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死闘

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ポタッ…ポタッ…ポタッ…ポタッ…。

パンサーからの忠告を無視して限界を超える力を開放したゼリック。
それによって明らかなオーバーヒートを起こし、碧と白が混じり合い美しかった毛並みは吹き出した自身の血によって赤く染められていた。


「に…兄様・・・」

「ここまでのようだな」

「はい。もはや身体を動かすどころか意識を保つことさえも難しいでしょう」


愛する者が血塗れになった姿を目の当たりにし、ユニは動揺を隠しきれずに絶句する。
それとは対照的にこれまで数多くの戦場を駆け抜けてきた獣王レオニスと戦士長ザックスは冷静に状況を見守っていた。

⦅頭が…ぼーっとする…。あれ?…。僕は…何をしていたんだっけ?⦆


「・・・い。・・・い!・・・おい!聞いているのか!!」

「えっ!?あぁ…パンサー様、どうかされましたか?今凄く気分が良いんですよ」

「何を馬鹿なことを言っている。もう限界だ。さっさと棄権しろ」

「棄権? ───── そうだ。僕は今戦っていたんだ」

「お前、今自分がどんな状態か分かっているのか?これ以上は無理だ。今すぐに棄権しろ」


⦅あ~良い気分だ…。身体中に力が漲っているのが分かる…。今なら誰にも負ける気がしない…⦆


「さぁ~…、いきますよ…」

「馬鹿野郎!それ以上は命に関わるぞ!!大人しく棄権しろ!!!」


再三に渡る忠告を無視し、身体中から吹き出る血を撒き散らしながらゼリックはパンサーへと襲い掛かる。

ブシュッ ──────── キーン!

ブシュッ ──────── キーン!

ブシュッ ──────── キーン!

この時すでにゼリックの意識はほぼ飛びかけていた。
その身から湧き出る溢れんばかりの力を言葉通り力任せに振り回し、視界には相対するパンサーの姿がぼやけて映るだけ。
もはや試合を見守る観客の声など一切届いておらず、ただただ“パンサーを倒す”という意思と勝負に対する意地だけがその身体を突き動かしていた。


「あれは大丈夫なのか?」

「審判は何をやっているんだ。早く試合を止めろ」

「いやいや、止めると言ってもどうやって止めるんだ」

「それにゼリックの動きは明らかに良くなっておる。事実、パンサーの表情から余裕が消えおったわ」

「しかし、あの姿はどう見ても・・・」


周囲で見守っている者たちからすると明らかに限界を迎え立っていることさえギリギリな様子に見えているのだが、当の本人は全身から無駄な力が抜けたことにより身体が軽くなったように感じていた。
さらに身体中から溢れ出る力をもっともっと試したいという強い衝動に駆られているのであった。


「さぁ、まだまだいきますよ!」

「この分からず屋が・・・。いいだろう。自分の力量も分からんような大馬鹿者には世の厳しさというものを教えてやる」


ジリッ・・・ジリッ・・・ジリジリジリッ・・・。

少しずつ、しかし確実に、両者の距離が短くなっていく。
その光景を前に観客たちは呼吸をすることも忘れ、完全なる静寂が二人を包み込む。
そして、 ──────── 。



ドンッ!! ──────── 。

ドンッ!! ──────── 。



なんの合図もなく両者が同時に踏み込みリングの中央で激しくぶつかり合う。
ここまではどちらかというとゼリックの攻撃をパンサーが受け流し、その中で隙を見て反撃に出るという構図であった。
しかし、今回は初手から両者ともに全力で相手を潰しにかかる。

ギャーン! ─── ギャーン! ─── ギャーン!

全力と全力が激しくぶつかり合う剣戟音が闘技場に響き渡る。
鋭く重い剣撃が打ち込まれる度に両者の重心が後方へと弾かれるが、そんなことなど気にも止めることなく次が放たれる。

ブシュッ…ブシュッ…ブシュッ…。


「ハァ~…ハァ~…ハァ~…」


⦅この馬鹿、もうほとんど意識も無いんじゃないか?マジでさっさと終わらせてやらないと死んじまうぞ⦆

いくら身体が軽くなったように感じようが、動きが良くなったように見えようが、限界はとうに超えている。
変わらず身体中から血は溢れ出し、一刻も早く治療を施さなければ命の危険すら危ぶまれるような状態である。
しかし、一向に止まることのないゼリックを前にリング脇でいつでも動けるように準備した医療班も手をこまねくしかなかったのだった。

ギャーン! ─── ギャーン! ─── ギャーン!

──────── ブシャッ。


「グッ…」


両者ともに攻撃特化の応酬が続く中、とうとうゼリックの剣がパンサーを捕える。
負傷したパンサーが苦痛に顔を歪めるのだが、そんなことなど意に介さずさらなる連撃が打ち込まれていく。
堪らず防御に徹するパンサーであったが、襲い掛かる無数の刃を前についにこの試合で初めて膝をついたのだった。


「ガハッ・・・」

「ハァ~…ハァ~…ハァ~…。ようやく膝をつきましたね。そろそろ終わらせましょう」

「フフフッ、たかだか片膝をつかせたくらいで喜びすぎだろ。むしろボロボロなのはお前のほうだ。こちらこそ引導を渡してやるよ」

「ウオォォォォォ!!」


ここから戦局は一転してゼリックによる一方的な攻撃が始まる。

ガンッ!! ─── ガンッ!! ─── ガンッ!!

痛みと痺れによって上手く身体を動かすことが出来ないパンサーは一気に防戦一方へと追い込まれる。
そして、これを好機とみたゼリックは勢いに乗って力任せの斬撃を叩き込んでいく。

ガンッ!! ─── ガンッ!! ─── ガシャーン!!!!!


「グファッ・・・」


──────── ドサッ。

その結果、ついに剛剣を受け続けたパンサーが先に倒れたのだった。


「「「「「ウオォォォォォ!!」」」」」

「なんてことだ!ゼリックが勝ったぞ!!」

「まさか…パンサー様が負けるなんて・・・」

「雷獣の力とはこれほどのものなのか」


闘技場内を感嘆と嘆嗟の声が交差する。
勝敗は決した。
勝利を確信したゼリックは最後の力を振り絞り右手を強く握り締め天へと突き上げる。

⦅ハァ…ハァ…ハァ…。やった…。終わった…。勝った…勝ったぞ…。僕が…最強だ⦆

グッ…ググッ…グググググッ。

しかし、まだ終わりではなかった ──────── 。


「おいおい、勝ち名乗りを上げるにはまだ早いぞ・・・若造」


なんと、倒れたはずのパンサーが立ち上がったのだ。
身体中に傷を負い、額から血を流しながらも、握り締めた剣をゼリックへと向ける。
もはや理屈ではない。
敗けられないのだ。何があっても ─────── 決して敗けるわけにはいかない。
その熱い想い一つで立ち上がる。
それこそが獣王国ビステリアが誇る最強の戦士なのだ。

グッ ──────── 。

グッ ──────── 。

両者が改めて剣を向き合わせる。
これが最後 ──── いよいよこの戦いもクライマックスを迎えようとしている。
誰しもがそう感じていた。

⦅さすがはパンサー様。あれだけ打ち込んでも立ち上がるなんて…凄まじい胆力だ。僕ももう限界だ…。でも、絶対に敗けない…敗けたくない!⦆

ドクン ───ドクン ─── ドクン ─── 。

⦅ハァ…ハァ…なんだ?心臓の音がやけにうるさいな…。でも、これが最後の ──────── ⦆

しかし、最後の一撃が打ち込まれることはなかった。


「それでは、いく ───── !?」


──────── ドサッ。

パンサーが意を決して踏み込もうとしたその時、相対していた者がゆっくりと地へ向かって倒れたのだった。
心身ともに限界のさらに先まで超えていたゼリックの意識はすでに途絶えていたのだ。

──────── ドサッ。


「そ…そんな、兄様・・・」


時を同じくして膝から崩れ落ちたユニ。
目から大粒の涙を流し、あまりの衝撃にその光景を直視することが出来ず両手で顔を覆っている。


「何をしている!医療班、急いで治療を!!」

「「「ハッ」」」


パンサーの掛け声によって準備していた医療班が急いでゼリックの元へ駆け寄ろうと動き出したその瞬間 ──────── 。

ドックン ─── ドックン ─── ドックン ─── 。


「ん?何の音だ?」

「いったい何処から鳴っているんだ?」

「これって、心臓の音じゃないか?」


突然鳴り始めた異様な音に闘技場内がざわつきをみせる。
そして、観客たちは音に続いて異様な光景を目の当たりにすることとなる。

バチンッ! ─── バチチッ ─── バチンッ! ─── バリバリバリバリ!!!

突然先ほど倒れたゼリックの身体が光だし、バリバリと轟音を立てながら雷に包まれたのだった。


開放度80%へ ──────── 。



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