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三人目

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「「「「本当ですか(なのか)!?」」」」

今自分たちが抱えている問題の全てを解決する方法があるというマーリンの言葉に、
マーリンを除く全員が同時に声を上げ前のめりに立ち上がった。
自身の言葉に必死の形相でがっつく四人を見て、笑みをこぼしながらも落ち着かせようとするマーリン。


「まぁ~全員落ち着け。順を追って説明してやるから、よく聞いた上でどうするかはお前たちで決めろ」


それを聞いた四人は一先ず焦る気持ちを落ち着かせる。
そして、改めてマーリンへ視線を向けると姿勢を正しゴクリと生唾を飲み込んだ。


「まず第一にラーニャの森の外への外出及びお前たちのパーティへの加入を認める」


その言葉にスズネ、ミリア、ラーニャの三人は笑みを浮かべて喜びを表す。


「次に召喚契約の解除方法に関してだが・・・教えてやってもいい」

「本当か!?勿体つけずに早く教えろ」


待ってましたと言わんばかりに、クロノはこれまでに見せたことがないくらいの喜びをもって声を弾ませる。
その様子を見つつマーリンは話を続ける。


「ただし、それら全てを叶えるための条件がある」

「「「「条件??」」」」


スズネを除く三人は“必ず何かある”と思っていただけに、その条件としてどれ程の難題が出されるのかと固唾を飲む。


「その条件とは・・・」

ゴクリッ ──────

「魔王クロノ、貴様がラーニャに魔法及び戦闘に関して教授し最終試験をクリアさせることだ」


────── えっ!?

予想だにしていなかった条件を前に、かなりの難題を覚悟していたミリアとラーニャは唖然とした表情をしている。
なぜか分からないが、スズネは一人満面の笑みで手を叩きながら喜んでいる。


「ふざけるな!!なぜ俺がそんな面倒なことをしなくちゃいけないんだよ」


当然の如くクロノは不満たっぷりに異を唱える。
それはそうだろう。
いくら賢者とまで称されるマーリンの弟子とはいえ、魔法はともかく戦闘面に関して鍛えるというのはかなりの時間と労力を要するものである。

そんなことはマーリンも承知の上である。
しかし、マーリンはあくまでも強気の姿勢を崩すつもりはない。
それはもちろん、クロノの望みがマーリンの心持ちひとつであることが明白であるからだ。


「まぁ~わしはどちらでもいいんだがな~。好きに選んでもらって構わんよ、魔王殿」


クロノの苦虫を噛み潰したような表情を嬉しそうに見つめるマーリン。


「あの…マーリン様、ラーニャの試験クリアが条件であるなら、それまではパーティへの加入も外出も認めてもらえないってことですよね。それはアタシたちとしても困るんですが・・・」


マーリンから出された条件は、確かにラーニャが試験をクリアすれば認めるというものだ。
スズネとミリアとしてはすぐにでもパーティに入ってもらいたい。
そんな焦りの気持ちがミリアの言葉から伝わってくる。
しかし、そんな彼女の思いは杞憂に終わる。


「あ~そっちはすぐからで構わん。お前たちとの活動の中でラーニャを鍛えてくれればよい」

「それはズルいぞ。なぜ俺だけが条件の達成後なんだ」


さらに怒りを見せるクロノに対しマーリンは淡々と説明する。


「それは当然であろう。魔法だけならともかく、戦闘に関しては実践の中で鍛える以外にどうするというのだ。しかも、お前とラーニャでは実力に差があり過ぎてサシでやっても話にならんだろ」


ぐうの音も出ない様子のクロノ。
これはもう引き受ける以外に道は無さそうである。


「はぁ~~~分かった…分かったよ、やればいいんだろ」


これ以上の問答は無意味だと察したクロノは、かなり渋々ながらマーリンの要求を受け入れる。


「ただし、俺は厳しいからな。お前も死ぬ気で付いてこい。そうすればこんな魔女ババアなんて軽く倒せるくらい強くしてやる」

「は…はい!!宜しくお願いします。旦那様」


ラーニャは他の面々が傍から見ていても分かるほど、嬉しそうに満面の笑顔を見せる。
クロノとしては引くに引けない半ばやけくそ状態。
その様子を見ていたスズネとミリアは顔を見合わせて喜ぶ。

