞ!
「それはどう言う……!?」
俺も目を見開いた。
オリンピア嬢は、ぎゅっと手を握りしめてから再び口を開く。
「……私はアルギリス様を皇族として尊敬はしていましたが、人としても殿方としてもお慕いした事は一度もありません。彼もヤヌシア州で愛人を何人も作っていたそうですから、少しも私を尊重して下さってはいないと思っておりました」
だがアルギリスは『デルフィア侯爵の犯した罪の証拠を握っている』と手紙で脅してきたそうだ。
それを渡して欲しかったら貴族牢まで1人で取りに来い、と。
手紙の内容をワガママクソ女は知らないようだったが、オリンピア嬢にとって不利益になると確信していなかったら、絶対に渡してはこなかっただろう。
嘘だと分かっていてもそれを確かめる事も出来なかった。
例えそれが濡れ衣であろうと、無実の証明は凄く難しいんだ。
「彼女は……この前もわざわざ私への見舞いと称してやって来て……私にカイン様のありもしない嘘を吹き込んで、それに怯える私を嘲って楽しんでいました。『傷物』と何度も何度も呼ばれて、アルギリス様だけでなく、彼女さえも今はその証拠を握っていると聞いて……もう、もう終わりだと思ったのです」
『私の愚かな行動でデルフィア侯爵一族の名誉を汚して申し訳ございません。この命で以てその責任を取ります。どうぞ私の宝石を売って後の役に立てて下さい……』
俺はようやくあの遺書の内容に合点がいった。
宝石を売って、それを元にして証拠を買い戻してくれと言いたかったのだ。
『ああ……やっぱりあのワガママクソ女……殺しておけば良かったぜ』
『拷問はしないのか?』
『したいんだけど、相応しい拷問を思いつかないんだ』
『それなら俺が考えてやる』
『頼むよ、カイン』
皇太后ご自慢でお気に入りのアカデメイア学園を、悪魔の薬でしっちゃかめっちゃかにされた恨みがそれはそれは積もっていたのだろう。
証拠の香水瓶を手に入れた数時間後には皇太后派の近衛騎士が大勢、後は皇族派に所属する近衛騎士数名がリュケイオン学園に険しい顔をして詰め寄せてきた。
「このわたくしにこんな真似をして!全員クビにするようにパパに言いつけてやるんだから!」
女性の近衛騎士に連行されていくガラテア嬢。
生憎だったな、今頃はヤヌシア州にいるオマエのパパにも捕縛部隊が向かっているぜ。
今度と言う今度こそ、首魁のエヴィアーナ公爵も捕まって処分されるだろう。
その後で近衛騎士が連れてきた医師達によって、俺達の健康診断があった。
香水として級友を汚染していた『魔幸薬』には改良済みの中和剤を使ったし、あのワガママクソ女が来てから1週間も経っていない。そして、誰も直に使用した訳じゃないから依存性は低いだろうけれど、モノがモノなので、完全な安心は出来ないからな。
そうこうしている内に放課後の時間になった。
俺はオリンピア嬢とバルトロマイオスを送って、デルフィア侯爵家に向かう。
「……あの、ありがとうございました」
オリンピア嬢は目を真っ赤に腫らして、言った。
「いえ、僕こそ助けに入るのが遅くなって済みませんでした」
ワガママクソ女がべったりとオリンピア嬢に張り付いていた所為で、慰めの言葉をかける事さえ出来なかったのが悔しい。
「でもカイン様はいつだって私を助けようとして力でレクス様に抑えられていたでしょう」
それは違うんだ、俺が非力なんじゃなくてレクスが怪力なんだ!
