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得意の近接戦闘において体術・剣術の両方でクロノに圧倒的な実力差を見せつけられた魔人。
そして、追い詰められた魔人はとうとう持てる力の全てを解放したのだった。
これまでに取り込んだ魔獣たちの能力をフル稼働させ、背中に生えた大きな翼を羽ばたかせ宙を舞いながらクロノへと視線を向ける。
バサッ ─── バサッ ─── バサッ ─── 。
「おいおい、散々やられといて随分と高い所から見下ろしてくれんじゃねぇ~か」
「クックックッ、貴様の減らず口もここまでだ。全ての力を解放しフルパワーとなった魔人の力は、この私でさえもどれ程のモノになるのか想像すら出来ん。そのご自慢の剣もろともその身を粉々にしてくれるわ」
自身が創り上げた魔人のフルパワー状態に相当自信があるのか、これまで以上に強気な姿勢を見せるメイニエル。
そして、その姿勢が伝わったのか、不敵な笑みを見せたかと思うと大きな両翼を羽ばたかせた魔人がノーモーションでクロノに突進する。
ブワァサッ ────── フォンッ 。
これまでの突進でさえも凄まじいスピードであったが、地面を蹴りつける必要もなく、初速から最高速度に到達出来ることより受ける側の体感速度は比にならないものであった。
しかし、そのスピードをもってしてもクロノに傷を負わせることは出来ない。
宙を舞い、四方八方から攻撃を繰り出す魔人であったが、その全てを躱されてしまう。
魔人のスピードについていけていないスズネたちには、ただクロノが華麗に舞い踊っているようにしか見えなかった。
「ねぇ…アレって戦ってんのよね?」
「まるで踊ってるみたいっす」
「そのようですね…僕たちには速過ぎて魔人の姿を捉えきれていませんが、クロノにはしっかり見えているようです」
「でも、さっきから躱してばかりで防戦一方だよ」
「ムムム~、旦那様を援護したいのじゃが、今のわっちではどうにもならん」
戦況を見守るスズネたちが心配そうにしていると、その視線から察したクロノが呆れた様子で声を掛ける。
「おい、お前ら程度の実力で俺の心配なんざ百年早ぇ。そんな暇があったらしっかり見て学べ」
そう言うと、クロノは静かに剣を構えたのだった。
フォンッ ─── フォンッ ─── フォンッ ─── 。
姿は見えないものの魔人が風を切る音だけは地下の空間に響き渡っている。
そして、ただ闇雲に突っ込むだけではクロノに通用しないと理解した魔人は、高速で移動しながらそのチャンスを伺っていた。
「学べって言われても、アタシたちには魔人の姿すら見えてないのにどうしろっていうのよ」
「でも、クロノがわざわざ言うってことは何か意味があるんだよ」
「・・・。以前クロノに言われたことがあります。視覚にばかり頼るな。目に映るものが全てだと思い、それにばかり気を取られていると相手のレベルが上がった時に足元をすくわれる ───── と」
「視覚に頼らず?目を閉じろってことっすか?そんな状態で敵と戦うんすか?もう、訳が分かんないっす~~~~~」
「お…恐らく相手の気配や息遣い、放たれる殺気などから相手の位置や攻撃のタイミングを計る ───── ということではないでしょうか」
!? !? !? !? !?
ここで魔人からの攻撃を受けて気を失っていたセスリーが意識を取り戻す。
スズネたちはセスリーの無事を確認し、ひと安心した様子を見せたのだった。
「セスリー!!良かった~意識が戻ったんだね」
「アンタね~心配かけさせないでよ。それにしても、ホント良かった~」
「も~う、マジで心配したんすからね。本当に良かったっす~~~」
「ホッ、何はともあれ無事で良かったのじゃ」
「本当に良かったです。そして、クロノが言いたいのは先程セスリーが言ったことで合っていると思います。僕自身、先程の戦闘において視覚以外の感覚があったような気がします」
マクスウェルは先程の魔人との戦闘中に、自身の心を落ち着かせ一振りで魔人の右腕を斬り落とした時の感覚を呼び起こしていた。
その時に無意識の中で魔人の気配や殺気といったモノを感じ取り、そのまま攻撃へと転じた感覚が残っていたのだ。
「わ…私も森で狩りをしている時、動物たちの気配からその行動を予測していたので、それに近いモノだと思います。しかし、動物と魔人では全くの別物ですので、言葉で言うほど簡単なことではないでしょう」
セスリーの説明を聞き何となく理解することが出来たスズネたちであったが、いざそれを実践で行うと考えるとまだまだ自分たちのレベルが低いということを実感せざるとを得ないのであった。
そうこうしているうちに魔人による攻撃が開始され、高速で動きながら次から次へと黒炎弾を連発する。
その全てを切り伏せたクロノであったが、それによってクロノの周りに爆煙が巻き起こる。
そして、このチャンスを逃すまいと魔人が背後から襲い掛かった。
ブウォン ─────── 。
死角から猛スピードで迫り、さらに強化された鋭い爪でクロノの首を切り裂こうと四本の腕を振りかぶる。
しかし、この魔人による渾身の一撃すらもあっさりと躱されてしまう。
そして、魔人の攻撃を躱わすと同時にクロノは素早い構えから一気に剣を振り下ろしたのだった。
フォンッ ─────── スカッ 。
「遅い」
───────── ザン!!
ブシュッ ──────── ズザザザザ~~~ ────── 。
それはまさに一瞬の出来事であった。
素早い動きで魔人の攻撃を躱したクロノが勢いよく剣を振り下ろすと、魔人はその大きな両翼を失い、地面に顔面から突っ込み十メートル程進んだ所でようやく停止したのだった。
「クッ…化物め。おい、さっさと起きろ!ザザ」
「ヴゥゥゥゥ」
メイニエルの圧力を受けてゆっくりと起き上がった魔人。
しかし、その表情はもはや戦意を喪失しているように見える。
「まだだ!こうなったら最大出力のパワーで叩き潰せ!!」
「終わりだ」
一言そう口にしたクロノは、その手に持っていた剣を異空間収納へと戻した。
「貴様~どういうつもりだ」
「どうもこうもねぇ~よ。これ以上は時間の無駄だ。あいつらにもある程度の戦い方は見せられたしな。───── だから、お前らとのお遊びもここまでだ」
「お遊び…だと…?調子に乗るなよ、魔族風情が!フルパワーとなった我が魔人と素手でやり合う気か」
「はぁ?最初にお前が言ってただろ?お前らのいう魔法師ではないが、俺は魔法が得意なんだよ」
ニヤリと笑みを浮かべたクロノが魔法を展開する。
それを見たメイニエルが慌てて魔人に指示を出すが、時すでに遅し ───── 。
再び両翼を広げて宙を舞う魔人の頭上・左右・そして両足下に黒い空間が現れる。
「拘束する鎖」
突如現れた五つの黒い空間から紫色をした闇の魔力を帯びた鎖が飛び出し、一瞬の内に魔人の首・両手首・両足首が拘束されたのだった。
「ヴゥゥ ───ヴゥゥゥゥ ─── 」
ガシャン、ガシャン、ガシャン。
懸命に鎖を引き千切ろうとする魔人であったが、その人知を超えた力をもってしても鎖による拘束を解くことは出来なかった。
「無駄だ。お前程度のレベルでどうにか出来るほど柔なモノではない」
「おい、さっさとそんな鎖くらい引き千切らんか。本当にお前は、いつもいつもいつもいつも ───── 」
ムシャクシャした様子のメイニエルは頭を掻きむしりながら悔しさを露わにする。
そのことからメイニエル自身もここから巻き返す策が無いことを察しているようであった。
そして、次の瞬間その場にいる者たちが思いもよらない行動に出る。
「頼む、止めてくれ…私たちの悲願なんだ…。息子を…ザザを殺さないでくれ…」
「何よアイツ、これまで散々な事をしておいて今更虫が良すぎるわよ」
追い詰められたメイニエルは、クロノに対し頭を下げて魔人を殺さないように懇願する。
そして、その言葉と行動にミリアを始め他のメンバーたちも怒りを覚えたのだった。
「でも、魔人って殺せるんすか?何をやっても再生してしまうような相手を一体どうやって・・・」
「そ…そうだ!何をやっても魔人を殺すことなど出来はしない。魔王クロノよ、取り引きをしよう。これからは王国の人間には手を出さない。だから、その代わりに今回は見逃してくれ。頼む」
これまでありとあらゆる攻撃によって受けた損傷を全て元通りに再生してきた魔人。
その事を交渉材料としてこの場を乗り切ろうと考えたメイニエルであったが、クロノはその言葉に一切耳を貸さなかった。
そして、黙ったまま魔人と向き合うクロノ。
その場にいた全員、クロノが何をしようとしているのか分からなかったが、この戦いを終わらせようとしていることだけは理解出来た。
「クロノ!!」
その光景に堪らず声を上げるスズネ。
しかし、そんなスズネの声にさえもクロノは反応を見せなかった。
「どうしたい?」
「・・・」
「お前に聞いてるんだ。魔人…いやザザ、お前はどうしたい?」
ここで一つの奇跡が起きる。
なんと、完全に自我を失ったと思われていたザザの意識が一時的に戻ったのである。
そして、ザザは涙を流しながら一つのお願いをしたのだった。
「ゴロジデ…。モウ、ダレモギズヅゲダグナイ…。ダガラ、ゴロジデ…」
「本当にそれでいいんだな」
再度確認のために質問したクロノに対して、ザザは満面の笑顔で応えたのだった。
「いいだろう。お前の願い、この魔王クロノが叶えてやろう」
笑みを浮かべたままそっと瞳を閉じたザザ。
これまでの悪夢のような日々から解放されると思い、少年だった頃のままの無邪気で優しい顔をしている。
「止めろ…止めろーーーーー」
「次に生まれ変わった時には幸せになれよ ───── 漆黒洞」
クロノによって放たれた魔法は、これまでのモノと違い決して派手なモノではなかった。
鎖に繋がれた魔人の前に拳大の黒い球体が現れたかと思うと、五メートル近くある魔人の巨体が渦のように呑み込まれていき、一瞬でその姿は跡形もなく消えたのだった ───── 。
─────────────────────────
魔人を失ったメイニエルは全てを失い、その消失感から崩れ落ちた。
そして、この戦いに勝利したはずのスズネたちの顔にも笑顔はなく、たった一人の少年すらも救うことが出来なかったという自分たちへの無力さに打ちひしがれていた。
ミリアとマクスウェルは内から溢れ出る悔しさを押し殺し、メイニエルが逃げぬように縄を使い捕縛を進め、ラーニャとシャムロムは大粒の涙を流しながらセスリーの胸の中で泣きじゃくっている。
そして、スズネはというと ───── そっとクロノに寄り添い、その広く大きな背中に顔を埋めて静かに涙を流していた。
それを黙って受け入れるクロノは、ただただザザが消えたその場所を見つめ続けていた。
こうしてガルディア王国を襲った“魔人事件”は人知れず静かに幕を閉じたのであった。
そして、追い詰められた魔人はとうとう持てる力の全てを解放したのだった。
これまでに取り込んだ魔獣たちの能力をフル稼働させ、背中に生えた大きな翼を羽ばたかせ宙を舞いながらクロノへと視線を向ける。
バサッ ─── バサッ ─── バサッ ─── 。
「おいおい、散々やられといて随分と高い所から見下ろしてくれんじゃねぇ~か」
「クックックッ、貴様の減らず口もここまでだ。全ての力を解放しフルパワーとなった魔人の力は、この私でさえもどれ程のモノになるのか想像すら出来ん。そのご自慢の剣もろともその身を粉々にしてくれるわ」
自身が創り上げた魔人のフルパワー状態に相当自信があるのか、これまで以上に強気な姿勢を見せるメイニエル。
そして、その姿勢が伝わったのか、不敵な笑みを見せたかと思うと大きな両翼を羽ばたかせた魔人がノーモーションでクロノに突進する。
ブワァサッ ────── フォンッ 。
これまでの突進でさえも凄まじいスピードであったが、地面を蹴りつける必要もなく、初速から最高速度に到達出来ることより受ける側の体感速度は比にならないものであった。
しかし、そのスピードをもってしてもクロノに傷を負わせることは出来ない。
宙を舞い、四方八方から攻撃を繰り出す魔人であったが、その全てを躱されてしまう。
魔人のスピードについていけていないスズネたちには、ただクロノが華麗に舞い踊っているようにしか見えなかった。
「ねぇ…アレって戦ってんのよね?」
「まるで踊ってるみたいっす」
「そのようですね…僕たちには速過ぎて魔人の姿を捉えきれていませんが、クロノにはしっかり見えているようです」
「でも、さっきから躱してばかりで防戦一方だよ」
「ムムム~、旦那様を援護したいのじゃが、今のわっちではどうにもならん」
戦況を見守るスズネたちが心配そうにしていると、その視線から察したクロノが呆れた様子で声を掛ける。
「おい、お前ら程度の実力で俺の心配なんざ百年早ぇ。そんな暇があったらしっかり見て学べ」
そう言うと、クロノは静かに剣を構えたのだった。
フォンッ ─── フォンッ ─── フォンッ ─── 。
姿は見えないものの魔人が風を切る音だけは地下の空間に響き渡っている。
そして、ただ闇雲に突っ込むだけではクロノに通用しないと理解した魔人は、高速で移動しながらそのチャンスを伺っていた。
「学べって言われても、アタシたちには魔人の姿すら見えてないのにどうしろっていうのよ」
「でも、クロノがわざわざ言うってことは何か意味があるんだよ」
「・・・。以前クロノに言われたことがあります。視覚にばかり頼るな。目に映るものが全てだと思い、それにばかり気を取られていると相手のレベルが上がった時に足元をすくわれる ───── と」
「視覚に頼らず?目を閉じろってことっすか?そんな状態で敵と戦うんすか?もう、訳が分かんないっす~~~~~」
「お…恐らく相手の気配や息遣い、放たれる殺気などから相手の位置や攻撃のタイミングを計る ───── ということではないでしょうか」
!? !? !? !? !?
ここで魔人からの攻撃を受けて気を失っていたセスリーが意識を取り戻す。
スズネたちはセスリーの無事を確認し、ひと安心した様子を見せたのだった。
「セスリー!!良かった~意識が戻ったんだね」
「アンタね~心配かけさせないでよ。それにしても、ホント良かった~」
「も~う、マジで心配したんすからね。本当に良かったっす~~~」
「ホッ、何はともあれ無事で良かったのじゃ」
「本当に良かったです。そして、クロノが言いたいのは先程セスリーが言ったことで合っていると思います。僕自身、先程の戦闘において視覚以外の感覚があったような気がします」
マクスウェルは先程の魔人との戦闘中に、自身の心を落ち着かせ一振りで魔人の右腕を斬り落とした時の感覚を呼び起こしていた。
その時に無意識の中で魔人の気配や殺気といったモノを感じ取り、そのまま攻撃へと転じた感覚が残っていたのだ。
「わ…私も森で狩りをしている時、動物たちの気配からその行動を予測していたので、それに近いモノだと思います。しかし、動物と魔人では全くの別物ですので、言葉で言うほど簡単なことではないでしょう」
セスリーの説明を聞き何となく理解することが出来たスズネたちであったが、いざそれを実践で行うと考えるとまだまだ自分たちのレベルが低いということを実感せざるとを得ないのであった。
そうこうしているうちに魔人による攻撃が開始され、高速で動きながら次から次へと黒炎弾を連発する。
その全てを切り伏せたクロノであったが、それによってクロノの周りに爆煙が巻き起こる。
そして、このチャンスを逃すまいと魔人が背後から襲い掛かった。
ブウォン ─────── 。
死角から猛スピードで迫り、さらに強化された鋭い爪でクロノの首を切り裂こうと四本の腕を振りかぶる。
しかし、この魔人による渾身の一撃すらもあっさりと躱されてしまう。
そして、魔人の攻撃を躱わすと同時にクロノは素早い構えから一気に剣を振り下ろしたのだった。
フォンッ ─────── スカッ 。
「遅い」
───────── ザン!!
