10 / 18
一章 第二節
座敷童子、動く
しおりを挟むかぐやが言っていたリスクの話しをしよう。
陰陽師として力を持つ者は、怪異を祓わなければならない。それは、土御門であろうとなかろうと、この界隈での鉄則だ。
そのルールを破るなど、土御門に産まれ、土御門に育てられ、土御門で式神と契約を交わした俺がやってはならない。
それは、家を出ていようとなかろうと関係がない。土御門の名家としてのブランドを汚すことになるのだ。
そんな俺が、妖怪を見逃すどころか共に暮らすような真似をしている。そんなことがバレたらどうなるか。それは、反逆を意味する。
ただの家出息子と反逆者では、意味合いが違う。土御門にとって、俺は大罪人となったのだ。
そして、大罪人が待ち受ける未来は一つ。
「処刑」である。
「真鎌娑婆訶しんれんそわか」
渚は呪符を取り出し、先程放った鎖鎌を再度具現化する。渚の常用武器だ。
「こんな狭い部屋で、そんなの振り回すなよ。住めなくなるだろうが」
「面白いこと言うねー、翔ちゃん。死体に住居なんか必要ないじゃん」
相変わらずヘラヘラしながら鎖を持ち、鎌をブンブンと回し始めている。いつ放たれても対応できるように、俺も太刀を構える。
ただ、警戒しなければいけないのはこれ見よがしに見せつけてくる凶器だけではない。渚は難解な術式も呼吸をするように扱ってくる。使役している式神だって、いつ出してくるか。
今は、かぐやにも頼れない。はっきり言って絶望的だ。ただ、ごちゃごちゃ考えている場合ではない。今はただーー
「ちょ、ちょちょっふ、……ちょっと、待ってくだひゃい!!」
意外なところから声があがり、睨み合っていた俺達の視線はその声の主に集まる。
やっとこさ声を出したようでなんとも間抜けな噛みかたをしていたが、座敷童子の表情は至って真面目だ。そして、息を整えた後、叫ぶように言い放った。
「わ、私っ! 死にますっ!」
あまりにも突拍子のない発言に時が止まる。
渚も、急に何を言い出したのかと目を丸くしている。
そして、この中で一番冷静だったのはかぐやだ。いち早く座敷童子の言葉の意図を理解し、咎めた。
(祓われるのは勝手だが、私への命令が解かれた後にしろ。今は、お前を守らなければいけない)
「だっ、だって! 私のせいで……翔也さんと、かぐやさんが……」
単純なことだった。今この場の争いの種は、座敷童子だ。その存在がいなくなれば、とりあえず場は収まると考えたのだろう。
ただ、それは俺にとっては最悪の結末だ。
「余計な気を使うな。これは俺の問題だ。お前は自分のことだけ考えてうずくまってろ」
これは座敷童子がいなくなれば良いといった問題ではない。俺の行動、俺の選択の問題だ。
ただ、座敷童子は納得をしていない。やや、怒りも混ざったような声色で返してきた。
「自分のことだけって……ば、バカにしないで下さい! 私は座敷童子です。人に幸福を届ける妖怪が、自分のせいで不幸を呼び寄せちゃってるんですよ。そんなの耐えられる訳ないじゃないですか!」
俺達のやりとりを聞きながら様子を見ていた渚は、興味深そうに微笑む。振り回していた鎌を止め、俺への戦闘態勢を解いた。
完璧に舐められている。俺が不意打ちをかけてもどうにでも対処できるというメッセージでもある。
それどころか、俺への視線を外し身体を座敷童子の方へ向けた。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
皇帝の番~2度目の人生謳歌します!~
saku
恋愛
竜人族が治める国で、生まれたルミエールは前世の記憶を持っていた。
前世では、一国の姫として生まれた。両親に愛されずに育った。
国が戦で負けた後、敵だった竜人に自分の番だと言われ。遠く離れたこの国へと連れてこられ、婚約したのだ……。
自分に優しく接してくれる婚約者を、直ぐに大好きになった。その婚約者は、竜人族が治めている帝国の皇帝だった。
幸せな日々が続くと思っていたある日、婚約者である皇帝と一人の令嬢との密会を噂で知ってしまい、裏切られた悲しさでどんどんと痩せ細り死んでしまった……。
自分が死んでしまった後、婚約者である皇帝は何十年もの間深い眠りについていると知った。
前世の記憶を持っているルミエールが、皇帝が眠っている王都に足を踏み入れた時、止まっていた歯車が動き出す……。
※小説家になろう様でも公開しています
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
おにぎり屋さんの裏稼業 〜お祓い請け賜わります〜
瀬崎由美
キャラ文芸
高校2年生の八神美琴は、幼い頃に両親を亡くしてからは祖母の真知子と、親戚のツバキと一緒に暮らしている。
大学通りにある屋敷の片隅で営んでいるオニギリ屋さん『おにひめ』は、気まぐれの営業ながらも学生達に人気のお店だ。でも、真知子の本業は人ならざるものを対処するお祓い屋。霊やあやかしにまつわる相談に訪れて来る人が後を絶たない。
そんなある日、祓いの仕事から戻って来た真知子が家の中で倒れてしまう。加齢による力の限界を感じた祖母から、美琴は祓いの力の継承を受ける。と、美琴はこれまで視えなかったモノが視えるようになり……。
第8回キャラ文芸大賞にて奨励賞をいただきました。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです
きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」
5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。
その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します
潮ノ海月
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる!
トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。
領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。
アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。
だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう
完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。
果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!?
これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる