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夢とその先

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スズネたちが王都にて国王レオンハルトと謁見をしてから一週間が経とうとしていた。

トライデント
ネームレス
王国聖騎士団

ガルディア王国最高峰である彼らを実際に目の当たりにしたことにより、自分たちの実力不足を痛感したスズネたち。
それぞれに思うことや感じるものがあり、そうしたものを抱えたまま日々のクエストをこなしていた。

そんなある休養日。
スズネたちはホームの広間で今後について話し合いをしていた。


「ハァ~・・・」

「どうしたのミリア?溜め息なんかついて」

「どうしたもこうしたもないわよ。スズネ、アンタもこの前の戦い見たでしょ」

「この前のって ─── 王都での?」

「そうよ!トライデントにネームレス?だっけ、あんな街を壊すほどの化け物・・・」

「そうですね。少しずつ力を付けてきていたつもりでしたが、僕たちはまだまだですね」


カネロを始めとするネームレスの圧倒的な暴力。
それに対抗するトライデントの組織力。
同じ冒険者や元冒険者とは思えないその実力と一朝一夕では埋められない差を見せつけられ、メンバーの誰よりもショックを受けるミリアとマクスウェルなのであった。


「まぁまぁ、ウチらはCランクでまだまだ伸び盛りっすよ!」

「そ…そうですよ。千里の道も一歩からと言いますし、地道に進んでいきましょう」

「そうだよ二人とも!私たちには私たちのペースがあるんだから、周りのことなんて気にしない、気にしない」

「まぁ~無いものねだりしてても時間の無駄だしね。それでも…手っ取り早く強くなりたいわ~」


もちろんそんな都合の良い話など存在しない。
そんなことは魔法の力をもってしても不可能である。
ミリア自身もそんなことは百も承知の上での発言であったのだが、それを快く思わない者が異を唱える。


「馬鹿なことを考えるのは止めておけ」


声の主は ───── クロノであった。


「何よ急に。アタシだってアンタみたいに最強だったらこんなことで悩んだりしないわよ」

「最強ねぇ…。それで、その力を得てお前は何を成すんだ?」

「えっ…!?何を…成す…?えっ?えっ?」


唐突に尋ねられたクロノの問いの真意を理解出来ず、慌てた様子のミリアはしどろもどろになってしまう。
そのほかのメンバーたちもその真意について理解出来ずにいたものの、クロノの言いたいことは何となく理解出来た。
しかし、クロノに返す言葉をその時のスズネたちは誰一人として持ち合わせていなかったのだった。


「誰しもがいつの頃からか何かを求め始める。それが力なのか、知識なのか、技術なのか、それは人それぞれだが、それを得たいと思った当初は何かを成したいと強く思ったからそれを求めたはずだ」


静まり返った広間にクロノの声だけが響き、スズネたちはその言葉を一語一句聞き逃さぬようにと耳を傾ける。


「しかし、皆その意識が少しずつ薄れていき、成すことではなく得ることが目的へと移り変わることも少なくない」

「「「「「「 ・・・・・ 」」」」」」

「そして、その道が険しくなったり、壁を越えるのが難しくなったりした場合に楽をしてそれに類似するものを得ようと考える」

「「「「「「 ・・・・・ 」」」」」」

「だが、仮にそうして得ることが出来たとしてもそんなものに価値など無い!自身の信念のないそんなハリボテなど虚無に等しい」


珍しく熱をもって話すクロノ。
クロノ自身も周囲から歴代最強だと云われはいるが、そこには一切の驕りや慢心など存在しないのであった。


「なんか…ゴメン…。自分よりも圧倒的な強さを目の当たりにして少し弱気になってたみたい」

「ミリア、お前の努力をお前が疑うな。お前には叶えなくちゃいけない夢があるんだろ?」

「ええ、アタシは絶対に“剣聖”になる!アタシの力を世界に示してやるのよ」

「悪くない夢だ。それじゃ、そこにもう一つ“目的”を加えてみろ。“剣聖”とやらになったお前がそれをもって何を成すのかをな」

「またそれね」

「“剣聖”になって終わり…ではないんだろ?なった後にその力でお前が何をしたいのかを考えてみろ。それがハッキリすると今考えている悩みなど取るに足らないものだと理解出来る」

