普通に発育している座敷童子に取り憑かれたので、とりあえず同棲生活始めます

フクロウ

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一章 第一節

座敷童子、本質を見失う

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「あのな。別に俺は、お前を祓う気なんて更々ねえよ」

「だ、だって! 土御門家の陰陽師は、無慈悲に妖を狩り続ける最強集団……見つかって無事に帰れる妖怪はいないというのは常識で……!」

「アイツらは確かにそうだが、俺はとっくに土御門家とは縁をきってる。お役目も何もない、ただの貧乏大学生だ」

 平安時代のかの有名な陰陽師、安倍晴明。その直径となるのが土御門家だ。平安時代から千年以上の歴史を紡ぎながら、陰陽道は受けつがれている。

 現代でも陰陽師として力を持つ者は、明るみになってはいないものの沢山いる。その数いる陰陽師の中でも、最強エリート集団が土御門家だ。
 あらゆる術のエキスパートであり、片っ端から妖怪・霊魂・この世の異物を祓い続ける。慈悲などは一切ない。「問答無用」が掟である土御門家は、怪異にとって畏怖の象徴になっている。

(翔也様がその気になれば、お前など肉片一つ残らず消し去ることができるんだからな)

「ひっ、ひいいい!! ご勘弁をおおおぉ!!」

「おい、かぐや。やめろって……」

 土御門の血を受け継ぎ、教育を施された俺も陰陽師であり、式神を従えている。そして、使役する式神の中の第一神が、この「伽宮夜《かぐや》」だ。

 全長はぬいぐるみほど。和装に身を包み、黒く長い艶髪を一つに束ねている。
 ポニーテール美少女巫女を妖精サイズまでちっちゃくしてみました!という説明が一番しっくりくるようなビジュアルだ。

 そのミニマムなペット的な可愛いさに、こねくり回したい衝動に駆られたことは沢山ある。だが、堅すぎる性格と俺への忠誠心の高さ故、やったら変な空気になりそうなので、ちょっと怖くて出来ない。

「俺は、悪意のない妖怪に問答無用なんてことはしない。ただ、人の世に紛れるなら、社会のルールをしっかり守れ。お前らはいささか自由すぎるんだよ」

「うっうう……ちゃんと守れば、消さないでくれますか……?」

「だから、最初からそう言ってるだろ。かぐやも、あんまり脅すな」

(……承知しました)

 とりあえず身の安全を担保された座敷童子は、パニック状態からは抜けたようだ。身体の震えはおさまり、なんとか顔をあげて俺の顔を見ている。

「あ、あの。土御門様は凄い術師さんなんですよね?」

「苗字で呼ばれるの嫌いなんだよ。翔也でいい。様もいらん」

「えっと、じゃあ翔也は凄い術師ーー」

(様をつけろっ、低級妖怪がっ! 消し去るぞっ!)

「ひっ、ひいいいい!」

 さすがに理不尽すぎるぞ、かぐや。
 ほらっ、また土下座のモーションに入ろうとしてるじゃねえか。振り出しに戻ってんだよ。

「かぐやはちょっと、大人しくしてろ。話しが進まん」

(……承知しました)

「そんで、なんだって?」

「あ、えっと……翔也さんの力で、私との縁みたいなの消せませんか? い、嫌とかじゃないんですけど……ほらっ。私なんかが、翔也さんに取り憑くなんて、おこがましいというか……」

 嫌なんだろうな。普通に逃げようとしてたし。
 というより、自分達の天敵である陰陽師と一緒にいること自体、気が気でないのだろう。勿論、俺もそんな酷なことはさせたくはないが……

「まあ、無理だな」

「そこを、なんとかっ!」

「嫌だって言ってる訳じゃねえよ。おそらく、ここに取り憑いたことによって生まれた俺とお前の縁っていうのは、誓約みたいなもんだ。それを、俺の力で無理矢理に引き剥がしたら……」

「……したら?」

「たぶん、お前死ぬぞ」

 座敷童子は硬直している。口だけを、パクパクしながら何かを話そうとしているが声が出ていない。そして、その大きな瞳からまた涙をこぼし始めた。コイツは今日、何回泣くつもりなんだ。

「うっうう……あんまりです。ワンチャン、なんとかなるとか思った私が馬鹿でした……終わりです。さようなら、みんな……」

「勝手に終わらすな。別に、お前が自由になるもっと単純な方法……というか、本来すべきことがあるだろ」

「……なんですか?」

「俺に幸福を届けるんだよ」
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