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お目付役

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アーサーの呼び掛けにより、一人の騎士が謁見の間に入室してきた。
サラサラとしたブロンドの髪にキリッと整った顔立ちをしており、爽快感と共に穏やかな空気感を漂わせている。
そして、入室すると真っ直ぐに玉座の前まで歩を進め、スズネたちの列へと加わった。

マクスウェルと呼ばれるその騎士は、この場にいる他の騎士たちとは明らかに装いが違っている。
まず身に付けている装備がまるで違う。
プラチナ製の装備を身に付けている“十二の剣ナンバーズ”の面々はもちろんのこと、王城を警備している兵士たちがシルバー製の装備であるのに対して、マクスウェルの装備はブロンズ製なのである。
そして、何よりも違うのが年齢だ。
王城にいる兵士たちの中で若くても二十代であるのに対し、マクスウェルの年齢はスズネやミリアと変わらないように見える。


「何だこのガキは。子守りなら間に合ってるぞ」


クロノは少し不満そうである。
スズネは同年代であろう男性にオドオドしており、ミリアは同年代の剣士に興味があるようでまじまじと眺めている。
そして、ラーニャはというと…全く興味がないのか見向きもしない。


「アーサー、説明を頼む」

「ハッ、その者の名はマクスウェル。十六と若く年齢規定により聖騎士見習いとなってはいるが、実力的には申し分ない。それは王国聖騎士団総長であり、マクスウェルの師でもあるこの私が保証する。この者を其方たちの目付役として同行させる理由については、先程陛下から仰って頂いた通りである」


国王をはじめ実際にクロノを目にし会話を交わした者は、ある程度の理解を示せたとしても、何ひとつ知らない国民は別である。
そんな国民へ向けたパフォーマンスの意味も含めた処置である。


「まぁ~あまり深く捉えないでくれ。目付役とは、あくまでも表向きの理由であり、それはついでだ。本当の理由は、マクスウェルに外の世界を見せることにある」


国王は本音を隠すつもりはないらしい。
あれこれ言葉を並べてはいるが、要約すると“子守りの押し付け”である。


「だから、なんで俺が子守りをしなきゃいけないんだ?こんなガキじゃ何の抑制にもなんねぇ~ぞ」


納得出来ないクロノは、当然の如く怒りと共に不満を漏らす。
その様子を見て、それまで一切口を開かなかった青年騎士が沈黙を破る。


「黙れ、魔族風情が。死刑はおろか何の制限も無く過ごさせて頂ける陛下の寛大さに感謝しろ・・・殺すぞ」


最初に感じたあの爽やかさはどこへいったのか ───── 。
どうやら師匠譲り?の好戦的な一面も持ち合わせているようだ。


「なんじゃアイツは?わっちの旦那様に対して“殺す”じゃと。どうやら消し炭にされたいようじゃのう」


マクスウェルの言動に対し、これまで全く興味を示してこなかったラーニャが怒りを露にする。
手に持つ杖に魔力を集中させていき、今にも魔法をぶっ放しそうな勢いである。


「止めときなさい。っていうか、アンタの大事な旦那が見習い相手にどうこうされるわけないでしょ」

「うむ、それもそうじゃの。ようやくミリアも旦那様の偉大さに気付きおったか」

「はいはい。何でもいいから、今は大人しくしといて」


怒れるラーニャであったが、ミリアによって軽くいなされるように宥められ落ち着きを取り戻す。
クロノとラーニャという問題児二人の扱いにもだいぶ慣れてきたミリアなのであった。
一部始終を見ていた国王も感心した様子でミリアへと微笑みを向け、それに気付いたミリアは照れ臭そうに頬を赤らめるのだった。
そして、国王は視線をマクスウェルへ向けると、一連の言動について嗜める。



「控えろ、マクスウェル」

「ハッ、失礼しました」


一難去って何とやら・・・。
やはり王国を守護する騎士にとって、敵対する相手の大将である魔王を前にして冷静でいろという方が無理なのかもしれない。
しかし、それは国王とて承知済である。
承知の上で、あえてこの場を設けたのだ。
それぞれが聖騎士の一団を預かる身である団長たちもそれを理解しているからこそ、ここまで一切口を挟むことなく状況を見守っているのである。


「クロノ殿、貴殿にとって面倒事なのは重々理解しているが、そこをなんとか、交換条件ではないが引き受けてはもらえんだろうか」


国王の言葉に対し暫くクロノが沈黙していると、スズネたちが先に口を開いた。


「クロノ、国王様もこう仰ってることだし、引き受けてもいいんじゃないかな」

「そうよ。国王様がここまで譲歩してくださってるんだから、アンタいつまでもワガママ言ってんじゃないわよ」

「心配無用じゃよ旦那様。役に立たなかった時には、バレないようにわっちが処分してやるのじゃ」


三者三様ではあるが、概ね国王からの提案を受けるということで一致しているようである。
各々が好き勝手言っていることに腹を立てつつも、だんだんこの状況が馬鹿らしくなってきたクロノは諦めたように提案を承諾したのであった。


