1 / 18
一章 第一節
座敷童子、取り憑く
しおりを挟む「なんで、俺の家に勝手にいる?」
「……えっと。私、座敷童子なので……」
「それはさっきも聞いた。座敷童子だからって不法侵入していいの?」
「あ、あの。私、妖怪なので……不法侵入とかそういうところ責められるのはちょっと違うというか……」
「普通はインターホン鳴らして、"座敷童子ですが、失礼してもよろしいでしょうか?"って家にあがるだろ。社会の常識なんだけど」
「ご、ごめんなさ……ひ、ひっく……うっうううう……」
泣かせてしまった。
まあ、彼女の主張もわかる。妖怪に法律遵守なんて求めるものではない。
だが、こいつらは人を脅かし、困らせ、時には危害を加えたりする。それを"妖怪だから"という理由で見過ごしているからつけあがるんだ。
座敷童子に関しては幸福を呼ぶ妖怪などともてはやされているが、とんでもない。
朝イチからの大学を終え、深夜までのバイトをこなし、やっと疲れ切った身体を癒やせると我が巣窟(アパート)へ帰ってきた俺の気持ちをコイツは踏みにじった。
さぞ当たり前のようにソファに居座り、"私、座敷童子ですけど?" "あなたに幸福届けにきましたけど?"的なドヤ顔で話を進めようとしてきたところで、俺はキレた。
そして俺はそんな座敷童子をソファから引きずり下ろし、正座をさせ、説教をかましている。疲労困憊の家主を労わらず、礼儀もクソもないヤツが幸福を呼び寄せられるものか。
「そもそも、童子のはずなのに見た目の年齢俺と変わらんし」
「そんなこと言われても……」
「せめて三歳児くらいのおかっぱ幼女がひょこっといたら俺も強く言わなかったかもだけど。君、完璧に発育しちゃってるじゃん。しかも、ここ洋室だし。座敷でも童子でもないよね」
「そ、そんなこと言われても……」
この人何歳に見える?と問われれば、十八くらいという答えが妥当であろう外見をしている。身長や胸も成人女性の平均ほどはあり、くりっとした大きな目やスッと通った鼻筋を見る限り、とても幼子には見えない。
何より、座敷童子といえばおかっぱ頭のイメージなのだが、この娘はショートボブっぽく流行りにのって仕上げてきている。前髪パッツンにしてやりたい。
ただ、申し訳程度に着物は着ている。オシャレを意識しながら座敷童子っぽさを出そうとあがいてる感じが、さらにイラッとする。
「まったく。この前もメリーに迷惑かけられたばっかなのに……」
「えっ、メリーって……まさか、メリーさんですか?」
「なんだよ。あんなやつに、"さん"つける必要ないよ」
「いや、そういう話ではなくて……よく、無事でしたね。普通は狙われたら助からない、上級の怪異ですよ?」
「まあ、俺鍛えてるから」
「だから、そういう話ではなくて……」
珍妙な生き物を見るかのように、座敷童子は俺のことを上から下までジロジロ見ている。
「アイツに関しては、マジでタチ悪かったなあ。こっちはレポートの締め切りで必死なのに、イタズラ電話かけまくってきてさあ」
「イタズラというか……まあ、あの。あなたに近づいてますよって報告かと……」
「いらん、いらん。そんな、報告。用事あるなら、普通にインターホン鳴らせ」
「えっと、そうですね……」
座敷童子は何かを諦めたような顔で、目を逸らしている。俺がおかしなことを言っているかのような空気感を出さないでほしい。
「結局メリーさんは来なかったんですか?」
「来たよ。途中から電話ガン無視してたら、いつの間にか包丁持って背後に立ってやがった」
「……それで、どうしたんですか?」
「迷惑電話、不法侵入、銃刀法違反。いくつ罪を犯したと思ってんだ。反省するまで説教かましてやったよ」
「さ、さすがですねえ」
(なんか、ヤバい人の家来ちゃった……)
それにしても、この座敷童子もそうだがメリーも妖怪には見えなかった。普通に金髪ギャルだったし。ネイルとかしてたし。
最近の妖怪は変に洒落気づいてやがる。日本の妖怪としてもっと雰囲気出してやろうという気概が全く感じられない。
「ところで、さっきの話に戻るけどさーー」
「あっ! わ、私、急用を思い出しました! そろそろ行きますね! この度は本当に申し訳ありませんでした! ではっ!」
軽く会釈をし、慌てるように座敷童子は立ち上がった。こちらの反応など待たずに、真っ直ぐにスタスタと玄関まで歩いて行く。
そもそも、用事あるやつが幸福なんか届けにくるか。バレバレの嘘ついて、何を普通に帰ろうとしてるんだ。
"ドンッ!"
「ーーっ! 痛っ!」
衝突音が聞こえたと共に、座敷童子は頭をおさえてうずくまった。玄関のドアは開いていて、彼女が何にぶつかったのかわからない。
そして、何が起きたのかわからないのは俺だけではないようだ。
「えっ……なに!? なんで……なんでっ? なんで!?」
座敷童子はこの家から出るために何度も歩みを進めている。しかし、玄関に見えない壁でも貼られているようで通ることが出来ない。
透明の障害物に対し、押す、殴る、蹴りを入れる、タックルをする。彼女はあらゆる手段を用いて突破を試みた。だが、何をしても通ることが出来ない玄関を前に、遂に悟った。
「で、出れない……」
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
皇帝の番~2度目の人生謳歌します!~
saku
恋愛
竜人族が治める国で、生まれたルミエールは前世の記憶を持っていた。
前世では、一国の姫として生まれた。両親に愛されずに育った。
国が戦で負けた後、敵だった竜人に自分の番だと言われ。遠く離れたこの国へと連れてこられ、婚約したのだ……。
自分に優しく接してくれる婚約者を、直ぐに大好きになった。その婚約者は、竜人族が治めている帝国の皇帝だった。
幸せな日々が続くと思っていたある日、婚約者である皇帝と一人の令嬢との密会を噂で知ってしまい、裏切られた悲しさでどんどんと痩せ細り死んでしまった……。
自分が死んでしまった後、婚約者である皇帝は何十年もの間深い眠りについていると知った。
前世の記憶を持っているルミエールが、皇帝が眠っている王都に足を踏み入れた時、止まっていた歯車が動き出す……。
※小説家になろう様でも公開しています

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです
きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」
5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。
その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

とある元令嬢の選択
こうじ
ファンタジー
アメリアは1年前まで公爵令嬢であり王太子の婚約者だった。しかし、ある日を境に一変した。今の彼女は小さな村で暮らすただの平民だ。そして、それは彼女が自ら下した選択であり結果だった。彼女は言う『今が1番幸せ』だ、と。何故貴族としての幸せよりも平民としての暮らしを決断したのか。そこには彼女しかわからない悩みがあった……。
辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します
潮ノ海月
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる!
トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。
領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。
アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。
だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう
完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。
果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!?
これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる