魔王召喚 〜 召喚されし歴代最強 〜

四乃森 コオ

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季節外れの・・・

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国王との謁見のために王都メルサを訪れたスズネたちは、ちょうど大型魔獣の討伐を終えて帰還した冒険者クラン“トライデント”の一団と相まみえる。
そして、“トライデント”の総長であるアルバートとクロノによる話がひと通り終わったタイミングで突然一人の男が現れ、クロノの喉元に刃を突きつけたのだった。
しかし、その状況を楽しむように笑みを浮かべる男に対し、全く気にも留めず退屈そうにするクロノなのであった。


「ヒャッヒャッヒャッ。おい魔王、その澄ました顔を今すぐに歪めてやるよ」


そう言うと、男は一切躊躇することなくその刃でクロノに襲い掛かる。


「止めろ、マルコ」


その剣先がクロノの皮膚に触れようかという間一髪のタイミングでアルバートが男に対してそれ以上のことは止めるようにと告げる。


「ヒャッヒャッヒャッ。冗談だよ総長、冗談だって」


マルコと呼ばれるその男は、ヘラヘラと笑いながら一連の行動がただの冗談であると言うのだったが、周りにいたスズネたちには全くそのようには思えなかった。
こうして、マルコがクロノの喉元から剣先を離し剣を収めるかと思われたのだが ───── 。


「やっぱ我慢出来ねぇ~わ」


───────── ヒュンッ 。

ギッ・・・グググッ・・・ ────── バキーーーン!!


「んっ・・・何っ!?」


クロノの身体に張られている魔法防壁によってマルコの攻撃は弾かれ、その衝撃を受けてマルコの身体が大きく宙を舞う。
そして、空中でクルリと回転し体勢を整えるとマルコは綺麗に着地したのだった。


「ヒャッヒャッヒャッ。いいね、いいね~」


思わぬ反撃にあったにも関わらず嬉しそうに笑うマルコ。


「ちょっと!いきなり斬り掛かってくるなんて、アイツ頭おかしいんじゃないの」

「まったくじゃ!わっちの旦那様に剣を向けるとは・・・万死に値する」


無抵抗の相手に対していきなり攻撃を仕掛けてきたマルコに対し怒りを露わにするミリアとラーニャ。
そんな今にも反撃に打って出そうな二人であったが、マクスウェルによって制止される。


「二人とも待ってください」

「何よアンタ、やられっぱなしで黙っておけって言うの!!」

「とりあえず落ち着いて。あれは恐らく『鮮血のマルコ』です」

「『鮮血のマルコ』??」

「超巨大なクラン“トライデント”を構築する三つの団の一つである“紅の騎士団”の団長を任されている男です。彼が“悪”だと判断すれば、それが女子供であろうが、老人であろうが、魔獣や魔族であろうが徹底的に追い込み、相手が泣こうが喚こうがお構い無しに斬り刻み血祭りにするそうです。その猟奇的な様から“鮮血”という異名が付けられたと言われています」


今目の前で行われたこととマクスウェルから聞いた話を総合し、マルコという男の異常さに身震いするスズネたちなのであった。
そして、未だに剣を収める気配もなく不気味な笑みをクロノへと向けるマルコ。
このまま街中で戦闘が行われるのかと思われたが、一人の女性の登場によって呆気なく場が収められることとなる。


「止めなさいマルコ。住民の皆さんが怖がっていますよ」


その声を聞いた途端にすぐさま剣を収めるマルコ。
それまでの狂気じみた殺気を飛ばすこともなく、すっかり大人しくなってしまった。


「ちょっとマクスウェル、あの綺麗な人は誰なんすか?」


何処にいても一目で分かる色鮮やかな青い髪。
見る者全てを釘付けにしてしまうほどに美しく透き通った白い肌。
そして、狂気を纏ったマルコをただのひと声で大人しくさせてしまう威厳。
突如として現れたその女性について気になったシャムロムがその正体についてマクスウェルに質問した。


彼女の名はシルビア。
屈強な“トライデント”の冒険者たちをまとめ、総長であるアルバートを支えるクランの副長である。
もちろんその美しい容姿だけでなく、紅の騎士団団長でありSランクの冒険者でもあるマルコを黙らせるだけの実力の持ち主でもある。
彼女にも“氷結”という異名が付けられており、『氷結のシルビア』という名を聞くだけで震え上がる者も少なくないという。

それほどまでに“強い女性”と聞いて興奮を抑えられない者が“宿り木”の中に一人 ───── 。


「ス・・・ステキ~~~ ───── シルビア様~~~~~」


王国内最大のクランである“トライデント”のNo.2である女性と聞いて興奮を抑えることが出来ず、キラキラと目を輝かせるミリア。
その凜とした佇まいと女性としては珍しいフルアーマーの鎧を着こなしている姿に憧れの眼差しを向けている。


