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決戦前夜

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「そうか・・・」

「申し訳ありません。意志は固いようです」


ゼリックとの話し合いを終えた後、その内容を報告するために獣王レオニスの元へと足を運んだザックスは深々と頭を下げていた。


「頭を上げよ、ザックス。そなたの責任ではない。問題を解決しきれなかった私にこそ、その責任はある」

「いえ、決してそのようなことは!問題解決のためにヒト族とも話し合い、他の種族にも協力を働きかけ、獣王様ほど真摯に向き合い出来うる限りの尽力をされた方はいらっしゃいません」

「ありがとう。しかし、それでも同族の者たちを見殺しにしてきたという事実は変わらない。結果が全てを物語っているのだ」


二人の間に沈黙が広がる。
あれやこれやといくら理由を並べようとも、そこには何ひとつとして意味はない。
レオニスが語った通り言い訳も反省の弁も真実の前では何の意味もなさないのである。
そんなことなど百も承知であるからこそ、二人とも言葉を発することが出来ずに沈黙してしまったのだ。
そして、二人はこの沈黙の先に避けることの出来ない戦いが起こることを受け入れざるを得ないのであった。



◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇


ザックスとゼリックによる会談の場がもたれてから数日後。


タッタッタッタッタッ ──────── 。

ガチャッ。


「兄様!!」


ゼリックが自室で読書に耽けっていると、慌てた様子のユニが部屋に飛び込んできた。
激しく息を切らしながら大きく肩を上下に揺らしている。
その突然のことに驚いた表情を浮かべたゼリックが理由を問う。


「そんなに慌ててどうしたんだい?ユニ。部屋に入る時はノックくらいはしてほしいな」

「ハァ…ハァ…ハァ…申し訳ありません。ですが、兄様!お父様たちと戦うという話は本当なのですか?」

「城の者に聞いたのかい?」

「はい…城のあちこちで噂になっております。嘘…ですよね?兄様がお父様やザックス様と戦うわけがありませんよね?」


ユニの悲痛な叫びにも聞こえる問いかけに対して返す言葉に困り口籠ってしまうゼリック。
しかし、いつまでも口を閉ざしているわけにもいかず、腹を括り意を決して事の真相を話し始めた。


「フゥー・・・。正直に話すと、今はそれが嘘とも真実とも言えないかな。俺たちがやろうとしていることを変えるつもりはない。ヒト族に苦しめられている同胞たちを救うためなら俺たちは何でもやるつもりだ。獣王様たちがその考えに賛同してくれるというのなら争うつもりはないけど、もし賛同することが出来ず、俺たちの道を塞ぐようなことになるのであれば黙っているわけにはいかない」

「話し合いで解決する道はないのですか?」

「こちら側の考えは先日父上に伝えてある。あとはレオニス様の返答次第だ。それによって、目指すものは変わらないがそこに至るまでの道筋は変わる」

「・・・・・」


ゼリックの意志と覚悟の重さをその肌にヒシヒシと感じ、返す言葉を見失ってしまうユニ。
そして、それ以降会話をすることなくユニは部屋を後にしたのだった。

スーーーッ ──────── 。

ユニが部屋を出たのとほぼ同時に部屋の影から一人の男が姿を現す。


「はぁ~…面倒臭いお姫様だな…。殺しとく?」

「止めろ。あの子は関係ない。それに俺の婚約者でもある」

「はぁ~…ホント面倒臭いなぁ~…。もう既に来るところまで来てるんだからね。情に流されたりなんかしないでよ…」


スーーーッ ──────── 。

ダラけた態度の男は、ゼリックに対して牽制とも取れる言葉を残し再び影の中へと消えていった。


「フゥー・・・。ここまで来て今更後戻りなんて出来るわけがないだろ。これは世界の在り方を変えるための戦いなんだから ────── 」



◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇


数日後、ゼリックたちの元へ獣王レオニスからの使者が訪れていた。


「それで…獣王様の返答は?」

「はい。それでは、獣王様からのお言葉をお伝えします」


────────── 。


「そうか。獣王様のご意向は理解した。我々の考えも変わりはないとお伝えしてくれ」

「畏まりました・・・。それでは失礼します」

「ああ、ご足労頂き感謝する」


獣王からの言伝を伝え、ゼリックからの返答を受け取った使者は口から出かけた言葉をグッと堪えて飲み込んだ後、無念の表情と共に部屋を出たのだった。
そして、使者がいなくなった部屋の中ではゼリックたちによる最終確認がなされていた。


「それで、いつ始めるんだピョン?」

「ガルルルル…さっさと始めようぜ。俺は早くりたくてりたくて仕方ねーよ」

「焦るな。時間をかけるつもりはない。明日だ!明日でこの国を手に入れる」


ゼリックの言葉に少し驚いた表情を浮かべる仲間たち。
そもそも獣王レオニスが築き上げたこれまでの功績を考えると、自分たちの考えに賛同するとは考え難かった。
そして、それは獣王国との争いになることを意味していたし、全員がそれを覚悟した上であった。
だからこそ、レオニスからの返答は予想通りのものであったのだが、まさかゼリックがここまで事を急ぐとは誰一人として思っていなかったのだ。


「ウッキッキッ。明日?これまた急な話ッキね」

「時間をかけるだけ問題が長引くだけだ。俺たちの目的は獣王国の乗っ取りではない。その先にある獣人族の未来を勝ち取るためだ」


生まれ育った祖国に対して戦いを挑む。
それは生半可な覚悟では出来はしない。
そんな彼による鬼神の如く放たれた気迫を前に仲間とはいえ背筋が凍るような感覚を覚える。
そして、そんな殺伐とした重い空気が漂う中、あの男が口を開く。


「はぁ~…そんなに急ぐんなら今日やっちゃえばいいんじゃないの?」

「アハハハハ。どうしたんだい?マウルス。面倒臭がり屋の君が珍しいね」

「別に…どうせやるならさっさと終わらせたいだけだよ」

「まぁ~俺たちにも相手側にも準備が必要ってことさ。それは獣王も分かっている。だからこそ、俺たちに対して奇襲ではなく使者を送ってきたんだよ」

「準備ね~・・・」

「そう言うなよマウルス。なんなら、これから君一人で獣王国の屈強な戦士たちを相手にしてきても構わないよ」

「はぁ~…まぁ~やれと言われたら出来なくはないけど…。面倒だからパス。大人しく寝てるよ…おやすみ…」


そう言うと、マウルスは瞳を閉じて本当に眠ってしまった。
なんともその場の空気にそぐわない一連の行動に仲間たちの引き攣った表情も和らぐ。


「さぁ~みんな正念場だ!確かに獣王国の戦士たちは強い。だけど、千を超える戦士たち全員を相手にする必要はない。主要な者たちを各個撃破し、一気に攻め落とすぞ!今日は各自明日に備えてゆっくり休んでくれ」

「「「「「 了解!! 」」」」」


こうして獣王レオニス率いる獣王国ビステリアとゼリックたちによる戦いが始まろうとしていた。

いよいよ、反逆の時が迫る ──────── 。




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