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ディーンの入園

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 ――その事件から3年近くが過ぎて、いよいよディーンもリュケイオン学園に通うことになった。
「あんなに小さかったのに……大きくなったわね……」
リュケイオン学園の制服を着て、ちょっと大きい通学鞄を手にしているディーンは少し恥ずかしそうだったが、でも嬉しさを隠せない顔でブンブンと鞄を振った(ほとんど鞄に振り回されているけど)。
デボラも俺もしみじみしてしまった。ディーンは少し照れている。
「えへへ、えへへへ……!」
「そう言えば、あのヴァリアンナ嬢もディーンの同学年なのよね。あの子も随分と元気になって……少しお転婆さんすぎてフェニキア公爵夫人は悩んでいらっしゃったわねえ」
「あらあらまあまあ。子供は元気が一番ですわよ、デボラ様!」
「そうですよ。それにヴァリアンナ様は近衛騎士を目指したいとおっしゃっていますから、お転婆な方が安心でしょうし」
「ふふ、女性では珍しいですけれども、とても素敵だと思いますわ」
ポンポニアやコンモドゥスも勝手な事を言いつつも、感慨深そうに目を細めている。
「ええ、そうだったわね!」
デボラも軽く、楽しそうに笑って、俺達を連れて馬車に乗り、これから入園式が開かれるリュケイオン学園に向かったのだった。元気になったスティリコさんが今日も御者をやってくれている。

 ――俺達は9才になったので、今年からは別棟にある中等部に進級するのだ。
進級テストは勿論あって、とても大変だったけれど俺もギリギリで突破できた。
留年なんかしたらレクスやヴァロと離ればなれになっちゃうからな。

「おいカイン、留学生が3人も来るらしいぞ!」
同じクラスに振り分けられたと掲示板を見て安心した途端に、レクスが話し出した。
「え、誰?どこから?」
ヴァロが呆れたように説明してくれた。
「カイン。君もフェブーラ州にアカデメイア学園がある事は知っているだろう」

――フェブーラ州の州都ビザントゥムは学芸の都として名高い。帝都と比肩する程の数の学者が住んでいて、音楽家や芸術家はその何倍も暮らしているそうだ。
ここは皇太后派の最重要拠点でもあって、フェブーラ州の執政官は皇太后のお気に入りの大貴族、トロイゼン公爵家の女当主がやっている。
アカデメイア学園は、そのフェブーラ州と皇太后派が誇る学問の聖地だった。
平民でも才能があれば積極的に通園させているらしいし、逆に貴族でも勉強が出来ないとボロクソに言われるらしい。
この世界では結構珍しいけれども、身分(魔力)より、実力(知力)主義のようだった。

ちなみに。
レーフ公爵家、フェニキア公爵家、カトー公爵家、エヴィアーナ公爵家、そしてトロイゼン公爵家。
帝国で『公爵家』と呼ばれるのはこの5つの家だけである。
『大公家』は厳密には公爵家には該当しない。大公家は、その扱いこそ公爵家に並ぶ大貴族だが、目覚ましい業績・功績を上げた貴族や平民に一代限りで授与される『勲章』なのだ。
デボラの姉の嫁ぎ先であるカルス大公家だって、俺達が生まれる少し前の魔人族の大襲来の撃退にあたって鬼神のごとき大活躍をしたアルワッド男爵家の次男に与えられた。
貴族ってのは高位になればなるほど、『みんな親戚!』になりがちだ。そうなるといつしか血が濃くなり過ぎると言う大問題が派生するので、それの解消措置でもある。あのフラヴィウス皇太子殿下も大公家の出身なのだ。

『侯爵家』は侯爵家や大公家よりももっと数があるが、ユィアン侯爵家、ネメアィ侯爵家、イオルコシアン侯爵家、デルフィア侯爵家の4つの家は侯爵家の中でも別格で、『皇太子選挙』に公爵家と同様の『投票権』を持っている。

この『皇太子選挙』とは、皇帝の選んだ皇太子が未来の皇帝に相応しい人物かどうか、投票で決める儀式である。
『投票権』を持っている家には、未来の帝国の皇帝を決める権利があるのだ。
執政官を輩出するのとはまた違った名誉で、かつ責任重大な権利である。
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