……ヴァロが中和剤を更に改良してまき散らすまでは、俺が『いくら庇った所で俺の不在時に彼女の扱いが劇的に悪くなる事はあっても、何一つ改善なんてしませんのですの』とテオドラ嬢にも叱られたし、ディーンやヴァリアンナ嬢には『ここが兄上の踏ん張り時だ』とか『本当に辛いのはカインのお兄様では無いのよ』と何度も激励もされた。
カインにさえ、『落ち着け、知力1の単細胞が』と罵られたし。
ただ、それが無かったら俺はキレてしまって、あのワガママクソ女に何をしていたか分からない。
俺がもしも短絡的な行動をしていたら、誰も幸せにはならなかっただろう。
「どうしてそれを僕に教えてくれなかったんですか!」
バルトロマイオスが怒る。当然だ。大事な姉が酷い目に遭っていたのだから。
「バルトロマイオス、カイン様達はずっと私達を助けようとしていたのよ」
「でも!」
「私も、ただ我慢していれば良いなんて考えていたのがおかしかったの。せめてお父様に訴えるべきだったのよ。エヴィアーナ公爵令嬢が昔からずっと私に紛れもない悪意を向けているって……」
「ずっと!?昔から!?どう言う意味ですか、姉様!」
「ええ……彼女と出会ってからずっとよ。
ねえバルトロマイオス、私は小さな頃、白い小鳥を飼っていたでしょう。ハーピアと名づけて……」
「……うっかり逃がしてしまったのでは、無かったのですね」
「あの子は逃がされただけ、まだ良かったのよ。次に私が可愛がった子猫のミミアンは……私がちょっと席を外した時に、池に落とされて……」
「……!!!!」
バルトロマイオスが鬼みたいな形相になっている。
『それは貴様もだぞ、ジン』
「今までは……誰にも打ち明ける事が出来なかったけれど、私がアルギリス様の牢獄へ1人で向かったのは彼女から手紙を渡されたからよ」
……は?アルギリスってオリンピア嬢の元婚約者だろ?
皇族でヤヌシア州の総督だったけどエヴィアーナ公爵と癒着して腐敗した事をやっていたから、投獄された……。
まさかソイツに貴族牢まで彼女が会いに行ったのは、未練や思慕があったりしたからじゃないのか!?
それに、手紙で呼び出されたなんて一度も聞いていないぞ!
「それはどう言う……!?」
俺も目を見開いた。
オリンピア嬢は、ぎゅっと手を握りしめてから再び口を開く。
「……私はアルギリス様を皇族として尊敬はしていましたが、人としても殿方としてもお慕いした事は一度もありません。彼もヤヌシア州で愛人を何人も作っていたそうですから、少しも私を尊重して下さってはいないと思っておりました」
だがアルギリスは『デルフィア侯爵の犯した罪の証拠を握っている』と手紙で脅してきたそうだ。
それを渡して欲しかったら貴族牢まで1人で取りに来い、と。
手紙の内容をワガママクソ女は知らないようだったが、オリンピア嬢にとって不利益になると確信していなかったら、絶対に渡してはこなかっただろう。
嘘だと分かっていてもそれを確かめる事も出来なかった。
例えそれが濡れ衣であろうと、無実の証明は凄く難しいんだ。
「彼女は……この前もわざわざ私への見舞いと称してやって来て……私にカイン様のありもしない嘘を吹き込んで、それに怯える私を嘲って楽しんでいました。『傷物』と何度も何度も呼ばれて、アルギリス様だけでなく、彼女さえも今はその証拠を握っていると聞いて……もう、もう終わりだと思ったのです」
『私の愚かな行動でデルフィア侯爵一族の名誉を汚して申し訳ございません。この命で以てその責任を取ります。どうぞ私の宝石を売って後の役に立てて下さい……』
俺はようやくあの遺書の内容に合点がいった。
宝石を売って、それを元にして証拠を買い戻してくれと言いたかったのだ。
『ああ……やっぱりあのワガママクソ女……殺しておけば良かったぜ』
『拷問はしないのか?』
『したいんだけど、相応しい拷問を思いつかないんだ』
『それなら俺が考えてやる』
『頼むよ、カイン』
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