上 下
112 / 159

自分たちに出来ること

しおりを挟む
先日ギャシャドゥルの街で起きた一件は各冒険者ギルドにも伝えられ、支部長ホークの活躍は冒険者たちの間で大きな話題となっていた。
さらに獣王国ビステリアの精鋭である十二支臣の内二人を相手取り返り討ちにしたその活躍は、“轟撃のホーク”の健在を内外に知らしめる結果となり、その情報はもちろんスズネたち“宿り木”にも伝わっていた。


─────────────────────────


「さぁ~みんな、ミーティングを始めるよーーー」


スズネの呼び掛けによってメンバーたちがリビングへと集まり席に着く。
これまでにも何かある度にミーテイングが開かれていたのだが、今回は全員いつもと顔つきが異なる。
それもそのはず、基本的に和気藹々とした雰囲気の中で話し合いが行われることの多い宿り木なのだが、今回扱われる議題がこれまでとは比べ物にならないものであったからだ。

その議題とは ───── もちろんガルディア王国と獣王国ビステリアによる戦争についてである。

スズネたちにとっては生まれてからこれまでの間にここまで大きな争いを経験したことがなく、さらに今回の件は他人事としてやり過ごすことも難しい状況となっていた。
何故なら今回冒険者ギルドを通じて王国から出された戦争への参加依頼がBランク以上の冒険者とされていたからである。
たとえBランクに上がったばかりとはいえ、スズネたちも依頼を受けるか受けないかという選択を与えられている以上は決断しなければならない。
そんなわけで、今回のミーティングはパーティとして戦争への参加をどうするのか話し合うために開かれたものであった。


「みんな集まったね。それじゃ、今回のガルディア王国と獣王国ビステリアの戦争への参加をどうするか話し合っていこう」


開始の合図と同時に真っ先に意見を述べたのはミリアであった。


「アタシはもちろん参加よ!この一戦で国がどうなるかが決まるっていうのに黙って見てるなんて絶対に無理!!それに先日のホーク支部長の活躍でこっちの士気は確実に上がってるわ。このままやられる前にやるべきよ」

「ウチは…今回は見送った方がいいと思うっす。Bランクになったとはいえまだ日も浅いですし、何より本気の殺し合いの場に行って何か出来る気がしないっすよ」

「何ビビってんのよ。そんなこと言ってたらいつまで経っても何も出来ないじゃない!!出来るか出来ないかじゃなくて ──────── 」

「ミリア!落ち着いて。まずは一人一人の意見を聞こうよ」


戦争への参加以前につい最近まで交流のあった者たちと殺し合いをするということに気持ちが追いついていないシャムロム。
そんな彼女の意見に対して語気を強めるミリアであったが、まずは各自の意見や思いを聞くということを優先させるスズネであった。


「分かった。ゴメン、ちょっと冷静さを欠いてたわ」

「それじゃ、次はセスリー」

「わ…私は、今回のような大規模な戦いは初めてなので正直言って不安です。だ…だから出来ることならば参加したくはないですね」

「うん、ありがとう。次、ラーニャちゃんは?」

「うん?わっちか?わっちは・・・なんでもいいのじゃ。やることは変わらんからのう。参加するなら出会す敵を消し炭にしてやるだけじゃし、参加せんでも向かってくる敵を消し炭にするだけじゃ」

「アハハハハ…ラーニャちゃんらしいね。マクスウェル君はどう?」

「僕は・・・僕は冒険者ではありませんし、宿り木の正式なメンバーでもありません。そして、これからも僕の進む道は変わりません。僕はガルディア王国を護るために聖騎士を目指していますので、たとえ皆さんが参加しないとしても一人で参加します」

「そう…だよね。ありがとう」


ひと通り全員からの意見を聞いたスズネはフゥーと息を吐き出す。
それぞれの意見を聞いた上でパーティとしてどうするのかを決めなければならない。
しかも今回は見事に意見が分かれる結果となってしまった。
どちらの思いも理解出来るがゆえに言葉が詰まる。
そんな時、スズネの胸中を察したミリアが優しく声を掛ける。