仲間を求めて探し始めてから一ヶ月以上が経ち、スズネたちはようやく三人目のメンバー
をゲットしたのであった。


「さぁ~今日はもう遅い。簡単なものになるが夕食を用意してやるから泊まっていけ」


マーリンからの提案を受け、今日はマーリン宅に泊まり、モアへ戻るのは翌日にすることとなった。



◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆


「さぁ~たんと食え」


テーブルの上にずらりと並んだ料理の数々。
いつもはラーニャと二人だが、今日は久しぶりに客人を招いての食事ということもあり、マーリンも張り切って作ったようだ。


「「美味しそ~~~う」」

「お師匠様、張り切り過ぎなのでは…」

「肉!!肉!!肉~!!」


各々反応は違えど、マーリンが作った渾身の料理?に舌鼓を打つのであった。



食事を終え、まったりとした時間が流れる。
食卓に並んでいた料理は全てきれいに無くなっており、皆一様に満足そうな顔をして寛いでいる。
そうした中で何かを思い出したかのようにマーリンがスズネに尋ねる。


「そういえばスズネ、お前さんは精霊とも契約しておるのか?」

「???・・・精霊・・・?」


突然の質問に訳も分からず首を傾げるスズネ。
もちろん精霊と契約などしていない。


「昼間に森で会った時にも思うておったんだが、お前さんは精霊に愛されておる。それが無意識ともなると…馬鹿弟子よ、本当に面白いやつを連れてきたな」

「えっ!?あっ…はい。お師匠様、森で言っていた“面白いやつ”というのはスズネのことだったんですか?わっちはてっきり旦那様のことかと」


森でクロノから唐突に攻撃を受けた際、確かにマーリンは“面白いやつを連れて来たな”と言っていた。
その場にいたスズネたち全員がクロノに対しての言葉だと思っていただけに、まさかスズネに対しての言葉だったことに驚いたのだった。


「ん?此奴の何が面白いのだ?まぁ~そこそこの力はあるようだが、ただ強い魔王というだけであろう」


⦅あ~そうだった・・・この方は賢者マーリン様だった⦆

スズネとミリアは空いた口が塞がらない様子を見せながら、改めて目の前にいる人物が自分たちとは別次元の存在であることを認識したのであった。


「あの…マーリン様、精霊に愛されているというのはどういうことなんでしょうか?私、精霊を見たことすら無いんですが」

「お~無自覚であったか。まぁ~そういう者がいない訳ではないからな、そこまで心配することもない。お前自身のレベルと感覚が磨かれていけば、いずれ精霊を感じる時も来るだろう」

「はぁ~そういうものなんですね」


マーリンの返答を聞いても尚、いまいちピンと来ていない様子のスズネなのであった。


「そう気にするな。そもそも精霊に愛される人間自体が稀だ。お前さんを助けてくれることはあっても悪さをすることはないから、自分なりに関係を築いていけばいい」

「はい。今の私では考えても仕方がないので、精霊さんたちに感謝しながらレベルを上げていこうと思います」


そう言うと、スズネは満面の笑みをマーリンへと向けたのだった。



◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆


翌日、今回の目的であったラーニャを無事パーティに加入することができ、スズネたちは大満足な様子で帰路に向かう準備を進めていた。
そして、準備を終えようとしているとマーリンが見送りのために家の外へと出てきた。


