普通に発育している座敷童子に取り憑かれたので、とりあえず同棲生活始めます

フクロウ

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一章 第三節

座敷童子、嫉妬する

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「何がだめなのよ?」

「何がって、えっと。……だめなもんは、だめです」

「はぁ? 意味不明。あんた、ただの居候でしょ。翔くんが私のこと好きになろうと勝手じゃん!」

 どさくさに紛れて何を言い出してんだ。いつ俺がメリーに好意を発したというのか。むしろぞんざいにしか扱っていない。

 座敷童子は、自分でも咄嗟に声を出した理由がわからないらしい。しばらく頭に?マークをつけながら、必死に頭を整理している。

「えっと……翔也さんは私の家主です。あなたみたいな人に純潔を捧げるなんて、許せません」

「何言ってんの? あ、わかった。そんなこと言ってあんた嫉妬してんでしょ?」

「……嫉妬? なぜ、私が?」

「なぜって、あんた翔くんのこと好きなんでしょ?」

 このメリーの発言に対しても、何を言っているのかわからないと座敷童子は首をかしげる。
 そして、再度頭を整理すると同時に、メリーの言っていることの意味を理解したのだろう。一気に座敷童子は赤面し、喚きだした。

「な……な、なな何を言い出すんですか!? 大体、妖怪と人間ですよ! 恋愛感情なんてもってのほかで……」

「何焦ってんの。やっぱり図星じゃん」

「べべ、別に翔也さんのことは好きだとかそんなんじゃなくて! ……ただ、思ったよりも優しいし。私のこと庇ったり、守ってくれたりしたし。一緒にご飯食べてて楽しいし。いい人だなとかは思っては……いますが……」

 ここで俺に視線を向けた座敷童子と目が合う。
 その瞬間、座敷童子の顔は噴火しそうなレベルで熱気を伴い、何故か涙目になっていた。追い詰められた座敷童子は、そのまま奇声をあげた。

「わあああああああ!!!!!」

 叫びながら走りだす。向かった先は、玄関だった。単純にこの空間から逃げようしたのだろう。
 そして、勿論オチは決まっている。座敷童子は、透明の壁に物凄い勢いで衝突した。

「はうんっ……」

 情けない声をあげ、そのままぶっ倒れる。完璧なる自爆だ。
 この一連の流れと行動に、この場の全員がちょっとひいていた。あまりにもアホすぎた。

「……ったく。くだらないお喋りもそこらへんにしろ。メリーもあんまり変な事言うな」

「ちょっとおちょくっただけじゃん。そんなパニックになるとは思わんかったし」

 頬を膨らますメリーをよそに、気絶している座敷童子に近づき抱え上げる。とりあえず、ソファにでも寝かしておくか。

「ちょ、ちょっと待って。翔くん、何してんの」

「なんだよ。このままにしとく訳にはいかねえだろ」

「それお姫様抱っこじゃん! ずるいっ! 私もそれやって!! ご褒美それでいいから!」

 本当に面倒臭いな。他の子のおもちゃをすぐ欲しがる子供のような反応をする。勿論やりたくはないが……

「私もー!! 私もお姫様だっこー!! わだじもおおおぉ!!!」

 うるせえな。これほっとくと更に面倒くせえやつだ。……仕方ない。

「わかったよ、やってやる。ただ、それ終わったら帰れよ?」

「ほんとっ!? 帰る! 速攻帰る!」

 コイツ、メンタル最強だな。暗に、はよ帰れって言われてるのに、そんなのガン無視して自分の要求が通ったことに単純に喜んでいる。プライドというものがないのか。

 俺は抱えていた座敷童子をソファに降ろし、ちゃっちゃかメリーに近づく。……座敷童子は小柄だから楽勝だったが、コイツ身長あるから地味に重そうだな。

「……えへへ。私の初めて(のお姫様だっこ)、翔くんにあげるね?」

「うるせえ、黙れ」

 そのままメリーを抱きかかえる。俺は一体何をやっているのか。都市伝説のメリーさんをお姫様抱っこしている自分自身が、もうよくわからない。

 それでもメリーはニコニコと満面の笑みを浮かべ、とてもご満足されているご様子である。

「……えへへ。じゃあ、このまま誓いのキスを」

 などとほざきながら、目を瞑り唇を尖らしている。なんで要求が増えてんだよ。

「おい、あんまり調子にのるーー」

"ドゴっ!!!"

「ほがっ!?」

 衝撃音と共に、メリーの腹部に光の衝撃波が落ちた。遂にあの方が動いたか。

(黙って見ていれば……妖怪風情が翔也様にどれだけ無礼を働くつもりだ)

 見兼ねたかぐやさんが、メリーの暴走を止めた。だいぶ殺気を放っているが、メリーはそれどころではなく腹部をおさえ呻き苦しんでいる。たぶん、みぞおち辺りにガッツリ入ったな。……とりあえず、重たいし床に降ろそう。

「ほら、終わったぞ。さっさと、帰れ」

(帰れ)

「……しょ、翔くんにお姫様抱っこしてもらっちゃった……えへへ……」

 本当にメンタル強いな。鋼で出来てんのか。
 プルプル震えながらメリーはなんとか立ち上がり、そのままゆっくりと玄関に向かって行く。

「じゃ、じゃあねー。また遊びに来るねー」

「いや、来なくていい」

「えへへ、翔くんは本当にツンデレさんだねー」

 最後まで嬉しそうな笑みを浮かべ、玄関ドアに手をかける。
 なぜそこまで俺に好意を持つのか。……正直、やめて欲しい。

 色んな感情が渦巻き、メリーが外に出る前に声をかける。

「なあ、メリー」

「んー? どしたのー?」

「お前、あれから人間襲ってないだろうな?」

 性善説、性悪説というものがある。
 人間の生まれながらの性質について、善であるか悪であるかというところから説いたものだ。

 そして、妖怪にはそれが顕著に現れる。

 座敷童子は根本的に家主に幸福を届けるという性質を持ち存在している。要するに、性善説に当てはまる。
 
 では、メリーの場合はどうか。
 説明した通り、メリーさんというのは都市伝説の怪談であり、メリーは人の恐怖心から生まれた妖怪だ。根本的に人を恐怖させ襲うという性質を持ち合わせているのだ。
 
 要するに、どんなに理性で抑えていようがメリーは性悪だ。それは、忘れてはならない。

「……するわけないじゃーん。あの時翔くんと誓ったんだから。好きな人のことは、私裏切らないよー」

 そう言って笑ったメリーの顔は、どこか憂いていた。
 
 俺は、「問答無用」はしない。
 でも、理由があれば祓わなければならない。

 メリーを必要以上にぞんざいに扱うのは、情を持ちたくないというのが本音だ。

「そっか……またな」

 俺の言葉に満面の笑みを浮かべる。 
 本当に、迷惑な話だ。
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