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ロクサーナの想い
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騒ぎを聞きつけた人魚女王が多くの人魚たちを引き連れて姿を現した。
そして、周囲をゆっくりと見回すと大きな声を上げて泣くリークスとその腕の中で冷たくなった娘の姿を目にしたのだった。
「何があった?」
ロクサーナの亡骸を囲む人魚たちに対して説明を求める女王。
その問いに一人の人魚が涙を堪えながら答える。
「そこにいるヒト族の冒険者及び数人のトットカ村の住民が協力し我々の捕獲を企て戦闘となりました。奴らの目的は捕獲した我らを闇市で売り捌くことです。そして、戦闘の最中そこにいる男を守るためにロクサーナ様が敵の攻撃により負傷し、つい先程…息を引き取られました」
説明開始当初こそ必死に耐えていた人魚であったが、途中からはその悲しみに耐え切れなくなり、涙を流しながら事の顛末を報告した。
「・・・そうか」
報告を受けた女王は一言そう告げると俯いたまま沈黙したのだった。
すると、その様子を見ていたロッゾが全く心のこもっていない謝罪を始める。
「まぁ~なんだ、手違いだったんだよ女王様。そこのガキを殺そうとしたら急に姫さんが飛び出してきてよ~ ───── だから、今回のことは不可抗力?ってやつだ」
「・・・・・」
「もし処理に困ってるようなら協力するぜ。死体でも人魚族なら剥製にでもすりゃ~そこそこの値で売れそうだからな」
「・・・れ」
「ん?何だって?」
「・・・まれ」
「聞こえね~ぞ。交渉成立か?」
「「「「「 アッハッハッハッハッ 」」」」」
「黙れと言っているんだ。お前らは全員ここから生きては帰さん」
「ハッハッハッ、やれるもんならやってみろ!行くぞ、野郎ども!!」
モルドの号令と共に一斉に女王への攻撃を開始したアンダードッグ。
しかし、彼らの思惑とは裏腹にその攻撃が女王へと届くことはなかった。
「ヒト族の冒険者ごときが、この私の相手になると思うなよ ───── 視界を遮る霧」
女王が魔法を発動させると、突如としてパルーナ湖周辺をすっぽりと覆う霧が発生した。
そして、その霧は途轍もなく濃い濃度をしており、一メートル先すらも見えないほどであった。
この霧の発生によってアンダードッグの面々は混乱し陣形も無茶苦茶になってしまう。
「おい、何だこれは!」
「リーダー、何も見えません」
「一時退却だ。退却して陣形を立て直すぞ。急げ」
「急げって言われても何処に行けばいいんすか?」
─────── ブシャッ。
「ギャーーーーーーッ」
!? !? !? !? !?
「何だ?」
─────── ブシャッ。
─────── グシャッ。
─────── ズシャッ。
「うわぁぁぁぁぁ」
「やめろ…やめろ…やめろーーーーー」
「うぎゃぁぁぁ」
・・・・・。
何かが潰れる音。
誰かが斬られる音。
そして、次々と叫ばれる悲鳴。
それらが続くこと数分の後・・・。
そこに立つ者のはロッゾとモルドの二人だけとなっていた。
その他のメンバーたちはというと ───── どれも原型を留めていないほどに無惨な姿と成り果てていた。
「い…いったい…どうなってやがるんだ。モルド!どうにかしろ!!」
「うるせぇ!・・・あのクソ女王、ぶっ殺してやる」
明らかな動揺を見せる二人であったが、それを必死になって隠そうと虚勢を張るモルドが武器を構える。
「生きては帰さんと言ったはずだ。後悔も…懺悔すらする時間を与えるつもりはない ───── 死ね」
───── ザンッ!! ───── ザンッ!!
