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商業都市ロコン
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今日はスズネたち“宿り木”にとって初めての指名依頼を受けた記念すべき日。
スズネとミリアが冒険者になったばかりの頃からお世話になっている八百屋のゴルザ・ポーラ夫婦からの依頼。
これまでの恩に報いるためにも、気合い十分で今日を迎えた“宿り木”なのであった。
「本当に晴れて良かったね」
「いや~視界も良好!!ホント護衛日和ね」
「わっちはまだ眠いのじゃ…ムニャムニャ…」
「はぁ~緊張し過ぎて気持ち悪いっす」
「みんな、今日は商業都市ロコンへの行き帰りの道中における護衛依頼なんですからね。野党はもちろんのこと魔物や魔獣が出ることだってあるんですから、決して気を抜かないようにしてください!!」
初の指名依頼に初の護衛クエストと初物づくしに浮かれ気味であるスズネたちに対して、気を引き締めるように注意するマクスウェル。
油断大敵。
いくらクエストにも慣れてきたとはいえ、冒険者という職業は常に死と隣り合わせであることに変わりはない。
一瞬の油断、一つの甘えがパーティを全滅させることだってあり得るのだ。
国を守る聖騎士団を幼少期より身近で見てきたマクスウェルはその事を誰よりも強く実感していたのだった。
「ガッハッハッ、マクスウェルは本当に真面目だな。まぁ~まだモアを出たばかりだから、そう警戒し過ぎることもないだろう。それにずっと気を張り詰められてちゃ~こっちも疲れちまうよ」
他のメンバーとは対照的に肩に力が入り過ぎているように見えるマクスウェルをリラックスさせる意味も込めて、ゴルザは豪快に笑いながら優しく声を掛ける。
そんなゴルザの言葉を受けて、今の自分が思っている以上に力が入り過ぎており、それによって視野が狭くなっていたことに気が付き、大きく一息吐いた後にマクスウェルは笑顔を取り戻したのであった。
「はい。お気遣いありがとうございます。僕自身、緊張のあまり力が入っていたようです」
「いいってことよ。まだまだ先は長いからよ。その力は必要な時まで取っといてくれや」
ゴルザとマクスウェルのやり取りを微笑ましく見ていた他のメンバーがマクスウェルに声をかけていく。
「マクスウェル君でも緊張とかするんだね」
「アンタまさかビビってんじゃないでしょうね。まだモアを出たばかりよ。ホント先が思いやられるわ」
「ワッハッハッ。マクスウェルよ、怖いのであればわっちの後ろに隠れておればよい。敵は全てわっちが片付けておいてやるのじゃ」
「フゥー。ウチはマクスウェルくらい強くても緊張するんだって思ったら少し楽になったっす」
「・・・・・」
各々が思い思いに声を掛けていく中、クロノだけは最後方で腰を下ろし腕を組んだまま瞳を閉じ眠ったように沈黙していた。
「ちょっ…みんなして揶揄わないでください。モアを出たばかりとはいえ、周囲への警戒を怠らないでくださいよ」
恥ずかしそうに顔を赤らめながら、それを誤魔化すように他のメンバーへ再度注意を促すマクスウェルなのであった。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
モアを出発してから二時間が経ち、スズネたちはちょうどモアと商業都市ロコンの中間辺りまでその歩みを進めていた。
「それにしても何も出ないわね」
「何言ってんのミリア、何も出ない方が良いに決まってるでしょ」
闇魔狼との一件以来、強い敵と戦いたくてウズウズしているミリアは、馬車に揺られるだけの状況に少々退屈していた。
そんなミリアに注意をしつつも、スズネ自身も何事もない現状に気を緩めていた。
「そろそろ半分ってとこだな。ちょうど見晴らしも良いしここらで少し休憩にすっか」
「「「 やった~ 」」」
今回の目的地であるロコンの街まで残すところ半分を切ったところで、ゴルザからの提案を受け一同は休憩を取ることに。
ここまでの道中ずっと座りっぱなしだったスズネたちは喜びの声を上げる。
そして、二時間ぶりに固い馬車の荷台から解放されるということもあり、ミリアが我先にと荷台から飛び降り、それにマクスウェルが続く。
