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旅立ち
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武術大会での壮絶な決勝戦から十日。
雷獣の暴走という想定外の出来事はあったものの、なんとか大会を終えることができ、獣王国ビステリアは少しずつ日常へと戻り始めていた。
「もう十日か」
「ゼリックはまだ目を覚ましていないらしいぞ」
「雷獣…とんでもない力だったな」
「ああ、伝承通り…いや、それ以上に凄まじかった」
「そんなことよりも早く目を覚まして元気な姿を見せてもらいたいのう」
そんな中、獣王国の住民たちは総出で闘技場の復旧作業に汗を流していたのだが、話題の中心はゼリック及び雷獣の話で持ちきりであった。
雷獣の力の暴走によるものではあったものの、闘技場を破壊し、現役最強と云われるパンサーの力を持ってしても止めることは叶わず、なんとか父であり獣王国ビステリアの戦士長でもあるザックスによって暴走は鎮圧されたのだが、その力は国民の中に決して小さくない衝撃を与えた。
そして、ゼリック本人についても父親譲りの類まれなる戦闘センスに加え剣術と体術はすでに同年代の者たちとは一線を画しており、そこに雷獣の力が合わさった時の戦いはまさに稲妻のよう ─────── 。
今回彼が示したモノは実力主義を謳う獣王国に住まう者たちを大いに納得させるものとなった。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
獣王国ビステリア ~ 王城内医療棟 ~
「ん…んん…」
ゆっくり目を開ける。
眼前には見知らぬ天井。
ここは何処かと左右に首を振ると横たわるベッドに並べて置かれた椅子に腰掛けながら自身の右手を握り締めたまま気持ちよさそうに眠る人物の姿が ──────── 。
「ユニ?」
横になった自身に寄り添うようにして眠るユニ。
⦅なんだ?これはいったいどういう状況だ?僕は確か武術大会に出て・・・ハッ!?⦆
武術大会に出場し、決勝まで駒を進め、親衛隊隊長であるパンサーと戦っていた・・・までは覚えている。
しかし、その途中から意識を失い ───── 。
そんなことを思いながらゼリックが身体を起こそうとしたその時、身体中を激痛が襲う。
ビキビキビキビキッ ──────── 。
「ぐわぁっ!?」
そして、そのあまりの痛みに耐えかねたゼリックの悲鳴にも似た声を聞き、寝ていたユニが目を覚ます。
「に…兄様…?」
「おう…おはよう、ユニ」
「うわぁぁぁぁぁ」
ゼリックの顔を見るなり泣きだすユニ。
大粒の涙を流しながら意識を取り戻した最愛の人に思わず抱きつく。
ビキビキビキビキッ ──────── 。
「痛い痛い痛い痛い痛い」
「ハッ!?申し訳ありません、兄様」
「い…いや、大丈夫だよ。どうやら凄く心配をかけたようだね」
「心配したどころの話ではありません!十日ですよ。兄様が気を失い倒れられてから十日…もう目を覚さないのかと・・・」
「えっ!?そんなに!?」
自身が倒れてから十日もの時間が経過していたことに驚きを隠せないゼリックなのであったが、そんなことよりも愛する人が戻ってきたことを嬉しく思い、胸を撫で下ろすユニなのであった。
「フフフフフッ。とにかく兄様の意識が戻って良かった。ですが、身体の至るところで筋の断裂や骨折が見られるそうなのでゆっくりと養生するようにしてくださいね」
「なるほど…それで身体を動かそうとすると全身に激痛が走るのか」
「私を心配させた罰です。大人しく看病されてください」
「ハハハ…。今回は迷惑もかけたし大人しく言う通りにするよ」
今回ばかりはユニの言う通りであり、そもそも身動きひとつ取れない現状を踏まえ、全面降伏せざるを得ないゼリックなのであった。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
意識を取り戻してからさらに二十日後。
ゼリックはようやく歩行が可能な程度に回復していた。
ヒト族と比べて頑丈な身体と驚異的な回復力を持つとされる獣人族であっても、その程度までしか回復出来ていないということが今回の損傷の大きさを物語っている。
そして、ようやく移動することが可能となったゼリックは、今回の騒動について謝罪するべく獣王レオニスの元を訪れていた。
「ゼリックよ、もう動いてもよいのか?」
「はい。お気遣い頂きありがとうございます」
「何を言う、私はお前のことを実の息子のように思っている。今回のことは大変であったな。傷が完治するまでゆっくり休むのだぞ」
「いえ、今回の件は私の力が至らなかったばかりに獣王国を危険にさらしました。獣王様にも多大なご迷惑をおかけし、心よりお詫び申し上げます」
「もう気にするな。あれは事故みたいなもの…意識を失っていたのだ。あまり自分を責めるでない」
「はい・・・」
