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スズネたちがランクアップしてから五日が経ち、前回のクエストの反省を活かすために、それぞれが次に向けて鍛錬に励む日々を過ごしていた。
キュッ、キュッ、キュッ。
「はぁ~やっぱりシルバーは輝き方が違うわね~」
うっとりした目をしながらシルバーのプレートを眺めるミリアが声を漏らす。
そんなミリアの姿を見たスズネが笑みを浮かべながら声を掛ける。
「ちょっとミリア、この五日間プレートを磨いては眺めての繰り返しじゃない」
「え~別にいいじゃない。苦労して手に入れたわけだし、何より初めてのランクアップよ。少しくらい浸ったってバチは当たらないわよ」
────────── ガチャ 。
「只今戻りました」
「あっ、マクスウェル君おかえり~」
一角兎との一戦の時にクロノから言われた言葉に思うところがあったのか、マクスウェルは以前よりも一層鍛錬に勤しむようになった。
「またプレートですか」
「何よ悪い。今更欲しがっても遅いわよ」
「そうだよマクスウェル君、本当に良かったの?」
「はい、大丈夫です。僕が目指しているのは聖騎士になることだけですので、お誘いは有り難いのですが、冒険者になるつもりはありません」
その言葉には一切の迷いもなく、一本芯の通った力強さを感じさせた。
「スズネ、もうこれ以上は止めときなさい。マクスウェルにはマクスウェルの目指すべきモノがあるんだから邪魔したらダメよ」
「はーい。残念・・・」
どうやらスズネは本気でマクスウェルを正式なメンバーとしてパーティに入れる気だっだようで、残念そうにしながらも渋々納得したのであった。
「冒険者にはなれませんが、この修行中は皆さんの仲間として微力ながら協力させて頂きます」
「うん。これからもよろしくね」
「頼りにしてるわよ。未来の聖騎士さん」
こうして、三人は思いを新たに一致団結していこうと強く思うのだった。
「さぁ~て、そろそろクロノとラーニャちゃんも帰ってくる頃だろうし、お昼ご飯の準備でも始めよっか」
────────── ドンドン 。
スズネたちが昼食の準備に取り掛かろうとしていると、玄関の扉を叩く音がした。
「ん?クロノたちかな??ちょっと見てくるね」
いつも帰ってきた時にはいちいち玄関の扉なんてノックしないのに、今日はなんとも珍しい。
そんなことを思いながらスズネは玄関へと向かう。
「はい、はい、おかえり~い?」
玄関の扉を開いたスズネの前に異様な光景が現れる。
残念ながらそこにクロノとラーニャの姿はない。
代わりに現れたのは…壁だ。
あちこちに傷や汚れが見られ、使い古された様子も感じ取れる白い壁が突如として現れたのだった。
「ひゃっ!?何、何、何??」
思わず声を上げるスズネ。
「大声出してどうしたのスズネ」
そんなスズネの声を聞きつけて、ミリアとマクスウェルが玄関までやってきた。
そして、そこに広がる光景に首を傾げる。
「何…この白い壁は?またラーニャの失敗?」
マクスウェルと同様に、一角兎との一戦後からラーニャはクロノ直々の指導を受けており、日夜魔力操作の基礎を徹底的に繰り返しやらされているのであった。
その過程において魔力操作を誤り失敗することも数多く起こっていた。
「いや、ラーニャが今鍛錬してるのは基礎的な魔力操作だから、暴発はあってもこんな壁を形成するなんてことはないんじゃないか」
ミリアの疑問に対してマクスウェルが冷静に答える。
そんなやりとりが終わると、どこからともなく声が発せられる。
「すみませんっす」
───── ん!? ─────
とても小さな声。
他の誰かが話をしていたらかき消されてしまうのではないかというほど微かな声であったが、沈黙の中で唐突に発せられた声に三人は驚く。
「今…なんか声がしなかった?」
「ア…アタシにも聞こえたわ」