シャムロムは長時間の移動に退屈し眠っていたラーニャを起こし、眠気眼のラーニャに付き添うようにして降りたのだった。
さすがは最年長とでもいうべきか、普段から何かと嫌味を言われているにも関わらず、まだ幼いラーニャを気にかけてあげられる包容力はスズネたち他のメンバーには無いものである。
そして、最後にスズネが降りようとした時にモアを出発してからずっと沈黙しているクロノに声を掛ける。
「クロノ~、休憩だよ~」
「・・・・・」
「ん?本当に寝ちゃってるのかな?」
自身の声掛けに対して一切反応することなくただただ沈黙だけが広がる状況に、わざわざ起こすのも悪いと考えたスズネはクロノをその場に残し馬車を降りたのだった。
「う~~~ん。はぁ~、気持ちい~い」
グググ~っと両腕と背筋を伸ばしながら固まった筋肉をほぐしつつ、スズネはリラックスした時間を過ごす。
他のメンバーたちも各々思うままに束の間の休息を楽しんだのだった。
─────────────────────────
「さぁ~て、そろそろ出発しようか」
「「「「「 は~い 」」」」」
ゴルザの呼び声に全員が元気に応える。
二十分程の時間ではあったが、宿り木のメンバーたちも荷台を引く馬たちも心身ともに疲れを癒すことが出来たようだ。
スズネたちが荷台に乗り込むと、再びロコンへ向けて勢いよく馬車が動き出した。
「さぁ~あと半分だよ」
「しっかり休憩も取れたし、改めて気を引き締めていきましょう」
「そうですね。前半と同様に順番に交代しながら警戒を怠らないようにしましょう」
「うっす、集中していくっす」
「う~ん、わっちは退屈なのは苦手じゃ。何かあったら起こしてくれ・・・」
「ちょっ…ラーニャ、アンタね ─────── 」
ミリアが注意するよりも前にラーニャはゴロンと横になり眠りについたのだった。
「まぁまぁ、落ち着いてよミリア。強力な魔法はそれだけ集中力も必要だからね。十歳のラーニャちゃんには私たちよりも精神的にも負担が大きいんだよ。休める時に休ませてあげよ」
「はぁ~、まぁ~いいわ。そういうことにしといてあげる」
“宿り木”のリーダーであるスズネにそう言われては仕方がない。
色々と思うところはありそうだが、ミリアは渋々納得する。
商業都市ロコンへと歩を進める馬車に揺られながらスズネとミリアがそんなやり取りをしていると、これまでどれだけ周りが騒ごうとも一切微動だにしなかったクロノがパッと瞳を開いた。
そして、それに気付いたスズネがクロノに声を掛ける。
「クロノ、どうかした?」
「・・・。いや、何でもない」
スズネの問い掛けに対し一言そう応えると、クロノは再び瞳を閉じたのだった。
そこからさらに一時間程が経ち、あと少しでロコンの街を視界に捉えようかというところで前方に林が姿を現す。
それほど大きな林ではなく、スズネたちを乗せた馬車の進む道からは少し外れているが、野党や魔獣がその身を隠すには十分な場所である。
「左前方に林があります。規模はそこまで大きくはありませんが、何か出てくる可能性もあるので全員警戒してください」
見張をしていたマクスウェルから即座に報告が入る。
そして、報告を聞いた他のメンバーたちは直ちに武器を手に取り、スズネとラーニャを荷台に残し、ミリア・マクスウェル・シャムロムの三人は荷台から飛び降り周囲を固める。
林が近づくにつれて緊張感が増していく中、スズネたちが護衛する馬車は何事もなくその横を通過したのだった。
「ぷはぁ~。緊張した~」
「はぁ~、何か出てきなさいよ」
「不謹慎ですよミリア。依頼主を危険に晒して良いことなんて何ひとつとしてないんですからね」
「拍子抜けじゃ。わっちは寝る」
「ラーニャまで!!まったく」
「まぁまぁ落ち着いて。何はともあれ、何事もなく通過出来て良かったっすよ」
一気に緊張から解放されたスズネたちに笑顔が戻る。
相変わらず小言を言うマクスウェルであったが、ミリアは“はい、はい”という感じで聞き流し、ラーニャに至っては端から聞く耳を持っておらず、一切反応することなく既に眠りについている。
初の護衛クエストではあるが、いつも通り和気藹々?とした様子を見せる“宿り木”。
そうこうしている内に、スズネたちを乗せた馬車が今回の目的地である商業都市ロコンを視界に捉える。
「お~い、ロコンが見えたぞ。もうすぐ到着だ」
「「「 は~い 」」」
ゴルザからもうすぐ目的地に着くと告げられ、スズネたちは元気な返事で了解を示す。
こうして長時間にも及ぶ馬車の旅を終え、スズネたちは無事に商業都市ロコンへと辿り着いたのだった。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
【商業都市ロコン】
ガルディア王国における三大都市のひとつ。
国王が住まう王都メルサを正三角形の頂点とし、左側に商業都市ロコン、右に冒険者の街リザリオを配しており、この三大都市がガルディア王国の中枢を担い、政治や経済などのバランスが取られているのだ。
そして、商業都市ロコンと冒険者の街リザリオにもそれぞれ代表となる“長”がおり、王権による独裁とならぬように抑止力となっているのだった。
また、大都市と大都市の間にはそれぞれを繋ぐ中間都市が存在し、スズネとミリアが生まれ育ったモアの街は王都メルサと商業都市ロコンを繋ぐ中間都市なのである。
「うわ~なんかすごい賑わいだね」
「ホント、王都とはまた違った意味で賑わってるわね」
───── ワイワイ ガヤガヤ ─────
「いらっしゃい、いらっしゃい。今日は新鮮な大爪熊の肉と魔猪の肉が入ってるよ~!!」
「安いよ安いよ~。今朝採れたてのトマトにキュウリ、大玉キャベツに山菜もあるよ~」
「そこの奥さん、活きのいい魚はどうだい?奥さん美人だからサービスしちゃうよ!!」
商業都市ロコンに到着したスズネたちは、さっそく街の賑わいに圧倒されてしまう。
さすがは商業都市という名の通り、街に入ってすぐに商人たちの声が飛び交い、とてつもない賑わいを見せていた。
それもそのはず、ロコンの街に住むそのほとんどが商人であり、売り買いに関しては一切の妥協を許さない気質の人間ばかりなのだ。
「それじゃ俺はちょっくら取引先に行ってくるからよ、スズネちゃんたちは観光でもしててくれ。二時間くらいで終わると思うから、商業ギルド前で待ち合わせて、そうしたら飯を食いに行こう」
「は~い。それじゃ適当に時間潰してますね」
こうして取引先へと商談に行くゴルザと分かれたスズネたち。
ゴルザの商談が二時間程ということで、一行はロコンの街を見て回ること。
「それじゃ、みんな行くよ。しゅっぱーつ」
そこからスズネたちは時間の許す限りロコンの街を見て回り観光を満喫したのだった。
食料品店
洋服店
武器屋
防具屋
アイテムショップ
雑貨屋
etc ・・・
「はぁ~、けっこう回ったんじゃない。マジでお店が多過ぎだわ」
「あはははは。お店の数もだけど、並んでる商品の数もモアの街とは段違いに多かったね」
「うっ・・・ウチはちょっと人に酔ったみたいで気持ち悪いっす」
「大丈夫ですか?それにしても本当に人が多いですね。メルサも多いと思っていましたが、それ以上ですね」
あまりの人の多さに人酔いしてしますたシャムロムの背中を摩りながら、王都育ちのマクスウェルもその多さに驚きを隠せずにいた。
「う~~~、わっちはさっき屋台で売っていた鹿肉の串焼きが食べたかったのじゃ」
「ダメだよラーニャちゃん。この後お父さんとご飯を食べに行くんだから、もう少しの我慢だよ」
道中ほぼ寝っぱなしで、起きたら起きたで空腹を訴えるラーニャ。
こういう時はまだ十歳の少女らしさを感じさせる。
ゴルザと分かれてから二時間が経ち、スズネたちは待ち合わせ場所である商業ギルドの前でゴルザを待っていた。
すると、そんなスズネたちに対して突然一人の男性が声を掛けてきた。
「商業都市ロコンはいかがですか?冒険者のみなさん ─── いや、“宿り木”のみなさんと言った方がいいですかね」
唐突に声を掛けられたスズネたちは驚いた表情で声の主へと視線を向ける。
その男性は恰幅が良く、綺麗に整えられた口髭を貯えており、きっちりとしたスーツを着こなしている。
そして男性の背後には、こちらもシワひとつないスーツを着た白髪の男性が仕えていた。
その様子をひと目見ただけで、スズネたちはその男性が只者ではないと察したのだった。
スズネとミリアが冒険者になったばかりの頃からお世話になっている八百屋のゴルザ・ポーラ夫婦からの依頼。
これまでの恩に報いるためにも、気合い十分で今日を迎えた“宿り木”なのであった。
「本当に晴れて良かったね」
「いや~視界も良好!!ホント護衛日和ね」
「わっちはまだ眠いのじゃ…ムニャムニャ…」
「はぁ~緊張し過ぎて気持ち悪いっす」
「みんな、今日は商業都市ロコンへの行き帰りの道中における護衛依頼なんですからね。野党はもちろんのこと魔物や魔獣が出ることだってあるんですから、決して気を抜かないようにしてください!!」
初の指名依頼に初の護衛クエストと初物づくしに浮かれ気味であるスズネたちに対して、気を引き締めるように注意するマクスウェル。
油断大敵。
いくらクエストにも慣れてきたとはいえ、冒険者という職業は常に死と隣り合わせであることに変わりはない。
一瞬の油断、一つの甘えがパーティを全滅させることだってあり得るのだ。
国を守る聖騎士団を幼少期より身近で見てきたマクスウェルはその事を誰よりも強く実感していたのだった。
「ガッハッハッ、マクスウェルは本当に真面目だな。まぁ~まだモアを出たばかりだから、そう警戒し過ぎることもないだろう。それにずっと気を張り詰められてちゃ~こっちも疲れちまうよ」
他のメンバーとは対照的に肩に力が入り過ぎているように見えるマクスウェルをリラックスさせる意味も込めて、ゴルザは豪快に笑いながら優しく声を掛ける。
そんなゴルザの言葉を受けて、今の自分が思っている以上に力が入り過ぎており、それによって視野が狭くなっていたことに気が付き、大きく一息吐いた後にマクスウェルは笑顔を取り戻したのであった。
「はい。お気遣いありがとうございます。僕自身、緊張のあまり力が入っていたようです」
「いいってことよ。まだまだ先は長いからよ。その力は必要な時まで取っといてくれや」
ゴルザとマクスウェルのやり取りを微笑ましく見ていた他のメンバーがマクスウェルに声をかけていく。
「マクスウェル君でも緊張とかするんだね」
「アンタまさかビビってんじゃないでしょうね。まだモアを出たばかりよ。ホント先が思いやられるわ」
「ワッハッハッ。マクスウェルよ、怖いのであればわっちの後ろに隠れておればよい。敵は全てわっちが片付けておいてやるのじゃ」
「フゥー。ウチはマクスウェルくらい強くても緊張するんだって思ったら少し楽になったっす」
「・・・・・」
各々が思い思いに声を掛けていく中、クロノだけは最後方で腰を下ろし腕を組んだまま瞳を閉じ眠ったように沈黙していた。
「ちょっ…みんなして揶揄わないでください。モアを出たばかりとはいえ、周囲への警戒を怠らないでくださいよ」
恥ずかしそうに顔を赤らめながら、それを誤魔化すように他のメンバーへ再度注意を促すマクスウェルなのであった。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
モアを出発してから二時間が経ち、スズネたちはちょうどモアと商業都市ロコンの中間辺りまでその歩みを進めていた。
「それにしても何も出ないわね」
「何言ってんのミリア、何も出ない方が良いに決まってるでしょ」
闇魔狼との一件以来、強い敵と戦いたくてウズウズしているミリアは、馬車に揺られるだけの状況に少々退屈していた。
そんなミリアに注意をしつつも、スズネ自身も何事もない現状に気を緩めていた。
「そろそろ半分ってとこだな。ちょうど見晴らしも良いしここらで少し休憩にすっか」
「「「 やった~ 」」」
今回の目的地であるロコンの街まで残すところ半分を切ったところで、ゴルザからの提案を受け一同は休憩を取ることに。
ここまでの道中ずっと座りっぱなしだったスズネたちは喜びの声を上げる。
そして、二時間ぶりに固い馬車の荷台から解放されるということもあり、ミリアが我先にと荷台から飛び降り、それにマクスウェルが続く。
シャムロムは長時間の移動に退屈し眠っていたラーニャを起こし、眠気眼のラーニャに付き添うようにして降りたのだった。
さすがは最年長とでもいうべきか、普段から何かと嫌味を言われているにも関わらず、まだ幼いラーニャを気にかけてあげられる包容力はスズネたち他のメンバーには無いものである。
そして、最後にスズネが降りようとした時にモアを出発してからずっと沈黙しているクロノに声を掛ける。
「クロノ~、休憩だよ~」
「・・・・・」
「ん?本当に寝ちゃってるのかな?」
自身の声掛けに対して一切反応することなくただただ沈黙だけが広がる状況に、わざわざ起こすのも悪いと考えたスズネはクロノをその場に残し馬車を降りたのだった。
「う~~~ん。はぁ~、気持ちい~い」
グググ~っと両腕と背筋を伸ばしながら固まった筋肉をほぐしつつ、スズネはリラックスした時間を過ごす。
他のメンバーたちも各々思うままに束の間の休息を楽しんだのだった。
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「さぁ~て、そろそろ出発しようか」
「「「「「 は~い 」」」」」
ゴルザの呼び声に全員が元気に応える。
二十分程の時間ではあったが、宿り木のメンバーたちも荷台を引く馬たちも心身ともに疲れを癒すことが出来たようだ。
スズネたちが荷台に乗り込むと、再びロコンへ向けて勢いよく馬車が動き出した。
「さぁ~あと半分だよ」
「しっかり休憩も取れたし、改めて気を引き締めていきましょう」
「そうですね。前半と同様に順番に交代しながら警戒を怠らないようにしましょう」
「うっす、集中していくっす」
「う~ん、わっちは退屈なのは苦手じゃ。何かあったら起こしてくれ・・・」
「ちょっ…ラーニャ、アンタね ─────── 」
ミリアが注意するよりも前にラーニャはゴロンと横になり眠りについたのだった。
「まぁまぁ、落ち着いてよミリア。強力な魔法はそれだけ集中力も必要だからね。十歳のラーニャちゃんには私たちよりも精神的にも負担が大きいんだよ。休める時に休ませてあげよ」
「はぁ~、まぁ~いいわ。そういうことにしといてあげる」
“宿り木”のリーダーであるスズネにそう言われては仕方がない。
色々と思うところはありそうだが、ミリアは渋々納得する。
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そして、それに気付いたスズネがクロノに声を掛ける。
「クロノ、どうかした?」
「・・・。いや、何でもない」
スズネの問い掛けに対し一言そう応えると、クロノは再び瞳を閉じたのだった。
そこからさらに一時間程が経ち、あと少しでロコンの街を視界に捉えようかというところで前方に林が姿を現す。
それほど大きな林ではなく、スズネたちを乗せた馬車の進む道からは少し外れているが、野党や魔獣がその身を隠すには十分な場所である。
「左前方に林があります。規模はそこまで大きくはありませんが、何か出てくる可能性もあるので全員警戒してください」
見張をしていたマクスウェルから即座に報告が入る。
そして、報告を聞いた他のメンバーたちは直ちに武器を手に取り、スズネとラーニャを荷台に残し、ミリア・マクスウェル・シャムロムの三人は荷台から飛び降り周囲を固める。
林が近づくにつれて緊張感が増していく中、スズネたちが護衛する馬車は何事もなくその横を通過したのだった。
「ぷはぁ~。緊張した~」
「はぁ~、何か出てきなさいよ」
「不謹慎ですよミリア。依頼主を危険に晒して良いことなんて何ひとつとしてないんですからね」
「拍子抜けじゃ。わっちは寝る」
「ラーニャまで!!まったく」
「まぁまぁ落ち着いて。何はともあれ、何事もなく通過出来て良かったっすよ」
一気に緊張から解放されたスズネたちに笑顔が戻る。
相変わらず小言を言うマクスウェルであったが、ミリアは“はい、はい”という感じで聞き流し、ラーニャに至っては端から聞く耳を持っておらず、一切反応することなく既に眠りについている。
初の護衛クエストではあるが、いつも通り和気藹々?とした様子を見せる“宿り木”。
そうこうしている内に、スズネたちを乗せた馬車が今回の目的地である商業都市ロコンを視界に捉える。
「お~い、ロコンが見えたぞ。もうすぐ到着だ」
「「「 は~い 」」」
ゴルザからもうすぐ目的地に着くと告げられ、スズネたちは元気な返事で了解を示す。
こうして長時間にも及ぶ馬車の旅を終え、スズネたちは無事に商業都市ロコンへと辿り着いたのだった。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
【商業都市ロコン】
ガルディア王国における三大都市のひとつ。
国王が住まう王都メルサを正三角形の頂点とし、左側に商業都市ロコン、右に冒険者の街リザリオを配しており、この三大都市がガルディア王国の中枢を担い、政治や経済などのバランスが取られているのだ。