「それで、スズネはどうしたいの?」

「えっ!?わっ…私?」

「そりゃそうでしょ。メンバー全員の意見を聞かなきゃ ───── でしょ?」


ミリアの言葉に思わず笑みが溢れるスズネ。


「うん、そうだね。ありがとうミリア」


そして、自身に視線を向けるメンバーたちに対してゆっくりと視線を送ったスズネは自分の思いを話し始める。


「私は…ヒト族も獣人族も傷付くところなんて見たくない。それに殺し合いの場なんて恐いから参加したくない。でも、何もせずに誰かが傷付いているのを見過ごすことはもっとしたくない。綺麗事だと思われるかもしれないけど、戦うためじゃなくて一人でも多くの人を助けるために参加したい ───── な~って思ってる・・・」


スズネの思いを受け取ったメンバーたちの間に沈黙が広がる。
ハッキリ言ってスズネの言っていることは戦場を知らない甘過ぎる考えだ。
そんなことが出来るのならみんながそうしたいと願うだろう。
しかし、現実とは時として残酷なものである。
そんな思いがあるからこそメンバーたちは言葉を発することに苦心しているのだ。
そして、そのことをスズネ自身もまた十分に理解していた。


「クロノはどう思う?」

「はぁ?お前らのくだらない争いなんかに興味ねぇ~よ。勝手にやってろ」

「もう、真面目に聞いてるのに」

「まぁ~ただこれだけは覚えておけ。やったら絶対にやり返される。これは世の理だ。殺し合いをするつもりならその覚悟を持って臨め」


クロノの言葉に全員が凍りつく。


『やったらやり返される』


それは小さな事象でも大きな事象でも変わることはない。
そして、その力が大きければ大きいほどその反動もまた大きくなる。
そんなことは誰もが知っている。
しかし、知っているだけで理解はしていない。
特に負の感情は理屈ではなく、返ってくる負の力が想像を絶するものと成りうるのだ。

そのことを未熟な彼女たちに強く伝えたかったのか。
はたまたいつもの気まぐれなのか。
それはクロノ本人にしか分からない。
それでもその言葉によってより強く深く考え始めるスズネたちの姿を前にしたクロノの表情はどこか満足そうにも見えた。


「あーーーもうどうしたらいいのよ!こんな迷った状態じゃ戦えないじゃない」

「それでいいと思うっす。ウチらは冒険者であって殺し屋じゃないっすよ。向かってくる敵は倒したとしても、自ら進んで誰かを殺しにいくのは違うと思うっす」

「わ…私もそう思います。ミリアもそのことを理解しているからこそ迷うんだと思います」

「僕も覚悟を決めたと思っていましたが、クロノの言葉を聞いて決めきれていなかったと気づきました。そして決めました!僕は殺すためではなく護るために参加します!!」

「はぁ~もう訳分かんない。でも、なんかスッキリした気もする。変に気負ってもいい結果は得られないもんね。今のアタシが出来ることに集中するわ」


スズネたちの表情に変化が起こる。
ミーティング開始当初の強張ったものからまだ迷いはありながらもどこかスッキリしたような清々しいものとなっていた。


「それじゃ、今回の戦争への参加依頼は受けるってことでいいよね!今の私たちに出来る最大限のことをやろう!」

「「「「「 おーーーーー!! 」」」」」


こうして話し合いの結果今回の戦争に参加することを決めたスズネたち。
まだまだ戦況に影響を与えるほどの力は無いかもしれない。
それでも目の前で起こっている出来事を見て見ぬふりするのではなく、それと向き合い自分たちに出来ることをすると決めて一歩を踏み出したのだった。


そしてスズネたちが大きな決断をしていたその時、王宮では再びスズネたちを王城に召喚することが決定していたのだが ──────── この時のスズネたちには知る由もなかった。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