怯えるロッゾとモルドに向けて凍ったように冷たい視線を向けた女王は、その言葉通り二人が殺されたことにすら気付かぬ速さでその首を刎ねたのだった。
こうして圧倒的な力を以ってロッゾたちを皆殺しにした女王であったが、その怒りが収まることはなく、冷たくなったロクサーナを抱き抱えるとリークスに対して二度とパルーナ湖に近づくなと告げる。
それは何もリークスに限ったことではなくトットカ村の住民全員に対してのものであり、村に帰ったらそのことを伝えるようにと厳命し、近づいた者には迷いなく刃を向け決して生かしてはおかないと通告したのだった。
そして、村へと戻ったリークスは女王に言われたことを全住民に伝え、それ以降トットカ村と人魚族の交流は一切無くなり、村人たちは女王の警告を恐れパルーナ湖へ近づくことはなくなったのであった ──────── 。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「フゥ~、これが四百年前に起きたことの全容だ」
事件の真相を話し終えた女王は少し疲れた様子を見せつつ大きく息を吐いた。
その真相を聞いた当初スズネたちは何とも言えない気持ちを抱えたまま発する言葉を見つけられずにいた。
そして、それはスズネたちを取り囲んでいる人魚たちもまた同様であった。
スズネたちは少し落ち着きを取り戻すと思い思いの言葉を口にし始める。
同じ冒険者として恥ずかしいと怒りを滲ませるミリア。
そんな恩知らずどもは焼き払ってしまえと憤るラーニャ。
非道過ぎると嘆くシャムロム。
希少種として同様の事柄が起こりうるエルフ族のセスリーは静かに涙を流す。
そんな中でスズネとマクスウェルは沈黙を破れずにいた。
各々が女王の話に思うところがありつつも、どうしたらいいのか分からず何も出来ずにいた。
しかし、そんな時でもお構い無しにクロノは動く。
「で?どうすんだよ。そんな思い出話なんていいからさっさと拐ったやつを返せ」
語気を強め、先程よりも強い圧を掛けるクロノ。
その言動に対して宿り木と人魚族の双方から非難が飛ぶ。
それでもクロノは引き下がろうとはせず、むしろ他の者たちに苦言を呈する。
「四百年も前の話をいつまでもグダグダ言ってんじゃね~よ」
「魔王…貴様…」
「ホント…アンタにはデリカシーってもんが無いの?」
「そうだよクロノ、もう少し女王様や人魚族の人たちのことも考えてあげて」
「あぁ?そんなものでこいつらは救われるのか?いつまでも過去に囚われているだけじゃ前には進めないって言ってんだよ。おい人魚ババア、お前はどうしたいんだ?」
クロノの問いに顔を上げる女王。
もう遥か昔のことだと頭では理解している。
でも、自分がどうするべきなのかも分からず、今ではヒト族に対し怒っているのかさえも分からなくなってしまった。
そうした想いの中で、長い年月の経過と共に自身の中から怒りの感情が徐々に薄れてはいるものの、それを手放してしまうとロクサーナを失った悲しみも何もかもを失ってしまいそうだと言いながら女王は涙を流したのだった。
その時、やっと先程の話の内容を整理することが出来たスズネが自身の感じたモノを女王に伝える。
「女王様、ロクサーナさんは今の状況を望んでいるのでしょうか?」
──────── !?
「先程の話を聞いて感じたのは、ロクサーナさんが人魚族とヒト族の関係をもっと良くしたいと思っていたということです。そして、トットカ村 ─── リークスさんとの関係はその始まりだったんだと思います」
「ウゥゥッ ───── 」
「その夢は一部の愚かなヒト族によって第一歩を踏み出す前に奪われてしまったけど、その想いを女王様は受け取っていたはずです。だからこそ、ロクサーナさんは最後の最後に最愛の人の腕の中で笑って逝けたんだと思います」
スズネの話を聞き女王を始めマーセルたち人魚も涙を流し、それに共鳴するようにミリアたちの目にも涙が溢れたのだった。
そして、ひとしきり涙を流した女王が口を開く。
「ヒト族の娘よ、そなたの言う通りだ。あの子はいつも人魚族とヒト族を含む他種族との明るい未来を思い浮かべ、そのために全力であった。そのことを…今思い出したよ。ありがとう」
「女王様・・・」
「マーセル、お前たちにも迷惑をかけたね」
「そ…そんな、決してそのようなことはございません」
「魔王よ、捕らえた者たちを解放しよう。しかし、まだ完全にヒト族を信用することは ───── 」
こうして捕らえたヒト族の男性たちの解放を告げた人魚女王。
ロクサーナの想いやマーセルたち若い人魚のことを考えるとヒト族との交流を再開するべきだと理解しているのだが、まだヒト族に裏切られた記憶を完全に払拭することは出来ないため、その一歩を踏み出すことに躊躇してしまう。
そうした女王の想いを察したクロノが一つの提案をする。
