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かなり引き締まった、紅色のドレスを着ていて、ウエストなんて細すぎて目を疑うくらいだ。
けれど、美しい。
そのドレスはとてもよく似合っていて、モデルさんのようだ。
一体、何頭身なのだろうか。
それと、どこかで見覚えがある顔だ。
なぜなのだろうか。こんな美女出会ったことはないだろうし……。
でもたしかにどこかで見た気がする。
「な~んだ。もう居たのね。私に無駄な時間とらせないでよ。ずいぶんと探してしまったわ」
言いながら、苛ついたような形相で睨んでくる。
先ほど、気品があるなんて思ったけれど訂正だ。
これは間違いなく、性格が悪い人間だと直感で伝わってきた。
でも、本当に容姿は整っていて、目鼻立ちにスタイルまで完璧だ。
「えっと、貴女は……誰なのでしょうか?」
失礼になると承知で、訊いてみる。
この状況にも、自分の立場についてもよく分からないのだ。当然のことだろう。
「はぁ……? 何言ってるのかちゃんと理解してそんな口の利き方をしているのかしら?! 調子に乗るのも大概にしなさいよね……どれだけ私が優しくしていれば気が済むの……!」
息を荒くして、強めに放たれた言葉に、私は萎縮してしまった。
こんなにも怒られるとは、正直思わなかった。安易に訊いたのは、誤算だったかも知れない。
「気を悪くさせてしまったようで、大変申し訳ございません。ですが、本当に記憶がなくって……」
言い訳ではなく真実だ。
すると、彼女は何か伺うようにして、再び口を開く。
「ふざけるのもそこまでにしておいて欲しいわね。けれど……じゃあそうねぇ、アナタの名前は?」
「私の名前……それも分かりません」
私の返答に、彼女は驚いたように見開いて、
「じゃあ、アナタの父親は?」
「分かりません……」
「そう。じゃあ、教えてあげるわ。アナタの名前は、クソネズミ。そして、アナタの父親の名前は、ヨネス=シルビアよ」
彼女は嘲笑するように、そして愉快そうに高笑いをあげた。
「私はクソネズミ……父親の名前はヨネスさん」
私が確認するようにつぶやくと、どうやら聞こえていたらしく、彼女は再度愉快そうに笑う。
「そうよ!クソネズミ!」
いくら立場が分からない、自分でもそのような酷い名前じゃないことくらいはわかる。
おそらく、彼女は私のことを相当嫌っているようだ。
クソネズミだなんて呼ばれるくらいだし、恋敵か何か、そんな立場なのだろうか。
妹がやっていた、乙女ゲームの世界でもヒロインはクソネズミと呼ばれていた気がするし……きっとそうなのだろう。
そして私はまたもや違和感に気づいてしまっていた。
話しているうちに、段々とこれが夢ではなくて、現実であるということが嫌でも実感できてしまったのだ。
彼女の憎悪のようなものが、胸をチクチクと刺すように、けれど理解もできなくてモヤモヤとさせてくる。
夢ならば、こんな複雑な感情を再現できるはずもない。
はぁ……。いわゆる転生というやつだろうか。
現実と悟ってからは、焦る必要もない。
転生なんてよくある話なのだろう。
でなければ、あんなに転生モノの小説やらゲームやらが流行るわけがない。
って、そんなわけないよね。
でも、実際にそうなってるみたいだし……。
心がソワソワして落ち着かない。
あぁ……こんなときに誰か助けてくれる人がいたら良いのに……
そんなことを考えていた直後だった。
「あの、すみません……お二人の会話聞こえていたのですが、どうも入りづらくて……」
透きとおるような爽やかな声音が耳に響いた。
けれど、美しい。
そのドレスはとてもよく似合っていて、モデルさんのようだ。
一体、何頭身なのだろうか。
それと、どこかで見覚えがある顔だ。
なぜなのだろうか。こんな美女出会ったことはないだろうし……。
でもたしかにどこかで見た気がする。
「な~んだ。もう居たのね。私に無駄な時間とらせないでよ。ずいぶんと探してしまったわ」
言いながら、苛ついたような形相で睨んでくる。
先ほど、気品があるなんて思ったけれど訂正だ。
これは間違いなく、性格が悪い人間だと直感で伝わってきた。
でも、本当に容姿は整っていて、目鼻立ちにスタイルまで完璧だ。
「えっと、貴女は……誰なのでしょうか?」
失礼になると承知で、訊いてみる。
この状況にも、自分の立場についてもよく分からないのだ。当然のことだろう。
「はぁ……? 何言ってるのかちゃんと理解してそんな口の利き方をしているのかしら?! 調子に乗るのも大概にしなさいよね……どれだけ私が優しくしていれば気が済むの……!」
息を荒くして、強めに放たれた言葉に、私は萎縮してしまった。
こんなにも怒られるとは、正直思わなかった。安易に訊いたのは、誤算だったかも知れない。
「気を悪くさせてしまったようで、大変申し訳ございません。ですが、本当に記憶がなくって……」
言い訳ではなく真実だ。
すると、彼女は何か伺うようにして、再び口を開く。
「ふざけるのもそこまでにしておいて欲しいわね。けれど……じゃあそうねぇ、アナタの名前は?」
「私の名前……それも分かりません」
私の返答に、彼女は驚いたように見開いて、
「じゃあ、アナタの父親は?」
「分かりません……」
「そう。じゃあ、教えてあげるわ。アナタの名前は、クソネズミ。そして、アナタの父親の名前は、ヨネス=シルビアよ」
彼女は嘲笑するように、そして愉快そうに高笑いをあげた。
「私はクソネズミ……父親の名前はヨネスさん」
私が確認するようにつぶやくと、どうやら聞こえていたらしく、彼女は再度愉快そうに笑う。
「そうよ!クソネズミ!」
いくら立場が分からない、自分でもそのような酷い名前じゃないことくらいはわかる。
おそらく、彼女は私のことを相当嫌っているようだ。
クソネズミだなんて呼ばれるくらいだし、恋敵か何か、そんな立場なのだろうか。
妹がやっていた、乙女ゲームの世界でもヒロインはクソネズミと呼ばれていた気がするし……きっとそうなのだろう。
そして私はまたもや違和感に気づいてしまっていた。
話しているうちに、段々とこれが夢ではなくて、現実であるということが嫌でも実感できてしまったのだ。
彼女の憎悪のようなものが、胸をチクチクと刺すように、けれど理解もできなくてモヤモヤとさせてくる。
夢ならば、こんな複雑な感情を再現できるはずもない。
はぁ……。いわゆる転生というやつだろうか。
現実と悟ってからは、焦る必要もない。
転生なんてよくある話なのだろう。
でなければ、あんなに転生モノの小説やらゲームやらが流行るわけがない。
って、そんなわけないよね。
でも、実際にそうなってるみたいだし……。
心がソワソワして落ち着かない。
あぁ……こんなときに誰か助けてくれる人がいたら良いのに……
そんなことを考えていた直後だった。
「あの、すみません……お二人の会話聞こえていたのですが、どうも入りづらくて……」
透きとおるような爽やかな声音が耳に響いた。
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