「僕にもです」
三人全員が聞いたということは聞き間違いではなさそうである。
スズネたちが警戒する中、再び声が発せられる。
「すみませんっす」
まただ。
先程と同様に小さな声がする。
その声の正体も発生場所も分からず、三人はさらに警戒を強める。
「ホント、何処にいんのよ」
「ま…まさか、幽霊じゃないよね」
「ちょっとスズネ、変なこと言わないでよ」
「二人共、冷静に!!気を緩めないでください」
緊張が高まる中、三人はそれぞれ背を向け合い相手が何処から来ても対応出来るよう瞬時に臨戦態勢をとる。
これも数多くクエストをこなしてきた賜物である。
「こっちっす」
「「「ん?」」」
「こ・っ・ち・っ・す!!」
それまでの消えそうな声ではなく、三人の耳にはっきりと届く大きな声が玄関に響いた。
「えっ!?白い壁が喋った??」
「一体全体どうなってんのよ、この白壁は」
そう言いながら、ミリアはコンコンと白壁を叩いた。
「そっちじゃないっす。こっち、こっちっす」
改めて声の発生源を探すと、なんと白壁と玄関の扉の隙間から一人の少女が顔を覗かせていた。
「えっ!?あっ、ごめんなさい。全然気付かなくて」
少女を目にしたスズネが慌てて謝罪する。
白壁を押し退けて全容を現した少女は、全身を鎧で纏っており、腰の位置に短剣を携えている。
身長は百三十センチくらいだろうか。
スズネやミリアよりも二十センチ以上低いように見える。
そして、スズネたちがずっと白壁だと思っていたのは、彼女の持つ大きな楯であった。
「あの~何か御用でしょうか?」
どこかで会ったことがあるだろうか?
今日、何か約束をしていただろうか?
もしかして、勝手に家を建てて住んでいるということで騎士が咎めに来たのか。
いろんな事を頭の中で巡らせながらスズネは少女に用件を尋ねた。
「あっ…いや…、ここにあの魔王を手懐けた若き凄腕の魔法師の方が率いる冒険者パーティがいるって聞いて、お願いしたいことがあって来たっす…来ました」
──────────────────────
────────── コトッ。
「どうぞ」
「あっ、ありがとうございます」
スズネたちは突然の来客に驚きながらも、とりあえず用件を聞くためにリビングで話を聞くことにした。
「それじゃ、まずは名前を聞いてもいいですか?」
「あっはい。名前はシャムロムって言うっす…言います。今日は突然お邪魔してすみませんっす」
「シャムロムさん、そんなに畏まらなくて大丈夫ですよ」
スズネとシャムロムのぎこちない会話が繰り広げられる中、痺れを切らしたミリアが割って入り本題に入るように促す。
「それでシャムロムさん、アタシたちにお願いしたいことがあるって言ってましたけど、そのお願いって何ですか?」
ミリアからの質問を受けたシャムロムは、フゥーと大きく息を吐き出す。
そして、真っ直ぐスズネたちに視線を向けると意を決したように話し始めた。
「ウチは見ての通りドワーフなんすけど、鍛治師の才能が無くて、他の人より優れてる所なんて身体の頑丈さくらいなもんだったんす。それで冒険者になったんすけど、頑丈さはあってもスピードが遅いので、どこのパーティでもすぐに見切りをつけられてお払い箱に・・・」
そう話をするシャムロムは、悔しさからなのか、自身の不甲斐なさからなのか、その目からこぼれ落ちる涙を拭う。
「そんな…可哀想…」
そんなシャムロムの様子を見ていたスズネが心配するように声を漏らす。
しかし、ミリアとマクスウェルは一切表情を変えることなく、目の前に座るシャムロムに視線を向け続けていた。
「それでシャムロムさん、これまでに苦労されてきたのは理解しましたけど、本題は?」
スズネのように相手の感情に流されることなく、ミリアは冷静に話を進めようとする。
「はい、すみませんっす。最近またパーティから外されてギルドで途方にくれていた時に、ロマリオって冒険者のおじさんに声を掛けられたんす」
