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天国と地獄(中編)

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「クロノ様、わたくしと結婚して下さいませ」

「はぁ?誰だよ、お前。目障りだからさっさと失せろ」


ルナ姫からの突然の求婚に対して全く興味を示すことなく、いつものように冷たい視線を向けて邪険に扱うクロノ。
そして、その様子を見ていた大臣がルナ姫の言動とクロノの対応に激怒したのだった。


「ルナ様、何ということを言い出すのですか!この者がどういった輩なのかご存知なのですか?我々ヒト族を始めあらゆる種族に対し暴虐非道を繰り返す魔族を統べる王なのですぞ!!」

「そんなことは存じ上げておりますわ。しかし、クロノ様がこちらの領地にお越しになられてからそのような行いを一切していないという報告も受けております」

「そ…それは、そうなのですが…。しかし、いつ何時その本性を現すか分かったものではありません。それから魔王クロノ、貴様我らガルディア王国の第一王女であるルナ様に対して何たる言動。万死に値する!!」

「相変わらずギャーギャーうるせぇジジイだな。こいつが誰かなんて俺には関係ねぇ~んだよ。まぁ~れるもんならってみろよ、お前らごときにそれが可能であるならな」


以前にも似たような光景を見たような ──────── 。
もはや定番と化した二人のやり取りにツッコむ者などいない。


「クッ…魔族風情が調子に乗りよって ───── 陛下、よろしいのですか!!」

「クハハハハ、まぁまぁ落ち着け。ルナ、それは本気なのかい?その言葉の意味もちゃんと理解しているんだろうね」

「はい、お父様。私は本気です!そして、私がそれを発する意味も理解しているつもりです」


レオンハルトの問い掛けに真剣な眼差しを向け、自分の意思を告げるルナ。
その姿を見たレオンハルトは、数秒の間瞳を閉じて一息吐いたのち、優しい表情を見せて口を開いた。


「フゥ~、まぁ~良いだろう。そもそもお前一人でどうこう出来ることでもないしな。せいぜい頑張ってくれ、クロノ殿」


そう言って不敵な笑みを見せた国王レオンハルトは、この問題の全てをクロノに丸投げしたのであった。
当然クロノは不満を露わにする。


「おい!勝手に進めんなよ。俺は何もしねぇ~からな」

「はい。全て私がして差し上げますので、クロノ様は何も心配しなくて大丈夫ですからね」


父であるレオンハルトから許可が出たことで満面の笑みを見せたルナは、人目も憚らずクロノの右腕にその身を寄せたのだった。


「おい、離れろ!!」

「フフフフフッ、そんなに照れないで下さい」


クロノはかなり迷惑そうにしながら、腕にくっついているルナを振り払おうとする。
しかし、そんなクロノの対応にも、何故か嬉しそうな表情を見せるルナなのであった。
その様子に圧倒され呆然と眺めていたスズネたちであったが、大臣と同様にこの状況を黙って見過ごせない人物が“宿り木”の中にもいたのだった。


「コ~~~ラ~~~、お主何を気安く旦那様に抱きついておるのじゃ!旦那様は、『わっちの』旦那様なのじゃ。さっさと離れぬか!!」

「あらあら、他にもクロノ様の魅力がお分かりになる方がいらっしゃったのですね。私たち仲良くなれそう。これから一緒にクロノ様をお支えしていきましょうね」

「おっ…おっ…?何じゃ、何じゃ?」


クロノを取られてしまうと思い、怒りの衝動を抑えることが出来ずルナに詰め寄るラーニャであったが、敵意を剥き出しにしていったにも関わらず自身の手を取り満面の笑みを向けてくるルナに困惑した様子を見せたのだった。
そして、この問題の当事者であるクロノはもはや自分には関係ないという態度を見せつつ、さっさと終わらせろと言いたげな表情と視線を国王へと向けた。


「ハハハ、そう睨んでくれるなクロノ殿。ルナもそろそろ離れなさい。今日はあくまでも魔人の討伐及び魔人事件の解決に対する礼のために呼んだのだからな。褒賞の授与も終えたことであるから、ここらでお開きとしよう」


こうして魔人討伐における褒賞の授与が完了し、国王レオンハルトがスズネたちに最後の言葉を送る。


「それでは冒険者パーティ“宿り木”よ、これからもガルディア王国のために尽力してくれ。───── それからクロノ殿、ルナは希少な光属性の使い手でもあるからな、其方の役に立てることもあると思うぞ」

「だからなんだってんだよ、俺には関係ない。そもそもこんな奴の力など借りなくても俺は最強だ」


イタズラっぽく笑いながら部屋を出ていく国王に対し、不満気な表情を向けるクロノなのだった。

こうして国王より褒賞をして金貨百枚を授与されたスズネたちは心弾ませながら王城を後にしたのだが、ルナだけは最後までクロノを引き止めようと必死に抵抗したものの、ラーニャによって阻まれ泣く泣くスズネたちの出発を見送ったのであった。


─────────────────────────


~ 翌日 ~

王都メルサへ赴き国王レオンハルトより魔人討伐の功績を認められ褒賞を与えられたスズネたちは、朝から受け取った金貨の使い道を話し合っていた。
そこで今後の活動のことも考え、無駄な消費は控えていこうということになった。
しかし、今回パーティとしての頑張りがあったことも事実。
そういったことも踏まえて、メンバー全員の装備だけは一新することに決めたのだった。
そして、褒賞をどうするかが決まったものの、装備の一新にしてもこれからすぐにというわけではないため、とりあえず今日も冒険者ギルドへと行くことにした。


───── 冒険者ギルド ─────


「今日はとりあえず掲示板の確認だけでいいよね」

「そうね、ちょっと数日くらいは休みたいわ」

「あはははは、そうだよね。みんなもそれでいい?」


スズネの問い掛けに全員が笑顔で頷き、数日間の休暇に同意を示した。
そして、ギルド内にある大きな掲示板の前に立ち、スズネたちが現在掲示されている依頼書に目を通していると後方からマリが声を掛けてきた。


「“宿り木”のみんな~~~」

「あっ!マリさん、こんにちは」

「ちょうど良かった。みんなの話があったのよ」

「えっ!?私たちにですか?」

「そうそう、あなたたち魔人事件を解決したんでしょ。それが冒険者の間でも話題になっていて、どうやらギルド本部にいるギルドマスターの耳にも入ったみたいなの」

「それが何か?」

「それで、どうやらギルドマスターが“宿り木”を本部に呼んでいるみたいなの。その通達がさっきモア支部に送られてきたのよ」

「それじゃ、アタシたちはギルド本部へ行けばいいんですか?」

「そうね。魔人との戦闘の後で疲れてるとは思うんだけど、急いで冒険者の街リザリオにある冒険者ギルド本部へ向かってちょうだい」


こうして数日間はゆっくりするつもりでいたスズネたちであったが、急遽冒険者ギルド本部がある冒険者の街リザリオへと向かうことになったのだった ───── 。

まずモアの街から馬車に乗り一度商人の街ロコンへ行き、そこから別の馬車に乗り換えて中間都市ギャシャドゥルを経由し、冒険者の街リザリオを目指す。


「はぁ~せっかくのんびり過ごすつもりだったのに~」

「まぁまぁ、いいじゃないミリア。冒険者の街リザリオには一度行ってみたかったし」

「ウチは何度か行ったことがあるっすけど、本当に冒険者だらけの街っすよ」

「ぼ…冒険者だらけの街・・・。私は少し怖いです」

「まぁ~冒険者ギルド本部もありますからね。荒れているということはないでしょう」

「ZZZ…ZZZ…ムニャムニャ…」


シャムロム以外のメンバーは初めてリザリオの街に行くということで、少し緊張しながらもワクワクした心持ちでいた。
そして、話題はギルドマスターに呼び出された理由へ ────── 。


「それにしても、なんでギルド本部に呼ばれたのかな?」

「本当にそうっすよ。事情聴取ならギルド支部長がやればいい話っすからね。わざわざギルドマスターが直々にっていうのは聞いたことがないっす」


シャムロムの言う通りである。
魔人事件に関する話を聞くだけであるならモア支部にいる支部長リタが行えば済む話である。
しかし、今回はそれでは不十分だと判断されギルドマスターが自ら出てくるというのは珍しいことであり、ましてやCランクの低ランク冒険者の前に姿を現すというのは異例中の異例なのであった。
そんな事態を前に不安が募るスズネたちであったが、その様子に不敵な笑みを見せる者がいた。


「フフッ、フッフッフッフッフッ」

「ど…どうしたんですか?ミリア」

「本当、気持ち悪いっすよ」

「アンタたち何も分かってないわね。昨日、何のために王城に呼ばれたのか忘れたわけ?」

「えっ!?まさか・・・」

「そのまさかよ!きっとギルドマスターも今回のアタシたちの頑張りに対して何かしらの褒賞を用意しているのよ。そして、冒険者にとっての褒賞と言ったら ───── 」


──────── ゴクリッ 。


ミリアを除く全てのメンバーが生唾を飲み込み、その口から発せられる言葉に注目する。


「それは ───── ランクアップよ!今回の魔人討伐の功績を受けて一気にBランクに昇格!!これしかないわ」


ミリアによる衝撃的な考察に驚きを見せたスズネたちであったが、このミリアの考察はすぐさまマクスウェルによって否定される。


「いや、それは無いでしょう」

「はぁ?なんでよ」

「そもそも魔人を討伐したのはクロノです。はっきり言って僕たちは何一つとして魔人に迫ることが出来なかった。あのまま続けていたら間違いなく全滅していたでしょう。そんな実力も無い者たちを昇格させるとは考えられません」


あまりにも説得力のあるマクスウェルの考えに全員が沈黙する。
それは先程まで自信満々に話をしていたミリアも同様であった。


「はぁ~そりゃそうよね。でも、何かしらのご褒美くらいはあるんじゃ無いかしら。じゃないとわざわざリザリオまで呼ばないわよ、きっと」

「まぁ、行ってみたら分かることだし、とりあえずギルド本部でギルドマスターに会ってみよう」


こうして馬車を乗り継ぎ冒険者の街リザリオへと到着したスズネたち。
そして、街に入るなり多くの冒険者たちの姿を目の当たりにし、その整えられた装備と冒険者たちが放つオーラに圧倒されるのだった。


「なんか強そうな人ばっかりだね」

「うっ…私は、もう帰りたいです」

「何言ってんのよ。こういうのはビビったら負けよ。同じ冒険者なんだから堂々としてりゃいいのよ」


クロノが同行しているということもあり、街中の冒険者からの視線を浴びるスズネたち。
王宮と冒険者ギルドによって現状魔王クロノへの手出しが原則禁止されていることもあり、冒険者たちが何かをしてくるということはないが、ヒリヒリとした視線だけは四方八方から向けられている。


「クッ…雑魚どもめ、旦那様に殺気を飛ばしてくるとは・・・この街ごと消し飛ばしてやろうか」

「止めとけ。お前の言った通り雑魚ばかりだ。今はそんなものに構っている暇はない。さっさと行くぞ」

「はい!なのじゃ」


街中の視線など意に介すことなくスタスタと歩みを進めるクロノ。
それに習いスズネたちも冒険者ギルド本部へ向けて足を早めたのだった。


─────── 冒険者ギルド 本部 ───────


冒険者ギルドに到着したスズネたちが受付に行くと、待っていたと言わんばかりにスムーズな対応がなされ、すぐに受付嬢に連れられてギルドマスターの待つギルド長室へと案内されたのだった。


コン、コン、コン ────── 。


「誰だ」

「受付のセリアです。冒険者パーティ“宿り木”をお連れしました」

「入れ」


ガチャッ ─────── 。


ギルド長室に入り、事務作業をしているギルドマスターの机の前に並び立ったスズネたち。
数秒待ったのち、作業の手を止めたギルドマスターがスズネたちへと視線を向ける。


「お前たちが“宿り木”か」


こうしてスズネたちはついに全冒険者ギルドの頂点に立つギルドマスターと対面したのであった。


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