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魔女 vs 魔王

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大きな爆発音と共に生じた煙が晴れると、クロノの言葉通り無傷の…いや、むしろ塵ひとつ付いていないマーリンが涼しい顔をして姿を現した。


「お前か?禍々しい魔力を撒き散らしながら森に入ってきたのは。おかげでずっと森が騒いでおる。動物はもちろんのこと魔獣さえも森の奥へと逃げ隠れておるわ」


マーリンは、まるでクロノから攻撃を受けたことなど意に介さないように、笑みを見せつつ澄ました表情で話を進める。
その眼差しは真っ直ぐにクロノを捉えており、クロノもまた余裕の表情と共にその視線をマーリンへと向ける。


「面白い。貴様がどれほどのものか興味が湧いた。少し付き合え」


そう言うと、マーリンはふわりとその身体を浮かせ上空へと飛び立つ。
そんなマーリンからの挑発を受け、クロノは頬を緩ませ嬉しそうにしている。
そんないつもにも増して好戦的な空気感を漂わせているクロノに対し、スズネが心配そうに声をかける。


「クロノ、無茶したらダメだよ。それから、森を傷つけないでね」

「分かってるよ。ちょっと遊んでくるだけだ」


そう言い残すと、クロノはマーリンを追いかけ上空へと飛び立って行った。
空高くへと舞い上がっていくクロノの姿を心配そうに見つめるスズネ。
そんなスズネの様子を見て、ミリアはスズネの肩をポンと叩き笑顔を向ける。


「アイツだってそこまで馬鹿じゃないわ。大丈夫よ」

「うん。そうだよね」


───────────────────────────────────


「待たせたな、魔女ババア」


マーリンの待つ空へと到着したクロノは、自身の内側から溢れ出る闘争本能を抑え切れず、狂気じみた笑みを見せる。


「若造が。まるで腹を空かせた猛獣だな」


クロノから放たれる禍々しいほどの殺気を軽くいなしつつ、マーリンは相手の分析を始める。

身に纏った魔力の練度からしても実力は申し分なし。
覇気も良し。
それに、無闇矢鱈と攻撃して来んところからして、バンバン飛ばしてきておる殺気のわりに頭の方は冷静なようじゃな。
さぁ~て、そろそろ始めようかの。


「よし、力を見てやる。かかってこい」


マーリンからの開戦の合図を受け、クロノは檻から解き放たれた獣のごとく魔法を展開する。


「早々に音を上げてくれるなよ」


そう言うと、クロノは両手を左右に大きく広げた。
すると、クロノを囲うように八つの火の玉が現れ、クロノを中心にグルグルと回り始める。


「まずは小手調べだ。炎の弾丸ファイアブレッド


その言葉が発せられると同時に、周囲をグルグルと回る火の玉から次々と炎の弾丸が放たれマーリンを襲う。
それはまるでガトリングガンのよう。
そして、みるみる内にマーリンの姿が爆煙の中へと消えていった。

クロノからの攻撃が止まり、数秒が経ってもマーリンが動く気配は感じられない。
そして、様子を伺っていたクロノが自身の周りを回る火球を消し、次の攻撃へと移ろうとしたその瞬間、マーリンを覆う爆煙の中から一筋の光が放たれ一直線にクロノを襲う。
しかし、クロノは一切慌てる素振りも見せず、まるでホコリでも振り払うかのように右手で払い空の彼方へと弾き飛ばした。


「いいね、いいね。受けるしか出来ないロートルかと心配したぞ」


スズネに召喚されて以降、退屈なクエスト、退屈な相手ばかりの日々を過ごしてきたクロノにとって、やっと出会えた”遊び相手”。
スズネからクギを刺されてはいるが、いかにして相手を殺さずに遊ぶかをあれこれ考えながらクロノは頬を緩ませる。


「おいおい、随分と余裕そうじゃのう」


爆煙の中から姿を現したマーリンは、笑みを浮かべつつすでに魔法陣を構築し終えていた。


「次は、こちらから行くぞ。風刃乱舞ウインドストーム


マーリンより放たれる無数の風の刃がクロノを襲う。
それらを一つ一つ払い除けていくクロノであったが、突如としてその身は爆発に見舞われる。


─────  ドンッ!! ─────


どうやらマーリンが次々と打ち込んでいた攻撃の中に火炎魔法を忍ばせ爆発させたようだ。
差し詰め先程クロノから受けた不意打ちへの仕返しのつもりだろう。


「まだまだ終わりはせんぞ。聖なる雨ホーリーレイン


先程とは立場が逆となり爆煙に包まれたクロノに、マーリンは更なる攻撃で追い討ちをかける。
そして、クロノの頭上より聖なる光の矢が雨のように降り注がれる。


ドドドドドドドドドッ ──────。


息つく間も無く浴びせられる攻撃を受け続けた後、徐々に薄れていく爆煙の中から姿を現したクロノは、それはそれは退屈そうに欠伸をしていた。
目を凝らしてみると、クロノの周囲には球体の魔法障壁が張られている。
当然クロノの身体は全くの無傷である。


「若造が…小癪な真似を」

「三百年生きてこの程度か?」



ここから二人による魔法合戦が幕を開ける ───── 。



火球ファイアボール

火球ファイアボール


風刃ウインドカッター

風刃ウインドカッター


雷槍ライトニングランス

雷槍ライトニングランス


岩石砲ロックキャノン

岩石砲ロックキャノン



一進一退の攻防が続く中、痺れを切らしたクロノが先に仕掛ける。


火球ファイアボール

「それはもう見たぞ。火球ファイアボール


それぞれが放った火球ファイアボールが再びぶつかり合い爆発する。
先程と違うのはその後である。
両者の間で相殺された火球ファイアボールの後ろから現れた無数の氷の礫がマーリンに襲いかかる。

虚を突かれる形となったマーリンであったが、冷静にそれらを振り払おうとする。
が、その時 ───── 。
マーリンに直撃するかと思われた氷の礫が目前で融解され水へと姿を変えた。


水牢ウォータプリズン


次の瞬間、無数の水粒がマーリンの周りに集結し、瞬く間にその身は水の牢獄に囚われてしまった。

コポッ・・・コポッ・・・

しかし、水の牢獄へと囚われたマーリンは一切慌てる素振りを見せない。
その様子をじっと眺めているクロノはとても満足そうである。


「ハッハッハッ。良い眺めだ。とりあえず喰らっとけ。雷撃ライトニング


─────  バリバリバリッ ─────


水属性魔法からの雷属性魔法というコンボ攻撃をもろに受けたマーリンは、軽い痺れを感じつつも反撃に出ようと体勢を整える。
しかし、先程まで正面にいたはずのクロノの姿が見当たらない。


「おい、どこを見ている」


マーリンが声のする方へと顔を上げると、見下したように自身へと視線を送り不敵な笑みを浮かべるクロノの姿があった。
そして、掲げられた右手の先には高熱を発しながら燃えさかる超巨大な球体が今にも放たれようとしていた。


「止めれるもんなら止めてみろ、魔女ババア」

「クッ」


眉間に皺を寄せながら眼前で杖を構え、マーリンは防御体勢を取る。
避けるわけにはいかない。
そんなことをすれば間違いなくこの森を含めた一帯が消し飛んでしまう。


「若造がナメた真似をしよる」


そして、スズネたちが固唾を飲んで見守る中、クロノによる超強力な魔法が放たれる。


「消し飛べ。太陽ザ・サン


────────── ゴゴゴゴゴ・・・。


防護プロテクション
魔法障壁マジックシールド
反射リフレクション
「女神の祝福」


迫り来る超巨大な球体を前に、マーリンは次々と魔法による防御体勢を整えていく。

そして、ついにその時がやってくる。
クロノが放った球体とマーリンが発動させた防壁がぶつかり合う。


「グッ…なかなかやりおるわ」


少しずつではあるが、確実にマーリンが押し込まれていく。
このまま続けてもジリ貧となることは誰の目から見ても明らかであった。


「このままでは流石にちと苦しいか…仕方あるまい」


マーリンが“何か”を決心したその時、地上から大きな声が響き渡った。


「ク~~~ロ~~~ノ~~~」


声の主はスズネである。
大声でクロノの名を呼びながら頭の上で両手をクロスさせて“✖️印バツじるし”を作っている。
その姿を目にしたクロノは、はぁ~と溜め息をつくと不満そうに右手を払った。
すると、マーリンに襲いかかっていた超巨大な球体が一瞬のうちに消滅したのだった。
呆気に取られた様子のマーリンをよそに、せっかくの楽しみに水を刺された形となったクロノは不貞腐れたままスーッとスズネたちのいる地上へと降りていった。

マーリンが遅れてスズネたちに合流すると、クロノがスズネに怒られている真っ最中であった。


「ダメだよクロノ。マーリンさんと魔法で遊ぶのはいいけど、森を傷つけちゃダメって約束したよね」

「五月蝿いな。森に当たる前にちゃんと消すつもりだったって言ってんだろ」

「マーリンさんが防いでくれなかったら危なかったんだからね。あとでマーリンさんにも謝るんだよ」


 ⦅いやいや、アレは遊んでたんじゃないでしょ。ガチ中のガチじゃん!!あんなのマーリンさんとクロノじゃなかったら死んでるわよ⦆

スズネとクロノのやりとりを隣で聞きながら、心の中でツッコまずにはいられないミリアなのであった。


「おい貴様、なぜ途中で止めた」


スズネとクロノの会話に割って入るようにマーリンが声をかけてきた。


「あ?そんなもんはコイツに聞け。せっかく盛り上がってきたところだったのに…森がどうとか信じらんねぇ~よ」

「は?森???」


先程まで殺気を撒き散らしながら嬉々として魔法を放っていた男の言葉とは思えない発言に、理解が追いつかないマーリンは呆気に取られる。


「すみませんマーリンさん。お楽しみのところだとは思ったんですけど、あのままだとこの森にも被害が出てしまうと思って止めちゃいました」


そう言うと、スズネはマーリンに向けて深々と頭を下げた。


「アハハハハ。あれ程の魔法を扱う男が、こんな年端も行かぬ少女に従うとはのう。実に愉快じゃ」


久しく見ぬ強き者とそれを言葉ひとつで従わせてしまう少女。
この何とも言えない二人の若者に強い興味を抱かせずにはいられないマーリンなのであった。


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