魔王召喚 〜 召喚されし歴代最強 〜

四乃森 コオ

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頂上会談(前編)

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この日、首都メルサにある王城にガルディア王国が誇る三大組織のトップに立つ三名の男女が集結していた。
今回招集をかけたのは国王であるレオンハルト。
獣王国から使者を通して宣戦布告を受けたことにより、ガルディア王国と獣王国ビステリアの戦争が始まることを危惧したからである。
そして、その呼び掛けにメリッサとフッガーが応える形で今回の頂上トップ会談が開催される運びとなった。


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頂上トップ会談】

ガルディア王国を治めている国王、冒険者ギルドのトップであるギルドマスター、商業ギルドのトップであるギルド長の三者が集まる会議。
三者の間に優劣はなく、あくまでも対等な立場での意見交換の場となっている。
基本的には滅多に開かれることのないものであるが、国家存亡の危機など国の行く末を揺るがしかねない事態が発生した場合に招集をかけることが出来る。
因みに、この頂上トップ会談の開催及び招集をかけることが出来るのは三大組織のトップだけである。

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「二人とも忙しい中よく集まってくれた。今回集まってもらったのは他でもない、先日獣王国から行われた宣戦布告について話し合うためだ」

「ああ?すでに何ヶ所かでいざこざが起こってんだよ。各支部からも報告が上がってきてんぞ!」

「我々商人の間でもいくつかの流通経路において襲撃を受けているようです」


獣王国の使者としてドラーが王城を訪れてから早一週間、事態は悪化の一途を辿り、戦いの時は刻一刻と迫っていた。

大中小の街や村で獣人による被害が報告され、街と街を繋ぐ街道においても商人の一団が襲われるということも日々増え続けていた。
そして、それに伴い冒険者ギルドには護衛依頼が急増しており、獣人族と冒険者の小競り合いがあちこちで頻発することに。
また今回の件により、ガルディアの街に住まう戦闘の意思が無い全くの無関係な獣人族にまでヒト族からの風当たりが強くなっていた。


「そもそも王国の兵士が先に仕掛けたことが始まりだろ。さっさと謝って許してもらえよ」

「その件に関しても現在調査中だ。そして、こちらとしてもそうしたいのは山々なのだが・・・」

「フム。獣王国側がこちらの謝罪を受け入れようとしないということですね」

「ああ、どうやら獣王は戦争がしたいようなのだ。何度か話し合いの場を設けようとしてはいるのだが全て断られている」


国王レオンハルトはドラーとの謁見の場にて宣戦布告を受けながらも、なんとか戦争を回避出来ないかと模索し続けており、数回にわたり獣王国へ話し合いの場を設けようと打診していた。
しかし、その全ては獣王によって拒否され、その間にも獣王国から攻撃を受けることとなった。
そういった経緯もあり、レオンハルトは今回の頂上トップ会談を開く決心をしたのだ。


「ったく、ゼリックの野郎・・・面倒事増やしやがって」

「そういえばメリッサさんは獣王と面識があったのでしたっけ?」

「ああ。師匠のところで同時期に剣を学んだ弟弟子だ。昔っから血の気の多い奴だったが、まさか戦争までやりたがるとはな」


メリッサと獣王ゼリックは共に剣聖ミロクの下で剣の腕を磨いた間柄である。
メリッサの方が一年程先に修行を開始しており、姉弟子として若かりし頃のゼリックの面倒を見ていたのだ。
その頃からゼリックは喧嘩っ早く、気に入らない相手を見つけては誰彼構わず喧嘩を売り、よくメリッサから雷を落とされていた。
そんな二人が袂を分けてから随分と時が経ち、今では冒険者ギルドのギルドマスターと獣王国の王として相対することとなった。


「それで、ガルディア王国としてはどのような方針で進めていくおつもりなのですか?」


獣王国側の方針は明確である。
それは先の宣戦布告が全てを物語っている。
そのことは会談の場にいる全員が理解していた。
しかし、ここで重要なことはガルディア王国側の方針である。


戦争回避か ──────── 。

全面戦争か ──────── 。


それを決めるべく今回の会談の場が用意されたのだ。
そんなことは百も承知の上でフッガーはレオンハルトに質問した。


「私としてはなるべく戦争回避の可能性を模索したいところではあるのだが、そんな悠長なことを言ってはいられない状況であることも理解している」

「はぁ?ここまでやられて何が戦争回避だ!うちの冒険者も何人かやられてんだぞ。獣王になったかなんだか知らねぇ~が、あの馬鹿を一発ぶん殴ってやらねぇ~と気が済まねぇ」

「我々商人ギルドと致しましても、流通が滞っていたり商人が襲われたりと損害が出ておりますので、獣王国にはそれ相応の賠償はして頂かないといけませんね」

「やはり…ここまできてしまっては避けられはしないか・・・」


ガルディア王国に住まう全ての民の平和と安寧を求めるレオンハルトにとって、争いごとは最も避けたいモノの一つである。
そんな彼にとって“全ての民”とは、もちろんガルディア王国内において治外法権が認められているエルフ族・獣人族・精霊族の三種族も含まれており、そのことはメリッサとフッガーも承知している。

しかし、事態は一刻を争う。
獣王国は本気だ。
本気で戦争を始めようとしている。
そのような相手にいつまでも悠長なことを言っていては後手に回ることとなり、いつ取り返しのつかない事態に陥るか分からない。
三人の中でその事を誰よりも深く理解しているメリッサの語気が次第に強くなる。


「おいレオンハルト、ここまできたらるかられるかだ。俺たちの判断が遅れるだけ死人が出ることになるぞ」

「分かっている」

「いや、分かってないね!これは生きるか死ぬか、命の奪い合いだ!!そこには種族なんて関係ねぇ。そんなことは魔獣どもでも知ってる。それは俺たちが生きていく上で当然のことわりなんだよ」

「・・・・・」


メリッサの言葉を受けてレオンハルトは沈黙してしまう。

国を治める上での理想はある。
しかし、その理想を追い求めるがあまり目の前の大事なモノを見失っていては意味がない。
そして、今は現実から目を背けて夢や理想を語っている場合ではなく決断する時 ────── 。
メリッサの言葉で自身の甘さを痛感するレオンハルトなのであった。


「ホッホッホッ。さすがは数多くの戦場を渡り歩いた元冒険者ですね。言葉の重みが違います。私は商いばかりしてきましたが、その中でも争いごとはあります。今回獣王国が何を考えているのかは分かりかねますが、あちらにも考えがあり理想があるようにこちらにもあるわけです。そして、互いのそれが交わることなくぶつかるのであれば ───── 押し通すほかありません」


冒険者には冒険者の戦場があるように商人には商人の戦場がある。
彼らはその戦場を生き抜いてきたからこそ今の地位にいる。
そんな彼らの言葉にはこれまでの重く苦い経験が含まれているのだ。

二人からここまで言われて何も感じないはずはない。
レオンハルトも覚悟を決める。


「二人ともありがとう。自分の甘さを痛感させられた」


レオンハルトの瞳から迷いが消える。
そして大きく息を吐き出した後、メリッサとフッガーに視線を送る。


「フゥー・・・。それでは我々の方針を決めようか」


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