【完結】転生したら登場人物全員がバッドエンドを迎える鬱小説の悪役だった件

2626

文字の大きさ
上 下
75 / 128

ワガママ女、現る

しおりを挟む
 オリンピア嬢も加わった後、俺達がそれなりに落ち着いた学園生活を送っていられたのは、1年弱の短い間だけだった。
1年も立たない内に、俺のあり得ない数々の嘘をオリンピア嬢に吹き込んだ、あのエヴィアーナ公爵令嬢までリュケイオン学園に入学してきたからだ。
今までこの女は、父親や双子の兄と一緒に、ヤヌシア州の州都近くにある帝国城よりも大きいことで有名な城で暮らしていたのに……どうして来たんだよ!?

「この貧乏学園にわたくしのパパが寄付をたっぷりと恵んでやったのよ」
おい待て。それは明らかに自己紹介の最初に言うべき言葉じゃない。
「……!」
『貧乏学園』の理事長の孫であるヴァロが苛ついたのが明らかに分かった。
しかしこのトンデモワガママ女の暴走はそれでは止まらなかった。
香水の、甘すぎて気持ち悪くなるような劇臭を振りまきながら、
「貴男と貴男と貴男、そこの貴男もよ!わたくしの下僕になりなさい。偉大で由緒正しいエヴィアーナ公爵家のわたくしの下僕に選ばれたのだから光栄に思う事ね!」
無礼にも指さされたのはこの学級でも顔立ちの良い男子生徒ばかりだった。
当然、レクスもだ。
ヴァロと俺はかすりもしていない。まあ良いけど。
「断る」
レクスが真っ先に、堂々と断った。
そうだそうだ!よくぞ断った!
俺とヴァロは思わず拍手した。
少し遅れて、教室中からも拍手の音がした。
そもそも、フェニキア公爵家の跡取りであるレクスを下僕扱いなんてしたら、あの雷親父ミハエルが怒鳴り込むぞ。
「まっ……貴男!何処の馬の骨ですの!?」
「フェニキア公爵家のレクス・スキピオだ。何か問題でもあるのか」
「~~~~っ!!!きぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいっ!!!どうしてわたくしに口答えするのよっ!わたくしはエヴィアーナ公爵の娘なのよっ!」
……あのー。
いい年こいて幼児みたいにワガママが通らなかったからって床にひっくり返ってジタバタするって……どうなの?
少なくとも俺達は全員ドン引きしているよ?

『公爵令嬢を自称してこそいるが、何も躾がなっていないじゃないか』
『カインもそう思う?』
『思うも何も、これなら飼い犬の方が余程躾けが出来ているぞ』
『そうだよなあ……』

その時、オリンピア嬢がさっと席を立ってエヴィアーナ公爵令嬢を抱き起こした。
「ガラテア様、どうか落ち着いて下さいな。ここはリュケイオン学園です、学園には学園の掟があるのです」
「お黙り!汚らしい『傷物』の癖に!」
「!」
激高した俺が咄嗟に席を立とうとしたのをレクスが力ずくで止めて、椅子にしっかりと押さえつける。
ふざけるなと抵抗しようとした時、すかさずヴァロが囁いてきた。
「オリンピア嬢の様子が変だとは――君、思わないのかね?」
「……」
冷静になった。
そうだ、同じ貴族派のオリンピア嬢は以前からエヴィアーナ公爵令嬢と知り合いだった。
オリンピア嬢の様子をよく見てから、俺は二人にしか聞こえないように言う。
「……怯えて、いる……?」
「うむ……もしかすれば、脅されているのかも知れないのである」
そう言えば、俺のありもしない悪事をオリンピア嬢に吹き込んだのはエヴィアーナ公爵令嬢だったな。
以前から親しく付き合いがあるとも言っていた。
だが、その結果、オリンピア嬢は……!

『おい、ジン!』
カインが切羽詰まった声を出した。
「どうしたカイン?」
『今、魔剣にこっそりと空気を食わせて分かった。余りの刺激臭だったからな……。あの女の香水には「媚薬」のような成分が濃い濃度で含まれている!』

エヴィアーナ公爵家。
媚薬のような成分。

この2つの要素を並べて考えた瞬間――スーッと血の気が引いていくのが分かった。
『「魔幸薬」か!?』
『その可能性以外……俺も思いつかなかった』
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

異世界転生雑学無双譚 〜転生したのにスキルとか貰えなかったのですが〜

芍薬甘草湯
ファンタジー
エドガーはマルディア王国王都の五爵家の三男坊。幼い頃から神童天才と評されていたが七歳で前世の知識に目覚め、図書館に引き篭もる事に。 そして時は流れて十二歳になったエドガー。祝福の儀にてスキルを得られなかったエドガーは流刑者の村へ追放となるのだった。 【カクヨムにも投稿してます】

異世界の貴族に転生できたのに、2歳で父親が殺されました。

克全
ファンタジー
アルファポリスオンリー:ファンタジー世界の仮想戦記です、試し読みとお気に入り登録お願いします。

能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?

火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…? 24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

幸福の魔法使い〜ただの転生者が史上最高の魔法使いになるまで〜

霊鬼
ファンタジー
生まれつき魔力が見えるという特異体質を持つ現代日本の会社員、草薙真はある日死んでしまう。しかし何故か目を覚ませば自分が幼い子供に戻っていて……? 生まれ直した彼の目的は、ずっと憧れていた魔法を極めること。様々な地へ訪れ、様々な人と会い、平凡な彼はやがて英雄へと成り上がっていく。 これは、ただの転生者が、やがて史上最高の魔法使いになるまでの物語である。 (小説家になろう様、カクヨム様にも掲載をしています。)

巻き込まれ召喚・途中下車~幼女神の加護でチート?

サクラ近衛将監
ファンタジー
商社勤務の社会人一年生リューマが、偶然、勇者候補のヤンキーな連中の近くに居たことから、一緒に巻き込まれて異世界へ強制的に召喚された。万が一そのまま召喚されれば勇者候補ではないために何の力も与えられず悲惨な結末を迎える恐れが多分にあったのだが、その召喚に気づいた被召喚側世界(地球)の神様と召喚側世界(異世界)の神様である幼女神のお陰で助けられて、一旦狭間の世界に留め置かれ、改めて幼女神の加護等を貰ってから、異世界ではあるものの召喚場所とは異なる場所に無事に転移を果たすことができた。リューマは、幼女神の加護と付与された能力のおかげでチートな成長が促され、紆余曲折はありながらも異世界生活を満喫するために生きて行くことになる。 *この作品は「カクヨム」様にも投稿しています。 **週1(土曜日午後9時)の投稿を予定しています。**

生活魔法は万能です

浜柔
ファンタジー
 生活魔法は万能だ。何でもできる。だけど何にもできない。  それは何も特別なものではないから。人が歩いたり走ったりしても誰も不思議に思わないだろう。そんな魔法。  ――そしてそんな魔法が人より少し上手く使えるだけのぼくは今日、旅に出る。

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

処理中です...