「はぁ~、分かったよ。このガキも連れて行けばいいんだろ」

「お~承諾してもらえるか。良かった、良かった。それではマクスウェルよ、皆さんに迷惑をかけぬよう精進いたせ」

「ハッ!!」


◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆


国王との謁見を終えたスズネたちは、モアの街へ帰るために城門にてある人物を待っていた。
その人物とは、もちろんこれからパーティに加わる?マクスウェルのことである。
クロノは男性とはいえ、表向きはあくまでもスズネの召喚獣として捉えられているので、純粋なメンバーとしては初めての男性ということになる。
その事が関係しているのか、スズネはどこかソワソワしていた。


「いや~まさかこんな所でメンバーが増えるとはね。しかも男。それに聖騎士団総長であるアーサー様唯一の弟子ときたら、剣士であるアタシとしては一度手合わせしてみたいわ」


ミリアは既に臨戦態勢に入っているようだ。


「あはははは、学校じゃミリアに勝てる人は一人もいなかったもんね。でも、やりすぎちゃダメだよ」


スズネとミリアが楽しそうにはしゃいでいる傍らで、ラーニャは暇を潰すためその場に座り込み木の棒を使ってアリの行列と戯れている。


「ラーニャちゃんはどう?入ってそうそうに新しいメンバーが入るけど、楽しみ?」

「ん?特に思うところは無いかの~。旦那様以外の男に興味など無いし、先程も言った通り役に立てば良し、立たなければ消すだけじゃ」

「いやいや、一応仲間だから仲良くしてね」


スズネやミリアと違いサバサバとした様子のラーニャに一抹の不安を覚えつつ、苦笑いを浮かべるスズネなのであった。
そんな彼女たちをよそに、クロノは待機中の馬車の中から城下に広がる王都メルサの街並みとその中を行き交う人々の姿を眺めていた。



「お待たせしました」


スズネたちが声のする方へと視線を向けると、マクスウェルの姿がそこにあった。
先程城内で会った時とは打って代わり、スズネたちと同様に洋服へと様変わりしている。


「うわ~さっきの鎧姿も格好良かったけど、私服姿も素敵だね」


マクスウェルの姿を見つけると、スズネはすぐさま駆け寄り、目をキラキラと輝かせながらマクスウェルの手を両手で握り締めて声を掛けた。


「えっ…いや…その…ありがとうございます」


マクスウェルは顔を真っ赤にし、照れながらオドオドした様子を見せた。
彼がそうなってしまうのも無理はない。
幼少期より剣術一筋で鍛錬を積み重ねてきた彼は、給仕の者以外の女性と関わることは少なく、ましてや同年代の女性と接することなどほとんど無かったのである。
要するに、若い女性への免疫は皆無なのだ。


「はぁ~可憐だ・・・」


マクスウェルは周囲に聞こえないほどの小さな声で呟く。


「うん?何か言った?」

「いえ、何も。改めまして、聖騎士見習いのマクスウェルと申します。国王陛下より命を受け同行させて頂きます。何卒宜しくお願いします」


マクスウェルからの自己紹介を受けて、スズネたちも順に自己紹介を始める。


「私はスズネ。回復魔法が得意…というか、その他の魔法はてんでダメな魔法師です。あそこの馬車でムスッとしているのが、召喚契約しているクロノです。こちらこそヨロシクね」

「アタシはミリア。スズネの幼馴染で一緒にサーバインを卒業した剣士よ。あと、アタシたちも十六でアンタと同い年だからタメ口でいいわよ。ヨロシクね」

「わっちはラーニャ。天才魔法師じゃ。足だけは引っ張るなよ」


各自が自己紹介を終え、残すところはクロノだけとなった。
全員が馬車から顔を出しているクロノへと視線を向ける。


「まぁ~なんでもいいが、ガキが色ボケてんなよ。邪魔だと判断したら即刻送り返すからな」

「なっ…誰が色ボケてなど ───── 」


マクスウェルはさらに顔を紅潮させ、照れを隠すように大きな声で否定したのだった。


「あはははは、二人は早速仲良しだね」

「いやいや、これは仲良しって言うのか?スズネの目にはどう映ってんのよ」


かくして、スズネたちは新しくマクスウェルをメンバーに迎え、モアへ向け帰路につくのであった。


◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆


「あ~見えてきた~」

「一日も経ってないのに、なんだか帰ってきた感が凄いわね」


朝一で出発し、王都へ行き、国王と謁見し、帰ってくる。
たったこれだけの事だが、慣れない環境も相まって、半日にも満たない時間ではあってもその疲労度はいつも以上のものとなっていた。


