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懐かしき日

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ワイワイ ─── ガヤガヤ ─── 。

ワイワイ ─── ガヤガヤ ─── 。


「いや~めでたい!今日はなんてめでたい日だ!!めでたいな~ザックス」

「獣王様、あまりご無理はなされないでください」

「ハハハハハッ。何を申すか。我ら獣王国ビステリアの宝が戻ったのだ!これを喜ばずに何とする」


十年ぶりに祖国である獣王国ビステリアへと帰還したゼリック。
その事を祝うべく獣王国中で宴が繰り広げられていた。
中でも王城で行われた宴はどこよりも大きな賑わいをみせ、煌びやかさなど存在しないどんちゃん騒ぎの大宴会となっていた。


「はぁ~、もうお父様ったら・・・。申し訳ありません、兄様」

「いや、ただ帰ってきただけなのにあんなに喜んでもらえて俺も嬉しいよ」


⦅俺?・・・⦆

十年前と比べて身体つきも大きく変わり、筋量も増えがっしりとした体躯へと変貌した最愛の人。
しかし、その見た目以上に微かながら時折見え隠れする内面の変化に戸惑いを覚えるユニなのであった。


「それよりも兄様、旅のお話を聞かせてください」

「ああ、もちろん。それじゃ~何から話そうかな」

「ゼリック様、少々宜しいでしょうか?」

「うん?スネルか…。宴の最中だが、何用だ?」

「申し訳ありません。急ぎお伝えしたいことがございます・・・が、ここでは ────── 」

「フゥー…分かった。すまないユニ、少し席を外すよ」

「あっ…はい…」


自身の凱旋を祝うために開かれた宴を許嫁のユニと共に楽しんでいたゼリックであったが、突如として旅の仲間スネルに呼び出されてしまう。
久々の再会を邪魔される格好となり、少し不機嫌そうな表情をみせるユニ。
そんな彼女の様子に、ユニの頭を軽く撫でながら申し訳なさそうに席を立つゼリックなのであった。

⦅もう!せっかく出来た兄様との時間なのに!!それに…兄様と一緒に来た方々、女性の方もいたけど・・・あ~ダメダメダメ。余計なことに囚われていてはいけないわ。私ももう子供ではないのですから ────── ⦆

帰還を喜ぶ者。
生還に安堵する者。
成長に驚く者。
変化に戸惑う者。

ゼリックの帰還に伴い、人々に湧き上がる様々な想いが交差する中、夜空に浮かぶ満月の光に照らされて獣王国の夜は更けていくのだった ──────── 。



◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ 


チュンチュン ──── チュンチュンチュン ──── 。

三日三晩にかけて催された大宴会。
皆が大いに楽しんだ時間も終わりを迎え、獣王国ビステリアに日常が戻る。

ブンッ ─── ブンッ ─── ブンッ ─── 。

ブンッ ─── ブンッ ─── ブンッ ─── 。


「フゥーーー」


夜遅くまで行われていた宴の騒がしさが嘘のように静まり返った朝のひと時。
ゼリックは日課である剣術の鍛錬に勤しんでいた。
そんな彼を労おうと足早に向かう女性が一人。

タタタタタッ ──────── 。


「兄さ…」

「こちらをどうぞ、ゼリック様」

「ああ、ありがとう」


やっとの想いで再会を果たしたゼリックと片時も離れたくない気持ちでいっぱいのユニが稽古場へと辿り着いた時、そこにはすでに彼の隣に別の女性の姿があった。
すらりとした細身に腰のあたりまで伸びた艶やかな黒髪が印象的な女性。
以前にも見たその女性の姿にユニの心はざわつきをみせる。

⦅あの方は、確か…スネルさんでしたか⦆

全身から湯気が立ち上るほどに熱気を帯び、額から滝のような汗を流すゼリックに対して用意していたタオルを渡すスネル。
その慣れた手付きからも日頃からゼリックのサポートをしていることが見て取れる。
そんな二人の姿にユニのモヤモヤはより一層強くなっていた。

ガサッ ──────── 。


「ん?ああ、ユニかい。おはよう」

「お…おはようございます。兄様」

「どうかしたのかい?」

「いえ、兄様が日課の鍛錬をしていると聞いたので ───── 」

「アハハ。そういえば、昔からよく横に付いて剣の素振りをしているのを見ていたね」

「はい。昔から兄様は鍛錬の虫でしたからね。いつも剣ばかり振っていて、なかなか私と遊んでくれませんでしたもの」

「え~?そうだったかな?」

「そうです!!」


久しぶりの懐かしいやり取り。
自然と笑みが溢れる二人。
その変わらぬ笑顔に幼き日の面影をみたユニはホッと胸を撫で下ろす。


「ゼリック様、それでは私はこれで失礼します」

「ああ、ご苦労」


タオルを渡し終えるとスネルは頭を下げて一礼するとその場を後にした。
それに対して少し素っ気ない態度で応えるゼリック。
そして、それを不思議そうな目で眺めるユニなのであった。


「あ…あの…兄様?」

「うん?どうしたんだい?」

「えっ…と…その…」

「何か聞きたいことがあるんだね。遠慮せずに言ってごらん」


少し戸惑った様子を見せながらモゾモゾとしているユニの姿を見て、何かを察したゼリックが優しく促す。


「さすが兄様、なんでもお見通しなんですね。フゥー・・・その~先ほどの女性、スネルさん…でしたっけ?あの方と兄様はどのような関係なのでしょうか?」

「スネル?あ~なるほど。アハハハハ、彼女とはユニが考えているような関係ではないよ。ただの旅の道中で出会った仲間だ。一応、リーダーの役割を担っていたからね。彼女は世話役みたいなものだよ」

「ハァ~~~。なんだ…そうだったんですね」


ゼリックの言葉を聞き、その場にへたり込むユニ。
よほど気に病んでいたのか、安堵からくるその反動で力が抜けてしまったようだ。


「なんだか余計な気苦労をかけてしまったようだね。本当にすまない」

「いえ、私が勝手にやったことですから気にしないでください」


自身の振る舞いによって大事な人に迷惑をかけたことを悔やみ、ユニに対して深々と頭を下げるゼリック。
その姿を見てユニは首を左右に振りながら慌てた様子をみせるのだった。


「それにしても、あのお転婆姫がこんなに綺麗な女性になるなんて。俺がいなかった間の話を聞かせてくれないか?」

「はい!もちろん!!話したいことがたくさんあるんです!!!」


こうして久しぶりに二人だけの時間を過ごし、お互いにこれまでの日々を語り合いながら話に花を咲かせたゼリックとユニ。
それはまるで離れ離れになっていた十年という時間を取り戻すかのように ──────── 。




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