一連の騒動について獣王に謝罪したゼリック。
その後、親衛隊隊長パンサー、戦士団の戦士たち、そして獣王国に住まう国民の元へ直接出向き謝罪をし、彼らもまたそれを受け入れたのだった。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
そこからさらに一ヶ月後。
ゼリックはようやく剣を振れるようになるまでになっていた。
ブンッ ─── ブンッ ─── ブンッ ─── 。
「フゥー…。まだまだ身体が重い…やはりかなり鈍っているな」
武術大会が終わってから約二ヶ月の間ゼリックは色々なことを考えていた。
その中で最も強烈に思い出されるのは、やはりパンサーとの決勝戦であった。
そして、記憶を辿りながらあの日の戦いを振り返るとつくづく自身の未熟さを痛感する。
そんなゼリックには武術大会での活躍もあり、近衛隊を始めあらゆる部隊からの勧誘があったのだが、それら全てを断っていた。
それは武術大会での失態というものも少なからず影響していたかもしれないが、彼の中にある想いが生まれていたからであった。
その後も一心不乱に鍛錬を重ねるゼリックであったのだが、これ以上続けても自身が求める成果は見込めないと思い一つの決心をする。
「父上、ご相談したいことがあります ──────── 」
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
そして、武術大会から二年後。
「本当に良かったのか?ザックス」
「はい。あれももう子供ではありません。自分に足りないモノが何なのか、それを知るためにも必要だと判断したのでしょう」
「まぁ~若いうちに知見を広げることは良いことだ。成長したゼリックの姿を楽しみに待つとしよう」
─────────────────────────
獣王国ビステリア ~ 入国門 ~
「うぅぅぅぅぅ…」
「おいおい、もう泣くなよユニ」
「ヒック…ヒック…だって…だって…。兄様、本当に行かれるのですか?」
「ああ、僕はもっと強くならなきゃいけない。この獣王国とこの国に住まう人たちを守るためにもね。そのためにも外の世界を見てみたいんだ」
「帰ってきますよね?」
「当たり前だろ。この国のために強くなるんだから。それに…ユニとの約束も果たさなきゃいけないしね」
その言葉にそれまで沈んでいたユニの表情が一気に明るくなる。
「はい!もちろんです!!いつまでもお慕えしております」
「それじゃ、行ってくるよ」
こうして雷獣の暴走から二年後、ゼリックは己の心・技・体全てを磨き直すために外の世界へと旅立つのであった。
雷獣の暴走という想定外の出来事はあったものの、なんとか大会を終えることができ、獣王国ビステリアは少しずつ日常へと戻り始めていた。
「もう十日か」
「ゼリックはまだ目を覚ましていないらしいぞ」
「雷獣…とんでもない力だったな」
「ああ、伝承通り…いや、それ以上に凄まじかった」
「そんなことよりも早く目を覚まして元気な姿を見せてもらいたいのう」
そんな中、獣王国の住民たちは総出で闘技場の復旧作業に汗を流していたのだが、話題の中心はゼリック及び雷獣の話で持ちきりであった。
雷獣の力の暴走によるものではあったものの、闘技場を破壊し、現役最強と云われるパンサーの力を持ってしても止めることは叶わず、なんとか父であり獣王国ビステリアの戦士長でもあるザックスによって暴走は鎮圧されたのだが、その力は国民の中に決して小さくない衝撃を与えた。
そして、ゼリック本人についても父親譲りの類まれなる戦闘センスに加え剣術と体術はすでに同年代の者たちとは一線を画しており、そこに雷獣の力が合わさった時の戦いはまさに稲妻のよう ─────── 。
今回彼が示したモノは実力主義を謳う獣王国に住まう者たちを大いに納得させるものとなった。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
獣王国ビステリア ~ 王城内医療棟 ~
「ん…んん…」
ゆっくり目を開ける。
眼前には見知らぬ天井。
ここは何処かと左右に首を振ると横たわるベッドに並べて置かれた椅子に腰掛けながら自身の右手を握り締めたまま気持ちよさそうに眠る人物の姿が ──────── 。
「ユニ?」
横になった自身に寄り添うようにして眠るユニ。
⦅なんだ?これはいったいどういう状況だ?僕は確か武術大会に出て・・・ハッ!?⦆
武術大会に出場し、決勝まで駒を進め、親衛隊隊長であるパンサーと戦っていた・・・までは覚えている。
しかし、その途中から意識を失い ───── 。
そんなことを思いながらゼリックが身体を起こそうとしたその時、身体中を激痛が襲う。
ビキビキビキビキッ ──────── 。
「ぐわぁっ!?」
そして、そのあまりの痛みに耐えかねたゼリックの悲鳴にも似た声を聞き、寝ていたユニが目を覚ます。
「に…兄様…?」
「おう…おはよう、ユニ」
「うわぁぁぁぁぁ」