「ガウェインさん、帰りの護衛までして頂きありがとうございました」

「ハッハッハッ、帰るまでが旅だからな」


一切疲れを感じさせることなく、ガウェインはいつも通り豪快に笑うのだった。


「それじゃ、俺たちはこれにて失礼するよ。マクスウェル、しっかりやれよ」

「はい、もちろんです!!さらに剣の腕を磨き、外の世界を見て見識を広げ、必ずや聖騎士となってみせます」

「おう、楽しみにしておく。それでは、王都に帰るぞ」

「「「「「 ハッ!!!!! 」」」」」


行きと同様に帰り道にも同行したガウェインは、スズネたちをモアへと送り届けると、一息つく間も無く王都へと帰っていった。


───────────────────────────────────


「おばあちゃん、ただいま~」

「みんなお帰り、慣れない事の連続で疲れたろ。おや??また新しいイケメンが増えてるね。次は誰の彼氏なんだい」

「もうおばあちゃん、そんなんじゃないよ。こちらはマクスウェル君。クロノが悪いことしないように私たちに同行してくれる王国の騎士さんだよ」


いつものようにスズネをからかい楽しそうにしているロザリー。
それに対し慌てた様子で必死に否定するスズネ。
そのテンプレのようなやり取りを交えつつ、スズネはマクスウェルを紹介したのだった。


「おやおや、その若さで王国の ───── 大したもんだ」


ロザリーが感心していると、マクスウェルが即否定する。


「いえ、私などまだまだです。それにまだ見習いですので、正式な聖騎士ではありません」

「マクスウェルだっけ?年齢は?」

「十六歳です」

「なんだいスズネと同い年じゃないか。それで聖騎士見習いってんなら、やっぱり大したもんだよ。謙遜するのもいいけど、ちゃんと自信も持って精進しな」

「はい。ありがとうございます」

「そんなに畏まるんじゃないよ。ただの老いぼれのお節介さ」


さすがは聖騎士見習いとして騎士団の中で育ってきただけのことはあり、マクスウェルは同年代と比べても礼儀正しい。


超マイペースな魔法師(ほぼ回復系のみ)
自信家の首席剣士
わがままな天才魔法師
若き聖騎士見習い

そして・・・魔王


なんとも個性的なメンバーが集まったものである。
ただ、バランス的には悪くもないような気も・・・しなくもない。


───────────────────────────────────


「ところでマクスウェル、あんた何処に住むつもりだい?うちに置いてやりたいんだが、クロノにラーニャも来たからね。そこまで部屋は無いさね」

「いえ、どこか宿屋を探しますのでご心配なく」


そんなロザリーとマクスウェルの会話を聞いていたスズネが心配そうに声を掛ける。


「本当に大丈夫?慣れない街で一人なんて危ないよ」

「えっ、あっ、いや、大丈夫ですよ。毎日鍛えてますので」


マクスウェルは顔を赤くしながら答える。
すると、その様子を見ていたクロノが気怠そうに口を挟む。
どうやらさっさとこの状況を終わらせて食事にありつきたいようだ。


「おい、そんな盛りのついた色ガキなんてほっとけ」

「この…僕は盛ってなど ───── 」


クロノの嫌味にマクスウェルが応戦する。


「二人共止めな。マクスウェル、宿を探すったってこれからずっとって訳にはいかないだろ」

「そうだよ。お金だってかかるし、ずっとは無理だよ」

「それは、確かにそうですが・・・」


ロザリーとスズネの言葉に対して、返す言葉が見つからないマクスウェル。


「で、どうすんのよ。アタシもそろそろ実家を出て部屋を借りようと思ってるし、アンタも何処か部屋を借りればいいんじゃないの?」

「おや、ミリアちゃん一人暮らしするのかい。それなら、いっそのことパーティ全員で暮らせばいいんじゃないかい?」

「「「えぇぇぇ~~~」」」


ロザリーからの突然の提案にスズネたちは驚きを隠せずに声を上げた。


「ちょっ、ちょっとおばあちゃん、それってパーティメンバーみんなでシェアハウスするってこと?」

「シェアハウス?今はそう言うのかい。別に不思議なことじゃないさね。昔からパーティメンバーで暮らすなんて常識さ。私だって冒険者をやってた頃は、自分たちのホームを持って仲間たちと暮らしたもんさ」


冒険者になったばかりのスズネたちは知らないだろうが、ロザリーの言う通り、一般的にパーティを組んだ冒険者はホームと呼ばれる拠点を用意し、パーティメンバーで寝食を共にするものなのである。


「でも、ロザリーさん。パーティメンバー全員で暮らせるような場所なんて、アタシたちには・・・」


ミリアの言う通り、スズネたちにはこの人数全員が住めるような場所に心当たりはない。
そして、そんな物件を買うお金も、借りるお金ももちろん無い。

しかし、そんな事は百も承知なロザリーにはこの問題を解決する策があるようだ。


「その事なら心配無用さ。“ザグレスの森”に以前私が使っていた一軒家があるんだ。スズネ、そこをアンタにあげるから好きに使うといい」


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