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宣戦布告

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突如としてガルディア王国を訪れた獣王国からの使者。
一人の護衛も付けることなくトリスタンとグリフレットの軍が守る北壁の門に姿を現したのだ。
そして、彼が今回ガルディア王国を訪れた目的は国王レオンハルトへの謁見であった。

こうして急ピッチで準備が行われ、ガルディア王国国王レオンハルトと獣王国からの使者による謁見の場が設けられたのだった。



ガルディア王国王城 ──── 謁見の間 ────


「獣王国ビステリアの使者よ、よくぞ参られた。面を上げてくれ」


レオンハルトの言葉を受けて獣人族の男は跪いた状態のままゆっくりと顔を上げレオンハルトへと視線を向けた。


「ガルディア王国国王、お初にお目にかかります。オイラは獣王直属近衛隊隊長ドラーと申します。突然の来訪にも関わらず、このような場を設けていただき有り難く思います」

「クハハハハ。確かに突然過ぎて少々驚きはしたがな。それで、ドラー殿は今回どういった用件でわざわざ来られたのかな?」

「はい。本日は先日起きた件について獣王より言伝を預かって参りました」

「なるほど。聞こう」


レオンハルトより今回の訪問の理由を問われたドラーと名乗る猫の獣人は、獣王からの言伝を伝えに来たのだと言う。
それを受け、レオンハルトはさっそくその言伝の内容を聞くことにした。


「それでは獣王より預かった言伝を伝えさせていただきます。──────── レオンハルト、よくも俺様の同胞をやってくれたな。わけの分からねぇ下っ端なんぞ寄越しやがって、次は確実に殺す。それから、今回の件はまだ終わっちゃいねぇ。きっちり落とし前つけさせてやるからな!! ──────── 以上です」


獣王からの声明を聞いて文官たちの列の先頭にいたドルーマンが怒りを露わにする。


「ふざけるな!!!獣王国によってこちらの使節団は壊滅させられたんだぞ!その上で何が落とし前だ!!」

「そうだ!そうだ!」

「貴様らも十分な報復をしているだろ!」

「ふざけるのも大概にしろ!」


ドルーマンに続くように文官たちから怒号が上がる。
しかし、ドラーはそのようなに対して全く気にする素振りもなく、真っ直ぐ国王であるレオンハルトへと視線を向け続けるのであった。


「静まれ!!」

「「「「「 ・・・・・ 」」」」」


レオンハルトのひと声により広間に沈黙が広がる。
それを確認すると、レオンハルトは獣王の真意が何であるかをドラーに問う。


「ドラー殿、貴殿は獣王直属の近衛隊隊長であると言ったな。それでは獣王の側近である貴殿に尋ねよう。獣王の狙いはいったい何だ?」

「あはははは。獣王の心の内は分かりかねますが、言葉の通りであるとするのならば対話で終わらせる気は無いということでしょうね」

「争うということか?」

「うちの獣王は血の気が多いですからね~」

「戦争になるぞ」

「それならそれで仕方がないっすね」


レオンハルトからの言葉に対して一つ一つ冷静に返答していくドラー。
このままの状態では本当にいずれ両国の戦争にまで発展しかねない。
しかし、それを聞いても尚ドラーの表情は一切崩れることはなかった。

その様子からレオンハルトを始めアーサーや十二の剣ナンバーズの面々、文官たちまでもが全てを察したのだった。

獣王は初めからそのつもりだったのだ。
自身の大事な国民が襲われ傷つけられ、その怒りは収められる気配が無いどころか最初から収めるきもさらさらなかったようである。


目には目を ──────── 。

歯には歯を ──────── 。

そう言いたいかのように ──────── 。


これにはさすがのレオンハルトも頭を抱えてしまう。
万が一にでも戦争になろうものならば、これまでに築き上げてきた両国の関係が一気に崩壊することとなる。
そして、両国による戦争の戦禍はガルディア全土へと広がることとなるだろう。

十秒ほどの沈黙の後、大きく息を吐き出したレオンハルトは改めてドラーへと視線を送る。


「ドラー殿、今我々は明日再び獣王国ビステリアへ向かう準備を進めている。もちろん、そこには私もいる。獣王に直接会い、今回の件について謝罪をし、今後についても話し合いをしようと考えているのだが、貴殿にそれを取り持ってはもらえないだろうか?」


レオンハルトからの要請に対してドラーは少しばかり考え込む。
そして、何か思いついたように笑みを浮かべた。


「あはははは。我々のような小国相手に必死ですね~ガルディア王。オイラとしても何とかお手伝いしたいのは山々なんですが・・・。あなた方は我々の同胞を襲い傷付けた。それは仮に同族内で起こったとしても決して許されないことなのです。そんなあなた方を ───── 我々は決して許さない!!」


力強く言い放たれた言葉。
その意味を深く理解する者たちの間に緊張が走る。
ヘラヘラしてはいるもののドラーの表情からして冗談で言っているというわけではなさそうだ。

このままでは最悪の事態となってしまう。
それだけは何としても回避せねばならない。
それは国王レオンハルトとしてではなく、ガルディア王国としての意思であった。


「ドラー殿」

「何でしょうか?ガルディア王」


永遠とも思えるほどに長く感じた数秒の沈黙を破りレオンハルトが最後の確認を行う。


「もう一度だけ言う ──────── 戦争になるぞ」

「ええ、獣王国の総意です。それでは改めまして ────── 我ら獣王国はガルディア王国に対して宣戦布告致します」


ハッキリと言葉として宣言された宣戦布告。
ここまできてしまってはもう冗談で済ませることは出来ない。
それはガルディア王国と獣王国ビステリアの両国ともに理解していることである。

なんとかこの結末だけは避けたいと考えていたレオンハルト。
ガルディア王国全土の平和と安寧を願い行動してきた彼にとって、今回の出来事は信じがたいものであり、決して許されるものではなかった。
そんな自国の王の想いを知る家臣たちは、心を痛めつつも遠くない未来に起こる戦争に向けて気を引き締めざるを得なかった。


そして、現在ガルディア王国の王城にてそのような事態に陥っていることを知ってか知らずか、遠い獣王国ビステリアでは獣王が玉座に腰を下ろし自身が思い描いた通りに進んでいくシナリオに満足気な笑みを浮かべていたのだった。


こうしてガルディアの地に生きる多くの者たちが知らぬところで“ガルディア王国”と“獣王国ビステリア”による戦争が幕を開けようとしていた。



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