「「ロマリオさん!?」」
聞き覚えのある名前が飛び出し、スズネとミリアは思わず声を上げる。
「お二人はロマリオさんと知り合いだったんすね」
「うん。私たちが冒険者になったばかりでパーティメンバーを探していた時に、ラーニャちゃんっていう今いるメンバーの情報を教えてもらったんだよね。久しぶりに会いたいな~」
かつての思い出を振り返りながら嬉しそうに話すスズネ。
「そうだったんすね。そのロマリオさんに、あの魔王クロノを手懐け、数々のパーティで問題を起こした魔法師すらも大人しくさせパーティに加えた方がいると教えてもらって、なんとかウチもパーティに入れてもらえないかと思って来たわけっす」
事情は理解した。
これまでに苦労してきたことを考えると、まさに藁にもすがる思いでここまでやって来たのだろう。
しかし、パーティを組むということはお互いに背中を預けてクエストに臨むわけであり、“可哀想だ”の一言で加入を認めるわけにはいかない。
わざわざ言葉にはしないが、ミリアもマクスウェルも同じ思いでいた。
「壁役でも荷物持ちでもなんでもするっす。だから、パーティに入れてもらいたいっす」
そう言うと、シャムロムは深々と頭を下げた。
「いいですよ」
───── えっ!?!?!? ─────
ミリアとマクスウェルは隣から聞こえてきた返答に驚き、思わず声の主へと視線を向ける。
「ちょっ…ちょっとスズネ、アンタ何言ってんの?」
「えっ?あれ?ダメだった??」
「いや、ダメとかそういうんじゃなくて、もう少し慎重に物事考えなさいよ」
「う~ん。でも、これまで大変だったみたいだし、すごく真剣にお願いしてたし、それに何よりも仲間が増えるのって嬉しいじゃない」
心配するミリアをよそにスズネはとても嬉しそうに穏やかな笑顔を向ける。
「はぁ~アンタってやつはホント・・・」
こうなったスズネは誰にも止められない。
まさに猪突猛進。
喜びや楽しみに対して純粋に突き進んでいく。
幼馴染であるからこそその事を重々承知しているミリアは、苦笑いを浮かべながら早々に説得することを放棄したのであった。
ガチャッ ───── 。
「わっちの帰還なのじゃー」
玄関からラーニャの声が聞こえた。
どうやらクロノとの鍛錬を終えて帰ってきたようだ。
「おーい、帰ったのじゃ。お昼ご飯にするのじゃ」
「ラーニャちゃん、おかえり」
「おかえり。ラーニャ、アンタもう少し静かに入ってきなさいよ」
「お帰りなさい」
勢いよくリビングに入ってきたラーニャの目に、自身の知らない人物の姿が飛び込んできた。
そして、シャムロムの姿を目にしたラーニャは、先程までの笑顔から一変して怪訝そうな顔を見せる。
「そいつは誰じゃ」
「あっ…お邪魔してるっす。ウチはシャムロム。今日は皆さんにお願いがあって来たんす」
ラーニャの問い掛けにシャムロムは慌てた様子で答える。
「それで、用件はなんだ?」
声の主はクロノである。
ラーニャから少し遅れてやってきたクロノは、入ってくるなり軽く睨みを利かせながら質問した。
そんなクロノの様子と自身に向けられた圧に押されシャムロムは萎縮してしまう。
「ダメだよ、二人共。怖い顔しないの。シャムロムさんは、ロマリオさんからの紹介で私たちのパーティに入りたいってわざわざ来てくれたんだよ」
怯えるシャムロムを威圧しようとする二人をスズネが一喝する。
スズネの言葉を受け、威圧することを止めたクロノは続けて質問をする。
「ほ~う。このパーティに入りたいなんてお前も物好きなやつだな。それで、お前は何が出来るんだ?」
「あっ、はい。これまでのパーティでは大楯を使った防衛をしていたっす。身体の頑丈さには自信があるっす」
シャムロムは力強く答える。
それまで所々で気弱さを見せていた彼女であったが、本能的にここが正念場だと感じ取ったのか、真っ直ぐに力強い視線をクロノへと向けた。
