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紆余曲折

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新たなクエストのためにトットカ村を訪れたスズネたち。
今回のクエストの依頼主であるニーナという女性から詳細を聞き、その流れで村の最年長者である村長から“人魚伝説”について話を聞いたのちさっそく調査を開始した。
そして、調査初日に人魚が住むというパルーナ湖の周辺を見て回ったスズネたち。
その際に湖の中に“何か”の魔力をラーニャが感知したのだが、それが何かまでは突き止めることが出来なかった ───── 。


翌日以降も数日パルーナ湖を訪れたスズネたちであったが、この間も人魚の姿はもちろんのこと魔力反応すら見つけることが出来なかった。
それによりスズネたちは冒険者ギルドなら何かしらの情報があるのではないかという話になり、一度モアの街へ戻ることにした。


─────────────────────────


冒険者ギルドを訪れたスズネたちはさっそくマリの元へ。


「マリさーん」

「あら、どうしたのみんな?」

「あの~今アタシたち人魚関連のクエストを受けてるんですけど、マリさんは人魚について何か情報を持ってたりしませんか?」

「人魚か~・・・そうね、正直に言って私も人魚に関しては噂や伝承の類いのものしか知らないわね」

「そうですか・・・」


頼みの綱であったマリも巷に広がっているくらいの情報しか持ち合わせていないとしり落胆せざるを得ないスズネたちであった。
しかし、ここでマリが慌てた様子で席を外す。


「あっ!?みんなちょっと待っててくれる」

? ? ? ? ? ?

「あっ・・・はい」


席を離れてから十分程の時間が経ちスズネたちがマリの戻りを待っていると、嬉しそうな顔をしたマリが戻って来た。


「みんなお待たせ~」

「何処に行ってたんですか?マリさん」

「ウフフフフ、支部長のところよ。支部長は元Sランクの冒険者だから、私たちが知らない情報を持っている可能性があると思って面会をお願いして来たの」

「えっ!?支部長からお話聞けるんですか?」

「ええ、支部長からOKをもらって来たから支部長室へ案内するわね」


マリの計らいにより冒険者ギルドモア支部の支部長であるリタと面会出来ることとなったスズネたち。
支部長であれば何か知っているかもしれないという期待を胸に支部長室を訪れた。


コンコンコン。

「支部長、マリです。冒険者パーティ“宿り木”を連れて参りました」

「入れ」

「失礼します」


スズネたちの来訪を受け、リタは仕事の手を止める。
今日は何の用だというリタの質問に対して、さっそく人魚について質問をするスズネ。


「人魚か…。俺もそこまで詳しいことは分からね~が、冒険者だった頃に人魚に遭遇したって奴の話を聞いたことはある」

「その話伺ってもいいですか!!」


こうして、スズネたちはリタが以前に別の冒険者から聞いたという人魚の話を聞くことに。
それは湖畔で小休止をとっていた時に突然声を掛けられたというものであった。
初めは急に現れた人魚に警戒していたというが、話をしていくうちにいつの間にか警戒が解かれていたのだという。
そして、そのまま湖に誘い込まれそうになったところを戻ってきた仲間によって救われたそうなのだが、その時その冒険者には強力な魅了の魔法がかけられていたということであった。

その後近くの村に立ち寄った冒険者が聞いたのは、人魚についての恐ろしい話だった。
まず人魚族はヒト族に対して好戦的であるが、狙うのは男性のみであり女性や子供には手を出さない。
それは数百年前に人魚族に刃を向け、当時の人魚姫を殺害した村人や冒険者が全て男性だったからなのだという。
そして必ず獲物が一人でいる時に狙いを定め、奇妙な術を使ったのち深い湖の底まで引き摺り込み鋭い牙や爪で八つ裂きにするとのことであった。


「これで俺が知り得る情報は話した。しかし、これはあくまでも聞いた話であって、それが事実かどうかは分かんねぇ~からな」

「はい。それでも貴重なお話ありがとうございました」


そう言って深々と頭を下げ部屋出ようとしたスズネたちに対して、リタが最後に注告と共にもう一つの情報をくれる。


「おい、お前ら ───── もし仮に人魚が実在した場合、十分に注意しろ。そういえば昔見た伝承によると人魚族は水中における世界最速のスピードをほこるらしいからな。そうなると水中で動きを捉えることは至難の業となるだろう」

