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魔人vs魔王
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「歴代最強だ何だと云われているようだが、それも今日までの話。貴様はここで死ぬのだからな」
「ちょっと頑丈な玩具を手に入れて自分も強くなったつもりか?本物の強さってやつを教えてやるよ」
「戯言を ───── やってしまえ、ザザ!!」
メイニエルの掛け声に応えるように猛スピードでクロノへの突進を開始する魔人。
そして、その様子を心配そうに見つめるスズネたちなのであった。
「って言うか…アイツ大丈夫なの?最強の魔王って言っても、魔法師であるアイツに対して魔人は近接戦闘系よ」
「確かに、いくら歴代最強と云われるクロノといえど、魔法師の弱点でもある近接戦闘ではかなり分が悪いですね」
「きっと…大丈夫だよ。クロノなら…きっと ───── 」
ドーーーン。
両者が激しくぶつかり合う。
勢いをつけて肩から突っ込みタックルを仕掛けた魔人であったが、クロノは左手を大きく広げ前方に伸ばすと、これを左腕一本で受け止めた。
まさかの出来事に驚いた表情を見せた魔人がそこからさらに力を込めるがビクともしない。
ここで力勝負を諦めた魔人が攻撃手段を打撃に変える。
力いっぱい握り締められた岩のような拳をこれでもかと言わんばかりにクロノ目掛けて激しく打ちつける。
ブウォン、ブウォン、ブウォン ───── 。
パシッ、パシッ、パシッ ───── 。
魔人による強力な連打をいとも容易く受け流し捌いていくクロノ。
魔人対魔王の第一ラウンドは、まさかの“剛”の魔人に対して“柔”の魔王という意外な展開となった。
そして、ある程度魔人の攻撃を防ぎ切るとクロノは一転して攻勢に出る。
ドカッ、バキッ、ドカッ、バキッ。
グググッ ────── ドガン!!
──────── ドゴーーーン。
全くクロノの打撃スピードについていけない魔人はやりたい放題タコ殴りにされた後、魔力を帯びた強力な一撃を受け殴り飛ばされてしまった。
魔人の攻撃を難なく防ぎ切ったことも驚きであったが、それよりも魔人の脅威的な動体視力をもってしても反応しきれない打撃スピードと三メートル近くある巨体を殴り飛ばせるそのパワーを前に開いた口が塞がらないスズネたちなのであった。
「ス…スゴいわね。あれだけの連打を顔色ひとつ変えずに捌き切るなんて」
「完全に僕の認識が間違っていました。魔王クロノは体術にも秀でていたんですね。たとえ魔法師であっても鍛え上げればここまでのレベルに ───── 」
「当然なのじゃ。わっちの旦那様に不可能なことなどありはせん!!」
「凄過ぎるっす・・・あんなにデカい魔人を殴り飛ばしちゃったっすよ」
誰もが予想だにしていなかったクロノの圧倒的な体術スキル。
それは世間一般の中に常識としてある魔法師と呼ばれる者たちが近接戦闘を弱点としているという固定観念をぶち壊すものであった。
そして、それは同じく魔法を使う者であるスズネとラーニャに強いメッセージを与えたのだった。
「おいザザ、何をやっているんだ!そんな魔法師ごときに力勝負で負けてどうするんだ」
「ヴヴゥゥゥ」
「もういい。わざわざ真っ向から勝負してやる必要などない。お前の最速で沈めてやれ!!」
「ヴウォォォォォォ」
メイニエルの命令により魔人はこれまでと同様に猛スピードで壁から壁へと移動を開始する。
そのスピードはみるみる内に上がっていき、はもはやスズネたちでは捉えられないほどの速さにまで到達していた。
ドン ─── ドン ─── ドン ──── ドン ─── ドン ─── 。
地下の空間にはただただ魔人が壁を蹴りつける音だけが響き渡る。
「ハッハッハッ、魔王クロノもこれで終わりだ!スクラップにしてやれ!!」
──────── ドーーーーーン 。
強烈な爆発音と共にこれまでで最速のスピードに乗ってクロノに突進する魔人。
ただ見ていることしか出来ないスズネたちには何が起こっているのか皆目見当もつかない。