「いいだろう。お前のその力、この魔王クロノが見定めてやろう」
キュッ、キュッ、キュッ。
「はぁ~やっぱりシルバーは輝き方が違うわね~」
うっとりした目をしながらシルバーのプレートを眺めるミリアが声を漏らす。
そんなミリアの姿を見たスズネが笑みを浮かべながら声を掛ける。
「ちょっとミリア、この五日間プレートを磨いては眺めての繰り返しじゃない」
「え~別にいいじゃない。苦労して手に入れたわけだし、何より初めてのランクアップよ。少しくらい浸ったってバチは当たらないわよ」
────────── ガチャ 。
「只今戻りました」
「あっ、マクスウェル君おかえり~」
一角兎との一戦の時にクロノから言われた言葉に思うところがあったのか、マクスウェルは以前よりも一層鍛錬に勤しむようになった。
「またプレートですか」
「何よ悪い。今更欲しがっても遅いわよ」
「そうだよマクスウェル君、本当に良かったの?」
「はい、大丈夫です。僕が目指しているのは聖騎士になることだけですので、お誘いは有り難いのですが、冒険者になるつもりはありません」
その言葉には一切の迷いもなく、一本芯の通った力強さを感じさせた。
「スズネ、もうこれ以上は止めときなさい。マクスウェルにはマクスウェルの目指すべきモノがあるんだから邪魔したらダメよ」
「はーい。残念・・・」
どうやらスズネは本気でマクスウェルを正式なメンバーとしてパーティに入れる気だっだようで、残念そうにしながらも渋々納得したのであった。
「冒険者にはなれませんが、この修行中は皆さんの仲間として微力ながら協力させて頂きます」
「うん。これからもよろしくね」
「頼りにしてるわよ。未来の聖騎士さん」
こうして、三人は思いを新たに一致団結していこうと強く思うのだった。
「さぁ~て、そろそろクロノとラーニャちゃんも帰ってくる頃だろうし、お昼ご飯の準備でも始めよっか」
────────── ドンドン 。
スズネたちが昼食の準備に取り掛かろうとしていると、玄関の扉を叩く音がした。
「ん?クロノたちかな??ちょっと見てくるね」
いつも帰ってきた時にはいちいち玄関の扉なんてノックしないのに、今日はなんとも珍しい。
そんなことを思いながらスズネは玄関へと向かう。
「はい、はい、おかえり~い?」
玄関の扉を開いたスズネの前に異様な光景が現れる。
残念ながらそこにクロノとラーニャの姿はない。
代わりに現れたのは…壁だ。
あちこちに傷や汚れが見られ、使い古された様子も感じ取れる白い壁が突如として現れたのだった。
「ひゃっ!?何、何、何??」
思わず声を上げるスズネ。
「大声出してどうしたのスズネ」
そんなスズネの声を聞きつけて、ミリアとマクスウェルが玄関までやってきた。
そして、そこに広がる光景に首を傾げる。
「何…この白い壁は?またラーニャの失敗?」
マクスウェルと同様に、一角兎との一戦後からラーニャはクロノ直々の指導を受けており、日夜魔力操作の基礎を徹底的に繰り返しやらされているのであった。
その過程において魔力操作を誤り失敗することも数多く起こっていた。
「いや、ラーニャが今鍛錬してるのは基礎的な魔力操作だから、暴発はあってもこんな壁を形成するなんてことはないんじゃないか」
ミリアの疑問に対してマクスウェルが冷静に答える。
そんなやりとりが終わると、どこからともなく声が発せられる。
「すみませんっす」
───── ん!? ─────
とても小さな声。
他の誰かが話をしていたらかき消されてしまうのではないかというほど微かな声であったが、沈黙の中で唐突に発せられた声に三人は驚く。
「今…なんか声がしなかった?」
「ア…アタシにも聞こえたわ」
「僕にもです」
三人全員が聞いたということは聞き間違いではなさそうである。
スズネたちが警戒する中、再び声が発せられる。
「すみませんっす」