「はい。肝に銘じておきます」


こうして新たな情報を得たスズネたちは冒険者ギルドを後にしたのだった。


─────────────────────────


翌日になり改めてパルーナ湖を訪れたスズネたち。
しかし、今回湖畔に姿を現したのはマクスウェル一人であった。
リタからの情報を元に話し合った結果、男性一人でいることによって人魚に接触する可能性が上がるのではないかという結論に至ったからだ。
いつもの防具姿ではなく私服を着たマクスウェルは、湖畔に到着するなり釣り竿を片手に腰を下ろすとさっそく釣りを始める。
そして、他のメンバーたちは離れた位置にその身を隠し、その様子を見守っていた。


「本当にこれで来るんすかね?」

「そんなの分かるわけないでしょ」

「まぁ~今は何が効果的なのかも分からないからね。出来ることを一つずつやっていこう」


スズネたちがそんな話をしている隣でラーニャはいつ人魚の反応があってもすぐに分かるように湖全体に感知魔法の範囲を広げ、その時を待っている。
そして、唯一単独で行動しているセスリーはパルーナ湖周辺で最も背の高い木の上から湖全体を見回し様子を伺う。
しかし、今のセスリーのレベルでは両眼に宿る魔眼の力を持ってしても水中にいる生物の魔力までは捉えることが出来ないのであった。

気持ちも新たにクエストに臨むスズネたちであったが、残念なことにそこから何の進展も無いまま一週間の時を過ごすこととなった。
さすがに一週間もの間何の音沙汰もない状況が続くとメンバーたちにも疲れが見え始める。
それは誰よりも今回のクエストに対して乗り気だったミリアでさえも同じであった。

これ以上の捜索を続けても無駄なのか? ───────

そう思いかけていたスズネたち。
メンバーたちの疲労・焦り・諦めといった様々な感情を乗せた表情を見たスズネは、藁にもすがる思いでクロノに意見を求めた。


「ねぇクロノ、クロノは人魚がいると思う?」


“人魚は実在するのか?”

この質問に対するクロノの答えはとてもシンプルなものであった。


「はぁ?そんなこと知るか」


最後の頼みの綱でもあったクロノから出た“知るか”という言葉を前に全員が意気消沈してしまう。
しかし、クロノの言葉はそれで終わりではなかった。


「人魚がいるかどうかなんて知らん。それでもこの湖には魔力を持った“何か”がいる。それが人魚なのかどうかは分からないが、それだけは確かだ。このまま捜索を続けるかどうかはお前らで決めればいいことだが、諦めるのはそいつの正体を明らかにしてからでもいいんじゃないか」


この言葉によりスズネたちの空気感が一気に変わる。
どんよりした重苦しいものから諦めかけた心に再びやる気の炎を灯した明るく前向きなものへと変化したのだ。
そして、クロノの言葉に後押しされたスズネたちは、パルーナ湖に住まう“何か”の正体を暴くために気持ちを一つに捜索を続けることに。


─────────────────────────


翌日、パルーナ湖には変わらず一人で釣りに勤しむマクスウェルの姿があった。
しかし、待てども待てども何も起きない。


「それにしても、本当になかなか現れんのう」

「しょうがないっすよ。そもそも実在するかも分からない存在なんすから」

「恐らく注意深く状況を観察しているんだろう」

「「「「 えっ!? 」」」」


唐突に放たれたクロノの言葉に反応を見せるスズネたち。


「状況を観察ってどういうこと?」

「そのままの意味だ。仮に人魚族がいるとして、そう易々とヒト族の前に現れると思うか?数百年前はそれによって姫を殺されてんだろ。必要以上に慎重になっていても何らおかしくはない」

「なるほど…それで警戒してなかなか姿を現さないってことなんだね」

「そういうことね!それじゃ、これはアタシたちと人魚族による我慢対決よ」


こうしてスズネたちの中で急遽始まった“宿り木 vs 人魚族”の我慢対決。
意気込むスズネたちの気持ちとは裏腹に何の進展も無いまま三日が経ったその日、とうとうパルーナ湖に変化が起こる。


「ムッ!?これは ───── 」


それは、スズネたちが初めてパルーナ湖を訪れた際にラーニャが感じ取った魔力の反応が再びあったのだ。


「魔力反応があったの?ラーニャちゃん」

「ああ、間違いない。今回は気の所為ではないと断言出来るのじゃ!!」

「キタキタキターーーーーーー」


ラーニャの感知魔法に反応が見つかり、さらに今回は確信を持って間違いないと力強く断言するラーニャの言葉に沸き立つスズネたち。

ニーナの元を訪れてから二週間以上が経ち紆余曲折があった今回のクエストであったが、いよいよここから状況が大きく動き出すのであった。


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