魔王召喚 〜 召喚されし歴代最強 〜

四乃森 コオ

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人魚伝説

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「さぁ~て、今回はどのクエストにしよっかな~」

「久しぶりのクエストだね」


冒険者ギルドのギルドマスターであるメリッサより言い渡された一ヶ月間の冒険者としての活動停止及びその間における奉仕活動を終えたスズネたちは、久しぶりに冒険者ギルドを訪れていた。
そして、久々のクエストを前に心を踊らせる。


「依頼書ってこんなに多かったっすっけ?」

「ひ…久しぶり過ぎて緊張します~」


掲示板の前に立ったスズネたちは、以前よりもかなり増えた依頼書の数に驚かされる。
そして、そんな大量の依頼書の中で一枚の依頼書に目が止まる。
その依頼内容とは、『人魚に拐われた兄を探してほしい』というものであった。


「人魚?」

「なかなか興味深いクエストね」

「って言うか、人魚って実在するんすか?」

「どうなんでしょうか。僕もおとぎ話で聞いたことがあるくらいですね」


子供の頃に読み聞かせでよく使われるおとぎ話の中に“人魚”という存在が出てくるのだが、あくまでもおとぎ話の中だけに登場するものだと思っていたスズネたちは、興味を示しながらも疑問を持たずにはいられなかった。


「え~と・・・どうしよっか?」

「わっちは何んでもよいぞ」

「さ…拐うって、水中に引き込まれるってことなんでしょうか」

「確かに、それは怖いっすね」


“人魚”という不確かな存在とその依頼内容に少々怖気づいた様子を見せるメンバーたちをよそに、溢れ出る好奇心を抑えることが出来ずキラキラと瞳を輝かせる少女が一人。


「アンタたち何ビビってんのよ。人魚よ、人魚!!おとぎ話の中でしか現れることがなかった存在が実在してるかもしれないのよ。本当にいるのなら一度会ってみたいじゃない」

「あはははは、楽しそうだねミリア」

「当たり前でしょ!このクエスト受けるわよ」


“人魚”というワードに心を奪われたミリアに押し切られる形で依頼を受けることになったスズネたち。
依頼書を受付に持って行き受理されると、さっそく依頼人の元へ話を聞きに行くことにしたのだった。


─────────────────────────


そこはモアの街と王都メルサの間にある村の一つトットカ村。
そして、この村に住むニーナという女性が今回の依頼人である。
スズネたちはトットカ村に到着するなり、その足で依頼人の家を訪れていた。


「初めまして、私たちは冒険者ギルドより参りました冒険者パーティ“宿り木”といいます。私はリーダーのスズネ。今回の依頼について詳しい話を聞くためにやって来ました」

「あっはい、わざわざお越し頂きありがとうございます。私が今回依頼を出させて頂きましたニーナです」


スズネたちはひと通り自己紹介を済ませるとさっそく依頼についての話を聞くことにした。

ニーナの話では、ニーナには五つ年上のアルベルという兄がおり、仲良く二人で暮らしていたのだが、その兄アルベルが三日目に消息を絶ったとのこと。
そして、消息を絶つ数週間前に近くの湖へ釣りに出掛けたアルベルから人魚に会ったという話を聞かされたのだという。
それからというもの釣りに出掛けて帰ってくるといつも美しい人魚との話を聞かされ、消息を絶ったその日もいつものように釣りに出掛けて行ったのだが、いつになっても帰って来なかったため心配になり湖まで迎えに行ったが兄の姿は見当たらなかった ───── 。


「う~ん。今の話を聞いただけでは何とも言えないわね」

「そうっすね。人魚の存在もお兄さんの証言のみで本当にいたのかどうかも分からないっすからね」

「単なる誘拐って可能性もあるのかな?」

「その可能性は低いのではないでしょうか。仮に誰かに誘拐されていたとして、三日間も何の音沙汰もないというのは不自然です」

「や…やっぱり人魚の仕業なんじゃないですか」

「それは何とも言えませんね」


話を聞いた上で何の確証も得ることが出来ず、スズネたちが頭を抱えていると恐る恐るニーナが口を開いた。


「あの~人魚に関してでしたら、この村に昔から伝わる人魚にまつわる伝説があるらしいです」

「人魚にまつわる伝説?その話、もう少し詳しく聞かせて下さい」

「いえ、私はその伝説について何も知らなくて、この村の最年長者である村長なら何か知っているかもしれません」

「分かりました。それじゃ村長さんのところへ行って、その人魚の伝説について話を聞いてみますね」

「はい、お願いします」


こうしてニーナに別れを告げたスズネたちは、トットカ村に伝わる人魚伝説について話を聞くために村長の家へと向かった。


ドンドンドン。

──────── ガチャッ 。


「どちら様ですか?」

「すみません。私たちは冒険者をしている者なんですが、先日この村に住むアルベルさんという方が消息を絶ったということで、その捜索のために冒険者ギルドより参りました。その捜索のため、村長さんに人魚伝説についてお話を伺いたくて来ました」

