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五人目
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自身の辛い境遇があるにも関わらず、父と母が愛した故郷を守るために懸命に頭を下げるセスリー。
すると、ここまでずっと黙って状況を見守っていたスズネがここでやっとクロノに声を掛ける。
「お疲れ様、クロノ。もう大丈夫だよ」
「フンッ、何を言ってんだか。俺はこいつらにムカついただけだっつーの」
スズネの言葉に呆れた様子を見せつつ、クロノはサッと手を払い魔法を解除したのだった。
先程までのことがまるで嘘であったかのように元の状態に戻った周囲の様子に安堵の表情を見せるエルフ族。
一先ず最悪の結果?は免れたが、目下最大の問題が残されている。
セスリーの問題を解決しないことには胸のモヤモヤが拭いきれず、エルフの森を後にすることができないスズネたちはこれからどうするかを話し合う。
「セスリーさんの問題・・・どうしようか?」
「このままこんな所に置いていくわけにはいかないでしょ」
「それだったらウチらのパーティに入ってもらうのはどうっすか?」
「そうだね。私もそれが一番良いと思う」
セスリー本人の気持ちも確認せず勝手に話を進めていくスズネたち。
しかし、その話に対してマクスウェルが待ったをかける。
「あの…もう少し慎重に考えた方がいいんじゃないでしょうか」
「何よアンタ、このまま置いてけっていうの?」
「いえ、そういうことではないんですが ───── 先程のモーフィスさんの話を聞くに、森の外に出るとセスリーさんはこれまで以上にいろんな者たちから狙われる可能性があるということでしたので・・・」
そこまで話をしたマクスウェルであったが、途中でバツが悪そうに口籠る。
「何よアンタ、言いたいことがあるならハッキリ言いなさいよ」
「はい!その…セスリーさんを狙う者の中には当然タチの悪い連中もいるわけで、そんな連中から僕たちだけで守り切れるのかということです」
確かにマクスウェルの言う通りである。
ただでさえ珍しいエルフ族の中にあって、さらに希少な存在であるセスリーは恐らく一般人では想像を絶する程の高額な金額で取引されることだろう。
そういうことであれば、当然セスリーを狙ってくる者たちも一筋縄ではいかなくなる。
複数人の場合もあれば、組織として狙ってくる可能性もある。
そうなった時に今のスズネたちでは守り切れる保証など限りなく0(ゼロ)に等しく、それどころか“宿り木”自体が壊滅させられる可能性すらあるのだ。
そこまで深く考えていなかったスズネたちは、自分たちの思慮の浅さを反省する。
「確かにマクスウェル君の言う通りだね。今の私たちじゃ守り切れるかどうか分からないもんね」
「それじゃ~どうすんの?このままにしておくわけにもいかないし・・・」
「とりあえずギルドに連れて行ってみるのはどうっすか?もしかしたらギルドで保護してくれるかもしれないっすよ」
シャムロムからの提案を受けて、スズネたちは一先ず冒険者ギルドへと連れて行ってみるということで話がまとまる。
しかし、そこへ話を聞いていたモーフィスが会話に入ってきた。
「そう簡単な話ではない。そこの少年の言う通り、この森を出ることでむしろ危険度は増すだけだ。セスリーの希少性から凶悪な犯罪者や犯罪組織が狙ってくるだろう。そして、冒険者ギルドに連れて行ったところで一個人を匿うようなことはせんだろうし、生半可な冒険者ではそのような連中からも守り切れるとは到底思えん」
スズネたちはセスリーの境遇をまだまだ楽観視していたようだ。
当然まだまだ新人冒険者であるスズネたちが犯罪者たちと対等に渡り合うことは難しい。
ただ“何とかしたい”という思いはあれど、それを実行するだけの実力も考えもない自分たちの不甲斐なさに憤りを感じつつも返す言葉を見つけられないスズネたちであった。
すると、そんなスズネたちの様子を見ていたクロノがセスりーにある提案をする。
「おい、お前セスリーといったか?お前はこの森の外で生きるつもりがあるか?」
突然投げ掛けられた問いに少し驚いた表情を見せたセスリーであったが、恐る恐る返答する。
「えっ…いや…でも外に出たら…。私どうしたらいいのか ───── 」
「そんなことはどうでもいい。お前がどうしたいのかを聞いてんだよ。いつ殺されるかも分からね~今の状況を続けんのか、それともここから出て堂々と生きていきたいのか ───── お前が決めろ!!」
語気を強めてまでセスリー自身の想いを聞こうとするクロノ。
その力強い眼差しと言葉に圧倒されながらもセスリーは覚悟を決める。
「うっ…生きたい…です。私もみんなみたいに普通の生活をしてみたいです」
大粒の涙を流しながら、やっと自分の中に長年隠し続けてきた本音を口にしたセスリー。
それを聞いたクロノは優しい笑みを向ける。
「よし、分かった。その望み、この魔王クロノが叶えてやろう」
そう言い切ったクロノであったが・・・一体どうやって?
