17 / 18
一章 第三節
座敷童子、蚊帳の外になる
しおりを挟むなんとも曖昧な情報に、反応に困ってしまった。メリー自体もしっくりくる言葉が見つからないようで、言語化に戸惑っている。
「なんだよ、それ。帰りたくないから、適当言ってんのか?」
「違うよっ! なんか変なの見かけたのは本当だもん!」
なんとなく、その妖怪が嘘を言っているかどうかいうのはわかる。それは陰陽師として兼ね備えていなければならない能力だ。
妖怪というのは人を惑わすのが上手い。だからこそ、言葉の真偽を俺達は直感と経験で判断する。
そして、おそらくメリーは嘘をついていない。ただ、語彙力がなさすぎて状況が把握できない。
「とりあえず、順序建てて話せ。人なのに人じゃないってことは、ソイツの見た目は人間の訳だな? 学生か?」
「あー、うん。周りに友達っぽいのいたから生徒だと思う」
「友達……紛れこんでるのか。ただ、学生として過ごしているのなら、俺が気づくはずなんだが。かぐやは?」
(私も翔也様の学び舎で、何か異物を感じたことはありません)
おかしな話しだ。人の世に紛れる異物であれば、俺とかぐやがいち早く気づくはず。
ただし、見つけ出すという意味合いであれば俺達はスペシャリストなのだが、感知をするとなると妖怪の方が優秀なことがある。
特に、メリーの妖怪としての能力は感知と空間移動という部分に特化している。俺達が見抜けないものに反応している可能性はある。
「そんな曖昧な言い方というのは、妖気は感じなかったってことだよな。霊魂の類いか?」
「いや、霊魂ならあんな風にガッツリ実体化しないっしょー」
「……ふむ。だとしたら、危ういな」
ある程度話を聞くだけで、どのような怪異かというのはわかる。だが、今回の場合は今いち全容が掴めない。怪異においてわからないというのは、一番危険なのだ。
(……特級妖怪ですか?)
「あり得る話しだ。アイツらに関しては、自身の妖気を完璧に隠すことができる。メリーの表現に一番近いかもしれない」
どうしたものか。特級ともなると、俺一人で対処できる話しではなくなってくる。それに、今のところ大学で異変はない。悪意がないのであれば緊急性は薄い。
むしろ、下手に陰陽師の俺が刺激してしまった方が危険性は高まる。
「えっ!? 特級妖怪って、妖気を感じさせないんですか!? じゃあ、今の私と同じ……要するに、私は特級妖怪ーー」
「わら子。今大事な話しをしてるから、ちょっと黙ってろ」
「はい」
なんか、話しに入れなくて寂しそうに洗濯物をたたんでいるのは横目に見えていた。
ここぞとばかりに話題に入ってきて一蹴された座敷童子は、また寂しそうに洗濯物をたたみだす。
「……様子みるか」
(そうですね。それか、渚様に応援を頼むかです)
「絶対、やだ」
とりあえず、現状維持をしながら警戒だけは怠らないようにする。ソイツが動き出したとするなら、不可解な現象が起きたり、行方不明者が出たりするはずだ。その時までに、何かしらの策は準備しておこう。
「えー、つまんないっ! 翔くん、強いんでしょ? ズバッと悪いヤツ、倒しちゃってよ!」
「別に悪者だと決まった訳じゃないだろ。まあ、それなりに役立つ情報だった。警戒は出来るからな。よくやった」
「……!? 私、褒められた……?」
信じられないとばかりに、メリーは呆然としている。そして、今起きたことがしっかりと頭に繋がると同時にニヤニヤと嫌な笑顔を浮かべ始めた。
「ね、ねえー? 私、偉いことしたんだからご褒美貰っていいよね!」
「ご褒美ってなんだよ」
「ちゅ、ちゅちゅ……チューとか!?」
「帰れ」
「……ほっぺ! ほっぺでいいから!!!!」
必死すぎる。なんだコイツは。
童貞の先っちょだけでいいから!と同じ匂いがする。大体、かくやがいるのにそんな要求が通る訳ーー
「だ、だめですっ!!」
意外にも声があがったのは、隅でせっせと家事に勤しんでいた座敷童子からだった。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
皇帝の番~2度目の人生謳歌します!~
saku
恋愛
竜人族が治める国で、生まれたルミエールは前世の記憶を持っていた。
前世では、一国の姫として生まれた。両親に愛されずに育った。
国が戦で負けた後、敵だった竜人に自分の番だと言われ。遠く離れたこの国へと連れてこられ、婚約したのだ……。
自分に優しく接してくれる婚約者を、直ぐに大好きになった。その婚約者は、竜人族が治めている帝国の皇帝だった。
幸せな日々が続くと思っていたある日、婚約者である皇帝と一人の令嬢との密会を噂で知ってしまい、裏切られた悲しさでどんどんと痩せ細り死んでしまった……。
自分が死んでしまった後、婚約者である皇帝は何十年もの間深い眠りについていると知った。
前世の記憶を持っているルミエールが、皇帝が眠っている王都に足を踏み入れた時、止まっていた歯車が動き出す……。
※小説家になろう様でも公開しています

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです
きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」
5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。
その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

とある元令嬢の選択
こうじ
ファンタジー
アメリアは1年前まで公爵令嬢であり王太子の婚約者だった。しかし、ある日を境に一変した。今の彼女は小さな村で暮らすただの平民だ。そして、それは彼女が自ら下した選択であり結果だった。彼女は言う『今が1番幸せ』だ、と。何故貴族としての幸せよりも平民としての暮らしを決断したのか。そこには彼女しかわからない悩みがあった……。
辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します
潮ノ海月
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる!
トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。
領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。
アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。
だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう
完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。
果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!?
これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる