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十四話
しおりを挟む「ダリウスも難儀よねぇ~」
マーガレット様は自身のピンク色の髪をクルクルと指に絡ませながら、私をひと睨みした。
「こ~んな顔が良いだけの女に誑かされちゃうなんて……」
そう言ってマーガレット様はわざとらしくため息を吐いた。
最初の頃とは違い、自分の本性が知れた瞬間から、彼女は悪態を隠す気はなくなったようだ。
そしてどれだけ自分が醜悪な行いをしているか自覚していないマーガレット様に、私は心底腹が立っていた。
そんな彼女に私は言い返す。
「お言葉ですが、旦那様がマーガレット様に振り向かないのは、あなた様自身にそれだけの魅力がないからでは?」
私の言ったことを自覚していたのか、はたまた図星だったのか、その瞬間マーガレット様は怒りで顔を赤くさせた。
「何ですって……?!」
そして彼女は怒りで身体をワナワナと震わせるどころか、拳を強く握りしめていて、その剣幕は今にも殴りかかって来そうな勢いだった。
「許さない……!!!」
マーガレット様はそう心底、恨めしそうに呟いたかと思うと、次の瞬間、彼女は握っていた右の拳で自身の右頬を殴った。
「えっ……?」
私が起こった出来事を理解できずにいると、その間にも、恐ろしいことにマーガレット様は淡々と自分のドレスのスカート部分までもビリビリに破いていた。
どんな意図があるか分からないが、正気とは思えないその行動に私はただただ、ゾッとした。
そしてその勢いのままに、マーガレット様は舞踏会場内へと繋がるバルコニーの扉を勢いよく開け放ち、こう叫んだ。
「キャーー!!!助けてぇーー!!アルヴィラ様に殺されるーー!!!!」
「え……?」
私は何が起きたのか、理解できなかった。
その間に彼女の周りには友人だろうか、数人の令嬢たちが駆け寄って来ていた。
意味がわからずその場で固まってしまった私を見て、好機と捉えたのかマーガレット様はその場でしゃがみ込んで、自身の手で顔を覆った。
そして先ほどの大声で私たちに注目していた貴族達に向かってこう訴えた。
「アルヴィラ様にバルコニーに呼び出されたから行ったら、侯爵様のことで因縁をつけられて…ドレスをこんなにされてぇ……!」
そう言ってマーガレット様は自身で破いたドレスのスカート部分を恰も私がやったかのように見せびらかした。
そんな彼女の話を聞いた人々はそれを信じたようで、口々に私を批判し始めた。
「何て愚かなことを……」
「まさかそんな方だったとは……」
「ここまでやるなんて……!」
「酷すぎるわ…!」
そしてマーガレット様はそんな周囲の人々をさらに刺激するように、演技であろう泣き真似をしながら、人々に知らしめるようにこう言った。
「そしたら次こんなことすれば私を殺すって脅されて……突然頬を殴られたの……!」
そう言って顔が良く見えるように、顔を覆っていた手を退けて、先ほど自身で殴った右頬をみんなに見せびらかした。
(この女はさっきから何を言って……!!)
これ以上、アリもしないことを流されたらたまったものではない。
聴いていられなかった私は思わず彼女に反論した。
「何を言っているのですか……?!そのドレスと頬は先ほどご自分でーーー」
「何の騒ぎですか。」
そう言って私の発言の間に割り込んで来たのは、この舞踏会の主催者である公爵夫人だった。
そしてマーガレット様の友人であろう、一人の令嬢が夫人に事の経緯をこう言いつけた。
「アレンベル侯爵夫人が、ロミストリー伯爵令嬢をーーー……!」
それを聴いた公爵夫人はマーガレット様を見た後、私を一瞥すると、大きな溜息を吐いた。
「アレンベル侯爵夫人。貴女の噂は存知上げています。まさか私情でこのような場で問題を起こすとは……。許されることではありませんよ。しかもよりによって私が主催する舞踏会でなんて……!なんて無礼なの。」
そう私を軽蔑するように言うと、それに煽られた周囲の貴族たちもそれに賛同するように各々ヤジを飛ばして来た。
私はそのあまりに一方的な意見や偏見に、流石に耐えきれず反論した。
「待ってください!片一方の意見だけで全てを決めるだなんて……私の言い分も聞いて下さい。」
「何を勘違いされているかは分かりませんが、ここは裁判所ではありませんよ。」
公爵夫人のそのまるで私を馬鹿にするような言い方に、周囲からはクスクスと嘲笑する声が聞こえた。
「そんな……、」
(こんなのあんまりよ……、)
私はこれ以上、どう弁明して良いか分からず、思わずドレスの裾をギュッと握り締めた。
そしてチラリと視界の端に見えたマーガレット様は僅かに笑っているように見えた。
してやられた。
私に悪い噂がある以上、誰にも話は聞いてもらえないし、聞いてもらえたとしても、噂の偏見から信じてもらえないだろう。
そんな噂もマーガレット様によって流されたもので、どうやら全て、彼女の思い通りだったようだ。
(どうすれば良いの………?)
もう何を言ってもこの状況は覆りそうもなかった。
周りの悪意ある言動と、軽蔑の目に晒されて私は今、失意のどん底に居た。
しかしその時、誰かが私の目の前に立った。
「失礼。」
そう一言断りを入れて私の目の前に立ったのは、なんと旦那様だった。
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