そして、そんなスズネたちが見守る中、クロノは突然くるりと反転し右足を五十センチほど浮かせるとそこに魔人が頭から突っ込んで来たのだった。
「おいおい、そんなチンタラしたスピードじゃ俺の背中は取れねぇ~ぞ。もうちょい頑張れ ─── よ!!」
そう言うと、クロノはそのまま魔人の頭を地面目掛けて踏みつけた。
ドゴーーーン ─────── パラパラパラパラ・・・。
頭が地面にめり込んだ状態の魔人はピクリともしない。
それを蔑んだ目をしながら見下ろすクロノ。
そんな二人の様子に苛立ちを見せるメイニエルが再び魔人に対して罵詈雑言を浴びせる。
「クソックソックソックソーーーッ。さっきから何をやっているんだ、この役立たずが!!最強でないお前などに価値などないんだぞ。いつまでも寝てないで、さっさと魔王を殺せーーー」
その声に反応しゆっくりと立ち上がった魔人は再びクロノへと殺気を飛ばす。
「そ…それでいい、それでいいんだ。いくら魔王といえどお前と違い不死身ではない。ズッタズタに切り刻んで細切れにしてやれ」
四つ全ての手にある爪を極限まで伸ばし構えを取る魔人。
そして、その姿を見て少し嬉しそうな表情を浮かべるクロノなのであった。
「いいね、いいね~。あいつらにとって良い手本になりそうだ」
そう言うと、クロノは異空間収納を開き、中から一本の剣を取り出した。
「えっ!?アイツって剣も使えるの?」
「そのようですね…もし、本当に使えるのであれば、本当に底なしの強さですよ」
「だから、さっきから言うておるじゃろ、旦那様に出来ぬことなどないのじゃ」
「最強は何でも出来るんすね・・・」
そして、魔人ザザと魔王クロノによる第二ラウンドが始まる ────── 。
─────────────────────────
キーーーン。
キーーーン。
キーーーン。
始まった当初こそお互いに打ち合っていたのだが、徐々に魔人が攻勢に出始める。
やはり四本の魔人に対してクロノが持つ剣は一本であることから必然的に劣勢に追い込まれていく。
魔人が優位であると見るとご機嫌な様子でクロノを煽り始めるメイニエル、それとは対照的に終始ヒヤヒヤした面持ちで戦況を見守るスズネたち。
しかし、そんなスズネたちの心配をよそにクロノの表情に焦りなど一切なかった。
フォン ─── フォン ─── フォン。
フォン ─── フォン ─── フォン。
キンッ ─── キンッ ─── キンッ。
キンッ ─── キンッ ─── キンッ。
次々と斬撃を打ち込む魔人。
その攻撃速度はどんどん速くなり、まさに目にも止まらぬ速さで打ち込んでくる。
さらにその鋭さもミリアとマクスウェルを相手にしていた時よりも格段に増しているように見える。
しかし、何故かは分からないが攻撃を受けるクロノよりも攻めている魔人の方に焦りを感じる。
どうしてもその尋常ではない速さと鋭さにばかり目がいってしまうが、その剣筋は徐々に荒れだしていた。
「どうしたんでしょうか…魔人の攻撃がだんだんと荒れてきていますよね」
「そうね、まぁ~気持ちは分からなくもないわ。あれだけ目一杯の攻撃を続けているにも関わらず、目の前に立つ相手が汗ひとつかかず焦る様子も見せないんだから…ホント嫌になるわよ」
「それにしてもクロノさんはいつ何時でも冷静さを失わないっすよね。羨ましいっす」
「さすは旦那様なのじゃ。やっぱり特別なのじゃ」
「違うよ!きっとクロノがいつも冷静でいられるのは、それだけの鍛錬を積んで、その上にたくさんの実践と経験を重ねてきたからなんだよ ───── だから、特別なんかじゃなくて…私たちだってなれるよ」
スズネの言葉に一瞬の沈黙が生まれる。
しかし、それも一瞬のこと ───── 。
「当っっっっったり前でしょ!アイツにばっかりいつもいつも良いところもっていかれてちゃたまんないわよ。アタシは“剣聖”になる女よ。こんな所でヘコんでなんかいられないわ!!」
「僕だって負けませんよ!!」
「わっちだって世界最強の魔法師になるんじゃ!!」
「ウチも…頑張るっす!!」
そんなスズネたちの会話が聞こえていたのかは分からないが、この時クロノの口元が穏やかに緩んだのであった。
