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一章 第一節
座敷童子、土下座する
しおりを挟む「……う、うーん。……わ、私が妖怪アイドルユニットに……センターでふかぁ? ……でへへ、参ったなあ……」
「絶妙にイラっとする夢見てるな。コイツ」
(やっぱり、祓いましょう)
今だに目を覚まさず、寝言を言いながら快眠している座敷童子に、かぐやは殺気を放っている。
そんなかぐやをなだめながら、俺はあぐらをかき、熱いコーヒーをすすっていた。襲ってくる眠気に身を委ねてしまいたいが、その欲望に負け、朝を迎えた時の結果は目に見えている。
(翔也様、お疲れでしょう? どうぞ、お休みください。こちらの低級妖怪の対応は私が致しますので)
「んなこと言って、俺が寝た瞬間に祓うつもりだろ。理性持った妖怪はとりあえず様子をみてえんだよ」
(……例え悪意がないとしても、所詮は妖怪。元より、人の世界に交わってはならない存在です)
かぐやの言葉に特に返答することなく、眉だけをしかめコーヒーをすする。都合が悪くなった場合は、だんまりを決め込めばいい。返す言葉がなければ、返さなければいい話だ。
そんな無言の時間にかぐやが折れ、俺に対して頭を下げた。
(……式神の分際で、出過ぎたことを申しました。愚見をお許し下さい)
「いや、俺の価値観のほうが異端なのはわかっているよ。かぐやが謝る必要はない」
やや気まずい空気が流れる中、その根源となっていた存在が目を覚ましたようだ。
目をこすりながら上体を起こしている座敷童子に、かぐやはフワフワと飛びながら近づいていく。
「……うーん。あ、あれ? ここ……どこ?」
(やっと起きたか、低級妖怪。翔也様のご慈悲だ。命はとらないでやる。さっさと、出ていけ)
「……んへ?」
寝起きで全く頭が働いていないのは明らか。加えてアホ面のまま、座敷童子は浮遊している小さな生き物を眺めている。
イラつきを覚え始めている様子のかぐやに反して、座敷童子は段々と嬉しそうに笑みを浮かべ騒ぎ始めた。
「な、なんですか! この小さくて可愛い生き物!? もしかして、妖精さんですか?? ほらほら、こっちおいでー! 怖くないよー??
」
(翔也様、今すぐ祓いの指示を。五秒あれば、惨たらしく仕留めてみせます)
とんでもない殺気が放たれている。ここを放置したら、トラウマ級の殺妖現場を目撃することになるかもしれない。
「とりあえず言っておくが、かぐやは式神だ。あんまり煽るな」
「えっ……しきがみ? ……式神っ!? えっ?」
お気楽な笑い顔が、そのワードを聞くと共に段々と青ざめていく。状況を理解しようと頭を必死に働かせているようだ。
だが、そんな時間は無駄だと言わんばかりに、座敷童子にとって絶望的な現況をかぐやは言い渡した。
(私は、陰陽師である翔也様の式神だ)
「おん……みょうじ……翔也様といいますと……」
(さっきから、お前が多大なる無礼を働いているお方が、土御門翔也つちみかどしょうや様だ。愚か者め」
「つち……みかど。……土御門っ!?」
座敷童子は秒速とも呼べるほどの俊敏さで正座をし、床に両手をつき、頭を地にこすりつけるほど深く下げた。完璧なるフォルムの土下座だ。コイツ、やり慣れてる。
「私みたいな低級妖怪が土御門様と同じ空気を吸っていることすらおこがましいのに、多大なる無礼を本当に申し訳ありません。もう、私なんて豚です。いや、虫です。虫以下です。それでも日々頑張って生きていて、私が消えたら悲しむ同族達もいるもので……」
「お、おい。やめろって……」
「どうか……どうかっ、お命だけはっ!!」
座敷童子は顔をあげ、必死な形相で俺に懇願をしている。俺に対しての恐怖心を隠すことはできずに、身体は震え、瞳には涙が滲んでいた。
そんな座敷童子の様子を見て、なんとも不本意な状況だとため息をつく。
「おい、かぐや。妖怪の前で俺の苗字を言うなって」
(……失礼しました。しかしながら、少しお灸を据えた方がよいかと思いまして)
「わ、わたし悪い妖怪じゃないんですぅ!! どうか、どうか、ご勘弁をおおおお!!」
時代劇のノリで命乞いをしてくるな。俺は悪代官じゃねえ。
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