スズネたちがそう思いながらクロノを眺めていると、セスリーがみんなの思いを代弁する。
「あの~とても有り難いお話なんですが・・・一体どうやって?」
「フンッ、今この瞬間からお前を俺の配下に加えてやる。まさかこの俺の配下に手を出そうなんて愚か者はいないだろう。まぁ~仮に何かしようものならば、それ相応の報いを受けさせるがな」
確かにわざわざ魔王の配下に手を出そうなんて馬鹿はいない。
ましてやクロノは長い魔族の歴史において歴代最強と言われる存在である。
今のセスリーにとってこれほど安全な場所はない。
「それから ───── おいジジイ、ずっと俺たちの周りをチョロチョロしてるやつらにもよ~く言っておけよ」
セスリーを自身の配下に加えると宣言したクロノは、スズネたちがエルフの森に入った当初からずっと監視しているエルフの戦士たちのことを指してモーフィスに釘を刺したのだった。
「あの…本当にありがとうございます。これからよろしくお願い致します。しかし、どうして見ず知らずの私のためにそこまでしてくださるのですか?」
「あ?俺は魔王だぞ。強い配下はいくらいても困らね~んだよ。それだけの理由だ」
こうしてセスリーはクロノの配下として加わることに。
その事を素直に喜び大騒ぎするスズネたち。
その傍でモーフィスがセスリーに話し掛けている。
どうやらモーフィスの娘もあるセスリーの母セリーナの遺体を里の墓に入れてやりたいということらしく、セスリーはクロノからの許可を得た上でモーフィスと共に森の中へと入って行ったのだった。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
セスリーの件が無事解決し、スズネたちは新たにセスリーを仲間に加えモアの街へ帰ることに。
そして出発の時、エルフの里を出ようとしたスズネたちをモーフィスが引き止める。
「セスリー、出発前に言っておきたいことがある」
「はい。何でしょうか?族長様」
「その…なんだ…これは族長としてではなく、お前の祖父としての言葉だ。これまで本当に苦労をかけた、謝って済むことではないと理解しているが…本当にすまなかった」
そう言うと、モーフィスはセスりーに向かって深々と頭を下げたのだった。
「!?あっ…頭を上げて下さい。もう終わったことですし、これ以上は父も母も望んではいないと思います」
「そうか、それでも一言伝えておきたかったのだ。それから…なかなか難しいかもしれないが、たまには墓参りに帰って来なさい。その方がお前の両親も喜ぶだろう」
「 ────── はい!! 」
モーフィスから思ってもいなかった言葉を言われ、心の底からの笑みを溢れさせるセスリーなのであった。
こうして今回の問題を解決し終えたスズネたちはモアの街へと出発したのだった。
─── 冒険者ギルド モア支部 ───
初の討伐クエストを終え、その報告のために冒険者ギルドへとやって来たスズネたち。
受付のマリに今回の状況や経緯を説明し、“白い魔獣”などいなかったため討伐自体は出来なかったと報告する。
報告を受けたマリは困惑した様子を見せた後、今回のクエスト報酬に関しては冒険者ギルドとエルフ族とで話し合いを行った上で後日報告するということになった。
初の討伐報酬を少しは期待していたスズネたちであったが、実際には何も討伐していないため今回は致し方ないと半分諦めた状態でホームヘと帰還したのであった。
─────── ホーム ───────
「それじゃ~セスリーさん、改めてこれからよろしくね」
「は…はい、こちらこそ宜しくお願い致します」
「いや~また一人パーティメンバーが増えたわね。魔法師に剣士、大盾使いに射手者、順調~順調~」
「あの~ミリア、喜んでいるとこ悪いんすけど、セスリーはクロノさんの配下であってウチらのパーティに入るわけじゃないんじゃないっすか?」
「えっ!?そうなの?」
シャムロムの疑問を受けて驚いた表情を見せたミリアは、すごい形相をしながらクロノへと視線を向ける。