「おい人魚ババア、そんなに心配なら貴様ら人魚族をこの魔王クロノの配下に加えてやろう。この湖に強力な結界を張り、お前らに敵意を示した輩にはこの俺が自らその償いを受けさせよう」
「クロノ・・・」
「魔王よ、そなたの申し出は有り難いのだが、それでも ───── 」
「つべこべ言ってね~で受けろ。そうすればお前たち人魚族は俺が全力で守ってやる」
まだ迷いのある女王に対し半ば強引に自らの提案を承諾させようとするクロノ。
「わ…分かった。そなたの申し出、人魚族を代表して私が受けよう」
こうして人魚族は魔王クロノの配下に加わることとなった。
これによって人魚族はクロノの庇護下に入ることとなり、ヒト族を始め他の種族もおいそれと手出しが出来なくなった。
そして、クロノは人魚族が自身の配下である証として、パルーナ湖全域に強力な結界を張り、その結界には魔王の紋章が刻まれたのであった。
「あ~それから、ついでにヒト族の王にもこの事を伝えておいてやる。あの王ならわざわざ俺と事を構えるなんて馬鹿な真似はしないだろうからな」
「何から何まですまんな。この恩は一生忘れぬ。そして、貴様に何かあった際には人魚族総出で力になることを誓おう」
「フッ、この俺にそんな時が来るかは疑問だがな。記憶の片隅にでも置いておいてやる」
クロノの機転により今回も何とか無事にクエストを完了させた宿り木。
人魚族から解放された数人の男たちも無事にトットカ村へと帰還した。
もちろんその中には今回の依頼人であるニーナの兄アルベルの姿もあった。
そして、アルベルを家まで送り届けたスズネたちは涙を流してお礼を言い続けるニーナを前にして安堵の笑みを浮かべたのだった。
その後、スズネたちは村長の家を訪れ、人魚女王から聞いた伝承の真実と今回の件について話をした。
そして、話を聞いた村長は四百年前に一度失ったモノを取り戻すため村の代表者たちとパルーナ湖へと出向き、女王を始め人魚族に対して改めて謝罪し、再び手を取り合っていけるように少しずつ交流を再開させていくことを決めたのだった。
─────────────────────────
「はい、これが今回のクエスト報酬よ。みんな今回もご苦労様でした」
今回もなんとかクエストをクリアしたスズネたちは冒険者ギルドへ報告に訪れ報酬を受け取った。
そして、今回のクエストではただクリアしただけではなく、トットカ村と人魚族の関係修復にも微力ながら協力出来た事を嬉しく思うスズネたちなのであった。
そして、周囲をゆっくりと見回すと大きな声を上げて泣くリークスとその腕の中で冷たくなった娘の姿を目にしたのだった。
「何があった?」
ロクサーナの亡骸を囲む人魚たちに対して説明を求める女王。
その問いに一人の人魚が涙を堪えながら答える。
「そこにいるヒト族の冒険者及び数人のトットカ村の住民が協力し我々の捕獲を企て戦闘となりました。奴らの目的は捕獲した我らを闇市で売り捌くことです。そして、戦闘の最中そこにいる男を守るためにロクサーナ様が敵の攻撃により負傷し、つい先程…息を引き取られました」
説明開始当初こそ必死に耐えていた人魚であったが、途中からはその悲しみに耐え切れなくなり、涙を流しながら事の顛末を報告した。
「・・・そうか」
報告を受けた女王は一言そう告げると俯いたまま沈黙したのだった。
すると、その様子を見ていたロッゾが全く心のこもっていない謝罪を始める。
「まぁ~なんだ、手違いだったんだよ女王様。そこのガキを殺そうとしたら急に姫さんが飛び出してきてよ~ ───── だから、今回のことは不可抗力?ってやつだ」
「・・・・・」
「もし処理に困ってるようなら協力するぜ。死体でも人魚族なら剥製にでもすりゃ~そこそこの値で売れそうだからな」
「・・・れ」
「ん?何だって?」
「・・・まれ」
「聞こえね~ぞ。交渉成立か?」
「「「「「 アッハッハッハッハッ 」」」」」
「黙れと言っているんだ。お前らは全員ここから生きては帰さん」
「ハッハッハッ、やれるもんならやってみろ!行くぞ、野郎ども!!」
モルドの号令と共に一斉に女王への攻撃を開始したアンダードッグ。
しかし、彼らの思惑とは裏腹にその攻撃が女王へと届くことはなかった。
「ヒト族の冒険者ごときが、この私の相手になると思うなよ ───── 視界を遮る霧」
女王が魔法を発動させると、突如としてパルーナ湖周辺をすっぽりと覆う霧が発生した。
そして、その霧は途轍もなく濃い濃度をしており、一メートル先すらも見えないほどであった。
この霧の発生によってアンダードッグの面々は混乱し陣形も無茶苦茶になってしまう。
「おい、何だこれは!」
「リーダー、何も見えません」
「一時退却だ。退却して陣形を立て直すぞ。急げ」
「急げって言われても何処に行けばいいんすか?」
─────── ブシャッ。
「ギャーーーーーーッ」
!? !? !? !? !?
