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第二部

@27 悪者

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 今まで避けてきた話題はだんだんと近づいてきて目を逸らすことはもはやできなくなっていた。それはユヅハの親との絶縁だ。決断と行動のときは迫っている。ユヅハはそれを誰よりも自覚しており、焦燥が顔に顕れていた。
「ユヅハ、そう焦らなくたっていいんだ」
 ベッドの上でユヅハは僕の胸に背中を預けて座っていた。僕たちは二人とも裸だった。僕は行為の目的が肉欲の解消だけではなく、孤独の埋め合わせでもあると勘付いていた。
 ここからじゃユヅハの顔は見えず、傷がいくつもある背中が痛々しかった。僕は彼女の肩を優しく撫でた。
「絶縁をして君は親とはずっと会わなければいい。それで君は人生を取り戻せるじゃないか」
 ユヅハは首を振った。髪の毛が左右に揺れ、彼女の香りが振りまかれる。それには煙草の匂いも含まれていた。
「何がいけないんだい?」
「親と会いたいのは単に自分の気持ちに整理をつけたいからだと思っていた」
 壁掛け時計が一秒ごとに音を立てる。今はそれが僕たちを追い立てているように感じた。
「違う、違った。私の中にあったのは怒りだった。復讐心。この手で、私にしたように苦しめ、この世界から消し去ってしまいたい」
 ユヅハは拳を固く握った。義手の方はミシミシと不穏な音を立てた。僕は彼女の両拳を僕の手でそっと摑んだ。
「ユヅハ、それはいけない。君が悪者になってしまう」
「悪者でも良い」
「だめだよ。君には真っ当に生きる権利がある」
「コズ、私はどうすれば良い?」
「他に復讐の方法はあるはずだ。虐待を告発するだとか…」
 社会的地位の高い人間ほどこういった告発は効力を持つ。しかしユヅハはあまり納得できないようだった。
「とにかく殺しはいけない。ウェイにも相談してみよう。何か良い方法が浮かぶかもしれない」
「コズ」
 彼女は姿勢を変えて振り向く。
「何だい」
「私が悪者になっても私を見捨てない?」
 迷いはなかった。
「もちろん。僕たちはずっと一緒だ」
 僕たちは唇を重ねる。とても安らかに感じた。
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