「おやおや遠いところからよくぞお越し下さいました。立ち話も何ですから、どうぞ中にお入り下さい」

「はい、ありがとうございます」


村長の家を訪れたスズネたちは、到着して早々人魚伝説について話を聞くことに。


「人魚伝説でしたかな、またそんな古い話をよくご存知で」

「いえ、アルベルさんの妹のニーナさんから聞いて来たんです」

「なるほど。私も昔から語り継がれているものを知っているだけで実際には見たこともありませんが、よろしいですか?」

「はい、お願いします」


こうしてスズネたちを前に腰を下ろした村長は、ひと息ついたのち人魚伝説について話し始めた。


「人魚たちは古くからここトットカ村の近くにある“パルーナ湖”という湖に住んでおり、湖で溺れた村人を助けたり、漁師たちの追い込み漁を手伝ったりと村の住民たちと友好関係にあったそうです。しかし、ある時生きた人魚の生肉に“不老不死”の効果があるという噂が立ち、欲に溺れた冒険者たちが一部の村人たちと結託し人魚を捕らえようとしたのです。そして、その際に捕獲をやめるように話をしに来た人魚族の姫を誤って殺してしまい、それに激怒した人魚女王マーメイドクイーンが村人や冒険者たちを次々と湖へと引き摺り込み皆殺しにしたのです。それ以降トットカ村と人魚族の交流はなくなり、村人たちも怖がって湖に近づかなくなったとのことです」


村長から聞かされた人魚伝説の内容に対して行き場のない感情が込み上げてきたスズネたちは言葉を失ってしまう。
そして、欲に塗れたヒト族の暴挙によってそれまでに築き上げてきた人魚族との信頼を裏切り、傷つけたということに同じヒト族として申し訳ない気持ちが溢れ涙を拭うスズネ。
その様子を見ていた村長はそっと優しく微笑みかける。


「ホッホッホッ、あなた方が心を痛めることはありません。今の話はもう数百年も前の話。近頃では、そういった伝承もただのおとぎ話となりつつあります」


近年では人魚を恐れる者も少なくなり、若者たちの間ではパルーナ湖で釣りをしたり、湖水浴をする者も増えていると話した村長の表情はどこか寂しそうであった。
そして、今回アルベルが人魚に会ったと話したのち湖で消息を絶ったと聞き、数百年の時が経った今もなお人魚族の怒りは収まっていないのだと痛感したという。
村に伝わる人魚伝説の全てを話し終えた村長は、最後にスズネたちの身を心配し注告を口にした。


「冒険者の方々、あなた方もまだ若い、悪いことは言わんからあの湖には近づかずに早く帰った方がええ」

「村長さん、ご心配ありがとうございます。でも、私たちも冒険者ですから一度引き受けた依頼を途中で投げ出すわけにはいきません。それにこう見えて私たち結構強いんですよ」


村長からの注告に感謝しつつも冒険者としてのプライドと覚悟を見せるスズネたちなのであった。


─────────────────────────


村長から人魚伝説の話を聞いたスズネたちは、今後の方針について話し合いを始める。


「いや~なんか人魚族が受けた仕打ちに心が痛くなったよ」

「確かに可哀想ではあったっすけど、伝承を聞いても人魚が実在するかどうかは分からなかったっすよね」

「僕も同感です。そもそも何故急に村人を拐うようなことをしたのか、その理由が分かりません。本当に存在しているのかも疑わしく思います」


話し合いの中で人魚について否定的な意見が並ぶ中、その存在を諦めきれないミリアは絶対に見つけ出すと意気込むのであった。
そして、なかなかまとまらない話し合いに区切りをつけるべく、スズネがとりあえず一度現場を見に行ってみようと提案し、一同はパルーナ湖へと場所を移したのだった。


──────── パルーナ湖 ────────


パルーナ湖に到着したスズネたちは、まずその湖を含めた景色の美しさに目を奪われ言葉を失う。
そして、湖周辺をひと通り見た回ったのだが、何の手掛かりも得ることは出来なかった。
やはり人魚など存在しないのかと思われたが、ここでラーニャが何かに気づく。


「ムッ?なんじゃ?」

「どうかしたの?ラーニャ」

「いや、今一瞬湖の中に魔力を感じたような気がしたんじゃが」

「ホント!それって人魚?」

「いや、本当に一瞬であって今はもう何も反応が無いんじゃ」

「気の所為なんじゃないっすか?」

「う~ん、そうなのかのう・・・」


一瞬のことで本当に魔力反応があったのかどうかも分からず、気の所為ではないかというシャムロムの言葉に首を傾げるラーニャなのであった。


「いや、気の所為ではない。一瞬ではあったが確かに魔力反応が見られた」


突然口を開いたクロノの言葉を聞き、本当に人魚がいるのかもしれないと騒ぎ立つスズネたち。
そして、クロノはラーニャに対して言葉を続ける。


「おいラーニャ、お前の魔力感知はどんどんその感度も高くなってきている。その力に不安を感じる必要などない。もっと自信を持て」


クロノから魔法の修行を受けるようになってからというもの、一日たりとも鍛錬を欠かしたことのないラーニャ。
しかし、あまりにも一瞬の出来事であったため自身の感覚に不安を覚えていたのだが、クロノに褒められたことによりその不安は一気に吹き飛び、満面の笑みを浮かべ喜びを表したのだった。
そして、そこから何か人魚に関する手掛かりが得られるかと思われたが、それ以降湖に何の反応も見られずスズネたちはこの日の調査を終了したのであった。



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