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もう一人の最強

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「このままで大丈夫なのかな?」

「最近モア周辺の村とかも襲撃されたみたいっすからね」

「わ…私たちも注意しておかないといけませんね」


スズネたちは今日も冒険者ギルドを訪れていた。
冒険者である以上どのような状況下であったとしても依頼を受けて稼がないといけない。
それはもちろん宿り木も他の冒険者たちと同様である。
しかし、今はいつもと状況が少し異なる。

国王であるレオンハルトよりガルディア王国に住む全ての者に対して獣王国ビステリアとの戦争が始まることが通達された。
そして、さらにBランク以上の冒険者には王国よりギルドを通じて戦争への協力依頼が出されたのだった。

当然冒険者たちの間でも獣王国との戦争の話で持ちきりとなっており、そこにきて各地で起こっている獣人族の襲撃が彼らの緊張を煽っていた。


「マクスウェル、いつものことだけどアンタ何か聞いてないの?獣王国と戦争なんて・・・」

「僕も詳しいことは知りません。ただ ───── 準備だけはしておけと言われています」

「それってマクスウェルも戦争に借り出されるってことっすか?」

「それは・・・」


生まれて此の方戦争というものと無縁であったスズネたちにとって、今回の件は想像することすら難しい。
しかし、これは嘘でも冗談でもない。
それが分かっているからこそ、スズネたちはいつ始まるかもしれない国同士の本気の殺し合いを前に言葉を失ってしまうのだった。


「戦争・・・本当に始まっちゃうのかな?」

「まぁ~国王様からの通達もあったしね。最近の獣王国の動きからしても間違いないんじゃない」


これまでにもクエストで各地を回ってきたスズネたち。
その中で出会った人たちの中にはもちろん獣人族もいた。

道中や町村ですれ違う村人や町人として

立ち寄ったお店の商人として

さらなる高みを目指す同じ冒険者として

その人たちの顔を思い浮かべながら苦しい心の内が表情として表れる。
特に誰かを傷付けて何かを得るようなことを良しとしないスズネのそれは顕著であった。
なんとか戦争を回避することは出来ないのかと思いつつも、今起きていることを考えると無理矢理にでも現実がそこまで甘いものではないことを思い知らされる。


「なんじゃなんじゃ、そんな始まってもいない戦いのことばかり考えておっても仕方がないじゃろう。それに種族間での戦いならすでにセロフトとかいう魔族とやり合ったではないか」

「まぁ~それはそうなんだけどね。普段から関わりがある分、獣人族の方が身近に感じちゃうのよ」

「でも、身近ってことならウチらは魔族の方がいつも一緒にいるから近いっすけどね」

「確かに!そういえばアンタって魔族の王なのよね。当たり前に居すぎて忘れてたわ。アンタって魔族感が無いのよ」

「おい!ふざけんな。俺という存在こそが魔族だ!!」

「「「「「 アハハハハ 」」」」」


重苦しい空気を吹き飛ばすように宿り木に笑顔が戻る。
ひとしきり笑い終えたスズネたちは掲示板へと足を運ぶのだった。
いつも通り貼り出された依頼書、それらに目を通しその中から討伐依頼の紙を剥ぎ取り受付へと持っていく。
そして、受付のマリがその依頼を受領したその時、勢いよく一人の冒険者がギルドへと駆け込んできた。


バタバタバタバタ ──────── バタンッ!!


「た…大変だ!また獣人族による襲撃が起きた」

「なんだ?また何処かの村か?」

「ああ、これまでと同じく比較的小さな村や町が襲われたらしいんだが、今回はそれだけじゃないんだ」

「はぁ?どういうことだよ」

「どうやら村や町を襲った連中が集結して千を超える軍団となってギャシャドゥルに向かってるらしいんだ」

!? !? !? !? !?

「「「「「 なっ!?なんだってーーーーー 」」」」」


これまでの規模と違い千という一大戦力がガルディアの主要都市の一つであるギャシャドゥルに迫ろうとしている。
この一報は瞬く間にガルディア全土へと駆け巡ったのだった。

ガルディア王国国王レオンハルトは苦悶の表情と共に頭を抱え、対照的に獣王国ビステリアの王ゼリックは不敵に笑うのであった。



◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ 


中間都市ギャシャドゥル。


ガルディア全土に衝撃が走る中、まさにその現場であるギャシャドゥルではすでに勝敗が決していた ───────── 。


「グフッ・・・。ガルルルル、貴様はいったい何者だ!!」

「おやおや、まだ息があるようですね。さすがは獣人族。頑丈、頑丈」


ものの数分であった。
千五百を超える獣人族があちらこちらで地に伏せており、その一軍を率いるタイガードは左肩から大量の出血をするほどの傷を負っていた。
そして彼らの眼前には ────── 自身の身の丈を超える巨大なバトルアックスを持った老紳士が一人。
圧倒的な数を相手にしても息ひとつ切らしておらず、むしろ余りある余裕を漂わせながら自身の前で壊滅している獣人族の軍団へと視線を送っている。


「こっちは千五百以上いたんだぞ。それをたった一人で・・・。マジで何者なんだよジジイ!!」

「はぁ~、目上の者への礼儀がなっていませんね。所詮は暴れることしか脳がない獣ですか…。申し訳ありませんが、あなた方のような者に名乗る名など持ち合わせておりません。目障りですのでそろそろ死んでいただきましょうか」


大きなバトルアックスを担ぎタイガードの方へ一歩また一歩と近づく老紳士。
その歩みが近づくにつれ千五百を超える獣人族たちは絶望に包まれるのだった。


「さ~て、まずは一軍を率いる虎の獣人、あなたかららせてもらいましょうか」


穏やかな表情とは裏腹に色濃く強烈な殺意を向ける老紳士を前に猛獣と恐れられるタイガードでさえも息を呑む。
そして、万事休すかと思われたその時、上空より大量の爆弾が投下される。


ヒューーーン ──────── ドーーーーーン!

ヒューーーン ──────── ドーーーーーン!

ヒューーーン ──────── ドーーーーーン!


「おやおや」


爆音と共に爆煙が巻き起こりお互いの姿が視界から消える。
そして、両者の間に発生した煙が晴れると負傷したタイガードの隣に”飛翔バルバドール”の姿があったのだった。


「大丈夫なのかい?タイガード。派手にやられちまったね~」

「うるせぇ~ぞバルバドール。今からあのジジイをブチ殺すんだよ」

「新手ですか…。まぁ~何匹増えたところで何ひとつ変わりませんがね」

「クワックワックワッ。なんだいあのヤバそうな奴は。タイガード、一先ず逃げるよん」


見た目とは大きく異なる老紳士の気配を敏感に察知し、すぐさまこの場を離れるという判断を下すバルバドール。
その判断に疑いの余地はないのだが、この男から逃げることなど可能なのか・・・。
その一点だけがバルバドールの不安要素となっていた。


「おやおや、もうお帰りですか?まだ来たばかりでしょう。ゆっくりしていっては如何ですか?」

「冗談はよしてくれやい。アンタとやり合うには準備が足りな過ぎるよん」



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