「すまないシルビア、いつも助かるよ」

「しっかりして下さい。アルバート様は団員に甘過ぎなんですよ」


シルビアに向けて優しい笑みを向けて礼を言うアルバート。
それに対してシルビアは顔を赤ながら進言するのであった。
そして、アルバートに対する進言を終えたシルビアは、少し緩んだ表情を引き締め直すと厳しい視線をマルコへと向けた。


「マルコ・・・。あなたアルバート様の優しさに甘えて迷惑をかけるんじゃありませんよ。あまり調子に乗っているようなら・・・氷漬けにしますからね」


アルバートに向けられたものとは打って変わり、氷のように冷たい視線をマルコへと向けるシルビア。
その視線と強烈な威圧感に苦笑いを浮かべるしかないマルコなのであった。


「ヒャッヒャッ…い、いやだな~副長、ちょっと遊んでただけじゃないですか ───── ね!そうですよね!総長」

「うん?ああ、まぁ~ほどほどにな」


助け舟を求めるマルコを優しく窘めるアルバート。
それほどまでにシルビアが恐いのか、マルコはまるで借りてきた猫のように大人しい姿を見せるのだった。


「私の部下が失礼をした。本当に申し訳ない」

「あぁ?ちょっと戯れ付かれたくらいどうってことはない」


部下の不手際に関して改めて謝罪するアルバートに対し、何事もなかったかのように余裕を見せるクロノであった。
こうして周囲が心配したような事は起こりはせず、一件落着したかに思われたその時 ───── 。


ドーーーーーーーーン!!


隊列を組む“トライデント”の後方部で突如大きな音が鳴り響いた。


「「「「「 うわぁぁぁぁぁ ────────── 」」」」」

「「「「「 キャーーーーーーーーッ 」」」」」


突然鳴り響いた大きな音により現場では大混乱が起き、人々が悲鳴を上げながら逃げ惑っていた。


「いったい何事だ!」


突然の大混乱を前に状況を確認するためにアルバートの側近が部下たちに情報を求める。


「報告致します。只今、何者かによって後方部が襲撃を受けているとのことです」

「我々“トライデント”に襲撃を仕掛けてくるとは…何者だ。すぐに正体を調べて報告せよ」

「ハッ」


報告を聞いたアルバートたちは今なお戦闘が繰り広げられているであろう後方部を心配しつつ、襲撃犯に対する対応についてすぐに協議を始めたのだった。
そんな中、次から次へと起こる騒ぎに嫌気が差したクロノが愚痴を溢す。


「季節外れの蝿どもが・・・。どいつもこいつもさっきから五月蝿うるせぇ~んだよ。今は十月だぞ」

「ちょっとクロノ、そんなこと言ってる場合じゃないよ。早く大通りにいる人たちを避難させなきゃ」

「いやいや、それよりもこの騒ぎの元凶を見に行きましょうよ」

「えっ…ミリア、そ…それは危険だと思います」

「そうっすよ、セスリーの言う通りっす。何も分かっていないこの状況で現場に突っ込むのは危ないっすよ」


完全にパニックと化した大通りを我先にと逃げる人々。
その光景を前にどうするかを話し合うスズネたちに対し、自分たちの協議を終えたアルバートが声を掛けてきた。


「君たちはここを離れなさい」

「アルバートさん」

「今回の襲撃は我々“トライデント”を狙ったもので間違いない。これは我々の問題であり、君たちがわざわざ危険を冒す必要はない」


あくまでも襲撃を受けているのは“トライデント”であり、この問題に関してスズネたち“宿り木”は関係がないと言い、すぐにこの場から避難するようにと告げるアルバート。
しかし、その助言を受けてもなおどうするか決め切れずにいるスズネたちなのであった。
すると、そこに“トライデント”のメンバーが駆け寄ってきてアルバートに現場の続報を報告する。


「報告致します。襲撃してきたのは・・・“ネームレス”です!!」


!? !? !? !? !?


その報告を受けたアルバートを始めとする“トライデント”のメンバーたちは一様に驚いた表情を見せる。
そんな中“ネームレス”という名称を聞いても全くピンときていないスズネたちだけは周囲の反応を不思議そうに眺めているのであった。


「なぜ“ネームレス”が王都に・・・。それで、襲撃してきたのは何名だ?」
「三名です。“ネームレス”のリーダーであるカネロを含む三名によって襲撃を受けており、只今黒の騎士団と交戦中とのことです」


未だに状況を理解出来ていないスズネたちであったが、王国最大のクランに対したった三人で襲撃を行う“ネームレス”と言う存在に恐怖を覚えたのだった。


そして、“ネームレス”という集団の登場により、スズネたちはガルディア王国と冒険者ギルドにまつわる“闇”を知ることとなる ───────── 。



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