まただ。
先程と同様に小さな声がする。
その声の正体も発生場所も分からず、三人はさらに警戒を強める。
「ホント、何処にいんのよ」
「ま…まさか、幽霊じゃないよね」
「ちょっとスズネ、変なこと言わないでよ」
「二人共、冷静に!!気を緩めないでください」
緊張が高まる中、三人はそれぞれ背を向け合い相手が何処から来ても対応出来るよう瞬時に臨戦態勢をとる。
これも数多くクエストをこなしてきた賜物である。
「こっちっす」
「「「ん?」」」
「こ・っ・ち・っ・す!!」
それまでの消えそうな声ではなく、三人の耳にはっきりと届く大きな声が玄関に響いた。
「えっ!?白い壁が喋った??」
「一体全体どうなってんのよ、この白壁は」
そう言いながら、ミリアはコンコンと白壁を叩いた。
「そっちじゃないっす。こっち、こっちっす」
改めて声の発生源を探すと、なんと白壁と玄関の扉の隙間から一人の少女が顔を覗かせていた。
「えっ!?あっ、ごめんなさい。全然気付かなくて」
少女を目にしたスズネが慌てて謝罪する。
白壁を押し退けて全容を現した少女は、全身を鎧で纏っており、腰の位置に短剣を携えている。
身長は百三十センチくらいだろうか。
スズネやミリアよりも二十センチ以上低いように見える。
そして、スズネたちがずっと白壁だと思っていたのは、彼女の持つ大きな楯であった。
「あの~何か御用でしょうか?」
どこかで会ったことがあるだろうか?
今日、何か約束をしていただろうか?
もしかして、勝手に家を建てて住んでいるということで騎士が咎めに来たのか。
いろんな事を頭の中で巡らせながらスズネは少女に用件を尋ねた。
「あっ…いや…、ここにあの魔王を手懐けた若き凄腕の魔法師の方が率いる冒険者パーティがいるって聞いて、お願いしたいことがあって来たっす…来ました」
──────────────────────
────────── コトッ。
「どうぞ」
「あっ、ありがとうございます」
スズネたちは突然の来客に驚きながらも、とりあえず用件を聞くためにリビングで話を聞くことにした。
「それじゃ、まずは名前を聞いてもいいですか?」
「あっはい。名前はシャムロムって言うっす…言います。今日は突然お邪魔してすみませんっす」
「シャムロムさん、そんなに畏まらなくて大丈夫ですよ」
スズネとシャムロムのぎこちない会話が繰り広げられる中、痺れを切らしたミリアが割って入り本題に入るように促す。
「それでシャムロムさん、アタシたちにお願いしたいことがあるって言ってましたけど、そのお願いって何ですか?」
ミリアからの質問を受けたシャムロムは、フゥーと大きく息を吐き出す。
そして、真っ直ぐスズネたちに視線を向けると意を決したように話し始めた。
「ウチは見ての通りドワーフなんすけど、鍛治師の才能が無くて、他の人より優れてる所なんて身体の頑丈さくらいなもんだったんす。それで冒険者になったんすけど、頑丈さはあってもスピードが遅いので、どこのパーティでもすぐに見切りをつけられてお払い箱に・・・」
そう話をするシャムロムは、悔しさからなのか、自身の不甲斐なさからなのか、その目からこぼれ落ちる涙を拭う。
「そんな…可哀想…」
そんなシャムロムの様子を見ていたスズネが心配するように声を漏らす。
しかし、ミリアとマクスウェルは一切表情を変えることなく、目の前に座るシャムロムに視線を向け続けていた。
「それでシャムロムさん、これまでに苦労されてきたのは理解しましたけど、本題は?」
スズネのように相手の感情に流されることなく、ミリアは冷静に話を進めようとする。
「はい、すみませんっす。最近またパーティから外されてギルドで途方にくれていた時に、ロマリオって冒険者のおじさんに声を掛けられたんす」
「「ロマリオさん!?」」
聞き覚えのある名前が飛び出し、スズネとミリアは思わず声を上げる。