ブシュッ ──────── ズザザザザ~~~ ────── 。
それはまさに一瞬の出来事であった。
素早い動きで魔人の攻撃を躱したクロノが勢いよく剣を振り下ろすと、魔人はその大きな両翼を失い、地面に顔面から突っ込み十メートル程進んだ所でようやく停止したのだった。
「クッ…化物め。おい、さっさと起きろ!ザザ」
「ヴゥゥゥゥ」
メイニエルの圧力を受けてゆっくりと起き上がった魔人。
しかし、その表情はもはや戦意を喪失しているように見える。
「まだだ!こうなったら最大出力のパワーで叩き潰せ!!」
「終わりだ」
一言そう口にしたクロノは、その手に持っていた剣を異空間収納へと戻した。
「貴様~どういうつもりだ」
「どうもこうもねぇ~よ。これ以上は時間の無駄だ。あいつらにもある程度の戦い方は見せられたしな。───── だから、お前らとのお遊びもここまでだ」
「お遊び…だと…?調子に乗るなよ、魔族風情が!フルパワーとなった我が魔人と素手でやり合う気か」
「はぁ?最初にお前が言ってただろ?お前らのいう魔法師ではないが、俺は魔法が得意なんだよ」
ニヤリと笑みを浮かべたクロノが魔法を展開する。
それを見たメイニエルが慌てて魔人に指示を出すが、時すでに遅し ───── 。
再び両翼を広げて宙を舞う魔人の頭上・左右・そして両足下に黒い空間が現れる。
「拘束する鎖」
突如現れた五つの黒い空間から紫色をした闇の魔力を帯びた鎖が飛び出し、一瞬の内に魔人の首・両手首・両足首が拘束されたのだった。
「ヴゥゥ ───ヴゥゥゥゥ ─── 」
ガシャン、ガシャン、ガシャン。
懸命に鎖を引き千切ろうとする魔人であったが、その人知を超えた力をもってしても鎖による拘束を解くことは出来なかった。
「無駄だ。お前程度のレベルでどうにか出来るほど柔なモノではない」
「おい、さっさとそんな鎖くらい引き千切らんか。本当にお前は、いつもいつもいつもいつも ───── 」
ムシャクシャした様子のメイニエルは頭を掻きむしりながら悔しさを露わにする。
そのことからメイニエル自身もここから巻き返す策が無いことを察しているようであった。
そして、次の瞬間その場にいる者たちが思いもよらない行動に出る。
「頼む、止めてくれ…私たちの悲願なんだ…。息子を…ザザを殺さないでくれ…」
「何よアイツ、これまで散々な事をしておいて今更虫が良すぎるわよ」
追い詰められたメイニエルは、クロノに対し頭を下げて魔人を殺さないように懇願する。
そして、その言葉と行動にミリアを始め他のメンバーたちも怒りを覚えたのだった。
「でも、魔人って殺せるんすか?何をやっても再生してしまうような相手を一体どうやって・・・」
「そ…そうだ!何をやっても魔人を殺すことなど出来はしない。魔王クロノよ、取り引きをしよう。これからは王国の人間には手を出さない。だから、その代わりに今回は見逃してくれ。頼む」
これまでありとあらゆる攻撃によって受けた損傷を全て元通りに再生してきた魔人。
その事を交渉材料としてこの場を乗り切ろうと考えたメイニエルであったが、クロノはその言葉に一切耳を貸さなかった。
そして、黙ったまま魔人と向き合うクロノ。
その場にいた全員、クロノが何をしようとしているのか分からなかったが、この戦いを終わらせようとしていることだけは理解出来た。
「クロノ!!」
その光景に堪らず声を上げるスズネ。
しかし、そんなスズネの声にさえもクロノは反応を見せなかった。
「どうしたい?」
「・・・」
「お前に聞いてるんだ。魔人…いやザザ、お前はどうしたい?」
ここで一つの奇跡が起きる。
なんと、完全に自我を失ったと思われていたザザの意識が一時的に戻ったのである。
そして、ザザは涙を流しながら一つのお願いをしたのだった。
「ゴロジデ…。モウ、ダレモギズヅゲダグナイ…。ダガラ、ゴロジデ…」
「本当にそれでいいんだな」
再度確認のために質問したクロノに対して、ザザは満面の笑顔で応えたのだった。
「いいだろう。お前の願い、この魔王クロノが叶えてやろう」
笑みを浮かべたままそっと瞳を閉じたザザ。
これまでの悪夢のような日々から解放されると思い、少年だった頃のままの無邪気で優しい顔をしている。
「止めろ…止めろーーーーー」
「次に生まれ変わった時には幸せになれよ ───── 漆黒洞」
クロノによって放たれた魔法は、これまでのモノと違い決して派手なモノではなかった。
鎖に繋がれた魔人の前に拳大の黒い球体が現れたかと思うと、五メートル近くある魔人の巨体が渦のように呑み込まれていき、一瞬でその姿は跡形もなく消えたのだった ───── 。
─────────────────────────
魔人を失ったメイニエルは全てを失い、その消失感から崩れ落ちた。
そして、この戦いに勝利したはずのスズネたちの顔にも笑顔はなく、たった一人の少年すらも救うことが出来なかったという自分たちへの無力さに打ちひしがれていた。
ミリアとマクスウェルは内から溢れ出る悔しさを押し殺し、メイニエルが逃げぬように縄を使い捕縛を進め、ラーニャとシャムロムは大粒の涙を流しながらセスリーの胸の中で泣きじゃくっている。
そして、スズネはというと ───── そっとクロノに寄り添い、その広く大きな背中に顔を埋めて静かに涙を流していた。
それを黙って受け入れるクロノは、ただただザザが消えたその場所を見つめ続けていた。
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