「何だ?」
─────── ブシャッ。
─────── グシャッ。
─────── ズシャッ。
「うわぁぁぁぁぁ」
「やめろ…やめろ…やめろーーーーー」
「うぎゃぁぁぁ」
・・・・・。
何かが潰れる音。
誰かが斬られる音。
そして、次々と叫ばれる悲鳴。
それらが続くこと数分の後・・・。
そこに立つ者のはロッゾとモルドの二人だけとなっていた。
その他のメンバーたちはというと ───── どれも原型を留めていないほどに無惨な姿と成り果てていた。
「い…いったい…どうなってやがるんだ。モルド!どうにかしろ!!」
「うるせぇ!・・・あのクソ女王、ぶっ殺してやる」
明らかな動揺を見せる二人であったが、それを必死になって隠そうと虚勢を張るモルドが武器を構える。
「生きては帰さんと言ったはずだ。後悔も…懺悔すらする時間を与えるつもりはない ───── 死ね」
───── ザンッ!! ───── ザンッ!!
怯えるロッゾとモルドに向けて凍ったように冷たい視線を向けた女王は、その言葉通り二人が殺されたことにすら気付かぬ速さでその首を刎ねたのだった。
こうして圧倒的な力を以ってロッゾたちを皆殺しにした女王であったが、その怒りが収まることはなく、冷たくなったロクサーナを抱き抱えるとリークスに対して二度とパルーナ湖に近づくなと告げる。
それは何もリークスに限ったことではなくトットカ村の住民全員に対してのものであり、村に帰ったらそのことを伝えるようにと厳命し、近づいた者には迷いなく刃を向け決して生かしてはおかないと通告したのだった。
そして、村へと戻ったリークスは女王に言われたことを全住民に伝え、それ以降トットカ村と人魚族の交流は一切無くなり、村人たちは女王の警告を恐れパルーナ湖へ近づくことはなくなったのであった ──────── 。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「フゥ~、これが四百年前に起きたことの全容だ」
事件の真相を話し終えた女王は少し疲れた様子を見せつつ大きく息を吐いた。
その真相を聞いた当初スズネたちは何とも言えない気持ちを抱えたまま発する言葉を見つけられずにいた。
そして、それはスズネたちを取り囲んでいる人魚たちもまた同様であった。
スズネたちは少し落ち着きを取り戻すと思い思いの言葉を口にし始める。
同じ冒険者として恥ずかしいと怒りを滲ませるミリア。
そんな恩知らずどもは焼き払ってしまえと憤るラーニャ。
非道過ぎると嘆くシャムロム。
希少種として同様の事柄が起こりうるエルフ族のセスリーは静かに涙を流す。
そんな中でスズネとマクスウェルは沈黙を破れずにいた。
各々が女王の話に思うところがありつつも、どうしたらいいのか分からず何も出来ずにいた。
しかし、そんな時でもお構い無しにクロノは動く。
「で?どうすんだよ。そんな思い出話なんていいからさっさと拐ったやつを返せ」
語気を強め、先程よりも強い圧を掛けるクロノ。
その言動に対して宿り木と人魚族の双方から非難が飛ぶ。
それでもクロノは引き下がろうとはせず、むしろ他の者たちに苦言を呈する。
「四百年も前の話をいつまでもグダグダ言ってんじゃね~よ」
「魔王…貴様…」
「ホント…アンタにはデリカシーってもんが無いの?」
「そうだよクロノ、もう少し女王様や人魚族の人たちのことも考えてあげて」
「あぁ?そんなものでこいつらは救われるのか?いつまでも過去に囚われているだけじゃ前には進めないって言ってんだよ。おい人魚ババア、お前はどうしたいんだ?」
クロノの問いに顔を上げる女王。
もう遥か昔のことだと頭では理解している。
でも、自分がどうするべきなのかも分からず、今ではヒト族に対し怒っているのかさえも分からなくなってしまった。
そうした想いの中で、長い年月の経過と共に自身の中から怒りの感情が徐々に薄れてはいるものの、それを手放してしまうとロクサーナを失った悲しみも何もかもを失ってしまいそうだと言いながら女王は涙を流したのだった。
その時、やっと先程の話の内容を整理することが出来たスズネが自身の感じたモノを女王に伝える。
「女王様、ロクサーナさんは今の状況を望んでいるのでしょうか?」
──────── !?
