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動き出す悪童
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パスカル大山脈にてガルディア王国軍と獣王国ビステリア軍が激しい戦闘を繰り広げていたその頃 ──────── 。
~冒険者の街リザリオ~
「フゥー・・・」
「どうかされましたか?ギルドマスター」
「いや…少し昔のことを思い出していただけだ」
執務室の窓から遠い空を眺めるメリッサは若き日々の記憶を思い起こしていた。
それは彼女がまだ冒険者を始める前、すでに剣聖としてガルディア王国中にその名を轟かせていたミロクの下で剣の修行に明け暮れていた日々。
世界最強の剣士に教えを乞い、五つ年下の弟弟子と共に切磋琢磨した思い出。
「そういえばギルドマスターと獣王は姉弟弟子の関係でしたっけ?」
「ああ。何ひとつ言うことを聞かない奴だったが、剣の腕前と戦闘センスは天性のモノを感じさせた」
「四聖に数えられるギルドマスターにそこまで言わせるなんて…。獣王国に向かった王国軍は大丈夫なんでしょうか?」
「今回の作戦は聖騎士長であるアーサーが指揮を執っているからな。まぁ~遅れを取るようなことはないだろう。だが、──────── 」
「ん?何か懸念でもあるんですか?」
「無いとは思うが・・・。もし、万が一にでもアーサーが討たれるような事態になった時には敗北もあり得る」
アーサーが討たれる?
いったい何を言っているんだろうか。
メリッサの秘書である女性職員は首を傾げる。
ガルディア王国の聖騎士たち、さらに曲者揃いの十二の剣をまとめ上げる王国を代表する聖騎士長。
そして、メリッサと同様に四聖に名を連ねているアーサーが敗れる姿など想像することも出来ない。
そんな表情を浮かべている秘書を前にメリッサはあくまでも最悪の場合だと念を押す。
「まぁ~絶対は無いということだ。数で上回っている内は王国軍が優勢なことに変わりはない。しかし、もしもアーサーとゼリックが一対一で戦うようなことになれば最悪も考えられる」
「獣王ゼリックとはそれほどなのですか?アーサー様は四聖の一人ですよ」
秘書が疑問に思うのももっともである。
それは彼女だけではなく、ガルディアに住まう者であれば誰しもが口を揃えて同じことを言うだろう。
聖騎士長アーサーとはそれほどの存在であり、ガルディア王国民にとって正真正銘の英雄なのだ。
そして、当然そんなことはメリッサも承知している。
しかし、ゼリックという男のことを誰よりも知るからこそ、その疑念は晴れないのであった。
「“雷帝”ゼリック。それが奴が獣王になる前の異名だ」
「“雷帝”・・・ですか?」
「ああ、奴は雷を自由に操る雷獣の獣人だ。そして、お前がさっき言った通り私と同じくミロク様より剣術を学んでいる」
「ということは、剣の腕前も相当ということですよね」
「今現在の強さは分からんが、当時の奴は私と比べても遜色無いくらいの腕はあったな」
若き修行時代とはいえ、剣の腕だけでいえばすでにガルディア王国内でも有数の実力者となっていたメリッサ。
そんな彼女と同等の力を有していたとされるゼリック。
そこから長い年月が経ち、メリッサは冒険者ギルドのギルドマスターに、そしてゼリックは獣王国ビステリアの国王という共に組織のトップに立つまでに至っていた。
「まぁ~剣の腕は良かったんだが、気性の荒さと残虐性は当時から問題視されていてた。その上で奴は頭も切れるから厄介なんだよ」
「ギルドマスターにそこまで言わせるなんて・・・。何事も無ければいいんですが ──────── 」
「ああ。私たちは信じて待つしかない」
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
~獣王国ビステリア王城~
「さぁ~て、そろそろあっちも盛り上がってるところじゃねぇーか」
「獣王様、各部隊が王国軍の誘い込みに成功し一網打尽にしたとのことです。さらに聖騎士長アーサーが率いている軍に対してはドラン様が単独で向かい圧倒しているとのことです」
「ガッハッハッ、いいね~いいね~。このまま捻り潰してやってもいいんだが、それじゃつまんねぇ~からな。おい!メールに準備させろ。俺様も出るぞ」
「畏まりました」
決戦の地となったパスカル大山脈では激しい濃霧と獣王国によって準備された罠によってガルディア王国軍が多大なる被害を受けていた。
そして、それは紛れもなく獣王ゼリックによって練られた計画通りであり、まさに王国軍はその術中にハマってしまったのであった。
そんな大混乱の最中にある敵に対して、ゼリックは次なる一手を打とうと動き始める。
パスカル大山脈での戦闘。
激しい濃霧。
魔獣による強襲。
十二支臣の登場。
窪地への誘導からの奇襲。
それら全てがゼリックによって考えられた筋書きであり、そしてそれら全てがある目的のために準備された陽動なのであった。
獣王ゼリックの狙い。
それは ────── もちろんガルディア王国の武の象徴。そして、ガルディア国民の英雄であるアーサーの命である。
そのたった一つの目的のためだけにここまで大掛かりな戦争を企てたのだ。
そして、その結末に向けて獣人族の王がゆっくりと動き出すのであった。
~冒険者の街リザリオ~
「フゥー・・・」
「どうかされましたか?ギルドマスター」
「いや…少し昔のことを思い出していただけだ」
執務室の窓から遠い空を眺めるメリッサは若き日々の記憶を思い起こしていた。
それは彼女がまだ冒険者を始める前、すでに剣聖としてガルディア王国中にその名を轟かせていたミロクの下で剣の修行に明け暮れていた日々。
世界最強の剣士に教えを乞い、五つ年下の弟弟子と共に切磋琢磨した思い出。
「そういえばギルドマスターと獣王は姉弟弟子の関係でしたっけ?」
「ああ。何ひとつ言うことを聞かない奴だったが、剣の腕前と戦闘センスは天性のモノを感じさせた」
「四聖に数えられるギルドマスターにそこまで言わせるなんて…。獣王国に向かった王国軍は大丈夫なんでしょうか?」
「今回の作戦は聖騎士長であるアーサーが指揮を執っているからな。まぁ~遅れを取るようなことはないだろう。だが、──────── 」
「ん?何か懸念でもあるんですか?」
「無いとは思うが・・・。もし、万が一にでもアーサーが討たれるような事態になった時には敗北もあり得る」
アーサーが討たれる?
いったい何を言っているんだろうか。
メリッサの秘書である女性職員は首を傾げる。
ガルディア王国の聖騎士たち、さらに曲者揃いの十二の剣をまとめ上げる王国を代表する聖騎士長。
そして、メリッサと同様に四聖に名を連ねているアーサーが敗れる姿など想像することも出来ない。
そんな表情を浮かべている秘書を前にメリッサはあくまでも最悪の場合だと念を押す。
「まぁ~絶対は無いということだ。数で上回っている内は王国軍が優勢なことに変わりはない。しかし、もしもアーサーとゼリックが一対一で戦うようなことになれば最悪も考えられる」
「獣王ゼリックとはそれほどなのですか?アーサー様は四聖の一人ですよ」
秘書が疑問に思うのももっともである。
それは彼女だけではなく、ガルディアに住まう者であれば誰しもが口を揃えて同じことを言うだろう。
聖騎士長アーサーとはそれほどの存在であり、ガルディア王国民にとって正真正銘の英雄なのだ。
そして、当然そんなことはメリッサも承知している。
しかし、ゼリックという男のことを誰よりも知るからこそ、その疑念は晴れないのであった。
「“雷帝”ゼリック。それが奴が獣王になる前の異名だ」
「“雷帝”・・・ですか?」
「ああ、奴は雷を自由に操る雷獣の獣人だ。そして、お前がさっき言った通り私と同じくミロク様より剣術を学んでいる」
「ということは、剣の腕前も相当ということですよね」
「今現在の強さは分からんが、当時の奴は私と比べても遜色無いくらいの腕はあったな」
若き修行時代とはいえ、剣の腕だけでいえばすでにガルディア王国内でも有数の実力者となっていたメリッサ。
そんな彼女と同等の力を有していたとされるゼリック。
そこから長い年月が経ち、メリッサは冒険者ギルドのギルドマスターに、そしてゼリックは獣王国ビステリアの国王という共に組織のトップに立つまでに至っていた。
「まぁ~剣の腕は良かったんだが、気性の荒さと残虐性は当時から問題視されていてた。その上で奴は頭も切れるから厄介なんだよ」
「ギルドマスターにそこまで言わせるなんて・・・。何事も無ければいいんですが ──────── 」
「ああ。私たちは信じて待つしかない」
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
~獣王国ビステリア王城~
「さぁ~て、そろそろあっちも盛り上がってるところじゃねぇーか」
「獣王様、各部隊が王国軍の誘い込みに成功し一網打尽にしたとのことです。さらに聖騎士長アーサーが率いている軍に対してはドラン様が単独で向かい圧倒しているとのことです」
「ガッハッハッ、いいね~いいね~。このまま捻り潰してやってもいいんだが、それじゃつまんねぇ~からな。おい!メールに準備させろ。俺様も出るぞ」
「畏まりました」
決戦の地となったパスカル大山脈では激しい濃霧と獣王国によって準備された罠によってガルディア王国軍が多大なる被害を受けていた。
そして、それは紛れもなく獣王ゼリックによって練られた計画通りであり、まさに王国軍はその術中にハマってしまったのであった。
そんな大混乱の最中にある敵に対して、ゼリックは次なる一手を打とうと動き始める。
パスカル大山脈での戦闘。
激しい濃霧。
魔獣による強襲。
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それら全てがゼリックによって考えられた筋書きであり、そしてそれら全てがある目的のために準備された陽動なのであった。
獣王ゼリックの狙い。
それは ────── もちろんガルディア王国の武の象徴。そして、ガルディア国民の英雄であるアーサーの命である。
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