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王国最高の頭脳

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魔人の噂を聞いた翌日、今日もスズネたちはクエストを受けるために冒険者ギルドを訪れていた。

「さぁ~て、今日も張り切って狩るわよ」

「昨日の今日なんすから軽めでいいっすよ~」


今日も大物狙いでやる気満々のミリアを前にし、昨日の電電魔猿エレモンキーとの戦いの疲れも残っているシャムロムが困ったような表情を見せる。


「まぁまぁ、とりあえず中に入って掲示板を見てから決めようよ」


二人のやり取りを微笑ましく見ていたスズネが話をまとめてメンバーたちをギルドに入るようにと促した。

──────── ガチャッ。


「うわぁっ!?」

「おっとすまない ───── おお、なんだお前たちか」

「ガウェインさん、今日も支部長に会いに来てたんですか?」

「ああ、お前らも魔人事件のことは聞いてるだろ?今回の事件はその残忍性と不明な点が多いという理由で、王国聖騎士団と冒険者ギルドで協力することになったんだ。それでモアの支部長とも情報交換に来たって訳だ」

「なんだ、そういうことだったんですね」


ガウェインによると今のところ魔人による事件の全てが王都で発生しているが、近隣の街にも魔人が現れないという保証はないため、王都と他の大都市を繋ぐモアとジルコンサスの二つの中間都市へ聖騎士を派遣することになったらしい。
因みに、王都メルサと商業都市ロコンを繋ぐ中間都市がモアであり、王都と冒険者の街リザリオを繋ぐ中間都市がジルコンサスである。


「そんな聖騎士団が対応しないといけないようなやつが相手なのに、ロコンとリザリオ、それからその二つを繋ぐギャシャドゥルの街には派遣しなくていいんですか?」


事件の内容がかなり悲惨なものであるため、ミリアはガウェインが告げた街以外の大きな街にも聖騎士を派遣すべきではないのかと質問した。


「アッハッハッハッハッ。その点については心配ない。長い間二つの大都市が王都と肩を並べているのにはそれなりの理由があるんだよ」

「理由ですか?」

「商業都市ロコンは、そもそも商人たちがそこらの冒険者や兵士なんかよりもよっぽど強いだろ。今はそれに加えてロコンの長であるフッガーを始めフィリップの爺さんに元冒険者や元聖騎士なんかの強者がいるからな」

「へぇ~フッガーさんって、あの丸々と太ってた人っすよね。そんなに強いんすか!?」

「アハハハハ。確かにあの見た目じゃ強そうには見えねぇ~よな。ただ本気を出したあのおっさんはヤベェ~ぞ」


スズネたちにとっては商業都市ロコンを訪れた際に会ったフッガーの優しく穏やかなイメージしかなく、戦闘している姿を思い浮かべることは難しいものであった。


「それから冒険者の街リザリオは、冒険者の街っていうだけのことはあってそこに住まうほとんどの者が冒険者だからな。そして、当然その中にはAランク以上の者たちも含まれている」

「確かに街中が冒険者だらけだといくら魔人といえどそう簡単には手を出せないでしょうね」

「まぁ~な。でも、それ以上にリザリオには冒険者ギルドを一手にまとめ上げるギルドマスターがいるからな。お前たちも知っているここモアの支部長リタを含む各都市の支部長たちのレベルは、俺たち“十二の剣ナンバーズ”と同等かそれ以上だからな。そして、そいつらの上に立つギルドマスターはまさに“化け物”だよ」


それを聞いてスズネたちは圧倒されてしまう。
そして、昨日会ったモア支部長リタも王国聖騎士団の十二人の団長たち通称“十二の剣ナンバーズ”と同レベルの猛者だと知り驚愕する。


「な…なんか凄い人たちばかりだね」

「ホント、世の中にはアタシたちの知らない化け物がウジャウジャいるのね」

「ガウェインさん、二大都市に聖騎士を派遣しない理由は理解しましたが、残るギャシャドゥルに派遣しない理由は ───── 」


自身が目指している聖騎士、そして憧れ目標としている団長たちと肩を並べる猛者たちがあちこちにいるという事実に驚きを隠せないマクスウェルが興奮気味にガウェインに尋ねる。


「ギャシャドゥルには“あの男”がいる」

「“あの男”・・・?」

「俺たちよりも前の時代 ───── つまり前王の時代に王国最強と言われた男だ。あまりの強さに前王が幾度となく聖騎士長に勧誘したみたいだが、堅苦しいのは性に合わないという理由で断り続け、冒険者であり続けたらしい」

「そんな方がいたんですね」

「俺も実際には会ったことはないんだけどな。今はギャシャドゥルの冒険者ギルドで支部長をしているみてぇ~だぞ」


次から次へと出てくる猛者たちに頭が混乱してしまうスズネたちであったが、今の自分たちが気にしても仕方がないということで落ち着いたのだった。


「ガウェイン様、そろそろ ───── 」

「おう。それじゃお前らも頑張れよ」


スズネたちとの話を終えると、ガウェインは王都へ報告に戻らないといけないとのことでスズネたちへエールを送ると足早に去っていった。


◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ 


その日の夜。
王都の街に再び魔人が現れる。


「うわぁ~~~~~」


グシャッ グシャッ グシャッ ───── 。


「そこまでだ!!」


──────── ドサッ 。


魔人による犯行の現場に駆け付けた聖騎士たちが瞬く間に魔人を包囲する。
真っ暗な闇の中、壁を背にした魔人は唸り声を上げて自身を取り囲む聖騎士たちを威嚇し始める。

ガラガラガラガラ。

すると、そこおに大きな双頭の大鎌を携えた一人の男が現れる。


「ベディヴィア様、お待ちしておりました」


現れた男の名はベディヴィア。
ガルディア王国王国聖騎士団の団長にして、国王より第七席のナンバーを与えられた“十二の剣ナンバーズ”の一人である。

二メートル近くある身長に腰の辺りまで伸びた黒い長髪、そして、細身でありいかにも不健康そうな青白い肌をしている。
さらに何よりも特徴的なのが常人と比べて明らかに長いその手足である。
そのダランっと垂れ下がった両腕が彼の無気力さを象徴していた。


「こんな木偶の坊くらい・・・お前たちで何とかしろよ・・・」

「申し訳ありません。何分これまでの被害があまりにも多過ぎるもので、聖騎士長アーサー様より出来る限り団長もしくは副団長の到着を待ち対応するようにとの通達が来ておりまして ───── 」

「はぁ~・・・お前たちが弱過ぎるから・・・俺がやらなきゃいけないんだろ・・・面倒臭いなぁ~・・・」


ブツブツと小言を言いながらもゆっくりと魔人に向かって歩き出すベディヴィア。
そして、その手に持ち引き摺っていた双頭の大鎌“死神の大鎌デス・サイズ”を肩に担いだ次の瞬間 ───── あっという間に魔人との距離を詰めて襲い掛かった。

ブウォン。

ブウォン。

ブウォン。

自身の身の丈程もある大鎌を軽々と振り回し、目にも止まらぬ速さで魔人を斬り刻んでいく。

ブシュッ ───── 。

ブシュッ ───── 。

ブシュッ ───── 。

魔人は両腕を顔の前に構え、ベディヴィアによる連続攻撃を難なく防いでみせる。
しかし、そこから反撃しようにも一瞬たりとも隙をみせないベディヴィアの攻めによって防戦一方となる。
すると、魔人は今回の襲撃を諦めたのか渾身の力で地面を踏みつけると、その振動によってバランスを崩したベディヴィアの隙をつき逃げるように夜の闇へと消えていったのだった。


◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ 


三日後 ───── 。

王都では国王レオンハルトがガルディア王国において魔物や魔獣の権威でもある学者のノイマンと今回の魔人事件について話し合いを行なっていた。
ノイマンはこれまでに魔物や魔獣のこと以外にも数多くの研究結果や論文を残しており、ガルディア王国において最高の頭脳と言われているのだ。
そして、そんなノイマンの研究所には王国中から多くの学者たちが集まり日々研究に明け暮れていた。

今回の話し合いの場には、王宮から国王レオンハルト・聖騎士長アーサー・王国筆頭魔法師ギュスターブが参加し、研究所からは所長のノイマンと第一助手のメイニエルが参加していた。


「で…どうだったのだ、ノイマン」

「ハッ、陛下。先日聖騎士団より提出された魔人の血液を調べた結果 ───── ヒト族と似た特徴が見受けられまいた」

「何と!?それでは魔人の正体はヒト族であるということか?」

「いえ、あくまでも酷似していたというだけであり、ヒト族と断定するまでには至っておりません」

「そうか・・・。それでノイマン、ガルディア王国最高の頭脳と言われるお主の考えを聞かせてくれ」


なかなか核心にまで辿り着かない話し合いを進めるために、国王レオンハルトがノイマンに現状の考えを求めた。
そして、国王からの問い掛けに対し数秒の沈黙の後、ノイマンが口を開いたのだった。


「これはあくまでも私個人の見解であり、必ずしもそうであるということではありませんが ───── 」


ノイマンは慎重に言葉を選びながら話し始め、あくまでもまだ個人の考えであり仮説の域を出ないものだと断りを入れる。


「魔人は・・・ヒト族と魔物による混血ではないかと考えております」


!? !? !? !?

ノイマンの話を聞き、その場に参加していた全員が驚きを隠せないでいた。


「な…何と…ヒト族と魔物の ───── 」


そう言うと、国王レオンハルトは大きく息を吐いたのだった。



「パパ~~~~~」


国王レオンハルトたちが集まる話し合いの場に元気な子供の声が響き渡る。
突然発せられた声に驚きながらも一同が声のする方へと視線を送ると、そこには五歳くらいの少年の姿があった。


「ザザ!?」

「パパ~お仕事終わった?」

「ダメじゃないか。パパは今大事なお話をしているから研究所の方へ行っていなさい」


どうやらこの少年はノイマンの第一助手であるメイニエルの息子のようである。
大好きな父親に会うために来たにも関わらず、その父親に叱られ落ち込んだ様子を見せる少年に国王レオンハルトが声を掛ける。


「よいよい。ザザ君といったかな?大好きなお父さんを取ってしまいすまないね。もう少ししたら君の元へと返すから、それまで大人しく待っていてくれるかな?」

「うん。いいよ」


穏やかな笑顔で話し掛けた国王レオンハルトのお願いに対して、元気一杯の返事で応えたザザは走って部屋を出て行ったのであった。


「国王様、申し訳ございません。息子がとんだ御無礼を致しました」


息子が部屋から出たのを確認すると、メイニエルは即座に立ち上がり深々と頭を下げたのだった。


「気にする必要はない。子供は国の宝だ。お主の息子が笑顔でいられているということが、この研究所が良い場であるという何よりの証拠だ」


そう言うと、国王レオンハルトは一切メイニエルを咎めることをしなかった。
そして、ここでノイマンがザザが研究所にいる経緯を話し始めた。


「国王様、実はザザは生まれた当初とても身体が弱く走るどころか外へ出ることすら困難だったのです。そこから我々が開発した薬の投与をしながら少しずつ普通の生活を送れるようになったのです」

「なるほど。それで研究所におるのか」

「はい。それもあるのですが、それに加えてメイニエルの妻 ───── つまりザザの母親はザザを産んだ時に亡くなっており、私を含めここにいる研究員たちにとってもザザは息子同然に思っているのです」

「そうか。そういった経緯があってこの研究所はアットホームな雰囲気が広がっているのだな。メイニエルよ、これからも息子を大事にするんだぞ。そしてノイマン、引き続き魔人の調査を頼んだ」

「「 ハッ、畏まりました 」」


◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇


国王レオンハルトとガルディア王国最高の頭脳を持つノイマンによる話し合いが行われてから五日後の夜。


「さぁ~魔人よ、今日も狩りの時間だ!!私の夢を叶えてくれ」

ヴゥォォォォォォ ────────── 。


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