「“剣聖”になったアタシがしたいこと・・・か。今まで考えたこともなかったわ」


大きなことであれ、小さなことであれ、その進む道の先にある目的の重要性を説くクロノ。
力と技を得ることだけを考え日々剣を振ってきたミリアにとって、それはまさに目から鱗であった。
そして、それは他のメンバーたちにとっても同じこと。


「お前らもそれぞれ叶えたい夢があんだろ?」


ミリアへの話を終えたクロノが同じテーブルを囲むスズネたちに問い掛ける。


「う~ん。私はそんなこと考えたこともなかったよ。みんなが毎日笑って幸せに暮らせたらいいな~とは思ってるけど・・・」

「ウチもっす。日々のことで精一杯で先のことなんて考えたことなかったっす」

「わっちは最強の魔法師になることじゃ!そのために毎日頑張っておる。じゃが…その先は考えたこともなかったのう」

「わ…私は…エルフ族のみんなにもっと外の世界を知ってもらいたいなと思っています。閉ざされた世界から一歩踏み出してもっと広い世界を見てほしい。そうすれば、エルフ族も里もさらに豊かになるのかなって。私に出来るかは…分からないですけど…」

「僕は聖騎士になることです。そして、ゆくゆくは団長となり十二の剣ナンバーズにこの名を連ね、ガルディア王国に住む方々の生活を守りたいと思っています」


それぞれが夢を語る。
ある程度はっきりしている者もいれば、まだまだそうではない者もいる。
それはどちらが良くてどちらが悪いということはない。


「まぁ~ある程度決まっているやつもまだぼんやりとしているやつもいるようだが、結局のところ大事なのはそこに向けて今の自分に何が出来るのかを日々考え続けることだ。そして、それを言葉にしその意味を自分なりに深めていくことでより明確になっていく」


悩めるスズネたちに導きを与えるクロノ。
しかし、そこには『答え』というものはなく、あくまでもそれを見つけるのは自分自身であるというものであった。
そして、それは当然のこと。
この世に同じ人がいないのと同様にその答えもまた十人十色。
その人にはその人だけの『答え』がある。
クロノはわざわざそのことを口にはしなかったが、スズネたちはしっかりと理解していたのだった。


「なんだか今日のクロノは先生みたいだね」

「ウッ…な…なんだよ急に」


スズネの言葉に顔を赤らめ恥ずかしそうに背けるクロノ。


「なになに~アンタまさか照れてんの~」

「うるさい!こっちを見るな」

「「「「「「 アハハハハ 」」」」」」


こうしてひょんなことから始まったクロノ先生による講義。
そんなクロノのアドバイスもあり、それぞれの夢とその先を意識し始めたスズネたち。


「それで~最強の力を手にした魔王クロノ様は、その力で何を成すんですか~?」


ミリアが先程受けた質問をイタズラっぽくクロノへと投げ返す。
そして、それを受け少し黙ったあとクロノがゆっくりと口を開いた。


「俺の夢、そしてその目的は ───── 壮大過ぎて今のお前らには理解出来ん。話すだけ無駄だ」


そう言うとクロノは席を外し家の外へと出て行ってしまった。


「クソ~ッ、アイツ誤魔化して逃げたわよ」

「まぁまぁ、きっといつか話してくれるよ」


歴代最強と云われるクロノの夢とその目的。
今のスズネたちには想像もつかないようなものなのだろう。
それが何なのか気にはなりつつも心の片隅に置いておき、今の自分たちに出来ることをやっていこうと決意したスズネたちなのであった。


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