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ワガママ女、現る
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オリンピア嬢も加わった後、俺達がそれなりに落ち着いた学園生活を送っていられたのは、1年弱の短い間だけだった。
1年も立たない内に、俺のあり得ない数々の嘘をオリンピア嬢に吹き込んだ、あのエヴィアーナ公爵令嬢までリュケイオン学園に入学してきたからだ。
今までこの女は、父親や双子の兄と一緒に、ヤヌシア州の州都近くにある帝国城よりも大きいことで有名な城で暮らしていたのに……どうして来たんだよ!?
「この貧乏学園にわたくしのパパが寄付をたっぷりと恵んでやったのよ」
おい待て。それは明らかに自己紹介の最初に言うべき言葉じゃない。
「……!」
『貧乏学園』の理事長の孫であるヴァロが苛ついたのが明らかに分かった。
しかしこのトンデモワガママ女の暴走はそれでは止まらなかった。
香水の、甘すぎて気持ち悪くなるような劇臭を振りまきながら、
「貴男と貴男と貴男、そこの貴男もよ!わたくしの下僕になりなさい。偉大で由緒正しいエヴィアーナ公爵家のわたくしの下僕に選ばれたのだから光栄に思う事ね!」
無礼にも指さされたのはこの学級でも顔立ちの良い男子生徒ばかりだった。
当然、レクスもだ。
ヴァロと俺はかすりもしていない。まあ良いけど。
「断る」
レクスが真っ先に、堂々と断った。
そうだそうだ!よくぞ断った!
俺とヴァロは思わず拍手した。
少し遅れて、教室中からも拍手の音がした。
そもそも、フェニキア公爵家の跡取りであるレクスを下僕扱いなんてしたら、あの雷親父ミハエルが怒鳴り込むぞ。
「まっ……貴男!何処の馬の骨ですの!?」
「フェニキア公爵家のレクス・スキピオだ。何か問題でもあるのか」
「~~~~っ!!!きぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいっ!!!どうしてわたくしに口答えするのよっ!わたくしはエヴィアーナ公爵の娘なのよっ!」
……あのー。
いい年こいて幼児みたいにワガママが通らなかったからって床にひっくり返ってジタバタするって……どうなの?
少なくとも俺達は全員ドン引きしているよ?
『公爵令嬢を自称してこそいるが、何も躾がなっていないじゃないか』
『カインもそう思う?』
『思うも何も、これなら飼い犬の方が余程躾けが出来ているぞ』
『そうだよなあ……』
その時、オリンピア嬢がさっと席を立ってエヴィアーナ公爵令嬢を抱き起こした。
「ガラテア様、どうか落ち着いて下さいな。ここはリュケイオン学園です、学園には学園の掟があるのです」
「お黙り!汚らしい『傷物』の癖に!」
「!」
激高した俺が咄嗟に席を立とうとしたのをレクスが力ずくで止めて、椅子にしっかりと押さえつける。
ふざけるなと抵抗しようとした時、すかさずヴァロが囁いてきた。
「オリンピア嬢の様子が変だとは――君、思わないのかね?」
「……」
冷静になった。
そうだ、同じ貴族派のオリンピア嬢は以前からエヴィアーナ公爵令嬢と知り合いだった。
オリンピア嬢の様子をよく見てから、俺は二人にしか聞こえないように言う。
「……怯えて、いる……?」
「うむ……もしかすれば、脅されているのかも知れないのである」
そう言えば、俺のありもしない悪事をオリンピア嬢に吹き込んだのはエヴィアーナ公爵令嬢だったな。
以前から親しく付き合いがあるとも言っていた。
だが、その結果、オリンピア嬢は……!
『おい、ジン!』
カインが切羽詰まった声を出した。
「どうしたカイン?」
『今、魔剣にこっそりと空気を食わせて分かった。余りの刺激臭だったからな……。あの女の香水には「媚薬」のような成分が濃い濃度で含まれている!』
エヴィアーナ公爵家。
媚薬のような成分。
この2つの要素を並べて考えた瞬間――スーッと血の気が引いていくのが分かった。
『「魔幸薬」か!?』
『その可能性以外……俺も思いつかなかった』
1年も立たない内に、俺のあり得ない数々の嘘をオリンピア嬢に吹き込んだ、あのエヴィアーナ公爵令嬢までリュケイオン学園に入学してきたからだ。
今までこの女は、父親や双子の兄と一緒に、ヤヌシア州の州都近くにある帝国城よりも大きいことで有名な城で暮らしていたのに……どうして来たんだよ!?
「この貧乏学園にわたくしのパパが寄付をたっぷりと恵んでやったのよ」
おい待て。それは明らかに自己紹介の最初に言うべき言葉じゃない。
「……!」
『貧乏学園』の理事長の孫であるヴァロが苛ついたのが明らかに分かった。
しかしこのトンデモワガママ女の暴走はそれでは止まらなかった。
香水の、甘すぎて気持ち悪くなるような劇臭を振りまきながら、
「貴男と貴男と貴男、そこの貴男もよ!わたくしの下僕になりなさい。偉大で由緒正しいエヴィアーナ公爵家のわたくしの下僕に選ばれたのだから光栄に思う事ね!」
無礼にも指さされたのはこの学級でも顔立ちの良い男子生徒ばかりだった。
当然、レクスもだ。
ヴァロと俺はかすりもしていない。まあ良いけど。
「断る」
レクスが真っ先に、堂々と断った。
そうだそうだ!よくぞ断った!
俺とヴァロは思わず拍手した。
少し遅れて、教室中からも拍手の音がした。
そもそも、フェニキア公爵家の跡取りであるレクスを下僕扱いなんてしたら、あの雷親父ミハエルが怒鳴り込むぞ。
「まっ……貴男!何処の馬の骨ですの!?」
「フェニキア公爵家のレクス・スキピオだ。何か問題でもあるのか」
「~~~~っ!!!きぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいっ!!!どうしてわたくしに口答えするのよっ!わたくしはエヴィアーナ公爵の娘なのよっ!」
……あのー。
いい年こいて幼児みたいにワガママが通らなかったからって床にひっくり返ってジタバタするって……どうなの?
少なくとも俺達は全員ドン引きしているよ?
『公爵令嬢を自称してこそいるが、何も躾がなっていないじゃないか』
『カインもそう思う?』
『思うも何も、これなら飼い犬の方が余程躾けが出来ているぞ』
『そうだよなあ……』
その時、オリンピア嬢がさっと席を立ってエヴィアーナ公爵令嬢を抱き起こした。
「ガラテア様、どうか落ち着いて下さいな。ここはリュケイオン学園です、学園には学園の掟があるのです」
「お黙り!汚らしい『傷物』の癖に!」
「!」
激高した俺が咄嗟に席を立とうとしたのをレクスが力ずくで止めて、椅子にしっかりと押さえつける。
ふざけるなと抵抗しようとした時、すかさずヴァロが囁いてきた。
「オリンピア嬢の様子が変だとは――君、思わないのかね?」
「……」
冷静になった。
そうだ、同じ貴族派のオリンピア嬢は以前からエヴィアーナ公爵令嬢と知り合いだった。
オリンピア嬢の様子をよく見てから、俺は二人にしか聞こえないように言う。
「……怯えて、いる……?」
「うむ……もしかすれば、脅されているのかも知れないのである」
そう言えば、俺のありもしない悪事をオリンピア嬢に吹き込んだのはエヴィアーナ公爵令嬢だったな。
以前から親しく付き合いがあるとも言っていた。
だが、その結果、オリンピア嬢は……!
『おい、ジン!』
カインが切羽詰まった声を出した。
「どうしたカイン?」
『今、魔剣にこっそりと空気を食わせて分かった。余りの刺激臭だったからな……。あの女の香水には「媚薬」のような成分が濃い濃度で含まれている!』
エヴィアーナ公爵家。
媚薬のような成分。
この2つの要素を並べて考えた瞬間――スーッと血の気が引いていくのが分かった。
『「魔幸薬」か!?』
『その可能性以外……俺も思いつかなかった』
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