「マーリン様、この度は本当にお世話になりました」

「ありがとうございました」

「いやいや、久々の客人でわしも随分と楽しませてもらった」


マーリンも満足そうな表情を見せる。

そして、別れの時 ─────  。
マーリンは真剣な面持ちでスズネたちに視線を向ける。


「スズネ、ミリア、ラーニャは魔法の才能こそあれど精神的にはまだまだ幼い。お前たちにも迷惑をかけると思うが、うちの馬鹿弟子のことを宜しく頼む」


そう言うと、マーリンは深々と頭を下げた。


「「ちょ…ちょ…ちょっとマーリン様、頭を上げてください」」


突然のことにスズネとミリアはかなり慌てた様子を見せる。


「ラーニャちゃんは素直で良い子なので大丈夫です」

「アタシたちもまだまだ新米冒険者ですし、みんなで力を合わせて頑張ります」

「お師匠様、わっちも迷惑をかけないように気をつけながら力を付けて参ります」


三人の言葉に対し優しい笑みを浮かべながらマーリンは小さく頷くのであった。
そして、最後にクロノへと視線を向ける。


「魔王クロノ、お前にとってこの子たちなどまだまだヒヨッコだとは思うが、面倒を見てやってくれ」

「ふん、俺は俺のやりたいようにやるだけだ。それよりも魔女ババア、約束は守れよ。絶対だからな」


やや照れた様子を見せながらも強気な言動をするクロノ。
その姿に口元を緩めるマーリン。


「それではお師匠様、行って参ります」

「ああ、しっかり学んでこい」


こうして、スズネたち一行はモアへ向けて帰路につくのであった。



◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆


マーリンの家を後にしたスズネたち一行は、ちょうど昼の十二時を過ぎた頃にモアへと到着した。
街へ入りスズネの家へ向かっていると、一行に向けて大きな声が飛んできた。


「スズネちゃ~~~ん」


呼び声のする方へと視線を向けると、恰幅の良い女性が笑顔で手を振っていた。


「女将さ~~~ん」


スズネは手を大きく左右に振りながら女性へと駆け寄っていく。

この女性はモアの街で八百屋を営んでおり、以前にクエストを受けて以降、夫婦揃ってスズネたちに目をかけてくれているのだ。
そして、未熟ながらも一生懸命なスズネたちを娘・息子のように思い応援してくれている。


「今帰りかい?今日は甘い林檎が入ったから持って行きな」


そう言うと、袋いっぱいの林檎を渡してくれた。
スズネは恐縮しながらも満面の笑みで応えつつ林檎を受け取る。


「お父さ~ん、スズネちゃんたちが来たよ」


女将さんが声をかけると、店の奥から鍛え抜かれた筋骨隆々の男性が姿を現した。


「おう、お帰り!!毎日ご苦労さん。そっちの嬢ちゃんは新顔だな」

「この子は新しく私たちのパーティに入ったラーニャちゃんです。こんなに可愛いのにとっても魔法が上手なんです」


スズネが二人に紹介し終えるとラーニャが一歩前に出る。


「わっちは天才魔法師のラーニャじゃ。世界を統べる旦那様の婚約者…ゴニョゴニョゴニョ ───── 」


最初は自信満々に名乗ったにも関わらず、後半は照れるあまり顔を赤く染めながらクネクネしてしまうラーニャなのであった。


「はっはっは、兄ちゃんも隅に置けねぇな。こんな若い嬢ちゃんに手を出すなんてよ」

「コイツが勝手に言ってるだけだ。俺は知らん」

「まぁまぁそう恥ずかしがるなよ。男前過ぎるってのも罪だな」


クロノの肩をバンバンと叩きながら豪快に笑う店主とは対照的に、その勢いに押されやれやれと言わんばかりの表情を見せながら肩を落とすクロノ。


「そういえば、ついさっき王国の騎士たちがゾロゾロと街に入ってきたよ。何かあったのかもしれないから、あんたたちも気を付けるんだよ」

「王国の騎士がわざわざ何だろうね?」

「ホント何だろうね。何もなければいいけど・・・」


女将からの忠告を受け、ミリアは少し考え込む様子を見せた。
気がかりはあるものの、八百屋夫婦に別れを告げたスズネたちは帰宅に向けて歩を進める。

スズネの家が近づくにつれて人混みも増えていきザワザワとした騒がしさも増していく。
そして、何とか人混みをかき分けながら進んでいくと、目的地を視界に捉えた一行の前に予期せぬ光景が飛び込んできた。

スズネの家を取り囲むように王国騎士団一個小隊約五十名が包囲しており、家の前ではロザリーと一人の騎士が言葉を交わしていたのであった。


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