悠久の機甲歩兵

竹氏
ファンタジー
文明が崩壊してから800年。文化や技術がリセットされた世界に、その理由を知っている人間は居なくなっていた。 彼はその世界で目覚めた。綻びだらけの太古の文明の記憶と機甲歩兵マキナを操る技術を持って。 文明が崩壊し変わり果てた世界で彼は生きる。今は放浪者として。 ※現在毎日更新中

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

底辺おっさん異世界通販生活始めます!〜ついでに傾国を建て直す〜

ぽっちゃりおっさん
ファンタジー
 学歴も、才能もない底辺人生を送ってきたアラフォーおっさん。  運悪く暴走車との事故に遭い、命を落とす。  憐れに思った神様から不思議な能力【通販】を授かり、異世界転生を果たす。  異世界で【通販】を用いて衰退した村を建て直す事に成功した僕は、国家の建て直しにも協力していく事になる。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

フェル 森で助けた女性騎士に一目惚れして、その後イチャイチャしながらずっと一緒に暮らす話

カトウ
ファンタジー
こんな人とずっと一緒にいられたらいいのにな。 チートなんてない。 日本で生きてきたという曖昧な記憶を持って、少年は育った。 自分にも何かすごい力があるんじゃないか。そう思っていたけれど全くパッとしない。 魔法?生活魔法しか使えませんけど。 物作り?こんな田舎で何ができるんだ。 狩り?僕が狙えば獲物が逃げていくよ。 そんな僕も15歳。成人の年になる。 何もない田舎から都会に出て仕事を探そうと考えていた矢先、森で倒れている美しい女性騎士をみつける。 こんな人とずっと一緒にいられたらいいのにな。 女性騎士に一目惚れしてしまった、少し人と変わった考えを方を持つ青年が、いろいろな人と関わりながら、ゆっくりと成長していく物語。 になればいいと思っています。 皆様の感想。いただけたら嬉しいです。 面白い。少しでも思っていただけたらお気に入りに登録をぜひお願いいたします。 よろしくお願いします! カクヨム様、小説家になろう様にも投稿しております。 続きが気になる!もしそう思っていただけたのならこちらでもお読みいただけます。

錬金術師が不遇なのってお前らだけの常識じゃん。

いいたか
ファンタジー
小説家になろうにて130万PVを達成! この世界『アレスディア』には天職と呼ばれる物がある。 戦闘に秀でていて他を寄せ付けない程の力を持つ剣士や戦士などの戦闘系の天職や、鑑定士や聖女など様々な助けを担ってくれる補助系の天職、様々な天職の中にはこの『アストレア王国』をはじめ、いくつもの国では不遇とされ虐げられてきた鍛冶師や錬金術師などと言った生産系天職がある。 これは、そんな『アストレア王国』で不遇な天職を賜ってしまった違う世界『地球』の前世の記憶を蘇らせてしまった一人の少年の物語である。 彼の行く先は天国か?それとも...? 誤字報告は訂正後削除させていただきます。ありがとうございます。 小説家になろう、カクヨム、アルファポリスで連載中! 現在アルファポリス版は5話まで改稿中です。

豪華地下室チートで異世界救済!〜僕の地下室がみんなの憩いの場になるまで〜

自来也
ファンタジー
カクヨム、なろうで150万PV達成! 理想の家の完成を目前に異世界に転移してしまったごく普通のサラリーマンの翔(しょう)。転移先で手にしたスキルは、なんと「地下室作成」!? 戦闘スキルでも、魔法の才能でもないただの「地下室作り」 これが翔の望んだ力だった。 スキルが成長するにつれて移動可能、豪華な浴室、ナイトプール、釣り堀、ゴーカート、ゲーセンなどなどあらゆる物の配置が可能に!? ある時は瀕死の冒険者を助け、ある時は獣人を招待し、翔の理想の地下室はいつのまにか隠れた憩いの場になっていく。 ※この作品は小説家になろう、カクヨムにも投稿しております。

処理中です...