「何だよ。別にお前らのパーティに入れといて問題はない。だが、まぁ~俺が魔族領に帰る時には連れて行くがな」
「よっしゃーーー言質取りましたーーー。それじゃそういうことだからヨロシクね、セスリー」
「はい、宜しくお願い致します。私、皆さんのお役に立てるように頑張りますね」
こうしてクロノからの許可も得て、セスリーをパーティに迎えることとなった“宿り木”。
セスリーも初めて出来た同年代の仲間に喜び、満面の笑みを見せたのだった。
翌日 ───── 。
新たにセスリーを仲間に加えたスズネたちは、パーティとしての今後について話し合いをしていた。
そして、その話し合いの中でセスリーの瞳について話題となった。
「それにしてもセスリーの瞳って本当に綺麗だよね」
「ウチも羨ましいっす。いつも碧く輝いてるっすよ」
「ホントこんなにスタイルも良くて瞳も綺麗なのに…なんでアイツらにはこの素晴らしさが分かんなかったのかしらね」
セスリーの話で盛り上がるスズネたちを前にし、クロノがその瞳について話し始める。
「一応言っておくが、セスリーのその瞳は“魔眼”だぞ」
「「「「「 えっ!? 」」」」」
その一言にはそれまで盛り上がる女子トークに入っていなかったマクスウェルとラーニャも反応を見せる。
「クロノ、魔眼ってどういったモノなの?」
「魔眼ってのは、その瞳によってそれぞれ特性が違う。そして、その一つ一つが常人では計り知れない能力を持っている。因みに、セスリーの碧い瞳は“射手の魔眼”だ」
【射手の魔眼】
遠方にいる相手の位置を正確に捉えることができ、そこまでの距離や遮蔽物まで分かるという空間把握の魔眼。
セスリー曰く、現状はおよそ二キロ先まで視ることが出来るとのことで、クロノによるとセスリー自身の成長によってもっと広範囲を把握出来るようになるとのこと。
そして、さらにクロノが続ける。
「もう一つ言っておくと、現状セスリーの左眼には封印が施され制限がかけられている」
「えっ!?封印ですか?」
全く身に覚えがないといった表情を見せるセスリーは困惑してしまう。
「何か両親に儀式のようなものをされた記憶はないか?」
「いえ、そんな事をされた記憶はありませんね」
「ということは、生まれてすぐに行ったということか・・・」
「あっ!そういえば ───── 」
「何か思い出したのか」
「いえ、儀式のようなものは分かりませんが、幼少期から毎朝起きると必ず母が左眼の瞼にキスをしてくれていたなと思いまして ───── 」
「恐らくそれが封印に関して何かしら必要だったのかもな。で、どうする?俺ならその封印を解いてやることが出来るぞ」
唐突に突きつけられた事実に戸惑いを見せるセスリーであったが、主であるクロノの役に立てるのであればと封印を解く決意をする。
「さぁ~て、鬼が出るか蛇が出るか ───── 封印解除」
クロノの魔法が発動すると碧色だったセスリーの左眼がみるみるうちに紅色に変わる。
これにはクロノも驚きの表情を見せる。
そして、静かに「こいつはとんだ掘り出し物だな」と嬉しそうに笑ったのだった。
「すご~い!碧い瞳が紅い瞳に変わったよ」
「それで、この紅い瞳にはどんな能力が隠されてんのよ」
瞳の色が変わったこと以外には何も分からないスズネたちは、嬉しそうに笑みを溢しているクロノに紅い瞳について質問した。
すると、クロノは少し勿体ぶるような素振りを見せた後、紅い瞳について話し始めたのだった。
「クックックックックッ。本当にお前は最高だよセスリー。その紅い瞳は“神覚の魔眼”だ」
【神覚の魔眼】
対象と視覚を共有することができ、さらにあらゆるモノ(対象の魔力や自然界における風や水など)の流れを視ることが出来る。
クロノによると、セスリーが持つもう一つの“射手の魔眼”との相性も良く、風の流れに矢を乗せるだけで自由自在に操ることが出来るという。
そして、この事に機嫌を良くしたクロノはセスリーに武器を与える。
「こいつをお前にやる。しっかり鍛えて俺の役に立て」
そう言うと、クロノはセスリーに翡翠色の大きな弓と黒い革製の矢筒を手渡した。
◾️覇穹
使用者の攻撃力を大幅に上昇させる。
さらにこの弓から放たれた矢に硬化能力を付与し、通常の矢でも岩盤を貫くほどになる。
◾️無限の矢筒
無限に矢を生成する矢筒。
とんでもない物を貰いクロノに頭を下げてお礼を伝えるセスリーであったが、またも自分以外の女性にプレゼントをしたということにラーニャが怒り狂う。
「うわぁぁぁぁぁ。何じゃ貴様、加入して早々にわっちの旦那様にプレゼントを貰うとは!!灰にされたいのか?」
「すみません、すみません。まさか主様に奥様がいらっしゃるとは知らず ───── 」
「お…お…奥様じゃと!? ───── 良い響きじゃ、もっと言ってよいぞ」
何故かご機嫌になるラーニャであったが、クロノによって現実世界に引き戻される。
「おい、馬鹿なことやってんな。俺はお前に魔法を教えてやってるだけだろうが。それからセスリーは俺の直属の配下だ、自分の配下の装備を整えることも主である俺の責務だ」
「それならばわっちも旦那様の配下になるのじゃ!!」
シャムロムに続きセスリーにまでも先起こされ我慢の限界を迎えたラーニャが訳の分からない駄々をこね始める。
その様子を見ていたミリアが呆れたように声を掛ける。
「ちょっとラーニャ…アンタそれでホントにいいの?配下になるってことは奥さんにはなれないわよ」
「!?嫌じゃ嫌じゃ、それだけは絶対に嫌なのじゃ。そうじゃ旦那様、こやつらのような武器などいらんから、指輪が欲しいのじゃ」
ラーニャの暴走は止まることを知らないらしい。
またとんでもないことを言い出したラーニャであったが、クロノは一言「黙ってまずは結果を出せ」とだけ言って突き放したのだった。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
いつも通りの日常に戻ったスズネたち。
今日はセスリーの冒険者登録とパーティ登録をするために冒険者ギルドを訪れていた。
事情を知るマリの助けもあり手際良く手続きは進み、無事セスリーの登録が完了。
そして、スズネたちはこの時に前回の討伐クエストの報酬である銀貨十枚を受け取る。
ギルドとエルフ族によって話し合いが行われた結果、今回は多大な迷惑をかけたこともあり報酬は当初の契約通りに支払うとエルフ族から申し出があったとのこと。
こうしてスズネたちは無事に初の討伐クエスト報酬を手に入れたのだった。
そこから新たに冒険者となったセスリーはエルフ族として森で培った経験と知識を駆使し、さらにクロノから手解きを受け二つの魔眼の力を使いながら次々とクエストをこなしていった。
そして、あっという間にCランクへと駆け上がったのだった。
そのあまりのスピードにスズネたちは自分たちのこれまでの苦労は何だったのかと軽く落ち込んだのであった。
─────────────────────────
冒険者ランク C
氏名:セスリー Lv.58 射手者
武具:覇穹 Lv.172
所属パーティ:宿り木 Dランク
Cランククエスト達成回数 0/100
─────────────────────────
すると、ここまでずっと黙って状況を見守っていたスズネがここでやっとクロノに声を掛ける。
「お疲れ様、クロノ。もう大丈夫だよ」
「フンッ、何を言ってんだか。俺はこいつらにムカついただけだっつーの」
スズネの言葉に呆れた様子を見せつつ、クロノはサッと手を払い魔法を解除したのだった。
先程までのことがまるで嘘であったかのように元の状態に戻った周囲の様子に安堵の表情を見せるエルフ族。
一先ず最悪の結果?は免れたが、目下最大の問題が残されている。
セスリーの問題を解決しないことには胸のモヤモヤが拭いきれず、エルフの森を後にすることができないスズネたちはこれからどうするかを話し合う。
「セスリーさんの問題・・・どうしようか?」
「このままこんな所に置いていくわけにはいかないでしょ」
「それだったらウチらのパーティに入ってもらうのはどうっすか?」
「そうだね。私もそれが一番良いと思う」
セスリー本人の気持ちも確認せず勝手に話を進めていくスズネたち。
しかし、その話に対してマクスウェルが待ったをかける。
「あの…もう少し慎重に考えた方がいいんじゃないでしょうか」
「何よアンタ、このまま置いてけっていうの?」
「いえ、そういうことではないんですが ───── 先程のモーフィスさんの話を聞くに、森の外に出るとセスリーさんはこれまで以上にいろんな者たちから狙われる可能性があるということでしたので・・・」
そこまで話をしたマクスウェルであったが、途中でバツが悪そうに口籠る。
「何よアンタ、言いたいことがあるならハッキリ言いなさいよ」
「はい!その…セスリーさんを狙う者の中には当然タチの悪い連中もいるわけで、そんな連中から僕たちだけで守り切れるのかということです」
確かにマクスウェルの言う通りである。
ただでさえ珍しいエルフ族の中にあって、さらに希少な存在であるセスリーは恐らく一般人では想像を絶する程の高額な金額で取引されることだろう。
そういうことであれば、当然セスリーを狙ってくる者たちも一筋縄ではいかなくなる。
複数人の場合もあれば、組織として狙ってくる可能性もある。
そうなった時に今のスズネたちでは守り切れる保証など限りなく0(ゼロ)に等しく、それどころか“宿り木”自体が壊滅させられる可能性すらあるのだ。
そこまで深く考えていなかったスズネたちは、自分たちの思慮の浅さを反省する。
「確かにマクスウェル君の言う通りだね。今の私たちじゃ守り切れるかどうか分からないもんね」
「それじゃ~どうすんの?このままにしておくわけにもいかないし・・・」
「とりあえずギルドに連れて行ってみるのはどうっすか?もしかしたらギルドで保護してくれるかもしれないっすよ」
シャムロムからの提案を受けて、スズネたちは一先ず冒険者ギルドへと連れて行ってみるということで話がまとまる。
しかし、そこへ話を聞いていたモーフィスが会話に入ってきた。
「そう簡単な話ではない。そこの少年の言う通り、この森を出ることでむしろ危険度は増すだけだ。セスリーの希少性から凶悪な犯罪者や犯罪組織が狙ってくるだろう。そして、冒険者ギルドに連れて行ったところで一個人を匿うようなことはせんだろうし、生半可な冒険者ではそのような連中からも守り切れるとは到底思えん」
スズネたちはセスリーの境遇をまだまだ楽観視していたようだ。
当然まだまだ新人冒険者であるスズネたちが犯罪者たちと対等に渡り合うことは難しい。
ただ“何とかしたい”という思いはあれど、それを実行するだけの実力も考えもない自分たちの不甲斐なさに憤りを感じつつも返す言葉を見つけられないスズネたちであった。
すると、そんなスズネたちの様子を見ていたクロノがセスりーにある提案をする。
「おい、お前セスリーといったか?お前はこの森の外で生きるつもりがあるか?」
突然投げ掛けられた問いに少し驚いた表情を見せたセスリーであったが、恐る恐る返答する。
「えっ…いや…でも外に出たら…。私どうしたらいいのか ───── 」
「そんなことはどうでもいい。お前がどうしたいのかを聞いてんだよ。いつ殺されるかも分からね~今の状況を続けんのか、それともここから出て堂々と生きていきたいのか ───── お前が決めろ!!」
語気を強めてまでセスリー自身の想いを聞こうとするクロノ。
その力強い眼差しと言葉に圧倒されながらもセスリーは覚悟を決める。
「うっ…生きたい…です。私もみんなみたいに普通の生活をしてみたいです」
大粒の涙を流しながら、やっと自分の中に長年隠し続けてきた本音を口にしたセスリー。
それを聞いたクロノは優しい笑みを向ける。
「よし、分かった。その望み、この魔王クロノが叶えてやろう」
そう言い切ったクロノであったが・・・一体どうやって?
スズネたちがそう思いながらクロノを眺めていると、セスリーがみんなの思いを代弁する。
「あの~とても有り難いお話なんですが・・・一体どうやって?」
「フンッ、今この瞬間からお前を俺の配下に加えてやる。まさかこの俺の配下に手を出そうなんて愚か者はいないだろう。まぁ~仮に何かしようものならば、それ相応の報いを受けさせるがな」
確かにわざわざ魔王の配下に手を出そうなんて馬鹿はいない。
ましてやクロノは長い魔族の歴史において歴代最強と言われる存在である。
今のセスリーにとってこれほど安全な場所はない。
「それから ───── おいジジイ、ずっと俺たちの周りをチョロチョロしてるやつらにもよ~く言っておけよ」
セスリーを自身の配下に加えると宣言したクロノは、スズネたちがエルフの森に入った当初からずっと監視しているエルフの戦士たちのことを指してモーフィスに釘を刺したのだった。
「あの…本当にありがとうございます。これからよろしくお願い致します。しかし、どうして見ず知らずの私のためにそこまでしてくださるのですか?」
「あ?俺は魔王だぞ。強い配下はいくらいても困らね~んだよ。それだけの理由だ」
こうしてセスリーはクロノの配下として加わることに。
その事を素直に喜び大騒ぎするスズネたち。
その傍でモーフィスがセスリーに話し掛けている。
どうやらモーフィスの娘もあるセスリーの母セリーナの遺体を里の墓に入れてやりたいということらしく、セスリーはクロノからの許可を得た上でモーフィスと共に森の中へと入って行ったのだった。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
セスリーの件が無事解決し、スズネたちは新たにセスリーを仲間に加えモアの街へ帰ることに。
そして出発の時、エルフの里を出ようとしたスズネたちをモーフィスが引き止める。
「セスリー、出発前に言っておきたいことがある」
「はい。何でしょうか?族長様」
「その…なんだ…これは族長としてではなく、お前の祖父としての言葉だ。これまで本当に苦労をかけた、謝って済むことではないと理解しているが…本当にすまなかった」
そう言うと、モーフィスはセスりーに向かって深々と頭を下げたのだった。
「!?あっ…頭を上げて下さい。もう終わったことですし、これ以上は父も母も望んではいないと思います」
「そうか、それでも一言伝えておきたかったのだ。それから…なかなか難しいかもしれないが、たまには墓参りに帰って来なさい。その方がお前の両親も喜ぶだろう」
「 ────── はい!! 」
モーフィスから思ってもいなかった言葉を言われ、心の底からの笑みを溢れさせるセスリーなのであった。
こうして今回の問題を解決し終えたスズネたちはモアの街へと出発したのだった。
─── 冒険者ギルド モア支部 ───
初の討伐クエストを終え、その報告のために冒険者ギルドへとやって来たスズネたち。
受付のマリに今回の状況や経緯を説明し、“白い魔獣”などいなかったため討伐自体は出来なかったと報告する。
報告を受けたマリは困惑した様子を見せた後、今回のクエスト報酬に関しては冒険者ギルドとエルフ族とで話し合いを行った上で後日報告するということになった。
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─────── ホーム ───────
「それじゃ~セスリーさん、改めてこれからよろしくね」
「は…はい、こちらこそ宜しくお願い致します」
「いや~また一人パーティメンバーが増えたわね。魔法師に剣士、大盾使いに射手者、順調~順調~」
「あの~ミリア、喜んでいるとこ悪いんすけど、セスリーはクロノさんの配下であってウチらのパーティに入るわけじゃないんじゃないっすか?」
「えっ!?そうなの?」
シャムロムの疑問を受けて驚いた表情を見せたミリアは、すごい形相をしながらクロノへと視線を向ける。
「何だよ。別にお前らのパーティに入れといて問題はない。だが、まぁ~俺が魔族領に帰る時には連れて行くがな」
「よっしゃーーー言質取りましたーーー。それじゃそういうことだからヨロシクね、セスリー」
「はい、宜しくお願い致します。私、皆さんのお役に立てるように頑張りますね」
こうしてクロノからの許可も得て、セスリーをパーティに迎えることとなった“宿り木”。
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翌日 ───── 。
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そして、その話し合いの中でセスリーの瞳について話題となった。
「それにしてもセスリーの瞳って本当に綺麗だよね」
「ウチも羨ましいっす。いつも碧く輝いてるっすよ」
「ホントこんなにスタイルも良くて瞳も綺麗なのに…なんでアイツらにはこの素晴らしさが分かんなかったのかしらね」
セスリーの話で盛り上がるスズネたちを前にし、クロノがその瞳について話し始める。
「一応言っておくが、セスリーのその瞳は“魔眼”だぞ」
「「「「「 えっ!? 」」」」」
その一言にはそれまで盛り上がる女子トークに入っていなかったマクスウェルとラーニャも反応を見せる。
「クロノ、魔眼ってどういったモノなの?」
「魔眼ってのは、その瞳によってそれぞれ特性が違う。そして、その一つ一つが常人では計り知れない能力を持っている。因みに、セスリーの碧い瞳は“射手の魔眼”だ」
【射手の魔眼】
遠方にいる相手の位置を正確に捉えることができ、そこまでの距離や遮蔽物まで分かるという空間把握の魔眼。
セスリー曰く、現状はおよそ二キロ先まで視ることが出来るとのことで、クロノによるとセスリー自身の成長によってもっと広範囲を把握出来るようになるとのこと。
そして、さらにクロノが続ける。
「もう一つ言っておくと、現状セスリーの左眼には封印が施され制限がかけられている」
「えっ!?封印ですか?」
全く身に覚えがないといった表情を見せるセスリーは困惑してしまう。
「何か両親に儀式のようなものをされた記憶はないか?」
「いえ、そんな事をされた記憶はありませんね」
「ということは、生まれてすぐに行ったということか・・・」
「あっ!そういえば ───── 」
「何か思い出したのか」
「いえ、儀式のようなものは分かりませんが、幼少期から毎朝起きると必ず母が左眼の瞼にキスをしてくれていたなと思いまして ───── 」
「恐らくそれが封印に関して何かしら必要だったのかもな。で、どうする?俺ならその封印を解いてやることが出来るぞ」
唐突に突きつけられた事実に戸惑いを見せるセスリーであったが、主であるクロノの役に立てるのであればと封印を解く決意をする。
「さぁ~て、鬼が出るか蛇が出るか ───── 封印解除」
クロノの魔法が発動すると碧色だったセスリーの左眼がみるみるうちに紅色に変わる。
これにはクロノも驚きの表情を見せる。
そして、静かに「こいつはとんだ掘り出し物だな」と嬉しそうに笑ったのだった。
「すご~い!碧い瞳が紅い瞳に変わったよ」
「それで、この紅い瞳にはどんな能力が隠されてんのよ」
瞳の色が変わったこと以外には何も分からないスズネたちは、嬉しそうに笑みを溢しているクロノに紅い瞳について質問した。
すると、クロノは少し勿体ぶるような素振りを見せた後、紅い瞳について話し始めたのだった。
「クックックックックッ。本当にお前は最高だよセスリー。その紅い瞳は“神覚の魔眼”だ」
【神覚の魔眼】
対象と視覚を共有することができ、さらにあらゆるモノ(対象の魔力や自然界における風や水など)の流れを視ることが出来る。
クロノによると、セスリーが持つもう一つの“射手の魔眼”との相性も良く、風の流れに矢を乗せるだけで自由自在に操ることが出来るという。
そして、この事に機嫌を良くしたクロノはセスリーに武器を与える。
「こいつをお前にやる。しっかり鍛えて俺の役に立て」
そう言うと、クロノはセスリーに翡翠色の大きな弓と黒い革製の矢筒を手渡した。
◾️覇穹
使用者の攻撃力を大幅に上昇させる。
さらにこの弓から放たれた矢に硬化能力を付与し、通常の矢でも岩盤を貫くほどになる。
◾️無限の矢筒
無限に矢を生成する矢筒。
とんでもない物を貰いクロノに頭を下げてお礼を伝えるセスリーであったが、またも自分以外の女性にプレゼントをしたということにラーニャが怒り狂う。
「うわぁぁぁぁぁ。何じゃ貴様、加入して早々にわっちの旦那様にプレゼントを貰うとは!!灰にされたいのか?」
「すみません、すみません。まさか主様に奥様がいらっしゃるとは知らず ───── 」
「お…お…奥様じゃと!? ───── 良い響きじゃ、もっと言ってよいぞ」
何故かご機嫌になるラーニャであったが、クロノによって現実世界に引き戻される。
「おい、馬鹿なことやってんな。俺はお前に魔法を教えてやってるだけだろうが。それからセスリーは俺の直属の配下だ、自分の配下の装備を整えることも主である俺の責務だ」
「それならばわっちも旦那様の配下になるのじゃ!!」
シャムロムに続きセスリーにまでも先起こされ我慢の限界を迎えたラーニャが訳の分からない駄々をこね始める。
その様子を見ていたミリアが呆れたように声を掛ける。
「ちょっとラーニャ…アンタそれでホントにいいの?配下になるってことは奥さんにはなれないわよ」
「!?嫌じゃ嫌じゃ、それだけは絶対に嫌なのじゃ。そうじゃ旦那様、こやつらのような武器などいらんから、指輪が欲しいのじゃ」
ラーニャの暴走は止まることを知らないらしい。
またとんでもないことを言い出したラーニャであったが、クロノは一言「黙ってまずは結果を出せ」とだけ言って突き放したのだった。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
いつも通りの日常に戻ったスズネたち。
今日はセスリーの冒険者登録とパーティ登録をするために冒険者ギルドを訪れていた。
事情を知るマリの助けもあり手際良く手続きは進み、無事セスリーの登録が完了。
そして、スズネたちはこの時に前回の討伐クエストの報酬である銀貨十枚を受け取る。
ギルドとエルフ族によって話し合いが行われた結果、今回は多大な迷惑をかけたこともあり報酬は当初の契約通りに支払うとエルフ族から申し出があったとのこと。
こうしてスズネたちは無事に初の討伐クエスト報酬を手に入れたのだった。
そこから新たに冒険者となったセスリーはエルフ族として森で培った経験と知識を駆使し、さらにクロノから手解きを受け二つの魔眼の力を使いながら次々とクエストをこなしていった。
そして、あっという間にCランクへと駆け上がったのだった。
そのあまりのスピードにスズネたちは自分たちのこれまでの苦労は何だったのかと軽く落ち込んだのであった。
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冒険者ランク C
氏名:セスリー Lv.58 射手者
武具:覇穹 Lv.172
所属パーティ:宿り木 Dランク
Cランククエスト達成回数 0/100
─────────────────────────
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