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俺もどうせマザコン

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 『デボラってさ。……昔、俺達を虐待していただろ?』
『……そんな事は!あれは、し、躾だ!』
『ガキの尻を鞭で痕が残るくらい叩くのは虐待って言うんだよ』
『……』
『ぶっちゃけ、今でもデボラが俺達を虐待していれば良かったよな』
『ジン、貴様は何を……?』
『だったら……俺までこんなに悲しくて辛くて苦しくは無かったんだ!』

 デボラの周りには警護の人間や看病してくれる宮廷医師が引っ切りなしにいるので、魔剣の力を使って治す事が中々出来ないでいる。
俺はディーンと一緒に部屋の隅に置いてくれた小さなベッドにうずくまっている。
「おかあさま……」
ディーンはここに来るまで散々に泣き叫んで暴れていたようで、今だけはポンポニアやコンモドゥスが一休憩している所だった。
「……ふぇぇ……ええぇん」
それでもディーンは小さな声で泣いている。
疲れてしまって半分寝ているんだけれど、寝ながらも泣いているみたいだった。
デボラは医療機器に繋がれて白い患者着を着せられて……青白い顔をして寝ている。
「……可哀想に……」
部屋に交替で詰めてくれている近衛騎士の人が、今日だけで何百回も聞いた言葉をまた呟いた。

『打ち所があまりにも悪かった、としか申し上げようがありません……』
『ええ、お体に酷い外傷はございません。全て光魔法で無事に治せましたので……意識さえ戻ればすぐに回復なさるでしょうが……』

 あー、これってあの時そっくりじゃん。
俺の弟も棺に入る前はこうやって……。

 『デボラの母上……っ!』
カインが俺の中で歯軋りして地団駄を踏んでいる。
『クソ……っ!早く消え失せろ、貴様!警護のつもりだろうが、邪魔だ!』
『……』
『ジン、貴様もどうして黙っている』
『……かなり長いよ?俺の前世の話になるから』
『……構わん、話せ』

 親父とお袋の体は丸焦げだったが、弟はまだ生きているみたいだった。玄関までたどり着いていたから、体は焼けずに済んだのだ。だから救急車で病院に搬送して貰えて、集中治療室の中にいて……俺が到着した後で『残念ですが……』って言われたんだ。
『助からないのかよ!?寝ているみたいなのに!』
『……まだ体に酷い外傷が無くて良かったと思います』
『お願いだよ先生、金なら何年かけてでも絶対に払うからユーリを助けてくれよ!』
『……出来る処置は全て行いました。その上で医師として事実を申し上げます。貴方の弟さんは……』
機械に繋がれている間は心臓だけは無理矢理に動かしていられるけれど、機械に繋いでそうするって事はユーリの体にとって相当に酷い処置だからって、これ以上の延命は勧められなかった。
早めに覚悟して下さいって。
手を握ったら、まだ温かったのに……。

看護師達が俺を遠くから見て話している。
『あの子、可哀想に……』
『例の連続不審火事件の……』
『家も家族も一度に亡くすなんて、可哀想ねえ……』
『そうね……』

 悪態ばかり付いて壁に穴を開けて財布から金を盗んで作って貰った弁当は放置して……今思い出してもぶん殴りたい超クソガキだった俺を、それでも愛してくれていた家族。

 一度根こそぎ失ったのに、二度も失わなきゃいけないのか。
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