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警告

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魔人事件が頻発しガルディア王国中を震撼させている中、スズネたちは王都メルサを訪れていた。
今回の用件は、王国聖騎士団聖騎士長であり、マクスウェルの剣の師匠でもあるアーサーに呼び出されたからである。
しかし、実際に呼ばれたのはマクスウェルだけ。
すなわち他のメンバーたちはただそれについて来ただけなのである。


「呼ばれたのは僕だけなんですから、わざわざみんなで来なくても ───── 」

「はぁ?別にアンタのために来たわけじゃないわよ。アタシたちはせっかく王都に来るチャンスが出来たからショッピングを楽しみに来ただけよ」

「前回来た時はゆっくり見れなかったもんね」

「今日はセスリーの服をみんなで選ぶっす」

「は…はい、緊張します~」


マクスウェルの思いなんてそっちのけで女子トークに花を咲かせるスズネたち。
そんなスズネたちの楽しそうな様子に何とも言えない寂しさを感じるマクスウェルなのであった。


「わっちは旦那様とのひと時のデートを楽しむのじゃ」

「楽しまね~よ。勝手に一人でやってろ」

「うわぁぁぁ。たまにはデートくらい良いではないか。魔法の基礎鍛錬もしっかりやっておるぞ!褒美を所望する」

「クロノ、たまには頑張ってるラーニャちゃんのお願いを聞いてあげてもいいんじゃない?」

「はぁ?なんで魔法の基礎程度で手こずってるようなやつに褒美なんてやらないといけないんだよ。それに弱い奴が強くなるために努力するのなんて当たり前のことだろうが」


日々の頑張りをクロノに褒めてほしいラーニャ。
ラーニャの頑張りを知っており、少しくらいクロノにも労ってあげてほしいと思っているスズネ。
力の無い者が日々努力することは特別なことではなく当然のことだと考えているクロノ。
それぞれの思いや考えはあれど、妥協を許さないクロノによって今回もラーニャの願いは叶わないのであった。
そんななんとも言えない状況を見ていたミリアが嫌味を含んだ言葉をクロノに掛ける。


「っていうか、クロノは強くなるために努力なんてしてんの?バクバクご飯を食べているところしか見たことないわよ」

「そりゃ~そうだろ。俺は元から強いからな。努力なんてもんは弱ぇ~やつだけが持ってる特権なんだよ」

「ホント…ムカつく」


強烈な嫌味を返してきたクロノに対し、悔しさを露わにし、ムッとした表情をしながら悪態をつくミリアなのであった。


「それでは僕は王城へ向かいますので、また後ほど  ───── 」


そう言って路地を曲がろうとしたガウェインは一人の男性と鉢合わせる。

──────── ドン 。


「あっ、すみません」


咄嗟に謝罪の言葉を口にしたマクスウェルの目の前に、見覚えがある大柄の男が笑顔を向けて立っていた。


「おう、マクスウェル。元気にしてたか?」

「ガウェインさん!?」


まさかの再会を果たしたスズネたち。
嬉しさのあまりガウェインの元へ駆け寄って行くスズネたちであったが、会話をするよりも前にガウェインの姿を見て驚いてしまう。


「お前らとは最近よく会うな」


そう言いながらスズネたちに笑顔を向けるガウェインであったが、その姿は痛々しく、鎧で覆われていない両腕と首の部分から身体中を覆う包帯がしっかりと見えていた。


「ガウェインさん、どうしたんですか?その姿は ───── 」

「ホント、大丈夫なんですか?」

「アッハッハッ、こんなもんはただの擦り傷だ。ほっときゃそのうち勝手に治る」


心配するスズネたちをよそに、全く問題ないと豪快に笑い飛ばすガウェインなのであった。


「そんなことよりも、お前たちが王都に来るなんて珍しいな。みんなで王都観光でもしに来たのか?」

「いえ、今日は師匠から呼ばれまして、これから執務室へ向かうところです」

「おう…そうか。聖騎士長に呼ばれてるんならここで俺が話すことはなさそうだな。まぁ~気を付けてな」


そう言うと、ガウェインは部下の聖騎士四人を引き連れて足早に去って行ったのだった。


「何かあったのかな?」

「そりゃそうでしょう。“十二の剣ナンバーズ”の一人でもあるガウェインさんがあれだけの怪我を負ってんのよ」

「魔人がらみっすかね?」

「とりあえず、僕は急いで師匠のところへ行ってきますね」

「ちょっと待ちなさいよ。このタイミングでアンタが呼ばれたってことは、間違いなく魔人が関係してるでしょ。アタシたちも行くわ」

「そうだね、私もこのままじゃ気になって仕方がないよ。みんなもそれでいいかな?」


スズネの問い掛けに対し、他のメンバーたちは首を縦にふり同意を示したのだった。
こうしてスズネたちはマクスウェルと一緒にアーサーの元へと向かうことにした


◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇


王城へと到着したスズネたちはさっそく聖騎士長アーサーの執務室へと案内された。

コン、コン、コン。


「アーサー様、マクスウェルを連れて参りました」

「入れ!!」

「失礼します」


─────── ガチャッ 。


「久しぶりだな、マクスウェル。元気にしてたか?」

「はい。日々いろいろな気づきと発見があり、鍛錬に励んでおります」

「そうか、それは何よりだ。それにしても…また多人数で来たものだな」


マクスウェル一人を呼んだつもりが、まさか魔王クロノを含む七人で来たことに驚きを隠せないアーサーなのであった。
しかし、その表情はどこか嬉しそうにも見える。
その理由は、幼少期より王国の聖騎士たちに混じりながら剣の腕を磨き続けてきたマクスウェルが、同年代の者たちと仲良さそうにしているのが嬉しくてたまらないのであった。


「それで師匠、今日ここに呼ばれたのは ───── 」

「ああ、先にお前だけに伝えるつもりだったが、他の者たちも来てしまったのであれば仕方がない。冒険者ギルドにも情報共有しているし、近いうちに知ることになるだろうからな。まぁ~良いだろう」


そう言うと、アーサーは静かに話し始めた。
今回の話というのは他でもない魔人事件についてであった。
これまでずっと王都で続いていた魔人事件であったが、どうやら先日初めて隣街のジルコンサスに魔人が現れたとのこと。
それによってジルコンサスの住民三名が死亡し、王都より派遣されていた聖騎士十名が負傷したとのことであった。
そういったこともあり、モアの街にもいつ魔人が現れてもおかしくない状況となったため、冒険者ギルドにも連絡しこれまで以上に警備を強化することになったのだとという。
そして、その話を聞いていた“宿り木”の切り込み隊長が声を張りあげる。


「アタシたちの街に手を出そうなんてやつは魔人だろうが何だろうが討ち取ってやるわ!!」

「止めろ」


自身の生まれ育ったモアの街の危機ということもありいつも以上に意気込むミリアであったが、即座にアーサーによって止められてしまう。
そもそもアーサーが今回マクスウェルを呼び出したのもその事を伝えるためなのであった。


「はっきり言って、魔人はお前たちが思っているようなものではない」

「師匠、僕たちはまだ魔人についてほとんど情報を得られていないのですが ───── 魔人とは一体・・・」


マクスウェルの問いに対し、数秒間の沈黙の後アーサーが魔人について話し始めた。


「事件発生当初、魔人はヒト族と魔物の混血ではないかと考えられていた。しかし、ここ最近になってヒト族をベースにした“混合生物キメラ”ではないかと言われ始めている」


話を聞いてもいまいちピンときていないスズネたちは、そもそも“混合生物キメラ”とは何かを尋ねる。


「すみませんアーサー様、その“混合生物キメラ”というのは何なのですか?」

「“混合生物キメラ”というのは、多種多様な生物を組み合わせることによって、それらの特性を一つに集約した人工生物のことだ」


完全に理解出来たわけではないが、その話の異様さに言葉を失ってしまうスズネたち。
さらにアーサーは話を続ける。


「そして、今回の魔人は基本的な形態がヒト族のそれと似ていることから、ベースとなるヒト族の身体に他の生物の細胞を加えているのではないかと考えられている。ただし、元々あるヒト族の細胞に他の生物の細胞を無理矢理詰め込むということは、その元ある身体に対し尋常ではない苦痛を伴うようだ」

「一体誰がそんなことを ───── 」

「現時点でそれが誰なのかは分かっていない。しかし、そんな事をするのは狂気の沙汰であり、平然とやってのけるようなやつはとんでもない“異常者”だ」


語気を強め、静かな怒りを見せるアーサー。
そして、その衝撃的な内容に驚愕してしまいスズネたちは絶句してしまう。
シャムロムに至ってはどんどん顔が青ざめていき、今にも吐きそうになっている。


「誰がそんな非道なことを!!」

「落ち着け、マクスウェル」


まさに人の道を外れるような行為に対し、溢れる感情を抑えることが出来ず怒りを露わにするマクスウェル。
そんな愛弟子の様子を前にしたアーサーは、今ここで荒れたところで何の解決にもならないとマクスウェルを諭すのであった。


「今の魔人は、報告されているだけでも相当厄介だ。形状変化による斬撃に跳躍力と俊敏性を活かした突撃、さらに硬質化や再生能力まで得ているという。そして、先日起きたジルコンサスでの事件の際には闇属性の魔法“黒炎弾”を放ったという報告も入っている」

「な…なんすか、その化け物」

「ホント、ふざけんじゃないわよ。チートよ、チート」

「お…恐ろしいですね。今聞いた特徴だけでも、数種類の魔獣を取り込んでいるように思います」

「そうだ。だからこそ、今のお前たちでは手に負えない。絶対に手を出すんじゃないぞ」


魔人についての実情を知り恐怖を覚えたスズネたちに対し、アーサーは改めて手を出さぬよう釘を刺した。
そんなアーサーの真剣な眼差しと強い言葉を前に返す言葉もなく黙って従うしか選択肢のないスズネたちなのであった。


─────── コン、コン、コン。


その時、静寂を打ち破るようにアーサーの執務室のドアが叩かれた ───── 。



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