そして、商業都市ロコンと冒険者の街リザリオにもそれぞれ代表となる“長”がおり、王権による独裁とならぬように抑止力となっているのだった。
また、大都市と大都市の間にはそれぞれを繋ぐ中間都市が存在し、スズネとミリアが生まれ育ったモアの街は王都メルサと商業都市ロコンを繋ぐ中間都市なのである。
「うわ~なんかすごい賑わいだね」
「ホント、王都とはまた違った意味で賑わってるわね」
───── ワイワイ ガヤガヤ ─────
「いらっしゃい、いらっしゃい。今日は新鮮な大爪熊の肉と魔猪の肉が入ってるよ~!!」
「安いよ安いよ~。今朝採れたてのトマトにキュウリ、大玉キャベツに山菜もあるよ~」
「そこの奥さん、活きのいい魚はどうだい?奥さん美人だからサービスしちゃうよ!!」
商業都市ロコンに到着したスズネたちは、さっそく街の賑わいに圧倒されてしまう。
さすがは商業都市という名の通り、街に入ってすぐに商人たちの声が飛び交い、とてつもない賑わいを見せていた。
それもそのはず、ロコンの街に住むそのほとんどが商人であり、売り買いに関しては一切の妥協を許さない気質の人間ばかりなのだ。
「それじゃ俺はちょっくら取引先に行ってくるからよ、スズネちゃんたちは観光でもしててくれ。二時間くらいで終わると思うから、商業ギルド前で待ち合わせて、そうしたら飯を食いに行こう」
「は~い。それじゃ適当に時間潰してますね」
こうして取引先へと商談に行くゴルザと分かれたスズネたち。
ゴルザの商談が二時間程ということで、一行はロコンの街を見て回ること。
「それじゃ、みんな行くよ。しゅっぱーつ」
そこからスズネたちは時間の許す限りロコンの街を見て回り観光を満喫したのだった。
食料品店
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武器屋
防具屋
アイテムショップ
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「はぁ~、けっこう回ったんじゃない。マジでお店が多過ぎだわ」
「あはははは。お店の数もだけど、並んでる商品の数もモアの街とは段違いに多かったね」
「うっ・・・ウチはちょっと人に酔ったみたいで気持ち悪いっす」
「大丈夫ですか?それにしても本当に人が多いですね。メルサも多いと思っていましたが、それ以上ですね」
あまりの人の多さに人酔いしてしますたシャムロムの背中を摩りながら、王都育ちのマクスウェルもその多さに驚きを隠せずにいた。
「う~~~、わっちはさっき屋台で売っていた鹿肉の串焼きが食べたかったのじゃ」
「ダメだよラーニャちゃん。この後お父さんとご飯を食べに行くんだから、もう少しの我慢だよ」
道中ほぼ寝っぱなしで、起きたら起きたで空腹を訴えるラーニャ。
こういう時はまだ十歳の少女らしさを感じさせる。
ゴルザと分かれてから二時間が経ち、スズネたちは待ち合わせ場所である商業ギルドの前でゴルザを待っていた。
すると、そんなスズネたちに対して突然一人の男性が声を掛けてきた。
「商業都市ロコンはいかがですか?冒険者のみなさん ─── いや、“宿り木”のみなさんと言った方がいいですかね」
唐突に声を掛けられたスズネたちは驚いた表情で声の主へと視線を向ける。
その男性は恰幅が良く、綺麗に整えられた口髭を貯えており、きっちりとしたスーツを着こなしている。
そして男性の背後には、こちらもシワひとつないスーツを着た白髪の男性が仕えていた。
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この世界『アレスディア』には天職と呼ばれる物がある。
戦闘に秀でていて他を寄せ付けない程の力を持つ剣士や戦士などの戦闘系の天職や、鑑定士や聖女など様々な助けを担ってくれる補助系の天職、様々な天職の中にはこの『アストレア王国』をはじめ、いくつもの国では不遇とされ虐げられてきた鍛冶師や錬金術師などと言った生産系天職がある。
これは、そんな『アストレア王国』で不遇な天職を賜ってしまった違う世界『地球』の前世の記憶を蘇らせてしまった一人の少年の物語である。
彼の行く先は天国か?それとも...?
誤字報告は訂正後削除させていただきます。ありがとうございます。
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