「お二人はロマリオさんと知り合いだったんすね」
「うん。私たちが冒険者になったばかりでパーティメンバーを探していた時に、ラーニャちゃんっていう今いるメンバーの情報を教えてもらったんだよね。久しぶりに会いたいな~」
かつての思い出を振り返りながら嬉しそうに話すスズネ。
「そうだったんすね。そのロマリオさんに、あの魔王クロノを手懐け、数々のパーティで問題を起こした魔法師すらも大人しくさせパーティに加えた方がいると教えてもらって、なんとかウチもパーティに入れてもらえないかと思って来たわけっす」
事情は理解した。
これまでに苦労してきたことを考えると、まさに藁にもすがる思いでここまでやって来たのだろう。
しかし、パーティを組むということはお互いに背中を預けてクエストに臨むわけであり、“可哀想だ”の一言で加入を認めるわけにはいかない。
わざわざ言葉にはしないが、ミリアもマクスウェルも同じ思いでいた。
「壁役でも荷物持ちでもなんでもするっす。だから、パーティに入れてもらいたいっす」
そう言うと、シャムロムは深々と頭を下げた。
「いいですよ」
───── えっ!?!?!? ─────
ミリアとマクスウェルは隣から聞こえてきた返答に驚き、思わず声の主へと視線を向ける。
「ちょっ…ちょっとスズネ、アンタ何言ってんの?」
「えっ?あれ?ダメだった??」
「いや、ダメとかそういうんじゃなくて、もう少し慎重に物事考えなさいよ」
「う~ん。でも、これまで大変だったみたいだし、すごく真剣にお願いしてたし、それに何よりも仲間が増えるのって嬉しいじゃない」
心配するミリアをよそにスズネはとても嬉しそうに穏やかな笑顔を向ける。
「はぁ~アンタってやつはホント・・・」
こうなったスズネは誰にも止められない。
まさに猪突猛進。
喜びや楽しみに対して純粋に突き進んでいく。
幼馴染であるからこそその事を重々承知しているミリアは、苦笑いを浮かべながら早々に説得することを放棄したのであった。
ガチャッ ───── 。
「わっちの帰還なのじゃー」
玄関からラーニャの声が聞こえた。
どうやらクロノとの鍛錬を終えて帰ってきたようだ。
「おーい、帰ったのじゃ。お昼ご飯にするのじゃ」
「ラーニャちゃん、おかえり」
「おかえり。ラーニャ、アンタもう少し静かに入ってきなさいよ」
「お帰りなさい」
勢いよくリビングに入ってきたラーニャの目に、自身の知らない人物の姿が飛び込んできた。
そして、シャムロムの姿を目にしたラーニャは、先程までの笑顔から一変して怪訝そうな顔を見せる。
「そいつは誰じゃ」
「あっ…お邪魔してるっす。ウチはシャムロム。今日は皆さんにお願いがあって来たんす」
ラーニャの問い掛けにシャムロムは慌てた様子で答える。
「それで、用件はなんだ?」
声の主はクロノである。
ラーニャから少し遅れてやってきたクロノは、入ってくるなり軽く睨みを利かせながら質問した。
そんなクロノの様子と自身に向けられた圧に押されシャムロムは萎縮してしまう。
「ダメだよ、二人共。怖い顔しないの。シャムロムさんは、ロマリオさんからの紹介で私たちのパーティに入りたいってわざわざ来てくれたんだよ」
怯えるシャムロムを威圧しようとする二人をスズネが一喝する。
スズネの言葉を受け、威圧することを止めたクロノは続けて質問をする。
「ほ~う。このパーティに入りたいなんてお前も物好きなやつだな。それで、お前は何が出来るんだ?」
「あっ、はい。これまでのパーティでは大楯を使った防衛をしていたっす。身体の頑丈さには自信があるっす」
シャムロムは力強く答える。
それまで所々で気弱さを見せていた彼女であったが、本能的にここが正念場だと感じ取ったのか、真っ直ぐに力強い視線をクロノへと向けた。
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