「おいおいどうした?木偶の坊。怖い怖い父親がイライラしながらこっちを見てるぞ」
「ヴウォォォォォ」
ブウォン ─── ブウォン ─── ブウォン ─── ブウォン ─── ブウォン 。
クロノに煽られた魔人はさらに焦りを見せて力任せに斬り掛かるが、そんなものでどうこうなる相手ではない。
剣で斬撃を捌き、時折宙を舞いながら華麗にその攻撃を躱していく。
そして、とうとう子供が拳を振り回しているようにしか見えなくなった魔人の姿にクロノも呆れた表情を浮かべる。
「もういいだろ。今度はこっちのターンだ」
ヒュンッ ─── ヒュンッ ─── ヒュンッ ─── ヒュンッ ─── ヒュンッ 。
それはあっという間の出来事であった。
高速で放たれたクロノの剣筋をその場にいた誰一人として目で追うことが出来ず、気づいた時には魔人の身体が頭・胴体・右腕・左腕・右足・左足に斬り分けられていたのだった。
─────── ドサドサドサッ 。
あまりの衝撃にその場にいた全員が言葉を失う。
それは自身が創り上げた魔人こそが最強だと自負するメイニエルでさえも例外ではなかった。
その後魔人はこれまでと同様に何事もなかったかのように再生したのだが、両者の力の差はもはや歴然であった。
しかし、その光景を目の当たりにしても尚メイニエルは諦めることをしなかった。
そして、魔人に対して力の解放を命ずるのであった。
「全解放だ!ザザよ、能力を全解放しろ。それで全てが終わる」
「グウォォォォォ ─────── 」
雄叫びと共に魔人の巨体がさらに大きくなり、みるみる内に高さが五メートル近くにまで到達した。
そして、肉体にも変化が見られ筋骨隆々とした姿へと変貌したのだった。
さらにこれまで取り込んだ魔獣たちの能力もフル稼働させ、背中にはこれまで見せたことのなかった大きな翼まで生えている。
「ちょっとちょっと、アレは流石にヤバいわよ」
「なっ…何すかアレはー!?無茶苦茶っすよーーー」
ここにきての魔人によるフルパワーの解放を目にしたスズネたちは愕然とする。
そして、そんなスズネたちをよそに魔人はその大きな両翼をバサバサと羽ばたかせると、ふわりふわりと宙に浮き飛行を開始したのだった。
「さぁ~いよいよクライマックスだ。フルパワーの魔人を前にそんな細い剣など貴様もろとも木っ端微塵にしてくれるわ!!」
こうしていよいよ魔人ザザと魔王クロノによる最終ラウンドが幕を開ける。
しかし、この時その場にいた全ての者がまだ魔王クロノという存在の真の意味での恐ろしさを理解していなかったのであった ────── 。
「ちょっと頑丈な玩具を手に入れて自分も強くなったつもりか?本物の強さってやつを教えてやるよ」
「戯言を ───── やってしまえ、ザザ!!」
メイニエルの掛け声に応えるように猛スピードでクロノへの突進を開始する魔人。
そして、その様子を心配そうに見つめるスズネたちなのであった。
「って言うか…アイツ大丈夫なの?最強の魔王って言っても、魔法師であるアイツに対して魔人は近接戦闘系よ」
「確かに、いくら歴代最強と云われるクロノといえど、魔法師の弱点でもある近接戦闘ではかなり分が悪いですね」
「きっと…大丈夫だよ。クロノなら…きっと ───── 」
ドーーーン。
両者が激しくぶつかり合う。
勢いをつけて肩から突っ込みタックルを仕掛けた魔人であったが、クロノは左手を大きく広げ前方に伸ばすと、これを左腕一本で受け止めた。
まさかの出来事に驚いた表情を見せた魔人がそこからさらに力を込めるがビクともしない。
ここで力勝負を諦めた魔人が攻撃手段を打撃に変える。
力いっぱい握り締められた岩のような拳をこれでもかと言わんばかりにクロノ目掛けて激しく打ちつける。
ブウォン、ブウォン、ブウォン ───── 。
パシッ、パシッ、パシッ ───── 。
魔人による強力な連打をいとも容易く受け流し捌いていくクロノ。
魔人対魔王の第一ラウンドは、まさかの“剛”の魔人に対して“柔”の魔王という意外な展開となった。
そして、ある程度魔人の攻撃を防ぎ切るとクロノは一転して攻勢に出る。
ドカッ、バキッ、ドカッ、バキッ。
グググッ ────── ドガン!!
──────── ドゴーーーン。
全くクロノの打撃スピードについていけない魔人はやりたい放題タコ殴りにされた後、魔力を帯びた強力な一撃を受け殴り飛ばされてしまった。
魔人の攻撃を難なく防ぎ切ったことも驚きであったが、それよりも魔人の脅威的な動体視力をもってしても反応しきれない打撃スピードと三メートル近くある巨体を殴り飛ばせるそのパワーを前に開いた口が塞がらないスズネたちなのであった。
「ス…スゴいわね。あれだけの連打を顔色ひとつ変えずに捌き切るなんて」
「完全に僕の認識が間違っていました。魔王クロノは体術にも秀でていたんですね。たとえ魔法師であっても鍛え上げればここまでのレベルに ───── 」
「当然なのじゃ。わっちの旦那様に不可能なことなどありはせん!!」
「凄過ぎるっす・・・あんなにデカい魔人を殴り飛ばしちゃったっすよ」
誰もが予想だにしていなかったクロノの圧倒的な体術スキル。
それは世間一般の中に常識としてある魔法師と呼ばれる者たちが近接戦闘を弱点としているという固定観念をぶち壊すものであった。
そして、それは同じく魔法を使う者であるスズネとラーニャに強いメッセージを与えたのだった。
「おいザザ、何をやっているんだ!そんな魔法師ごときに力勝負で負けてどうするんだ」
「ヴヴゥゥゥ」
「もういい。わざわざ真っ向から勝負してやる必要などない。お前の最速で沈めてやれ!!」
「ヴウォォォォォォ」
メイニエルの命令により魔人はこれまでと同様に猛スピードで壁から壁へと移動を開始する。
そのスピードはみるみる内に上がっていき、はもはやスズネたちでは捉えられないほどの速さにまで到達していた。
ドン ─── ドン ─── ドン ──── ドン ─── ドン ─── 。
地下の空間にはただただ魔人が壁を蹴りつける音だけが響き渡る。
「ハッハッハッ、魔王クロノもこれで終わりだ!スクラップにしてやれ!!」
──────── ドーーーーーン 。
強烈な爆発音と共にこれまでで最速のスピードに乗ってクロノに突進する魔人。
ただ見ていることしか出来ないスズネたちには何が起こっているのか皆目見当もつかない。
そして、そんなスズネたちが見守る中、クロノは突然くるりと反転し右足を五十センチほど浮かせるとそこに魔人が頭から突っ込んで来たのだった。
「おいおい、そんなチンタラしたスピードじゃ俺の背中は取れねぇ~ぞ。もうちょい頑張れ ─── よ!!」
そう言うと、クロノはそのまま魔人の頭を地面目掛けて踏みつけた。
ドゴーーーン ─────── パラパラパラパラ・・・。
頭が地面にめり込んだ状態の魔人はピクリともしない。
それを蔑んだ目をしながら見下ろすクロノ。
そんな二人の様子に苛立ちを見せるメイニエルが再び魔人に対して罵詈雑言を浴びせる。
「クソックソックソックソーーーッ。さっきから何をやっているんだ、この役立たずが!!最強でないお前などに価値などないんだぞ。いつまでも寝てないで、さっさと魔王を殺せーーー」
その声に反応しゆっくりと立ち上がった魔人は再びクロノへと殺気を飛ばす。
「そ…それでいい、それでいいんだ。いくら魔王といえどお前と違い不死身ではない。ズッタズタに切り刻んで細切れにしてやれ」
四つ全ての手にある爪を極限まで伸ばし構えを取る魔人。
そして、その姿を見て少し嬉しそうな表情を浮かべるクロノなのであった。
「いいね、いいね~。あいつらにとって良い手本になりそうだ」
そう言うと、クロノは異空間収納を開き、中から一本の剣を取り出した。
「えっ!?アイツって剣も使えるの?」
「そのようですね…もし、本当に使えるのであれば、本当に底なしの強さですよ」
「だから、さっきから言うておるじゃろ、旦那様に出来ぬことなどないのじゃ」
「最強は何でも出来るんすね・・・」
そして、魔人ザザと魔王クロノによる第二ラウンドが始まる ────── 。
─────────────────────────
キーーーン。
キーーーン。
キーーーン。
始まった当初こそお互いに打ち合っていたのだが、徐々に魔人が攻勢に出始める。
やはり四本の魔人に対してクロノが持つ剣は一本であることから必然的に劣勢に追い込まれていく。
魔人が優位であると見るとご機嫌な様子でクロノを煽り始めるメイニエル、それとは対照的に終始ヒヤヒヤした面持ちで戦況を見守るスズネたち。
しかし、そんなスズネたちの心配をよそにクロノの表情に焦りなど一切なかった。
フォン ─── フォン ─── フォン。
フォン ─── フォン ─── フォン。
キンッ ─── キンッ ─── キンッ。
キンッ ─── キンッ ─── キンッ。
次々と斬撃を打ち込む魔人。
その攻撃速度はどんどん速くなり、まさに目にも止まらぬ速さで打ち込んでくる。
さらにその鋭さもミリアとマクスウェルを相手にしていた時よりも格段に増しているように見える。
しかし、何故かは分からないが攻撃を受けるクロノよりも攻めている魔人の方に焦りを感じる。
どうしてもその尋常ではない速さと鋭さにばかり目がいってしまうが、その剣筋は徐々に荒れだしていた。
「どうしたんでしょうか…魔人の攻撃がだんだんと荒れてきていますよね」
「そうね、まぁ~気持ちは分からなくもないわ。あれだけ目一杯の攻撃を続けているにも関わらず、目の前に立つ相手が汗ひとつかかず焦る様子も見せないんだから…ホント嫌になるわよ」
「それにしてもクロノさんはいつ何時でも冷静さを失わないっすよね。羨ましいっす」
「さすは旦那様なのじゃ。やっぱり特別なのじゃ」
「違うよ!きっとクロノがいつも冷静でいられるのは、それだけの鍛錬を積んで、その上にたくさんの実践と経験を重ねてきたからなんだよ ───── だから、特別なんかじゃなくて…私たちだってなれるよ」
スズネの言葉に一瞬の沈黙が生まれる。
しかし、それも一瞬のこと ───── 。
「当っっっっったり前でしょ!アイツにばっかりいつもいつも良いところもっていかれてちゃたまんないわよ。アタシは“剣聖”になる女よ。こんな所でヘコんでなんかいられないわ!!」
「僕だって負けませんよ!!」
「わっちだって世界最強の魔法師になるんじゃ!!」
「ウチも…頑張るっす!!」
そんなスズネたちの会話が聞こえていたのかは分からないが、この時クロノの口元が穏やかに緩んだのであった。
「おいおいどうした?木偶の坊。怖い怖い父親がイライラしながらこっちを見てるぞ」
「ヴウォォォォォ」
ブウォン ─── ブウォン ─── ブウォン ─── ブウォン ─── ブウォン 。
クロノに煽られた魔人はさらに焦りを見せて力任せに斬り掛かるが、そんなものでどうこうなる相手ではない。
剣で斬撃を捌き、時折宙を舞いながら華麗にその攻撃を躱していく。
そして、とうとう子供が拳を振り回しているようにしか見えなくなった魔人の姿にクロノも呆れた表情を浮かべる。
「もういいだろ。今度はこっちのターンだ」
ヒュンッ ─── ヒュンッ ─── ヒュンッ ─── ヒュンッ ─── ヒュンッ 。
それはあっという間の出来事であった。
高速で放たれたクロノの剣筋をその場にいた誰一人として目で追うことが出来ず、気づいた時には魔人の身体が頭・胴体・右腕・左腕・右足・左足に斬り分けられていたのだった。
─────── ドサドサドサッ 。
あまりの衝撃にその場にいた全員が言葉を失う。
それは自身が創り上げた魔人こそが最強だと自負するメイニエルでさえも例外ではなかった。
その後魔人はこれまでと同様に何事もなかったかのように再生したのだが、両者の力の差はもはや歴然であった。
しかし、その光景を目の当たりにしても尚メイニエルは諦めることをしなかった。
そして、魔人に対して力の解放を命ずるのであった。
「全解放だ!ザザよ、能力を全解放しろ。それで全てが終わる」
「グウォォォォォ ─────── 」
雄叫びと共に魔人の巨体がさらに大きくなり、みるみる内に高さが五メートル近くにまで到達した。
そして、肉体にも変化が見られ筋骨隆々とした姿へと変貌したのだった。
さらにこれまで取り込んだ魔獣たちの能力もフル稼働させ、背中にはこれまで見せたことのなかった大きな翼まで生えている。
「ちょっとちょっと、アレは流石にヤバいわよ」
「なっ…何すかアレはー!?無茶苦茶っすよーーー」
ここにきての魔人によるフルパワーの解放を目にしたスズネたちは愕然とする。
そして、そんなスズネたちをよそに魔人はその大きな両翼をバサバサと羽ばたかせると、ふわりふわりと宙に浮き飛行を開始したのだった。
「さぁ~いよいよクライマックスだ。フルパワーの魔人を前にそんな細い剣など貴様もろとも木っ端微塵にしてくれるわ!!」
こうしていよいよ魔人ザザと魔王クロノによる最終ラウンドが幕を開ける。
しかし、この時その場にいた全ての者がまだ魔王クロノという存在の真の意味での恐ろしさを理解していなかったのであった ────── 。
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