ゼリックの顔を見るなり泣きだすユニ。
大粒の涙を流しながら意識を取り戻した最愛の人に思わず抱きつく。
ビキビキビキビキッ ──────── 。
「痛い痛い痛い痛い痛い」
「ハッ!?申し訳ありません、兄様」
「い…いや、大丈夫だよ。どうやら凄く心配をかけたようだね」
「心配したどころの話ではありません!十日ですよ。兄様が気を失い倒れられてから十日…もう目を覚さないのかと・・・」
「えっ!?そんなに!?」
自身が倒れてから十日もの時間が経過していたことに驚きを隠せないゼリックなのであったが、そんなことよりも愛する人が戻ってきたことを嬉しく思い、胸を撫で下ろすユニなのであった。
「フフフフフッ。とにかく兄様の意識が戻って良かった。ですが、身体の至るところで筋の断裂や骨折が見られるそうなのでゆっくりと養生するようにしてくださいね」
「なるほど…それで身体を動かそうとすると全身に激痛が走るのか」
「私を心配させた罰です。大人しく看病されてください」
「ハハハ…。今回は迷惑もかけたし大人しく言う通りにするよ」
今回ばかりはユニの言う通りであり、そもそも身動きひとつ取れない現状を踏まえ、全面降伏せざるを得ないゼリックなのであった。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
意識を取り戻してからさらに二十日後。
ゼリックはようやく歩行が可能な程度に回復していた。
ヒト族と比べて頑丈な身体と驚異的な回復力を持つとされる獣人族であっても、その程度までしか回復出来ていないということが今回の損傷の大きさを物語っている。
そして、ようやく移動することが可能となったゼリックは、今回の騒動について謝罪するべく獣王レオニスの元を訪れていた。
「ゼリックよ、もう動いてもよいのか?」
「はい。お気遣い頂きありがとうございます」
「何を言う、私はお前のことを実の息子のように思っている。今回のことは大変であったな。傷が完治するまでゆっくり休むのだぞ」
「いえ、今回の件は私の力が至らなかったばかりに獣王国を危険にさらしました。獣王様にも多大なご迷惑をおかけし、心よりお詫び申し上げます」
「もう気にするな。あれは事故みたいなもの…意識を失っていたのだ。あまり自分を責めるでない」
「はい・・・」
一連の騒動について獣王に謝罪したゼリック。
その後、親衛隊隊長パンサー、戦士団の戦士たち、そして獣王国に住まう国民の元へ直接出向き謝罪をし、彼らもまたそれを受け入れたのだった。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
そこからさらに一ヶ月後。
ゼリックはようやく剣を振れるようになるまでになっていた。
ブンッ ─── ブンッ ─── ブンッ ─── 。
「フゥー…。まだまだ身体が重い…やはりかなり鈍っているな」
武術大会が終わってから約二ヶ月の間ゼリックは色々なことを考えていた。
その中で最も強烈に思い出されるのは、やはりパンサーとの決勝戦であった。
そして、記憶を辿りながらあの日の戦いを振り返るとつくづく自身の未熟さを痛感する。
そんなゼリックには武術大会での活躍もあり、近衛隊を始めあらゆる部隊からの勧誘があったのだが、それら全てを断っていた。
それは武術大会での失態というものも少なからず影響していたかもしれないが、彼の中にある想いが生まれていたからであった。
その後も一心不乱に鍛錬を重ねるゼリックであったのだが、これ以上続けても自身が求める成果は見込めないと思い一つの決心をする。
「父上、ご相談したいことがあります ──────── 」
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
そして、武術大会から二年後。
「本当に良かったのか?ザックス」
「はい。あれももう子供ではありません。自分に足りないモノが何なのか、それを知るためにも必要だと判断したのでしょう」
「まぁ~若いうちに知見を広げることは良いことだ。成長したゼリックの姿を楽しみに待つとしよう」
─────────────────────────
獣王国ビステリア ~ 入国門 ~
「うぅぅぅぅぅ…」
「おいおい、もう泣くなよユニ」
「ヒック…ヒック…だって…だって…。兄様、本当に行かれるのですか?」
「ああ、僕はもっと強くならなきゃいけない。この獣王国とこの国に住まう人たちを守るためにもね。そのためにも外の世界を見てみたいんだ」
「帰ってきますよね?」
「当たり前だろ。この国のために強くなるんだから。それに…ユニとの約束も果たさなきゃいけないしね」
その言葉にそれまで沈んでいたユニの表情が一気に明るくなる。
「はい!もちろんです!!いつまでもお慕えしております」
「それじゃ、行ってくるよ」
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