「先程の話を聞いて感じたのは、ロクサーナさんが人魚族とヒト族の関係をもっと良くしたいと思っていたということです。そして、トットカ村 ─── リークスさんとの関係はその始まりだったんだと思います」
「ウゥゥッ ───── 」
「その夢は一部の愚かなヒト族によって第一歩を踏み出す前に奪われてしまったけど、その想いを女王様は受け取っていたはずです。だからこそ、ロクサーナさんは最後の最後に最愛の人の腕の中で笑って逝けたんだと思います」
スズネの話を聞き女王を始めマーセルたち人魚も涙を流し、それに共鳴するようにミリアたちの目にも涙が溢れたのだった。
そして、ひとしきり涙を流した女王が口を開く。
「ヒト族の娘よ、そなたの言う通りだ。あの子はいつも人魚族とヒト族を含む他種族との明るい未来を思い浮かべ、そのために全力であった。そのことを…今思い出したよ。ありがとう」
「女王様・・・」
「マーセル、お前たちにも迷惑をかけたね」
「そ…そんな、決してそのようなことはございません」
「魔王よ、捕らえた者たちを解放しよう。しかし、まだ完全にヒト族を信用することは ───── 」
こうして捕らえたヒト族の男性たちの解放を告げた人魚女王。
ロクサーナの想いやマーセルたち若い人魚のことを考えるとヒト族との交流を再開するべきだと理解しているのだが、まだヒト族に裏切られた記憶を完全に払拭することは出来ないため、その一歩を踏み出すことに躊躇してしまう。
そうした女王の想いを察したクロノが一つの提案をする。
「おい人魚ババア、そんなに心配なら貴様ら人魚族をこの魔王クロノの配下に加えてやろう。この湖に強力な結界を張り、お前らに敵意を示した輩にはこの俺が自らその償いを受けさせよう」
「クロノ・・・」
「魔王よ、そなたの申し出は有り難いのだが、それでも ───── 」
「つべこべ言ってね~で受けろ。そうすればお前たち人魚族は俺が全力で守ってやる」
まだ迷いのある女王に対し半ば強引に自らの提案を承諾させようとするクロノ。
「わ…分かった。そなたの申し出、人魚族を代表して私が受けよう」
こうして人魚族は魔王クロノの配下に加わることとなった。
これによって人魚族はクロノの庇護下に入ることとなり、ヒト族を始め他の種族もおいそれと手出しが出来なくなった。
そして、クロノは人魚族が自身の配下である証として、パルーナ湖全域に強力な結界を張り、その結界には魔王の紋章が刻まれたのであった。
「あ~それから、ついでにヒト族の王にもこの事を伝えておいてやる。あの王ならわざわざ俺と事を構えるなんて馬鹿な真似はしないだろうからな」
「何から何まですまんな。この恩は一生忘れぬ。そして、貴様に何かあった際には人魚族総出で力になることを誓おう」
「フッ、この俺にそんな時が来るかは疑問だがな。記憶の片隅にでも置いておいてやる」
クロノの機転により今回も何とか無事にクエストを完了させた宿り木。
人魚族から解放された数人の男たちも無事にトットカ村へと帰還した。
もちろんその中には今回の依頼人であるニーナの兄アルベルの姿もあった。
そして、アルベルを家まで送り届けたスズネたちは涙を流してお礼を言い続けるニーナを前にして安堵の笑みを浮かべたのだった。
その後、スズネたちは村長の家を訪れ、人魚女王から聞いた伝承の真実と今回の件について話をした。
そして、話を聞いた村長は四百年前に一度失ったモノを取り戻すため村の代表者たちとパルーナ湖へと出向き、女王を始め人魚族に対して改めて謝罪し、再び手を取り合っていけるように少しずつ交流を再開させていくことを決めたのだった。
─────────────────────────
「はい、これが今回のクエスト報酬よ。みんな今回もご苦労様でした」
今回もなんとかクエストをクリアしたスズネたちは冒険者ギルドへ報告に訪れ報酬を受け取った。
そして、今回のクエストではただクリアしただけではなく、トットカ村と人魚族の関係修復にも微力ながら協力出来た事を嬉しく思うスズネたちなのであった。
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